カチューシャ→カチュ
クラーラ→クラ
アリーナ→アリー
プラウダ生A、B、C..→プラA、B、C..
プラウダ生全員→プラ生
イカチューシャ→イカチ
※〈〉内の台詞は、全てロシア語で話しているとご解釈ください。
時間は前話・同志じゃなイカ?の直後。
カチューシャの招待によってプラウダへ招かれることを承諾したイカチューシャは、カチューシャたちと共にBT-7に乗りプラウダ高校を目指し砂浜を走っていた。
イカチ「ところでカチューシャよ」
カチュ「どうしたのかしら?同志イカチューシャ」
イカチ「プラウダって、どんな所なのでゲソ?」
カチュ「え?ノンナたちから聞いてなかったの?」
イカチ「うむ。プラウダは去年偉業を成し遂げた偉大なるカチューシャの元に集う、精鋭たちの
カチュ「あら!それならもうほとんど知ってるも当然じゃない!」
イカチ「そうなのでゲソか」
カチュ「そうよ!まあ、他にもいろいろ細かい部分はあるけれど。そこは知るも知らぬも自由、といったところね」
イカチ「楽しみでゲソ!」
プラウダを訪れるのを楽しみにしているイカチューシャと、そんなイカチューシャを見て嬉しそうにしているカチューシャ。
そしてそんな二人を後ろから見つめる無表情の二人。
しかし全身が細かく震えている。
ノンナ〈同志クラーラ〉
クラ 〈はい、同志ノンナ様〉
ノンナ〈今、我々は天国にいるのですね〉
クラ 〈異論ありません〉
そんなロシア語で会話する二人に気が付いたカチューシャとイカチューシャが同時に振り向く。
カチュ「ノンナ!」
イカチ「クラーラ!」
二人 「日本語で言いなさい!」
言わなイカ!」
パタリ
イカチ「うわっ!?ノンナとクラーラが倒れたでゲソ!」
カチュ「ノンナ!?クラーラ!?しっかりしてー!」
__ともあれ、大騒ぎしながら一行はプラウダ高校学園艦へと到着した。
イカチ「おおっ、ここがプラウダ高校の学園艦でゲソか!」
カチュ「そうよ!どう?大きいでしょう?」
イカチ「うむ!ここまで大きいものは海でも見たことが無いでゲソ!」
カチュ「この学園艦の大きさはまさにプラウダの栄華を表しているわ。このカチューシャにぴったりの艦よね!」
そして艦内へ入り、ついに一行はプラウダ高校校舎へと到着した。
イカチ「到着でゲソ!」
カチュ「ノンナ、今すぐみんなをホールに集めて!これからイカチューシャの歓迎パーティを開くわよ!」
ノンナ「ご心配なく、同志カチューシャ。すでに準備は全て整っています」
カチュ「流石はノンナね。あなたはまさにプラウダの誇りね」
ノンナ「勿体ないお言葉です」
カチュ「それじゃ、私たちは準備しましょ、イカチューシャ」
イカチ「準備って、何のでゲソ?」
カチュ「決まってるじゃない」
カチューシャはひらり、とBT-7から飛び降りる。
カチュ「同志に相応しい、イカチューシャの服を用意してあげるわ!」
その後、二人はカチューシャの私室にいた。
カチューシャはクローゼットを開き、何やらゴソゴソ探している。
カチュ「・・・・あら?おかしいわね。いつでも取り出せるように、手の届くところにかけておいたはずなのに」
イカチ「何か見つからないのでゲソ?」
カチュ「ええ。イカチューシャのために、カチューシャのパンツァージャケットを貸してあげようと思ってたんだけど・・・・。あっ、あんなところに!?」
見ると、クローゼットの奥の奥、さらにカチューシャが手の届かない高さに、カチューシャが着ているのと同じデザインのパンツァージャケット『だけ』がハンガーにかけれらている。
唯一手の届かないそれに用があるらしく、カチューシャは懸命に背を伸ばすが手が全く届かない。
カチュ「くぬぬぬ・・・・ふぬぅー・・・・!」
体をプルプル震わせ、つま先立ちになり手を伸ばすが、届かない。
近くに踏台が置いてあるが、カチューシャはそれを見て見ぬふりをするように使おうとしない。
カチュ「いったい、だれが、あんな所に・・・・!」
