侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。

カチューシャ→カチュ
クラーラ→クラ
アリーナ→アリー
プラウダ生A、B、C..→プラA、B、C..
プラウダ生全員→プラ生

イカチューシャ→イカチ


※〈〉内の台詞は、全てロシア語で話しているとご解釈ください。


第4話・会得しなイカ?

イカチューシャがすっかりプラウダでの生活に慣れてきたある日。

プラウダ校の廊下をノンナが歩いている。

 

クラ 〈ノンナ様〉

 

廊下の角からクラーラがひょこっと顔を覗かせる。

周囲を見渡すノンナ。

誰にも見られないようにすっと角を曲がる。

 

クラ 〈カチューシャ様はお目覚めになられましたか〉

ノンナ〈はい。今はイカチューシャと共に訓練のための戦車のチェックへ向かわれました〉

クラ 〈では、私たちも急がねばなりませんね〉

ノンナ〈その通りです。ですが、その前に__〉

 

ノンナは懐から小型のデジカメを取り出し、操作する。

クラーラも回り込み、その画面を注視する。

 

ピッピッピッ

 

操作されるデジカメには、あらゆるシーンのカチューシャが映し出されている。

その中に、ついさっきまで昼寝していたと思しきシーンが映し出された。

 

クラ 〈・・・・!!〉

 

それを見た瞬間戦慄するクラーラ。

 

クラ 〈ノンナ様、これは・・・・!〉

 

デジカメには、カチューシャと一緒の布団で、手を繋ぎながら眠るカチューシャとイカチューシャの映像があった。

 

クラ 〈・・・・っ!〉

 

思わず口を押え、細かく震えるクラーラ。

 

クラ 〈何という破壊力・・・・!KV-2などでは、比になりません!〉

ノンナ〈正直これを目の当たりにして、平静を保つのは至難の業でした〉

クラ 〈流石です、同志ノンナ様〉

ノンナ〈カチューシャとイカチューシャ。二人が揃えばその輝きは増すものだとばかり思っていました。ですが、これは・・・・〉

クラ 〈足し算どころではなく、掛け算だった訳ですね・・・・〉

 

などという会話を続けていた。

しばらくデジカメに入っている映像を流しながら見ていると、クラーラがふと気が付いた。

 

クラ 〈ノンナ様・・・・これを〉

 

クラーラが指をさした写真。

それは、クラーラがカチューシャとイカチューシャに話を振っている隙に、ノンナがこっそり横から二人の横顔を激写した時の写真。

完全に注意はクラーラに向けられ、並び立った二人の横顔と輪郭がはっきりと並び立つ、お気に入りの絵の一つだった。

 

ノンナ〈これがどうかしましたか?〉

クラ 〈ここを・・・・。イカチューシャ様の目を〉

ノンナ〈?〉

 

最初、何を言っているのかわからなかったノンナ。

言われてじっくり見てみると・・・・

 

ノンナ〈!!〉

 

ノンナは息を呑んだ。

イカチューシャは、顔こそカチューシャと同じようにクラーラの方を向いていたが、目はしっかりとカメラ__撮影者であるノンナの方に向けていた。

 

ノンナ〈これは・・・・〉

クラ 〈あの時、確かにお二人の注意はこちらに向けられていました〉

ノンナ〈確かに。だからこそ、私は撮影を行えたのです〉

クラ 〈ですが、これを見る限り、イカチューシャ様は・・・・〉

ノンナ〈間違いありません。こちらを見ています〉

クラ 〈我々の作戦が、見破られていたということでしょうか・・・・?〉

ノンナ〈一概にそうとは言い切れません。ですが・・・・この時は私とクラーラが綿密な計画のもと位置、角度、気配などに持てる知識と技術のすべてを費やして成り立った奇跡の一枚。例えイカチューシャであろうとも、看破するのはまずありえないはず・・・・〉

クラ 〈ならば、どういうことでしょう・・・・〉

 

しばし考え込んでいたが、

 

