侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。

カチューシャ→カチュ
クラーラ→クラ
アリーナ→アリー

※〈〉内の台詞は、全てロシア語で話しているとご解釈ください。


プラウダ高校編じゃなイカ?
第1話・同志じゃなイカ?


プラウダ高校学園艦、隊長室にて。

 

カチュ「水着に、タオルに、日焼け止め、そして浮き輪!うん、完璧だわ!これで明日の準備は万全よ!」

ノンナ「流石ですカチューシャ。一部の隙もない海水浴の構えです」

カチュ「ふふん、そうでしょう!ミホーシャたちとの隊長面談に前乗りして、貴女たちを海に連れていってあげるんだから、感謝しなさい!」

クラ 〈海水浴の準備で浮かれ上がるカチューシャ様、とても眩しいですね、ノンナ様〉

ノンナ〈同意しかありませんね、クラーラ〉

カチュ「貴女たち!だから日本語で話なさいって、何度言えば」

 

突然、電話が鳴り響く。

 

ニーナ『突然お電話失礼しますだ。カチューシャ隊長に、戦車道連盟のかたからお電話です』

カチュ「カチューシャに?・・・・いいわ、取り次いで。カチューシャよ!ええ。え、・・・・明日?」

ノンナ(・・・・?)

 

次の日、海の家れもんにて。

 

ノンナ〈我々とカチューシャの海のひとときを妨げるなど・・・・。戦車道連盟は、粛清がお望みのようですね〉

クラ 〈粛清など生ぬるいです。産まれたことへの後悔を抱かせながら、あらゆる苦痛を味わわせるべきです〉

 

れもんの店内には表に溢れるほどの殺気を放つ水着姿のノンナとクラーラ、あとは僅かなプラウダ生だけが座っていた。

 

栄子 「何だあの二人・・・・。殺し屋か何かか?」

イカ娘「千鶴に負けるとも劣らない、おぞましいオーラを感じるでゲソ」

千鶴 「何か言ったかしらイカ娘ちゃん?」

イカ娘「空耳でゲソ!」

栄子 「しかし、あの二人がいたままじゃお客さんが入ってきてくれないぞ」

 

れもんに入ろうとしたお客は、ノンナとクラーラに気づきすぐに店から逃げ出していっている。

 

千鶴 「そうね。でも、追い出すわけにもいかないわ」

栄子 「これはさっさと注文をとって、食べ終わらせるしかないな。よしイカ娘、オーダーとってきてくれ」

イカ娘「私がでゲソ!?」

栄子 「こういう時はお前のほうが向いている」

イカ娘「嫌でゲソ!なぜわざわざシャチの口の中へ飛び込むようなマネしなければならないのでゲソ!」

栄子 「店のためだ、さっさと行け!」

イカ娘「栄子の人でなしー!」

 

栄子に無理やり押され、イカ娘は泣きながらノンナたちの席へ向かった。

 

イカ娘「あ、あの・・・・」

 

声をかけられ、ノンナとクラーラが鋭い目つきを向ける。

 

イカ娘(うう・・・・)

イカ娘「ご、ご注文は、何でゲソ・・・・?」

ノンナ〈我々とカチューシャを引き離した、資本主義の犬どもを粛清する火器を所望します〉

クラ 〈私にはそれらを埋めるための穴を掘るための道具を〉

イカ娘「むっ、何言ってるかさっぱりわからないでゲソ!ちゃんと日本語で言わなイカ!」

 

ロシア語で語り掛けてくる二人に思わず食って掛かるイカ娘。

 

ノンナ「!」

クラ 「!」

ノンナ「あなた!」

イカ娘「ひっ、ご、ごめんなさいでゲソー!」

 

途端に涙目になり怯むイカ娘。

 

ノンナ「もう一度、言ってもらえませんか?」

イカ娘「えっ?・・・・ご、ごめんなさいでゲソ・・・・」

ノンナ「ああ、すいません。もうひとつ前です。できれば堂々と言ってもらえませんか」

イカ娘「・・・・?えーと、何言ってるかさっぱりでゲソ!日本語で言わなイカ!」

 

