侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


アンチョビ→チョビ
ペパロニ→ペパ
カルパッチョ→カル


第3話・上書きしなイカ?

相沢家・朝。

 

チョビ「おーい、朝だぞー」

栄子 「ふあーあ、朝か・・・・。おーい、起きろイカ娘」

イカ娘「んー・・・・」

 

いつものように栄子たちを部屋に呼びに来るアンチョビ。

眠い目をこすりながら階段を降りる栄子とイカ娘。

そのまま目が開いてるか開いてないかというままリビングの席につく。

 

千鶴 「おはよう。栄子ちゃん、イカ娘ちゃん」

 

千鶴はテーブル席についている。

 

イカ娘「ふむ、今日はペパロニの日でゲソか」

ペパ 「おう!もうできるからちょっとだけ待っててな~」

 

そして言葉通り料理が完成し、皿に盛られ各自に料理が配られる。

 

イカ娘「いただきまーす!」

 

待ってましたと料理に飛びつくイカ娘たち。

 

栄子 「うーん、今日もサイコーだな、ペパロニ!」

ペパ 「おうよ!何てったってアンツィオの屋台で毎日稼いでたからな!」

イカ娘「そんなペパロニの料理が今はいつでもうちで食べられるなんて、至れり尽くせりでゲソー」

早苗 「ほんとよね~♪うん、おいしい!」

栄子 「・・・・」

イカ娘「・・・・」

 

突然の声の主の方を向き、固まる栄子とイカ娘。

 

栄子 「おい」

早苗 「え?どうしたの栄子?」

栄子 「なんで朝っぱらからうちで朝飯食ってるんだよ」

早苗 「えー、だって同じチームの一員だもの。一緒に食事くらいするでしょ?」

栄子 「いや、だからって堂々としすぎてるだろ」

チョビ「ああすまない、私が呼んだんだ」

イカ娘「アンチョビが呼んだのでゲソか!?」

チョビ「ん?ああ。これからチームメイトになるんだ。こうやって同じテーブルを囲み、同じメニューを食べて親睦を深めていくんだ。ああ、もちろん千鶴さんには許可はもらっている」

早苗 「そうそう♪ほら、私チームに加わったばかりじゃない?だからこうやって、積極的に親睦を深めていくのが大事だと思って~♪」

 

そう言いながら早苗はイスをじりじりと動かしイカ娘ににじり寄る。

近寄らせまいと同じくイスを動かし早苗から逃れるイカ娘。

 

栄子 「しかし、早苗がアンチョビさんのチームに入るとはね」

イカ娘「チャーチルに乗るのを禁止したのに、まさかこういう形になるとは予想できなかったでゲソ」

カル 「でも、早苗さんの戦車道の腕前は確かなものですよ?」

栄子 「そうなのか?」

カル 「はい。先日、チーム加入のテストの意味合いも兼ねて、ドゥーチェたちと同乗して動かしてみたのですが__」

ペパ 「いやー凄かったっすよ?私もサハリアノのコントロールはバッチリとは言えないのに、あの動きの中で十発中九発は的に当てちゃうんですから!」

チョビ「あの速度、あの動きの中であれほどの命中率を誇れるものは、大洗や黒森峰にもそうはいないだろう。まさに超高校生級と言っても過言じゃない。もし大会に出てたなら、戦車道の歴史を塗り替えてたかもしれん」

栄子 「マジか」

チョビ「それにしても不思議でたまらない。何故、ここまで優れた能力を持ってる早苗が、イカ娘たちのチームに加われなかったんだ?」

イカ娘「それは!一緒に乗ると!こうなるから!でゲソ!」

早苗 「あは~ん!イカちゃ~ん!」

 

もはやにじり寄ることすらやめ、体ごと抱き着こうとする早苗を両手と触手総出で食い止めるイカ娘。

 

カル 「確かに、この調子じゃ戦車道どころじゃなさそうですものね」

チョビ「うちのチームに入ってもらって正解だったな」

 

そして食事も終わり。

 

チョビ「じゃあ、準備が終わったら各自演習場に集まってくれ。いよいよ今日からは戦車二両による訓練が始まるぞー」

栄子 「ついに本格的な訓練になるわけだな」

イカ娘「やってやるでゲソ!」

早苗 「あ、そうだ!」

 

何かを思い出したように席を外す早苗。

間もなく、紙袋を持って戻って来た。

 

イカ娘「む?早苗、それは何でゲソ?」

早苗 「うふふ、とってもいいものよ?」

 