ノンナ〈しかし今はあまり時間をかけられません。早く戻らなければ怪しまれてしまいます〉

クラ 〈同意見です。この件は、また後ほどに〉

 

かくして二人はカチューシャたちのいる戦車倉庫へ歩みを進めるのであった。

 

イカチ「むっ、ノンナたちが来たでゲソ」

カチュ「やっと二人とも来たわね。何をしていたの?」

ノンナ「今日の訓練メニューについて、クラーラと議論していました」

カチュ「殊勝ね。でも今日はやることは決まっているのよ」

ノンナ「さいでしたか」

カチュ「今日の訓練は、全員無線をフルオープン!みんながみんなの通信を丸わかりにする状態で訓練するわ!」

ニーナ「全員が会話筒抜けちゅうことだべか」

アリー「そいじゃあ相談や作戦の決行も難しっペ」

カチュ「これからの戦車道、レギュレーションの変更や使用許可の下りる戦車や装備の幅がこれまで通りとは限らないわ。『想定していなかった』なんて理由で撃破されることなど、プラウダにはもうあってはならないことよ」

 

先の大学選抜戦にて、『想定していなかった』相手側のカール導入により部隊は大打撃を受け、その後の追撃によりプラウダ勢はカチューシャ以外全滅してしまったことを思い返す。

 

カチュ「仮に再び想定外が現れたとしても、備えさえあれば優秀な同志諸君なら絶対乗り越えられるわ。これはその精神を育むための訓練の一環よ」

ノン 〈流石カチューシャ様。未来を見据えた素晴らしい練習計画です〉

カチュ「何言ってるかわからないけど、どうやらクラーラも賛成のようね。それじゃあ準備しなさい!一時間後にはチーム分けを完了させて演習場に集合よ!」

プラ生「ウラー!」

 

一時間後。

チーム分けを終えた一同は、演習場で配置についていた。

Aチームにはノンナとクラーラ、Bチームにはカチューシャとニーナたちがいる。

イカチューシャは今回カチューシャに同乗している。

 

ニーナ「ありゃー、あっちのチームにはノンナさんとクラーラさんがおるべー。きっつい戦いになりそだべなー」

カチュ『ちょっと、聞こえてるわよニーナ!私だけじゃ頼りないって言うつもりね!いい度胸じゃないの』

 

すでにオープンになっている無線から、カチューシャの声が聞こえてくる。

 

ニーナ「あわわわ、そったらつもりで言ったんじゃねえです!」

カチュ『言い訳無用!ニーナとアリーナは演習が終わったらシベリア横断フルマラソンの刑よ!』

ノンナ『雪の降る校庭で、4、2195キロ走らされる刑ですね』

アリー「巻き添えじゃー!」

 

かくして演習が始まった。

事前にチームごとに作戦を決めており、それに沿った動きが行われるが、やはりイレギュラーが起こるもの。

 

プラA『二号車、撃破されました!G-4ポイント、IS-2の狙撃です!』

カチュ「ノンナね!こちらの散会を読んでの待ち伏せなんて、やるわね!」

ノンナ『お褒めいただき、光栄です』

カチュ「うえっ!?・・・・あっ、そっか、無線がオープンだったわね」

ニーナ(自分で言いだしといて忘れとるじゃー)

プラB『こちら四号車、前方からT-34/85が三両迫って来てます!』

カチュ「クラーラね!いい読みしてるじゃない!下がりなさい!引きつけてかーべーたんの射程内に引き寄せなさい!__あっ」

クラ 『だそうですよ。皆さん、追撃はほどほどに』

カチュ「むきー!」

 

自分で決めたルールに自分で足を引っ張られるカチューシャ。

無線が傍受されるため通信に制限がかかり、連絡を密に出来ないため足並みが揃えにくい。

なおも奇襲・横撃を繰り返すAチームに、Bチームは消耗し始めている。

 

カチュ「くっ、通信できないだけでこのザマだなんて!みんな鍛え直しだわ!」

 

プラウダではカチューシャが司令塔となって他の戦車を手足の様に操るため、逆に言えば指示が無ければ的確な行動に移しにくい。

カチューシャはそのツケを少しながら感じ始めていた。

 

カチュ「この際聞こえているからとか言ってる場合じゃないわ!全員、E-4へ集結!密集体系を取るわよ!」

プラC『了解です!』

 

事態を打開するため、あえて聞かれていても集結を試みる。

 

バアン!