イカ娘の一言に、

 

ノンナ「!!!」

クラ 「っ!!」

 

二人は信じられないものを見たと言わんばかりの顔をしている。

 

イカ娘「ど、どうしたのでゲソ・・・・?」

ノンナ「いえ、ありがとうございます。私は焼きそばを、彼女にはラーメンをお願いします」

イカ娘「か、かしこまったでゲソ」

 

オーダーをとり終えたイカ娘は、駆け足気味で栄子の所に戻ってきた。

 

栄子 「やるなイカ娘。本当にオーダーとれるとは思わなかったぞ」

イカ娘「と、当然じゃなイカ!私にかかれば朝飯前でゲソ!」

 

やがて料理が完成し、イカ娘が引き続き運ぶことになった。

 

イカ娘「焼きそばとラーメン、お待たせでゲソ」

ノンナ「ありがとうございます。・・・・あの、一つお願いがあるのですが」

イカ娘「追加の注文でゲソ?」

ノンナ「いえ、この紙に書かれた字を読んでいただけますか」

 

ノンナから渡された紙には、何か言葉が書いてあった。

 

イカ娘「何でゲソ、これは?・・・・まあ、いいでゲソが」

 

書いてある内容を確かめたイカ娘は、メモの内容を読み上げた。

 

イカ娘「ケホン。『よくもカチューシャを侮辱したわね!粛清してやる!』・・・・これは何でゲソ?」

 

イカ娘が前を見直すと、ノンナがカタカタ震えながらテーブルに突っ伏している。

 

イカ娘「うわっ、大丈夫でゲソ!?」

クラ 「ノンナ様なら大丈夫です。次は、こちらを読んでいただけますか?」

イカ娘「ふむ。えーと、『そんな細かいことどうでもいいから、永久凍土の果てまで追いなさい!』・・・・さっきから何なのでゲソ」

 

今度はクラーラが何かをこらえるように口を抑えながらテーブルに突っ伏している。

 

イカ娘(こやつら気持ち悪いでゲソ!)

 

嫌な予感がしたイカ娘が立ち去ろうとすると、

 

ノンナ「待ってください」

 

素早く腕を伸ばしてきたノンナに手を掴まれる。

 

イカ娘「な、何でゲソ・・・・?」

 

栄子の視界の先では、イカ娘がノンナとクラーラの二人に何か訴えかけられているように見えた。

 

栄子 「イカ娘のやつ、何か絡まれてるみたいだな」

千鶴 「でも、見た感じ怒られていたり、文句を言っているようには見えないわ。イカ娘ちゃんも普通に話しているし」

栄子 「いざとなったら逃げてくるだろうし、様子を見るか」

 

三十分後。

 

栄子 (と思ったら、打ち解けたまま戻ってく来ねえし!)

 

ノンナたちとイカ娘は仲良く話しながら、長々と話を続けている。

栄子はのしのしとイカ娘に近づく。

 

栄子 「おいイカ娘!サボってないで仕事を__」

イカ娘「私はイカ娘ではないでゲソ!」

栄子 「はあ?」

イカ娘「私はプラウダ高校の影の隊長・イカチューシャでゲソ!」

 

イカ娘は栄子に振り替えると、仁王立ちで堂々と答えた。

 

※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。

 

イカチューシャ→イカチ

 

栄子 「何またバカなこと言ってんだ。 遊んでないでさっさと仕事しろ!」

イカチ「むっ、このイカチューシャに指図しようとは!ノンナ!クラーラ!」

ノンナ「はっ」

クラ 〈承知いたしました〉

 

素早い動きでノンナとクラーラが両脇から栄子の腕をつかみ、動きを封じる。

 

栄子 「っ!?ちょっ、何すんだ!?」

イカチ「粛清でゲソ!」

栄子 「ぎゃはははははは!」

 