そう言って早苗は袋の中にいるある物をみんなに配り始めた。

 

イカ娘「これは__」

 

 

その後。

演習場にて、いよいよイカ娘たちのチャーチルチームとアンチョビたちのサハリアノチームによる訓練が行われることになった。

お互いの戦車の前にスタンバイしている各チームメンバーはお揃いのユニフォームを身に付けている。

海の家れもんの特徴を良くとらえた、黄色ベースのパンツァージャケット。

 

栄子 「まさか、早苗がこんなもの用意していたとはね」

早苗 「その時がいつ来てもいいように、あらかじめ用意していたの」

栄子 「こういう準備の良さはホントに感心するよ」

イカ娘「いよいよ本格的になって来たでゲソね」

チョビ「戦車も二両になって、いよいよ実践的な訓練を始められる。まずは軽く自由に動いてみろ。無線は常にONにしておくんだぞー」

イカ娘「了解でゲソ!」

 

お互い自分の戦車に乗り込み、エンジンが入る。

 

イカ娘「発進でゲソ!」

チョビ「アヴァンティ!」

 

チャーチルはゆっくり進む中、サハリアノは最初から全速力で走り回る。

 

栄子 「うわっ、はっや!」

 

目の前を走り抜けるサハリアノは、すぐ栄子の視界から姿を消す。

 

栄子 「あれに追いつくのはどだい不可能だろ」

イカ娘「あっちのほうがよかったでゲソねー」

栄子 「無理だって。あんなスピード、制御できるかっての。ペパロニの運転技術が凄いんだよ」

 

チャーチルの周りを走り回るサハリアノは、あっという間に周囲を十周ほどしてしまった。

 

渚  「対戦相手としては強敵ですけど、味方になればあれほど心強いものは無いですね」

栄子 「しかも登場してるのはアンチョビさんたちと早苗。トンデモチームの誕生だな」

 

しばらくして、アンチョビから無線が入る。

 

チョビ『慣らしはこれくらいでいいだろう。次は乱取りと行こう』

イカ娘「乱取りでゲソ?」

チョビ『あらかじめ用意しておいた演習用の特別弾がある。それを使ってくれ』

渚  「これですね」

 

言われた特別弾を装填する。

サハリアノが動きを止める。

 

チョビ『一発、こっちに撃ち込んでみてくれ』

イカ娘「了解でゲソ。__撃つでゲソ!」

 

ドオン!

 

チャーチルから砲弾が発射され__

 

ポシュッ

 

着弾した砲弾はそのまま白い煙になって掻き消えた。

サハリアノにはダメージが残っていない。

 

チョビ『この弾は車体にダメージの通らない特別仕様だ。これなら何発撃っても訓練を続けられる』

イカ娘「これはいいでゲソ!どんどん行くでゲソよ!」

チョビ『ここからは私たちも動いて狙っていく。動きをよく見て、回避と砲撃の経験を積んでくれ』

イカ娘「了解でゲソ!」

 

それからしばらく、チャーチルは走り回るサハリアノに翻弄されながら、時間が経つにつれ動きを合わせて当てられるようになってきていた。

__しかし、

 

栄子 「変だな・・・・。さっきからサハリアノから砲撃が無いぞ?」

イカ娘「さっきというか、始まってから一発も飛んできてないでゲソ」

栄子 「どうしたんだ?てっきり早苗がバンバン撃ってくると思ったんだが」

 

それから三十分、サハリアノ側からは一切砲撃が飛んでこなかった。

そして戦車から降りてくる一同。

 

イカ娘「どうしたのでゲソ、全然撃ってなかったじゃなイカ」

チョビ「あー・・・・こちらとしては応戦したい気持ちで一杯だったんだが・・・・砲撃主がな?」

イカ娘「え?」

早苗 「できない・・・・!」

栄子 「早苗、どうしたんだ?」

早苗 「イカちゃんを撃つなんて、私にはできない!」

栄子 「おいい!?」

チョビ「ずっとこんな調子でな。さんざん説得したんだが、どうにもその気になってくれなかった」

イカ娘「撃ちたがらない砲撃主って、どういう冗談なのでゲソ」

早苗 「キューポラからひょこっと姿を見せるイカちゃん・・・・!こっちを見ようと懸命に体を回るイカちゃん・・・・!砲撃指示を出す凛々しいイカちゃん・・・・!あんなに素晴らしいものを撃とうだなんて、どうかしてるわ!」