シュポッ

 

プラD『きゃあっ!五号車、やられました!』

プラE『八号車、戦闘不能です!一体どこにいたの!?』

 

集結を試みようとするチームメンバーが次々とやられていく。

 

イカチ「カチューシャ、みんなやられているでゲソよ!」

カチュ「わかってるわ!くっ、条件は一緒だと思ってたのに・・・・」

 

なぜ無線が丸わかりなのに、Aチームは奇襲や連携がとれているかというと__

 

ノンナ〈クラーラ、B-4にてT-34が二両、こちらを狙っています。援護お願いできますか?〉

クラ 〈了解しました。西へ誘導をお願いします〉

ノンナ〈よろしくお願いします〉

 

バアン!×2

シュポッ×2

 

ノンナ〈この辺りは片付きました。北東より迂回して、Bチームの集結場所を狙います〉

クラ 〈こちらはこのまま回り込み、西から牽制をかけます。ノンナ様はその背後を〉

 

ノンナとクラーラはロシア語で無線の交信を行っていた。

そのせいで、当の二人以外には何を話しているのかさっぱりわからない。

 

カチュ「ノンナ!クラーラ!ずるいわよ!ちゃんと日本語で交信なさい!」

ノンナ『お言葉ですがカチューシャ。無線傍受されている状況では、傍受されていても解読されず、かつ味方に正確に伝わる手段を用いるのが最上手だと考えます』

カチュ「うっ」

クラ 〈自分で提案しながらそれを逆手に取られるカチューシャ様。隠れた魅力ですね〉

カチュ「ちょっとクラーラ!今カチューシャのこと悪く言わなかった!?」

ノンナ『とんでもない。今後はチーム全体で通じる専用の暗号を用意する必要がある、と提案しています』

イカチ「ふむ」

 

計画通りにクラーラは西側、ノンナは北東からBチームの集結視点を目指していく。

 

カチュ(どうするの、カチューシャ・・・・!相手にはこちらの作戦提案は丸見え、でも向こうの作戦は一切わからない。作戦を伝えられないから他の子たちは動けないし、かーべーたんがやられたらあとは時間の問題・・・・!この状況をひっくり返す一手は、どこにあるの!)

 

頭をフル回転させてもなお打開の見通しが無い状況のカチューシャ。

そんな彼女に__

 

イカチ「カチューシャ、ちょっといいでゲソか」

 

今まで静かにしていたイカチューシャが口を開いた。

数分後。

 

クラ 〈ノンナ様、作戦位置に到着いたしました〉

ノンナ〈時間通りですねクラーラ。こちらも今、Bチ-ムの見える高台に着いたところです〉

 

クラーラは西に位置する丈の高い茂みに、ノンナは高い位置から見下ろせる高台の上に身を潜ませていた。

 

ノンナ〈このまま戦闘を行えば、我々の交戦する音を聞きつけて残りの同志たちが集まってきます。そうすれば勝負は決まりですね〉

クラ 〈カチューシャ様に引き金を引くのは心苦しいですが、これも戦車道。今だけは手心を捨てさせていただきましょうか〉

 

クラーラは砲座に着き、照準器を覗く。

その先には、予定通り集結したBチームの面々が見える。

 

クラ (カチューシャ様、お覚悟を!)

クラ 「・・・・、あら?」

 

クラーラが覗いた先には、戦車が三両佇んでいる。

 

クラ (三両・・・・?一台はニーナさんたちのKV-2、T-34/76が二台・・・・)

クラ 「__、えっ!?」

 

ガササッ!

 

背後で茂みが音を立てる。

クラーラが気が付いた時、そこにはカチューシャのT-34/85がそびえ立っていた。

 

クラ 「背後っ!?」

カチュ「アゴーニ(撃て)!」

 

バアン!