イカ娘は身動きできない栄子を、触手全部を使ってくすぐり始めた。

 

イカチ「ほれほれ、同志になるというのなら解放してやってもいいでゲソよ?」

栄子 「前と同じようなことしやがって!こんなことで簡単に屈するような私じゃ」

イカチ「ノンナ、クラーラ。マッサージしてあげるでゲソ」

ノンナ「はっ!」

クラ 〈お覚悟を!〉

 

ノンナとクラーラが栄子を器用に取り押さえつつ、片腕で器用に栄子をくすぐり始める。

 

栄子 「なっ、何を、っ、だはははははははははははは!」

 

イカ娘に加え、ノンナとクラーラの異様にレベルの高いくすぐりテクにより、栄子の顔から余裕が消え始める。

 

栄子 「ひーっ!ひーっ!やめ、やめ、わかった!わかった!もう指図しないからーー!!」

イカチ「分かればいいのでゲソ」

栄子 「うへぇ……」

 

やっと解放された栄子は、床にぐったりと倒れこんでしまった。

 

イカチ(栄子がこうも容易く陥落するなんて、この二人がいれば私の地上侵略も夢ではないんじゃなイカ!?)

イカチ「さあ行くでゲソよ二人とも!私とプラウダの偉大さを、無知なる人類どもに思い知らしめるのでゲソ!」

ノンナ「はっ!」

クラ 〈参りましょう!〉

イカチ「それじゃあ失礼するでゲソ。ボルシチ~♪」

 

二人を従えたイカ娘は手をひらひらさせながられもんを出て行った。

 

千鶴 「栄子ちゃん、大丈夫?」

栄子 「うう・・・・。イカ娘のやつ、あの二人に何吹き込まれたんだ・・・・」

 

まだくすぐりのダメージが残っている栄子は、床に倒れこんだまま呟くのが精いっぱいだった。

 

ニーナ「あんのー・・・・」

栄子 「え・・・・?」

 

かろうじて上げた顔の先には、ニーナが申し訳なさそうな顔で立っていた。

 

ニーナ「申し訳ねえですだ、うぢの副隊長だぢが・・・・」

栄子 「副隊長・・・・?」

アリー「はい。実は・・・・」

 

かくかくしかじか。

 

栄子 「なるほど・・・・、そのカチューシャ隊長との海水浴が楽しみだったのに、直前でカチューシャさんが戦車道連盟に呼び出しをくらったせいでおじゃんになっちゃった、と」

ニーナ「その時のお二人の様子と言ったら__ひいいいい・・・・」

千鶴 「それで二人が落ち込んでいる所に、イカ娘ちゃんが現れたという訳ね?」

アリー「はい。わだすも驚ぎますた。あすこまでそっくりだなんて・・・・」

栄子 「イカ娘は、そんなにプラウダ隊長にそっくりなのか?」

ニーナ「はい。・・・・そっくりなんは、声だけですんけど」

栄子 「声だけかよ!」

ニーナ「性格は、・・・・似でも似づかんす」

栄子 「とにかく、早くそのカチューシャさんとやらを呼び出して、あの二人を引き取ってもらおう!」

アリー「そんれが、その用事と言うんがプラウダの戦車道の予算立案の緊急召致だとかで、そう簡単には終わりぞうになさそうなんです・・・・」

栄子 「なんてこった・・・・。あの二人を止めるのは、私たちじゃ無理だぞ・・・・!」

千鶴 「とりあえず、電話して聞いてみましょう」

 

千鶴が受話器を取り、どこかへ電話をかけ始めた。

 

早苗 「あら?栄子、今日はイカちゃんお休み?」

栄子 「早苗、いい所に来た!実は__」

千鶴 「あっ、お久しぶりです、相沢です。あの、お聞きしたいことがありまして__」

 

かくして栄子たちは、事態の解決のために各々動き始めていた。

その頃、イカチューシャたちは。

 

磯崎 「おおっ!」

 

磯崎がノンナたちを発見し、目が釘付けになっていた。

 

磯崎 (今日一番、いや、今までの中で一番の美人かもしれん!しかも二人!これは声をかけねば、この磯崎辰雄、男が廃る!)