イカ娘「早苗の考えの方がどうかしてるでゲソ!」

カル 「大好きな人を撃ちたくないという気持ちは、全くわからないわけではありません。でも、これは戦車道なんですし・・・・」

チョビ「手心を加えて勝負を投げるのは、相手にも無礼に当たってしまう」

早苗 「頭では分かってる!分かってるんだけど・・・・心が!イカちゃんを想う私の心が引き金を押さえつけちゃうの!」

 

呆れかえった表情の栄子とイカ娘。

 

イカ娘「マトモにできないのなら、早苗には用は無いでゲソ。他の人を探すでゲソ」

早苗 「そんな・・・・イカちゃぁぁぁん・・・・!」

 

イカ娘に用無し宣言され、その場に泣き崩れる早苗。

 

栄子 「酷な言い方だが・・・・でもどうしたって早苗の本質は変えられないだろうしな」

早苗 「そんな、栄子まで!」

栄子 「だって無理だろう。頑張ればイカ娘を撃てるようになれるのか?」

早苗 「それは・・・・ううぅぅぅう・・・・」

 

言葉を詰まらせる早苗。

 

栄子 「・・・・ふう。という訳だ。せっかく見つけてくれたのに、ゴメンなアンチョビさん」

チョビ「・・・・いや」

栄子 「え?」

カル 「ドゥーチェ?」

 

それまでずっと腕組みをしながら話を聞いていたアンチョビが口を開く。

 

チョビ「砲撃主は早苗のままでいく。早苗を加えて初めてこそのサハリアノチームだ」

栄子 「いやいや、早苗に気を使ってくれるのはありがたいけど、このまま続けても・・・・」

チョビ「早苗をチームに迎えるのを決めたのは私だ。ならば私には早苗がチームの一員として立派にこなせるようになるまで導く義務がある」

カル 「ドゥーチェ・・・・!」

チョビ「私たちはチームだ。チームの問題はチームで解決する。一人が上手くいかなかったからって、それでお役御免と言うのは私の主義に反する。みんなで戦えるようになることこそが本当の訓練じゃないか?」

ペパ 「流石ドゥーチェ!いいこと言うっす!」

 

アンチョビはへたり込んでいる早苗に手を指し述べる。

 

チョビ「道は必ずある。私たちと一緒に、解決法を探していこう」

早苗 「アンチョビさん・・・・!」

 

早苗は涙ぐんだ手でアンチョビの手を握る。

 

チョビ「違うぞ早苗?」

早苗 「え?」

 

アンチョビは早苗を立たせ、凛と言い放った。

 

チョビ「私はアンチョビ!アンツィオとお前たちのドゥーチェだ!」

 

その後。

サハリアノチームは解決策を話し合うため、早苗の部屋に集まった。

いまさら隠すこともない、と早苗はイカ娘グッズを部屋一面に飾ったままアンチョビたちを迎え入れた。

 

ペパ 「すごい部屋っすねー」

カル 「本当、どこを見てもイカ娘さんばかり」

チョビ「確かに、ここまで夢中なら撃ち辛い気持ちも分からないことはないな」

早苗 「うふふ」

 

かくして、本題に入る。

 

チョビ「さて。今回の会議のテーマは・・・・言うまでもないが、ごく一部のために言っておこう」

ペパ 「ん?ごく一部って誰っすか?」

チョビ「議題は、『早苗がイカ娘を狙えない癖をどうするか』だ」

ペパ 「なるほど、今回はそういうテーマなんすね!」

チョビ「・・・・。さて、何か意見は無いか?」

カル 「はい」

チョビ「よし、カルパッチョ」

カル 「早苗さんはイカ娘さんが大好きで、それでイカ娘さんを撃てないんですよね?」

早苗 「うん」

カル 「それは、撃ったらイカ娘さんに嫌われちゃうかもしれない、だからですか?当たったら痛い思いをさせちゃうかもしれない、それが原因で嫌われてしまうかもしれない・・・・とか」

早苗 「うーん・・・・」

 

カルパッチョの的を得てるような質問に、早苗が首をかしげる。

 

ペパ 「違うんすか?」

早苗 「イカちゃんがどうとかじゃなくて、『イカちゃんだから』撃てないの」

ペパ 「・・・・どう違うんすかね?」

早苗 「いい?イカちゃんは可愛いの。あんなに可愛くて、可愛らしくて、可愛らしさだけでできているくらい可愛い存在なの。そんなイカちゃんに、砲弾を当てようとすること自体が間違いなの!」