シュポッ

 

間髪おかずT-34/85が火を吹き、クラーラのT-34/85は白旗を上げた。

 

カチュ「ニーナ!北東の高台にノンナがいるわ!応戦しなさい!」

ノンナ『っ!』

 

ドオン!

シュポッ

 

ノンナが驚き狼狽えたスキに、KV-2は一撃でIS-2を撃破したのであった。

 

一時間後。

 

ノンナ「まさか、こちらの作戦が看破されていたとは思いませんでした」

クラ 〈こちらが到着するより前に身を潜めていたのですね。背後を取られていたのに気づけなかったとは、私もまだまだです〉

ニーナ「んだけど、その後普通に台数差で押し切られちまったべな」

アリー「そればっかはどうしようもねえべ」

カチュ「でも今回の演習はいい教訓になったわ。傍受に対策出来ない先の苦戦、対抗策、そしてそれを更に解析された時への対策。仮題がたくさん見つかったわ」

ニーナ「それにしてもカチューシャ隊長。どしてロシア語で話してたノンナさんたちの作戦がこんなにも正確に読めたんでさ?」

カチュ「ふふん、それはね__」

 

鼻を高くして、カチューシャはくいっとイカチューシャを引き寄せる。

 

カチュ「誇れる我が同志、イカチューシャの功績によるものよ!」

 

~~回想~~

 

イカチ『カチューシャ、ちょっといいでゲソか』

カチュ『どうしたの、イカチューシャ?』

イカチ『さっきからノンナたちは私たちを挟み込もうとしてるでゲソ。対応した方がいいんじゃなイカ?』

カチュ『それがどうやってくるのか分からないから苦労して__え?』

 

ふと、はっとするカチューシャ。

 

カチュ『イカチューシャ、どうしてノンナたちが私たちを挟みこもうとしてるのがわかるの?』

イカチ『だって、無線で堂々と言っていたじゃなイカ。クラーラは西、ノンナは北東からこちらを狙うって』

カチュ『イカチューシャ、まさかあなた__いえ、そんなこと言ってる場合じゃないわ!それならば、クラーラは恐らくあの位置に陣取るつもりね!』

 

そして、一矢報いるため、カチューシャは行動を起こしたのである。

 

~~回想終了~~

 

アリー「驚きだべ・・・・!」

ニーナ「イカチューシャさん、ロシア語できたんだべか!」

ノンナ「私も驚きました。いざというときのために、出来ることを隠していたのですね」

カチュ「もう、人が悪いわねイカチューシャ!」

 

と、口々に賞賛をしているが__

 

イカチ「ロシア語なんて、習ったことないでゲソ」

 

と、きっぱり言い切った。

 

カチュ「ぇ」

イカチ「もっと言うと、プラウダに来るまでロシア語なんて話せなかったでゲソ」

ニーナ「え、じゃあ、どうやってロシア語覚えたんだべ!?」

イカチ「そこにいいお手本がいるじゃなイカ」

 

イカチューシャがノンナとクラーラを指さす。

 

ノンナ「えっ」

クラ 〈私たち・・・・ですか?〉

イカチ「最初は何言ってるのかさっぱりだったでゲソが、聞いていくうちにだんだん意味が分かって来たのでゲソ。英語とはまた違って面白い言語でゲソね」

ノンナ(聞いてるうちにって、イカチューシャがプラウダに来てからまだ一週間も経っていない・・・・!それなのに、もうマスターしたと!?)