磯崎 「やあ、そこの可愛いお二人さん!俺と一緒にアイスティーでも・・・・あれ、イカの子?」

 

ノンナとクラーラの前に立ち、やっとイカチューシャの存在に気が付く磯崎。

 

イカチ「粛清でゲソ!」

クラ 〈かしこまりました〉

磯崎 「ぬわーっ!?」

 

イカチューシャの一言でクラーラは磯崎を瞬時に投げ飛ばした。

磯崎は頭から砂浜に突き刺さった。

 

イカチ「これに懲りたら、今後気安くイカチューシャに声をかけるなどしないことでゲソ!」

磯崎 「こ、声をかけたのはお前じゃないって・・・・ぐふっ」

 

磯崎は突き刺さった格好のまま気絶した。

 

たける「あれ?イカ姉ちゃん」

 

次に会ったのはたける。

 

イカチ「たける!今日から私はイカ娘ではないでゲソ!」

たける「え?」

イカチ「これから私の事はイカチューシャ隊長と呼ばなイカ!」

たける(イカ姉ちゃん、また何か始めたのかな)

たける「了解であります、イカチューシャ隊長!」

 

たけるは即座に察知し、敬礼のポーズをとる。

 

イカチ「うむ、たけるのような優秀な部下を持って私は満足でゲソ!ノンナ、クラーラ、こやつは私の部下一号、たけるでゲソ」

ノンナ「はじめまして、ノンナです」

クラ 〈クラーラです。はじめまして、たける先輩〉

たける「うん、はじめまして!」

 

たけるとノンナたちは握手を交わす。

 

たける「イカチューシャ隊長、これからどこへ行くの?」

イカチ「まずはこの辺り一帯を我々プラウダの領地にするのでゲソ!そのために邪魔者を粛清して回っているのでゲソ!」

たける「へえー」

イカチ「占領し終わったら、領地の一部をたけるにもあげてもいいでゲソよ」

たける「ほんと!?ありがとうイカチューシャ隊長!」

イカチ「うむ!もっとこのイカチューシャをあがめるでゲソ!」

 

さらに気分を良くしたイカチューシャは、ずいずいと砂浜を進んでいく。

 

ノンナ〈イカチューシャは深い慈悲と行動力の持ち主ですね。まるでプトラナ高原のようです、クラーラ〉

クラ 〈同意です。誇り高さも、情け容赦のないところも、カムチャツカ火山のようです〉

イカチ「ノンナ!クラーラ!日本語で話さなイカ!」

ノンナ「これは失礼いたしました、イカチューシャ」

イカチ「分かればいいのでゲソ」

吾郎 「おい、イカ!」

 

そんなイカ娘たちの後ろから、息を切らした怒り顔の吾郎が現れる。

 

イカチ「むっ、今度は吾郎でゲソか」

吾郎 「磯崎から聞いたぞ!お前この子たちをけしかけて磯崎を投げ飛ばしたそうじゃないか」

イカチ「イカチューシャに無礼を働いたから粛清したまででゲソ」

吾郎 「粛清って・・・・。お前砂浜で暴れ回るなっての」

ノンナ〈イカチューシャに気安く近づかないでいただきましょう〉

 

吾郎の前に立ちふさがるノンナ。

雰囲気にのまれないように気を張り、ずいっと迫り上からイカチューシャを見下ろす吾郎。

 

吾郎 「千鶴さんに迷惑かけるようなことするなって言ってるんだよ!」

イカチ「ううっ・・・・、吾郎のくせに!」

ノンナ「イカチューシャ」

 

イカチューシャに声をかけたノンナが、腰をかがめる。

 

イカチ「?」

 

しばらく意味が分からなかったイカチューシャだったが、

 