イカチ「これを取ればいいのでゲソ?」
カチュ「!?」
カチューシャの取りたいものを察したイカチューシャが、触手を伸ばして難なくパンツァージャケットを引き寄せる。
イカチ「これでいいのでゲソ?」
イカチューシャがカチューシャに手渡す。
カチュ「さすが同志イカチューシャ。素晴らしい才能だわ!」
イカチ「ふっふっふ、それほどでもないでゲソ。それで、これは何でゲソ?」
カチュ「これはね、カチューシャのパンツァージャケットよ」
イカチ「ぱんつぁーじゃけっと?」
カチュ「あら?イカチューシャは知らなかったのかしら。今カチューシャが着ているような、戦車に乗るときに着る・・・・そうね。簡単に言えば、戦車道をするときに着るユニフォームよ」
イカチ「なるほど。れもんで働くときは栄子たちもユニフォームを着ていたでゲソ」
カチュ「イカチューシャには特別に、カチューシャのユニフォームを貸してあげるわ。今日はこれを着てちょうだい」
イカチ「ありがとうでゲソ」
そして、着替え終わり__
イカチ「おお!サイズピッタリじゃなイカ!」
イカチューシャがパンツァージャケットに身を包んでいる。
カチュ「うん、ピッタリね!カチューシャが思った通り!」
イカチ「それにしても、どうして私に丁度いいサイズがあったのでゲソ?」
カチュ「これは、カチューシャがいつでも次のサイズが必要になってもいいように作っておいた、一つ上のサイズのものなの。イカチューシャはカチューシャよりほんのちょっとだけ背が高いから、サイズがぴったりだったのよ」
イカチ「そうだったのでゲソか。では今日は借りるでゲソよ」
ツッコミ不在。
かくして、パンツァージャケットを着たイカチューシャは、カチューシャに連れられ、とあるホールへと足を向けた。
ノンナ「お待ちしていました、同志イカチューシャ」
そこには、プラウダの戦車道チーム全員が集まっていた。
ホールには丸テーブルがいくつも並べられ、天井にも簡単ではない飾り付けが施されている。
そしてホールの奥、壇上の上には、『ようこそプラウダへ、同志イカチューシャ』と日本語とロシア語で書かれた横断幕がかけられている。
プラA「おお、あの人が噂のイカチューシャさんかー?」
プラB「そうみでえだなあー。めんこいじゃあー」
プラウダ生たちからの印象もいいようで、皆が笑顔で迎え入れる。
カチュ「イカチューシャ、こっちへ」
イカチ「うむ!」
カチューシャに促され、一緒に壇上へ上がる。
カチュ「諸君!待たせたわね!」
カチューシャの一声で、全員が壇上に向く。
カチュ「既にもう聞いてると思うけど、紹介してあげるわ!」
ちょいちょいと手招きされ、正面にイカチューシャが立つ。
カチュ「彼女こそ!我等プラウダに新たな名誉と栄光をもたらしてくれる新たな同志・イカチューシャよ!」
イカチ「イカチューシャでゲソ!同志諸君、よろしくでゲソ!」
プラ生「ウラー!」
カチューシャの言葉に、誰一人意義を唱えることなく歓迎した。
カチュ「さあ、今日は無礼講よ!同志イカチューシャを迎え入れるための宴を始めるわよ!」
プラ生「ダー!」
かくして宴は始まり、パーティの主役であるイカチューシャをプラウダメンバー総出で取り囲み、次々と質問を浴びせている。
プラC「同志イカチューシャは、どこにお住いなんですか?」
イカチ「倉鎌の相沢家でゲソ」
プラD「戦車は何が好きですか?」
イカチ「あんまり詳しくはないでゲソが、来る途中に乗ったBT-7とやらはいいスピードが出て乗ってて気持ちよかったでゲソ」
プラD「おお、いいチョイスですね!」
プラB「それはイカの帽子ですか?よくできてますね」
イカチ「本物でゲソ!」
ヒレをピコピコさせるイカチューシャ。
プラA「うわっ、動いた!すごい!」
プラ生「イカチューシャ!イカチューシャ!」
イカチ「うわっ!ちょ、おち、落ち着かなイカ!触手を掴まないでゲソ!」
目新しさと物珍しさからもみくちゃにされるイカチューシャ。