カル 「・・・・はい?」

早苗 「カルパッチョさん知ってる?イカちゃんのほっぺってすごく柔らかくてすべすべしてるのよ?触手もぷにぷにしててなのにとてもつやつやしてて、肌触りもすごくいいの!何よりイカちゃんのあのサイズ!あの抱き心地の良さを知ってしまったらもうぬいぐるみやクッションくらいじゃ絶対に満足できないのそれにイカちゃんって凄い自信家で失敗を恐れないんだけどいつも失敗しちゃってでも絶対にめげなくてそんな頑張る様子も可愛くて応援したくなって言うかいつ見ても飽きないし時々思いもつかなかった大胆なことをするせいで目が離せないしていうか離したくないしできるならいつでも一緒にいたいしていうかアンチョビさんたちって今イカちゃんとひとつ屋根の下で生活してるんでしょう羨ましい私が一緒にいられたらどんなにいいかそうしたら毎日イカちゃんを愛でてあげられるのにああイカちゃんイカちゃんイカちゃ~」

チョビ「分かった分かった!分かったからもう勘弁してくれ!」

カル 「つまり、早苗さんにとってイカ娘さんはそれほどまでに特別な存在なんですね」

早苗 「特別なんてものじゃないわ!イカちゃんは私の人生そのものなんだから!」

ペパ 「私らにとってのドゥーチェみたいなもんかな?」

カル 「うーん、多分それ以上じゃないかしら」

ペパ 「それ以上!そりゃ相当だわ」

チョビ「しかしこのままではイカ娘と一緒に戦車道は出来ない。それは早苗の望むところじゃないだろう」

早苗 「うん・・・・」

カル 「そんなに大切に思っているイカ娘さんが、戦車道の相手をしてほしがっているんです。それなら、早苗さんが出来ることはもう分かってるんじゃありませんか?」

チョビ「イカ娘が大切なら、イカ娘の望みを叶えてやってくれ。早苗ならきっとできる」

早苗 「イカちゃんの、望み・・・・」

チョビ「明日、またイカ娘たちと訓練がある。その時に、お前の決意を見せてやってくれ。もちろん私たちも全力で支えるからな!」

ペパ 「任せるっす!」

早苗 「みんな・・・・ありがとう!私、イカちゃんの期待に応えてみせるね!」

カル 「イカ娘さん自体は、もう早苗さんに期待はしていないみたいですけれどね」

チョビ「シーッ」

 

そして次の日。

イカ娘たちは再び演習場に集合した。

 

イカ娘「早苗はもう大丈夫なのでゲソ?」

チョビ「ああ。昨日しっかり言葉を交わして、決意もしっかり聞き届けた。早苗はもう大丈夫だ。なっ!」

早苗 「ええ!今日こそイカちゃんが満足できる訓練にしてみせるから!」

イカ娘「期待してるでゲソよ」

 

そして訓練が始まった。

先日と同じようにサハリアノがチャーチルを軌道で翻弄し、あっさり背後を取る。

 

チョビ「いい動きだペパロニ!今だ早苗!撃てーっ!」

早苗 「了解!」

 

早苗は照準器を覗き、チャーチルに照準を合わせる。

キューポラからイカ娘が見えるが、逸らしたい気持ちを押さえつけ、完璧にチャーチルへ狙いを定める。

そして引き金に指をかけ__

 

早苗 「撃ちへぶっ!」

 

変な声を発した。

 

ペパ 「へぶ?」

チョビ「へぶ?」

カル 「へぶ?」

 

変な声がした方向を三人が見ると__

早苗の左拳が早苗の左頬にめり込んでいた。

一瞬何が起きてるのか理解できず固まるアンチョビ。

 

チョビ「ちょ・・・・早苗!?何やってるんだ!?」

 

自身のパンチによりその場に倒れ込む早苗を、アンチョビが抱き上げる。

 

チョビ「どうした!何があった!大丈夫か!?」

早苗 「__せない・・・・」

チョビ「?何が言いたい、早苗!もっとはっきり言うんだ!」

早苗 「許さない・・・・」

チョビ「え?」

早苗 「イカちゃんを撃つだなんて、イカちゃんと私が許しても私が許さない!」

 

アンチョビたちは絶句してしまった。

 

早苗 「ううう・・・・ごめんなさい・・・・」

 

その後、早苗は海の家れもんのテーブルに突っ伏しながら、アンチョビたちに泣いて謝罪した。

 