イカチ「!」

 

意味を理解したイカチューシャは、ノンナの肩に乗り、肩車してもらう。

 

イカチ「おおっ!吾郎が目線の下に見えるでゲソ!」

吾郎 (何を張り合ってるんだ・・・・)

吾郎 「とにかく!磯崎はどうでもいいが、ほかの人たちに迷惑をかけるんじゃないぞ!」

 

イカチューシャの様子に毒気を抜かれたのか、吾郎は注意を伝えて去っていった。

 

イカチ「むう、磯崎はともかく、吾郎までは怯んだりはしないでゲソか。更なるプレッシャーが必要でゲソね」

ノンナ「いかが致しましょう」

イカチ「この浜辺を支配するには・・・・どこか重要な拠点を支配して、そこから侵略の手を伸ばすのが定石でゲソ!」

ノンナ「流石イカチューシャ。見事な立案です」

イカチ(この辺りで重要な拠点となる場所は・・・・)

 

イカチューシャの目には最初に海の家れもんが映るが、見て見ぬふりをした。

 

イカチ「!あそこでゲソ!」

 

イカチューシャの目線の先には、救護所が映っていた。

 

白椙 「ふう・・・・。今日は急患もいないし、誰もケガしていない。平和な日々・・・・最高だな」

 

救護所の中では、クーラーがきいた快適な部屋の中で白椙がくつろいでいた、

設置されているテレビには、ドラマが映し出されている。

 

イカチ「侵略しに来たでゲソ!」

 

そこへ、ノンナに肩車されたままでイカチューシャが飛び込んできた。

 

白椙 「何だ?・・・・イカの娘じゃないか、何の用だ?・・・・おい、まさか」

イカチ「ちっ、違うでゲソ!三回目じゃないでゲソ!」

 

睨む白椙に、慌てて否定するイカチューシャ。

 

白椙 「じゃあ何の用だ。私は忙しいんだが」

イカチ「くつろいでたじゃなイカ」

白椙 「急患をいつでも受け入れられるようニュートラルな状態を保つのも看護師の役目だ」

ノンナ「イカチューシャ」

イカチ「はっ、目的を忘れてたでゲソ!今日は大切なお知らせを持ってきたでゲソ」

白椙 「何だ」

イカチ「今日からここは、我等プラウダの侵略拠点とさせてもらうでゲソ!」

白椙 「は?遊ぶなら他所でやれ。付き合うつもりもないぞ」

イカチ「白椙さんの許可は必要ないでゲソ。これは決定事項でゲソ!」

白椙 「いい加減にしろ!私の邪魔をしようって言うなら・・・・!」

 

邪魔をされた白須が、鋭いヤンキーの眼光をイカチューシャに向ける。

 

イカチ「ひいっ!?」

 

そんなイカチューシャを守るように、ノンナが白椙の眼前に立ちふさがり、冷たい瞳で睨み返す。

 

ノンナ「・・・・」

白椙 (こいつの目・・・・いくつもの修羅場を潜り抜けた、強者の目だ)

 

白椙とノンナのガン付け合戦は、お互い譲らないまま膠着し続ける。

 

白椙 (若いモンにしちゃやるじゃないか。しかし私も元ヤンとして、ガン付けで負けるわけにはいかないんだよ!)

 

そんな二人の緊迫した空間を破ったのは__

 

早苗 「話はすでに聞いたわ!イカちゃんを離しなさい!」

 

れもんで事態を聞き、奪還に走っていた早苗だった。

 

イカチ「げっ!?早苗!?」

早苗 「はっ!?イ・・・・イカちゃんが、イカちゃんを、イカちゃんに、肩車ですって!?」

 

瞬間、早苗の目に入ったのはノンナに肩車されたイカチューシャの姿。

 

早苗 (イカちゃんの生足に触れながら、イカちゃんの太ももに挟まれて、イカちゃんの体重を預けられて、つまりイカちゃんのすべてをゆだねられてるってこと!?)