ノンナ「皆さん、イカチューシャが困ってますよ」
目を回しかけているイカチューシャに、ノンナが助け舟を出す。
ノンナには逆らえず、みんなしずしずと退散する。
イカチ「ふう。ノンナ、助かったでゲソ」
ノンナ「大したことではありません。さあ、こちらへ」
ノンナに促され、ついていった先のテーブルにはカチューシャ、クラーラ、ニーナやアリーナといった中心核の面々が揃っていた。
カチュ「大人気ね、イカチューシャ。でもみんな悪気があった訳じゃないから」
イカチ「分かってるでゲソ。寛大なる心で許してやるでゲソ!」
カチュ「あなたも上に立つ者の風格が出てきたじゃない。それでこそイカチューシャよ!」
クラ 〈カチューシャ様、イカチューシャ様。こちらをどうぞ〉
気が付くとクラーラがボルシチを更に盛り、二人に差し出した。
カチュ「気が利くじゃない、クラーラ!」
イカチ「これは、一体何でゲソ?」
カチュ「ボルシチよ!この世で一番おいしい食べ物なんだから!」
イカチ「ほほう、それは興味深いでゲソ!__はむ」
カチュ「どうかしら?」
イカチ「うむ!確かに凄くおいしいじゃなイカ!」
カチュ「でしょう!?やっぱりイカチューシャとは好みも同じなのね!」
イカチ「だけど、エビを入れればもっと美味しくなるでゲソ!」
ノンナ「エビですか」
カチュ「エビ入りボルシチ・・・・興味深いわね!ノンナ、今度試してみて!」
ノンナ「分かりました」
ニーナ「イカチューシャさん、もう隊長たちと和気あいあいとじゃー」
アリー「ほんだー。なんぼちびっこ隊長と声そっくしでんも、簡単にはああは打ち解けんしゃろ」
ニーナ「大したもんだー」
アリー「んだー」
やがて宴が終わるころ、カチューシャがこっくり舟をこぎ始めた。
イカチ「む?カチューシャ、どうしたでゲソ?」
カチュ「なんでも、だいじょ、ぶ・・・・よ」
眠気をごまかし切れず、目元をごしごしとこするがどんどん瞼が落ちていく。
ノンナ「今日は朝から連盟の呼び出しがありましたから。疲れが溜まっていたのでしょう」
ノンナは難なくカチューシャをおんぶする。
その時にはもうカチューシャの意識はほとんどなかった。
そのままカチューシャを背負い、ノンナは会場を背にする。
ノンナ「私はカチューシャをお部屋へお連れします。案内できず心苦しいのですが、後のことはクラーラが引き受けてくれますので」
ノンナ〈クラーラ、イカチューシャのお世話をよろしくお願いしますね〉
クラ 〈お任せください、ノンナ様〉
ノンナ「では」
ノンナたちは去っていった。
イカチ「それじゃクラーラ、案内よろしくお願いするでゲソ!」
クラ 「承知いたしました」
かくしてクラーラによるプラウダ案内が始まった。
最初に訪れたのは戦車道資料展示室。
プラウダの校旗や戦車道大会の優勝トロフィー、カチューシャたちの集合写真や戦車の模型などがたくさん並んでいる。
クラ 「ここがプラウダの栄光の歴史をまとめた展示室です」
イカチ「おお!戦車がいっぱいでゲソ!」
イカチューシャが一つの戦車の模型に興味を示す。
イカチ「これは、BT-7でゲソね」
クラ 「いいえ、それはBT-5です」
イカチ「む?さっき乗ってきたのとそっくりでゲソ」
クラ 「はい。それはBT-7の先代機です。それを改良されて、先ほどのBT-7に改良されたのです」
イカチ「ふむ、戦車にも歴史があるのでゲソね」
イカチューシャは次の模型に目を移す。
イカチ「この戦車もなかなかカッコいいでゲソね。これは何という戦車でゲソ?」
クラ 「それはKV-1という戦車です」
イカチ「かーべーわん」
クラ 「我がプラウダが誇る重戦車の一つで、チームの主力でした。__が」
イカチ「が?」
クラ 「いつの間にか、盗まれてしまいました」
イカチ「盗まれた!?」
クラ 「はい」
イカチ「悪い奴もいたものでゲソね・・・・。私が見つけたら、こらしめてやるでゲソ!」