チョビ「まあ・・・・あそこまで我を通せるのは、逆に大したもんだ。結果はともかく」

カル 「イカ娘さん、完璧に怒ってしまいましたね」

ペパ 「でもホントどうしましょ?絶対に大丈夫って確信が無い限り、もう相手しないでゲソー!って言われちゃいましたよ?」

早苗 「やっぱり、私が抜けて・・・・」

チョビ「それは絶対にしないといっただろう。これはチームの問題だ。仲間のピンチは絶対に見過ごさない。どんな敵が現れようとも、みんなで協力して、みんなで乗り越えて、最後はみんなで笑う。それがアンツィオ魂だ!」

早苗 「アンチョビさん・・・・」

ペパ 「でも今回の敵はめっちゃ手ごわいっすよ?」

カル 「何せ、早苗さん自身ですからね・・・・」

チョビ「うーん、何かいい方法は無いものか・・・・?」

 

四人でうなりながら考えていると・・・・

 

ペパ 「あっ!」

 

ペパロニが突然大声を上げた。

 

チョビ「うわっ、びっくりした!いきなり大声を上げるな!」

ペパ 「すんません姐さん!でも、いい案思いついたんすよ!」

チョビ「いい案?どんな案だ?」

ペパ 「こないだ栄子に借りたマンガ雑誌に、面白い話が乗ってたんすよ!私それ見て笑い転げちゃって!」

チョビ「・・・・それ、今話すことか?」

ペパ 「いえいえ、その話の内容ですよ!えーっと、なんとかって主人公が凄い苦手なものがあって、それを催眠術で苦手じゃなくしちゃおうっていう話だったんすよ!」

チョビ「催眠術?」

ペパ 「はい!それで、催眠術で苦手なものを好きになって、それにベッタリしているときに催眠が解けちゃって大騒ぎするところなんて大爆笑でしたよ!」

カル 「要約すると、催眠術で早苗さんの癖を消すことは出来ないか、ということ?」

ペパ 「そう!私が言いたかったことはそれ!」

チョビ「言い方が回りくどい!・・・・それに、催眠術で苦手を克服とか、フィクションにもほどがあるだろう」

千鶴 「あら、そうでもないわよ?」

 

突如千鶴が話に割って入る。

 

チョビ「千鶴さん!」

千鶴 「催眠療法っていって、海外ではトラウマや依存症の改善に大きく効果が出ているらしいわよ」

カル 「そうなんですね」

チョビ「そんな効果が出てるものだったのか・・・・」

千鶴 「でもそれは自身を変えることにつながるから、安易に使うことはお勧めできないわ」

カル 「そうでしょうね・・・・。好きも嫌いも、変わってしまったら今までの自分ではなくなってしまいますものね」

チョビ「そうだな。それは非常手段ということにして、別の手を・・・・」

早苗 「それでお願いします!」

チョビ「おいい!?」

 

かくして。

早苗は強すぎるイカ娘への執着心を上書きするため、催眠療法を受ける決意をした。

一同がれもんに集い、周囲を囲む。

 

栄子 「おい本気か早苗!イカ娘への執着をなくしたらお前に何が残るんだ!」

早苗 「もう後がないのよ!これ以上もたもたしてたら、本当にイカちゃんに嫌われちゃう!」

渚  「でも、イカの人への想いを書き換えてしまったら、早苗さんは早苗さんでなくなってしまうかもしれませんよ?」

早苗 「どのみちこのままの私でもイカちゃんに嫌われちゃうのなら、こんな私は消して嫌われなくなる方が億倍いいに決まってるわ!それがイカちゃんのためになるのなら、私は喜んでやるわ!」

栄子 「早苗、そこまでして・・・・」

 

千鶴が紐のついた五円玉を取り出す。

 

千鶴 「私も聞きかじった程度だから、あまり効果が無かったらごめんなさいね」

早苗 「お願いします!」

栄子 「しかし、姉貴が催眠術を扱えたとはね」

千鶴 「知り合いの子に、催眠術を研究している子がいるの。その子に教えてもらったのよ」

イカ娘「ほんと多芸でゲソね」

千鶴 「イカちゃんへの興味が全くなくならない程度に、程よく抑えるようにしてみるわ。それじゃあ早苗ちゃん、この五円玉を見て」

 

千鶴のぶら下げた五円玉を見つめる早苗。

 