 

開いた口が広がらないノンナ。

ノンナだけでなく、プラウダの全員がイカチューシャの学習能力に驚愕していた。

そして、カチューシャはプルプルと体を震わせ__

 

カチュ「イカチューシャッ!」

 

がしっとイカチューシャの肩を掴む。

 

イカチ「!?」

カチュ「私に、ロシア語を教えてちょうだい!」

ノンナ「!」

クラ 「!!」

 

次の日。

数人の人物が空き教室に集まっていた。

 

イカチ「では、これから授業を開始するでゲソ!」

カチュ「ええ!」

ニーナ「よろしくお願いします!」

アリー「お手柔らかにお願いするべー」

イカチ「ではまず、ロシア語のABCから説明するでゲソ!」

 

カチューシャの要望を受けたイカチューシャは、希望者を募りロシア語講座を開くこととなった。

教卓に立ち、教鞭をふるう。

そんな様子を、少しだけ扉を開けたスキマから覗いているノンナとクラーラ。

教室の中ではテンポよくイカチューシャの授業が進んでいく。

 

クラ 〈これは・・・・由々しき事態ですね、ノンナ様〉

ノンナ「・・・・」

クラ 〈今思い起こしてみれば、これまでに写真に対する目線も、私たちの計画を聞き知った上での反応だったのかもしれません〉

ノンナ「十分にあり得ますね」

クラ 〈イカチューシャ様の人柄を考えれば、カチューシャ様への告げ口はされないとは思いますが__不安は拭えません〉

 

そんな二人をよそに、授業は続いていく。

 

イカチ「みんななかなか優秀でゲソね。次は単語を使った短めの文法に当てはめて行くでゲソよー」

 

あれよあれよという間に実用的な部分にまで進んでいる。

ハラハラした表情で成り行きを見守るしかないクラーラ。

対して、何故かノンナは慌てる様子もなく、平静に勤めている。

 

ニーナ「だけんどもカチューシャ隊長。なして今んなってロシア語の勉強に力入れ始めたんだか?これまでやってこなかったんだべか?」

カチュ「そうね・・・・。確かに今までプラウダにいても、ロシア語が使えず不自由したことは無かったわ。みんな日本語で話していたから、使う必要もなかったのよ」

アリー(それはみんながちびっこ隊長に気を使ってロシア語使わんかっただけじゃ・・・・)

カチュ「それに戦車道が忙しくて、ロシア語に時間を割く余裕が無かったのよ。でもイカチューシャの授業はわかりやすいから、きっと今回こそ会得できるはずよ!」

イカチ「うむ!いい心意気でゲソ!」

 

いつになく向上心を見せるカチューシャを見て、クラーラは諦めに近い表情を浮かべる。

 

クラ 〈これは・・・・きっと、カチューシャ様はロシア語を体得されてしまいますね。ですが、これで良かったのかもしれません。わからないからとカチューシャ様の前で自由な発言を繰り返すなど、冷静に考えれば許されることではありません〉

ノンナ「クラーラ」

クラ 〈もしカチューシャ様が完全にロシア語を話せるようになったら、もう秘密の会話は出来なくなりますね。ですが__〉

ノンナ「クラーラ。その心配はありませんよ」

 

諦めていたクラーラに、自信ありげなノンナの表情が写る。

 

クラ 「え?」

ノンナ「御覧なさい」

クラ 〈あら・・・・カチューシャ様が?〉

 

よく見ると、カチューシャがうつらうつら、瞼が落ちそうになっている。

時折かくんっ、と頭が落ちかけ、慌てて視線を前に戻すもまた眠そうにこっくりこっくりし始めている。

 

クラ 〈珍しいですね。先ほど授業に向けて十分お昼寝はとられていたはずなのに〉

ノンナ「いつか、こんな時が来るだろうとは予想していました」

クラ 〈ノンナ様?〉

ノンナ「私は、これまでいつもカチューシャのお昼寝のそばにいました。片時も離れず、子守唄を歌いながらカチューシャの安眠を促してきたのです」

クラ 〈それは存じています。及ばずながら私もご一緒させていただく時も・・・・あっ〉

 

何かに気が付いたクラーラがノンナを見る。

 

ノンナ「カチューシャはいつも眠るときはロシア語を耳にしながら眠りについていました。__ならば逆説的に、歌の様に長いロシア語が聞こえたならばカチューシャはどうなってしまうでしょう?」

クラ 〈!!〉

 

クラーラの脳裏にとある言葉が浮かぶ。

そして、ノンナの周到さと先見に再びの感銘を覚えるのだった。

 