クラ 「是非宜しくお願いします」
模型エリアを抜け、今度は戦車道チームの歴史が展示されたエリアへ。
過去の戦車道チームの集合写真がピックアップされるように、年代を飛ばしながら陳列されている。
イカチ「これは、戦車道のチームでゲソ?」
クラ 「はい。かつてプラウダの戦車道を支えた、歴代の戦車チームの写真です」
段々と新しくなっていき、一年前の集合写真にカチューシャたちが映っていることに気が付く。
イカチ「あ、カチューシャとノンナでゲソ」
クラ 「はい。第62回全国高校戦車道大会、つまり去年の大会の時の写真です」
集合写真の中心で、カチューシャがノンナに肩車されたまま誇らしい笑顔を浮かべている。
イカチ「カチューシャ、凄く嬉しそうでゲソ」
クラ 「去年の第62回大会では、プラウダが優勝しましたから」
イカチ「優勝!?すごいでゲソ!」
クラ 「ですが、去年の勝利は__いえ、これは言わなくてもいいことですね」
イカチ「?」
クラ 「そして今年、第63回大会ではベスト4に残りました」
イカチ「それは知っているでゲソ。西住さんのいる大洗が優勝したのでゲソね」
クラ 「仰る通りです」
イカチ「でも去年優勝して今年もベスト4だなんて凄いでゲソ。プラウダはやっぱり強いのでゲソね」
ただ純粋に感心するイカチューシャを、クラーラは嬉しそうな顔で見ていた。
その後も同室で戦車道談議に花を咲かせる二人。
いつの間にか時間は過ぎていき__
カチュ「イカチューシャ、待たせたわね!」
お昼寝が終わったカチューシャがノンナを連れて元気いっぱいに舞い戻ってきた。
イカチ「カチューシャ、体はもう大丈夫なのでゲソ?」
カチュ「ええ、たっぷりお昼寝し__休んだから、もう心配いらないわ!」
イカチ「それは何よりでゲソ」
ノンナ「プラウダについては、クラーラが存分に説明してくれたようですね」
クラ 〈はい。充実した時間でした〉
カチュ「それじゃあ、今度はカチューシャが案内してあげるわ!」
イカチ「おお、お願いするでゲソ!次はどこへ行くのでゲソ?」
カチュ「ふふっ、プラウダの歴史にはたっぷりと触れたのでしょう?だったら行くところは決まってるわ!」
かくして__
カチュ「どう?ここがプラウダの誇る戦車たちよ!」
イカチ「おお!戦車だらけじゃなイカ!」
カチューシャの案内でイカチューシャは戦車倉庫へやって来た。
ずらりと並ぶ無数の戦車に、イカチューシャのテンションはダダ上がり。
イカチ「壮観でゲソー。みんな大きくて強そうな戦車バカリじゃなイカ!」
カチュ「プラウダの戦車と言えばやっぱり重戦車軍団よ。並の砲弾じゃビクともしない、厚い装甲と百ミリ越えの長砲身!これぞ戦車というものよ!」
そこからカチューシャは各戦車の解説を始めた。
カチュ「これはT-34/85。85mm戦車砲を取り付けた、プラウダの主力よ!」
イカチ「おおー」
カチュ「私もこれに乗っているの。速度・装甲・そして火力!全てにおいて高水準の、まさに王者にふさわしい戦車よ!」
イカチ「これは強そうでゲソ」
カチュ「ふふん、そうでしょそうでしょ!次がIS-2!なんと122mm戦車砲が取り付けてあるのよ!」
イカチ「大きいでゲソ!それにすごく砲身が長いじゃなイカ!」
カチュ「これにはノンナが搭乗しているわ。ノンナがこれに乗れば、どんなにはるか遠くに敵が逃げようとも、逃しはしないんだから!」
ノンナ「当然です」
イカチ「凄い自信でゲソ。シンディーではこうはいかないでゲソね」
カチュ「そしてそして!これがプラウダ最大の重戦車、かーべーたんよ!」
カチューシャは何よりも楽しそうにKV-2を紹介する。
イカチ「大きいでゲソ!」
カチュ「でしょ!?この大きさ、重装甲、そして152mmの超大型砲身!完成された最高の戦車なんだから!」
ノンナに手伝ってもらい、KV-2の砲塔の上に立つカチューシャ。
カチュ「特別にイカチューシャも登らせてあげるわ!」