早苗 「この、この、泥棒猫~!」

 

一方的な嫉妬に走った早苗からは、赤と黒の色が混じったどす黒い怒りのオーラがほとばしり始めた。

 

クラ 〈すごい殺気です。ここは私が!〉

早苗 「何よ、私とイカちゃんの間に立ち塞がるつもり!?そんなことくらいで私とイカちゃんの絆は断ち切れないのよ!」

イカチ「元から繋がってなんてないでゲソ!」

 

まさに一触即発、いまにも早苗とクラーラの戦いの火ぶたが切って落とされようとしたその時、

 

カチュ「待ったー!」

 

遠くからカチューシャの声が響き渡った。

 

イカチ「!?」

ノンナ〈まさか〉

クラ 〈この声は!〉

 

ノンナは危なくないようにイカチューシャをゆっくり肩から下ろし、そこから外へ駆けだした。

クラーラも早苗を放置し、ノンナ続く。

 

早苗 「ああ、よかった!イカちゃん、大丈夫だった~!?」

 

二人がいなくなったとたんイカチューシャに抱き着く早苗。

 

イカチ「ちょっ、離さなイカ!ノンナ、クラーラ!!どこ行くでゲソー!?」

二人 「カチューシャ!」

 

二人が救護所の外に出ると、そこにはBT-7に乗ったカチューシャがいた。

遅れて、栄子と千鶴が駆けつけた。

さらにその後ろからニーナとアリーナ。

 

カチュ「二人とも、待たせたわね」

ノンナ「カチューシャ!」

クラ 〈カチューシャ様!〉

カチュ「もう少しかかると思っていたのだけれど。急に話がすんなり通るようになって、プラウダ側の要望が全て許容されることになったわ。さらにお土産にBT-7までくれたのよ!」

千鶴 「どうやら間に合ったようね」

栄子 「姉貴、どこに電話してたんだ?」

千鶴 「大した用事じゃないわよ。戦車道連盟の知り合いの人に、カチューシャちゃんをできる限り早く帰らせてあげて、とお願いしただけよ」

栄子 (どういう頼み方したんだ・・・・)

 

あえて栄子は何も聞かないことにした。

そのまま、救護所で置いてきぼりにされて訳が分からない、といった感じのイカチューシャに近づいて行った。

 

栄子 「これで分かっただろ、イカ娘」

イカチ「え・・・・?」

栄子 「お前はあのカチューシャって子が帰ってくるまでの、代わりにされてたんだよ」

イカチ「そんな!」

 

否定しようと思ったが、外で二人がカチューシャに満面の笑顔を見せているところを目の当たりにして、全てを察し、がっくりと肩を落とす。

 

イカチ「ううう・・・・」

栄子 「人が理由やきっかけも無しに、突然慕ってきたり従ってくれる訳がないだろ。長い時間をかけて付き合いを重ねて、そうして人は繋がりができるんだよ」

イカ娘「人間とは、難しいものでゲソね・・・・」

栄子 「まあ、今回はお前も踊らされたってことだ。カンベンしてやるよ」

 

栄子はイカ娘の心中を察してか、頭を軽くはたくだけだった。

 

カチュ「イカチューシャ」

イカ娘「!」

 

カチューシャが戦車の上から声をかけた。

 

カチュ「話は二人に聞いたわ。私がいない間、迷惑をかけたようね」

イカ娘「あ、いや、それほどでも、ないでゲソ・・・・」

 

二人に代わりとして接せられていたことも少しながらショックだったが、そんな二人を利用して侵略の足掛かりにしようとしていたことにもイカ娘はカチューシャに引け目を感じていた。

 

カチュ「カチューシャと声がそっくりだけど、イカチューシャは随分控え目なのね」

イカ娘「そ、そんなことはないでゲソ!」

 

とっさに反論するイカ娘に、カチューシャはふっと笑みを浮かべる。

 