クラ 〈パブロフの犬・・・・!〉

イカチ「カチューシャ、大丈夫でゲソか?眠いのなら切り上げるから、休んでくるといいでゲソ」

カチュ「う、ううん、大丈夫よ・・・・!しっかりお昼寝したんだもの、これくらい、何とも__」

 

眠気に押され、暗に眠いと白状してしまっているのにも気づけず、カチューシャは必死に目をこすりながら授業についていこうとする。

__しかし健闘も虚しく、やがてカチューシャは深い眠りへと落ちて行ってしまった。

 

カチュ「__、はっ!?」

 

カチューシャが目を覚ますと、そこは隊長室。

いつもカチューシャが眠っているベッドで横になっていた。

 

カチュ「ここは__隊長室?私は・・・・」

 

周囲を見渡しながら、何が起こったのかわからないカチューシャ。

 

ノンナ「おはようございます、カチューシャ」

 

すました顔でノンナが姿を現す。

同室にはクラーラとイカチューシャもいる。

 

カチュ「あっ、ノンナにクラーラ。__それにイカチューシャも」

 

まだ目が覚め切っていないようで、目をこすりながら現状を把握しようとする。

 

カチュ(私、これまで何を・・・・?確か、昨日の演習でイカチューシャがロシア語が話せるとわかって、それでレクチャーをお願いして、そして・・・・?)

カチュ「あっ!」

 

頭がはっきりし、先ほどまでを思い出して跳ね起きる。

 

カチュ「イカチューシャ、ごめんなさい!せっかく授業してくれたのに、カチューシャったら寝ちゃったみたいで__」

イカチ「授業?何のことでゲソ」

カチュ「え?__いや、だってさっき、ロシア語の授業を・・・・」

イカチ「ロシア語の授業なんてやったことないでゲソよ。第一、私はロシア語なんて話せないでゲソ」

カチュ「へっ!?そんな、そんなはずは・・・・」

 

確かに授業を受けた記憶があるのに、とカチューシャは困惑するが、イカチューシャのきょとんとした顔に、本当に授業は無かったのかと思えてくる。

 

カチュ「じゃあ、あれはいったい何だったの・・・・!?確かに私はイカチューシャにロシア語の授業を受けてて、そしたら突然眠くなっちゃって、それで__」

ノンナ「カチューシャ、夢でも見られたのではないでしょうか」

カチュ「夢!?」

クラ 「はい。昨日も戦車道の演習は行いましたが、イカチューシャ様がロシア語を話されたことはありませんでした」

カチュ「じゃあ、昨日の演習でイカチューシャがロシア語を話せたのも、それで授業をお願いしたのも、寝落ちしちゃったのも、全部夢!?夢の出来事だったって言うの!?」

イカチ「よっぽどリアルな夢だったのでゲソね。混乱してしまってるようじゃなイカ」

 

三人に夢だと言い切られると流石に言い返せず、呆けたようにポスン、と再びベッドに身を投げる。

 

カチュ「あんなに頑張って授業を受けてたのに、全部夢だったなんて・・・・。損した気分だわ」

イカチ「そんな日もあるでゲソ。あとで一緒に食堂でおやつを食べようじゃなイカ。先に行って用意してるでゲソ」

カチュ「うん、頼んだわ」

ノンナ「では、出口までご一緒します」

 

ノンナとイカチューシャが部屋の出口まで歩いて行った。

そこでノンナがイカチューシャに小さな声で語り掛ける。

 

ノンナ「ありがとうございます。おかげでカチューシャは一連の出来事は全部夢だと信じてくれたようです」

イカチ「カチューシャを騙すのは心苦しいでゲソが、カチューシャの誇りを守るためなら仕方ないでゲソね」

 

~~回想~~

 

イカチ「口裏を合わせてほしい、でゲソ?」

ノンナ「はい」

 

授業で眠ってしまったカチューシャをおんぶするノンナ。

 

ノンナ「自ら頼んだ授業の時間に居眠りしてしまったとあってはカチューシャの誇りに傷がついてしまいます。それを守るためには、一連の流れが夢だった、として無かったことにするしかありません」