同じくノンナに手伝ってもらい、イカチューシャも砲塔の上に立つ。
イカチ「おおおー!高いでゲソ!」
カチュ「でしょー?この全てを下に見ることができるこの高さ!これがかーべーたんの最大の魅力なんだから!」
その後も色々な戦車の説明や、やれあの試合ではこれが活躍した、あの時この戦車が戦局をひっくり返した、などカチューシャの熱は冷めなかった。
やがて時が過ぎ、日も沈みかけてきた。
イカチ「むっ、もうこんな時間でゲソか。帰らないとといけないでゲソ」
カチュ「ええっ!?もうちょっといいじゃない!まだプラウダの全部を紹介しきれてないのよ!?」
ノンナ「全ての戦車の説明をした後またKV-2の説明をし続けたからですよ」
カチュ「うるさいわね!あれは必要なことだったのよ!」
イカチ「これ以上帰りが遅れたら晩ごはんに間に合わなくなるでゲソ」
カチュ「それならイカチューシャ、いっそ今日はプラウダに泊まっちゃえばいいじゃない!」
イカチ「えっ?」
ノンナ「それは素晴らしい提案です。プラウダには来賓用のお部屋も沢山ありますし、もちろん手入れも怠ってはおりません」
カチュ「という訳だから、遠慮しなくてもいいわよ!」
最高のアイデア、と言わんばかりのカチューシャ。
イカチ「うむ・・・・千鶴に聞いてみるでゲソ」
おもむろにケータイを取り出すイカチューシャ。
ノンナ〈キッズケータイですね〉
クラ 〈流石です。そのあたりスキがありません〉
ノンナ〈カチューシャにも持たせましょうか〉
クラ 〈さすがにそれはバレるのでは?〉
カチュ「二人とも!日本語で話しなさい!」
イカチ「あっ、もしもし、千鶴でゲソか?」
千鶴 『いいわよ』
かくして、千鶴の一発OKにより、イカチューシャのプラウダ泊が決定した。
カチュ「それじゃあイカチューシャ、寝室はここを使っていいわ。プラウダで一番豪華な来賓室よ!」
案内された来賓用の部屋は、上質な内装と細かく施された伝統模様などの装飾が気品漂わせる部屋だった。
イカチ「いい部屋じゃなイカ!本当に私一人で使ってもいいのでゲソ?」
カチュ「もちろん!私の部屋ほどじゃないけれど、ここもイカチューシャを満足させられると思うわ。それじゃゆっくりくつろいで。ピロシキ~」
案内を終え、一旦カチューシャも去っていった。
イカチ「本当に、プラウダはいい所でゲソー。いっそ、ここに移り住んでもいいんじゃなイカ?」
などと考えながらベットにダイブする。
と__
コンコン。
ドアをノックする音が聞こえてくる。
イカチ「はーい」
ノンナ「失礼します」
部屋へ入ってきたのは、ノンナだった。
イカチ「ノンナじゃなイカ。どうしたのでゲソ?」
ノンナ「はい。実は、イカチューシャに重要なことをお伝えするのを忘れていました」
イカチ「重要なこと?なんでゲソ?」
ノンナ「そのためにも、私の部屋へ同行していただけますでしょうか」
イカチ「?わかったでゲソ」
かくしてカチューシャはノンナの部屋へ。
ノンナの部屋は妙に物が少なく、殺風景な雰囲気すらしていた。
ノンナ「ではイカチューシャ。写真を撮りますので、こちらへ」
いつの間にかノンナがカメラを構え、イカチューシャを窓際へ誘導する。
カメラは写真家などが使う、最新式のデジカメである。
イカチ「む?どうして写真を撮る必要があるのでゲソ?」
ノンナ「プラウダの土を踏み、戦車道を志す者は、皆こうして記録を残す決まりなのです。写真と共に貢献の記録が残され、イカチューシャの名前も永劫にプラウダの歴史に刻まれてゆくのですよ」
イカチ「おおっ!何だか壮大でゲソ!さあ撮るでゲソ!プラウダに私の偉大さを語り継ぐのでゲソ!」
ノンナ「では失礼します」
ノンナは慣れた手つきでカメラをいじり、様々な角度でイカチューシャを撮影し始める。
イカチ(永劫に記録が残るということは、私はプラウダの戦車道を侵略したも同然じゃなイカ?思わぬところで侵略の手が広げられたでゲソ!)