カチュ「さて、カチューシャは一度プラウダへ戻るわ。荷物を置いていかないといけないし」

ノンナ「ご一緒します」

クラ 〈私もお供します〉

 

ノンナとクラーラがBT-7に乗り込む。

そんな二人をイカ娘は寂しげに見ていたが、

 

ノンナ「イカチューシャ」

イカ娘「え?」

 

乗り込んだ戦車の上から、ノンナが手を差し出していた。

 

イカ娘「ノンナ・・・・?」

ノンナ「きっかけは確かに不純であったと、認めざるを得ません。ですが、貴女と一緒にいた少しの間で、私たちは貴女にも夢中になってしまったのです」

クラ 〈私もです。カチューシャ様にはカチューシャ様の素晴らしさが、イカチューシャにはイカチューシャの魅力があるのです〉

ノンナ「我々は、貴女との繋がりをこれで終わりにはしたくありません」

クラ 〈私も、貴女に肩車をしてさしあげたいです〉

カチュ「二人が私以外をこれほどまでに誉めているのは凄く珍しいの。それに私も貴方に凄く興味が沸いたわ。だからイカチューシャをプラウダへ招待しようと思うの」

イカ娘「私をでゲソ?」

カチュ「聞けば、イカチューシャも戦車道をやっているのでしょう?ノンナとクラーラが繋がりを認めて、同じく戦車道を志す。これはもう、同志としか言いようがないじゃない!」

イカ娘「!私が、同志でゲソ・・・・!?」

 

加えて、クラーラも手を伸ばす。

 

クラ 〈同志イカチューシャ〉

ノンナ「参りましょう、同志イカチューシャ!」

イカ娘「・・・・」

イカチ「うむ!」

 

イカチューシャはノンナとクラーラの手を取り、BT-7の上へひらりと飛び乗った。

 

カチュ「という訳よ!しばらくイカチューシャはプラウダが借りていくわ!」

栄子 「あー、しばらく適当に使い走りにでも使っていいから」

イカチ「私は雑用係じゃないでゲソ!私はプラウダの同志、イカチューシャでゲソ!」

栄子 (完璧に元に戻っちまった)

カチュ「さあ、行くわよ!同志イカチューシャを加えれば、我がプラウダはさらに盤石!アルタイのごとく険しく優美に輝く未来が待っているわ!」

三人 「ウラー!」

 

動き始めるBT-7.

それに乗ったイカチューシャを加えたプラウダ四人組は、『イカチューシャ』を歌い始めた。

 

※恒例のロシア民謡『カチューシャ』の歌の部分、『カチューシャ』を『イカチューシャ』に差し替えて脳内再生してください。

 

そしてBT-7は去っていった。

 

栄子 「いやー、まさかイカ娘を受け入れる人が現れるとはね」

早苗 「当り前じゃない。あんなに可愛い子、方っておく人なんている訳ないんだから!」

栄子 「それはお前の感覚だろ」

白椙 「・・・・」

栄子 「あっ、看護師さん」

千鶴 「すいません。イカ娘ちゃんがご迷惑をおかけしました」

白椙 「全くだ。今後仕事の支障になるような行為は控えてほしいものだな。私は人を救う仕事を専念したいのだから」

 

栄子たちは謝罪を入れてから去っていった。

 

白椙 (やれやれ・・・・。さて、ドラマの続きでも・・・・)

女  「あのー、すいませーん」

白椙 「ん?どうした、ケガか?」

女  「いえ、私ではなく、あの人が」

 

目線を向けた先では、磯崎がぐったりした様子で男に肩を貸してもらいながら救護所へ運ばれてくる所だった。

 

白椙 「その辺に放り投げておけ!」




イカ娘とガルパン、この二つをつなげる最大の要素の一つがカチューシャだと思います。
もう一つはもちろん水島監督です。

今回はとことんイカ娘よりの話にしてみましたが、ノンナたちは意外とすんなりあちら側に溶け込めていたような気がします。
やはり中の人ネタは偉大ですね。

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