クラ 〈講師を引き受けてくれたイカチューシャ様に大変な無礼を働いていることは承知しています。ですが、ここはカチューシャ様のために__〉

イカチ「わかったでゲソ。カチューシャのためなら協力しようじゃなイカ」

 

イカチューシャは二つ返事で了承した。

 

ノンナ「ありがとうございます。私はこれからカチューシャを隊長室へお送りします。目覚めた時、口裏を合わせてください」

イカチ「わかったでゲソ!」

クラ 〈では、参りましょう〉

 

そう言って教室を出ていく四人。

教室にはニーナとアリーナだけが取り残される。

 

ニーナ「行っちまったべ」

アリー「私らは置いてきぼりだべか」

ニーナ「せっかくロシア語わかりかけてきたんのになあ」

アリー「今度、ちびっこ隊長にバレないようにこっそり教えてもらうべ」

ニーナ「んだなー」

 

~~回想終了~~

 

イカチューシャは食堂へ向かい、ノンナは隊長室に戻って来た。

 

カチュ「あーあ、疲れる夢だったわ。もう見たくないわ」

ノンナ「ですが、夢の中でおいても戦車道の練習とロシア語の習得に邁進されるとは、流石カチューシャです」

カチュ「ふふん、当然よね」

 

えっへん、と胸を張るカチューシャ。

 

ノンナ「では、我々も食堂へおやつの準備へ参ります」

クラ 〈カチューシャ様はゆっくりいらっしゃってください〉

 

と、二人が部屋を去ろうとすると__

 

カチュ「あっ、二人とも!」

クラ 「?」

ノンナ「どうしましたか?」

カチュ「ええっと__」

 

カチューシャは何か思い出すように何かを呟きながら、二人に向かって

 

カチュ〈今まで私を支えて来てくれてありがとう。二人とも大好きよ!〉

 

ロシア語で感謝の言葉を伝えた。

 

ノンナ「カチューシャ、今のは・・・・?」

カチュ「うん、夢の中で習ったロシア語よ。どうせならロシア語で伝えたかったんだけれど、夢の中で学んだロシア語だからきっと滅茶苦茶ね。意味になってなかっただろうから、忘れていいわよ」

ノンナ「はい。では、お先に失礼します」

クラ 〈・・・・〉

 

平静を装うノンナとクラーラ。

しかし感極まってしまいクラーラが崩れ落ちかける。

 

ガシッ!

 

カチューシャに悟られないようにうまくクラーラを支えながら、二人は退室した。

食堂では、イカチューシャとニーナたちがおやつの準備を終えていた。

 

イカチ「あっ、ノンナたちが来たでゲソ。準備は済んでるでゲソよ」

 

しかし、食堂に入って来たノンナとクラーラは、立ったまま微動だにしない。

 

イカチ「ノンナ?クラーラ?二人ともどうしたのでゲソ」

 

いぶかしげに歩み寄る。

と、ノンナとクラーラの口が開いた。

 

ノンナ「我らの生涯に__」

クラ 「一片の悔い無し」

 

パタリ

 

イカチ「うわっ!?ノンナとクラーラが倒れたでゲソ!二人とも、しっかりするでゲソー!」

 

二人に駆け寄るイカチューシャ。

そんな様子を見ながら、やれやれといった様子でニーナとアリーナは用意していたピロージナエ・カルトーシカにかぶりつくのだった。




プラウダに三年いながらロシア語は単語をいくつかしか知らないカチューシャ。
目の前で何度もロシア語だけで会話され、蚊帳の外を味わったカチューシャ。
・・・・本当に、彼女はロシア語が出来ないのでしょうか・・・・?



できないんでしょうね!それがいい!

そしてついに、ガルパン最終章の上映が始まりました!
全六話、一体どんな話になるのか楽しみですね!
どうせ見るなら、ガルパン映画の聖地と言われた立川に行ってみたいですね。
連日満員だそうなので、覚悟して向かわないといけませんが・・・・。

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