良からぬことにほくそ笑むイカチューシャだったが、その間もノンナは写真を撮り続けていく。
イカチ「ノンナー、まだでゲソかー?そろそろ疲れたでゲソ」
ノンナ「もうしばらくお待ちください」
撮影開始から三十分近く、未だノンナは写真を撮り続けてる。
その間にノンナの要請でパンツァージャケットからプラウダ制服、ロシアの民族衣装や何故かノンナが持っていたサイズの合う洋服などを着させられ、イカチューシャは辟易し始めていた。
イカチ(何だか、ついこの間もこんなことがあったような気が・・・・)
ふと気が付いたイカチューシャは、この状況に見覚えがある気がしてきた。
次々と着替えさせられ、写真を撮られ、開放してくれない__
イカチ(うーむ、いつだったでゲソか__)
イカチューシャが記憶を引っ張り出そうとしていると、
ノンナ「ありがとうございます。もう結構ですよ」
やっとノンナの写真撮影が終わった。
イカチ「む?そうでゲソか」
解放され、うーんと背伸びするイカチューシャ。
クラ 「終わりましたでしょうか」
タイミングよく、クラーラが部屋へ入ってきた。
ノンナ「はい。今ちょうど終わったところです」
クラ 「良かった。先ほど浴場の準備が終わりまして、お知らせに来ました」
ノンナ「そうですか。ではイカチューシャ、ご一緒いたします。お背中お流ししますよ」
イカチ「本当でゲソか!?至れり尽くせりで、悪いでゲソねー」
まるで貴族のようなもてなしに気分よく浴場に向かおうとするイカチューシャ。
そんなイカチューシャを、
ノンナ「いえ、当然の義務ですので」
怪しく光る眼でノンナとクラーラが見つめているのを、イカチューシャは気が付かなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
入浴が終わり、食事も済み、消灯の時間になった。
廊下は明かりが絞られ、あちこち闇に包まれていく。
ノンナ「それではイカチューシャ、おやすみなさい」
イカチ「おやすみなさいでゲソー」
部屋の電気を消し、目をつぶるが__環境が変わったせいか、なかなか寝付けない。
イカチ「うーむ、何だか落ち着かないでゲソ。そっちはどうでゲソ栄__」
言いかけて、今は一人で寝ていることを思い出す。
イカチ「そうだったでゲソ、今日は一人だったのでゲソ」
ベッドの上で何とか眠ろうと目をつぶり続けるが__やはり眠れなかった。
イカチ「眠れないでゲソ。こういう時は少し散歩するといいって、前にテレビで言ってたでゲソね」
部屋を出て、薄暗い廊下に立つ。
そして、あてもなく適当な方向に歩き出した。
しばらく歩いていると__ふと、廊下の向こう側から歩いてくる人影に気が付いた。
イカチ「・・・・カチューシャ?」
カチュ「・・・・イカチューシャ?」
それは、表情を曇らせ不安な表情を浮かべるカチューシャだった。
イカチ「どうしたでゲソ、こんな時間に」
カチュ「ど、どうもしないわ。ちょっと__散歩していただけ、よ」
強がって胡麻化しているようだが、どうにも覇気が無い。
枕を抱いたまま、うつ向いている。
イカチ「眠れないのでゲソ?」
カチュ「えっ」
ズバリと言い切られ、動揺するカチューシャ。
イカチ「私も眠れなかったから、ちょっと散歩してたのでゲソよ」
カチュ「そ、そうなの。・・・・まあ?わ、私も、似たようなものよ」
歯切れが悪そうにもじもじしている。
イカチ「それじゃあ、一緒に寝なイカ?」
カチュ「えっ?」
イカチ「私の部屋、広すぎて一人じゃ落ちつかなかったでゲソ。カチューシャも一緒にいてくれれば落ち着くんじゃなイカ?」
カチュ「そ、そう?」
イカチ「うむ!」
カチューシャは少し考え込む素振りを見せたが__
カチュ「そうね!イカチューシャの提案を断るのも同志に失礼だものね!一緒に寝てあげるわ!」
精一杯の強がりを見せた。
イカチ「それじゃ、消すでゲソよー」
カチュ「ええ」
大きめのベッドに二人横になり、部屋の明かりを消す。
闇に包まれた部屋。
イカチ「では、おやすみなさいでゲソー」
カチュ「・・・・ええ」
イカチューシャは早めに目をつぶるが、カチューシャは天井を見つめるままだった。
カチュ「・・・・夢を見たの」
イカチ「夢、でゲソか。どんな夢でゲソ?」
カチュ「夢の中で、私は戦車に乗っていて。何かと戦っているんだけど、気が付いたら周囲にいたはずの仲間がいなくなっているの。ニーナも、アリーナも、クラーラも・・・・ノンナさえも。誰一人いなくなっていたの」
イカチ「一人も・・・・」
カチュ「それでも私は戦えると、前を向こうとしたわ。でも__出来なかった。戦車が動かなかったの。気が付いたら、乗組員さえいなくなってたわ。私は、正真正銘一人ぼっちになっていたの」
夢の内容を思い出したのか、声が震える。
カチュ「私は大声で、『誰か!』って叫んでた。でも、誰も答えない。ただ一人、動かない戦車の上で、戦えない私がただ大声で助けを求めるだけ、そんな夢だったわ」
イカチ「不気味な夢でゲソね」
カチュ「情けない話よね。ただの夢の話なのに、そのせいで眠れない、なんて」
自嘲の言葉がこぼれる。
しゅるっ
カチューシャの頭に、イカチューシャの触手が優しく巻かれる。
カチュ「イカチューシャ?」
イカチ「そんなのはただの夢でゲソ。現実にはノンナもいるし、クラーラもいるでゲソ。ニーナもアリーナも、私も間違いなくいるでゲソ。夢は夢だって跳ね返してやればいいのでゲソ」
カチュ「イカチューシャ・・・・」
イカチューシャの言葉に、カチューシャはきゅっと触手を握る。
カチュ「ねえ、今夜はこのままでいさせてくれるかしら」
イカチ「構わないでゲソよ、同志カチューシャ」
そして、カチューシャは目をつぶる。
カチュ「おやすみなさい・・・・同志イカチューシャ」
そして、次の日。
パシャシャシャシャシャシャ
何かの連続音に、目を覚ますカチューシャ。
開いた視界の先には、ノンナが立っていた。
カチュ「ノンナ・・・・?」
ノンナ「おはようございます、カチューシャ。朝食の準備ができましたよ」
カチュ「うん・・・・すぐ行くわ・・・・」
ノンナを先に行かせ、イカチューシャを起こす。
イカチ「ふあ・・・・。・・・・おはようでゲソ、同志カチューシャ」
カチュ「ええ。おはよう、同志イカチューシャ」
廊下にて。
そこを歩くノンナの手には、カメラが握られていた。
少し歩いたところで、クラーラが現れる。
クラ 〈ノンナ様、首尾は〉
ノンナ〈任務達成です〉
二人はそれ以上語らず、ただお互い笑顔を交わす。
イカチューシャの、プラウダ生活二日目がやって来た。
プラウダ編はちょっと志向を変えて、プラウダでの生活というテーマでやっていこうと思っています。
カチューシャがイカチューシャを素直に受け入れてるのは、声が似てるなどの他に、一番背たけが近いから、という裏設定があったりします(笑)
しかし・・・・ノンナの早苗化が止まらない。
どうにかしなければ!
どうもしなくてもいいかもしれませんが。