千鶴 「あなたはイカ娘ちゃんに過剰な執着を見せなくなり、戦車道においてもきちんと狙い、砲撃を放てるようになります。・・・・いち、に、さん!」

 

千鶴がパチン、と指を鳴らすと、早苗ははっとしたように体ごと跳ねた。

 

チョビ「・・・・どうだ?」

カル 「見た感じ、大きな変化は見えませんね」

 

早苗がイカ娘の方を見る。

ギョッとして身構えるイカ娘だったが、早苗はそれ以上何もしない。

 

栄子 「早苗。どんな感じだ?」

早苗 「・・・・うん、イカちゃんを好きな気持ちは変わらないけど、かけられる前ほど抑えきれない衝動を感じないわ」

チョビ「上手い塩梅に執着心を抑えられた・・・・のか?」

イカ娘「信用ならないでゲソ。早苗は前もそうやって油断させて、抱き着いてきたことがあったでゲソ!」

栄子 「なら試してみるか。ほれ」

 

栄子がイカ娘の背中をトンっと押し、勢い余ったイカ娘が早苗に向かって倒れこむ。

 

イカ娘「うわあああああ!」

 

ふわっ

 

そんなチャンスにイカ娘に抱き着くこともなく、早苗は優しくイカ娘を両手で支える。

 

早苗 「大丈夫、イカちゃん?」

イカ娘「あ、ありがとう、でゲソ・・・・?」

栄子 「おお!」

ペパ 「上手く抑えられてるっす!」

チョビ「これは・・・・成功だ!凄いぞ!」

カル 「戦車の方も試してみましょう!」

 

そしてすぐ、戦車に乗って成果を確かめる。

 

チョビ「今だ!早苗、撃て!」

早苗 「はいっ!」

 

ドオン!

バフン!

 

アンチョビの指示通り、早苗の放った砲弾はイカ娘の乗ったチャーチルに見事命中する。

 

チョビ「撃てた、当たったぞ早苗!やったじゃないか!」

カル 「これで戦車道の訓練を続けられますね!」

ペパ 「万事解決っす!」

 

戦車から降り、笑顔の一同。

 

栄子 「いやー、催眠療法って凄いんだな。こうも劇的に効果が出るなんて」

イカ娘「とっととやっておけばよかったでゲソ。何はともあれ、これで平穏な日々が訪れるのでゲソね!」

 

などと口々に感想を述べている。

 

千鶴 「催眠は比較的軽い部類に入るから、強い刺激や体験で元に戻ることもあるらしいわ」

栄子 「そうなのか?まあ、解けない方が平和かも知れないけどな」

チョビ「早苗、気分はどうだ?大丈夫か?気持ち悪くなったりしないか?」

早苗 「アンチョビさん・・・・?」

 

早苗の心情を気遣って声をかけるアンチョビ。

しかし、アンチョビを見る早苗の様子がおかしい。

 

チョビ「・・・・?どうした、大丈夫か、早苗?」

早苗 「アンチョビさん、アンチョビさん、アン・・・・、__チェ」

チョビ「ん?何だって?」

 

何かつぶやいた早苗にアンチョビが距離を詰めると・・・・

 

早苗 「ドゥーチェーーーーッ♪」

チョビ「うわっ!?」

 

突然早苗が飛びかかってきた。

 

早苗 「ドゥーチェ♪ドゥーチェ♪ドゥーチェ♪ドゥーチェ~ッ♪」

 

早苗はアンチョビに抱き着いたまま、自分の頬をアンチョビの頬に擦り付けている。

その様子は、まるでイカ娘に抱き着く姿そのままだった。

 

栄子 「早苗!?」

イカ娘「一体どうしたのでゲソ!?」

渚  「まるで、イカの人に対するみたいになってます」

千鶴 「これは、まさか・・・・」

栄子 「姉貴、どうなってるんだ!?」

千鶴 「これは__『代償行動』だわ」

栄子 「代償行動?」

千鶴 「今までイカ娘ちゃんに注がれていた早苗ちゃんの膨大な感情が行き場を失い、その向ける先をアンチョビちゃんに差し替えてしまったのよ」

栄子 「何だって!?」

千鶴 「催眠によって抑制したとはいえ、本質は変わらないわ。早苗ちゃんが何かに大きな愛を注ぐ習性があるのなら、対象がイカ娘ちゃんでなくなっただけでまた誰かに向かう可能性があったのね」

ペパ 「その相手がどうしてドゥーチェになるんすか?」

カル 「・・・・なんとなく、分かる気がします」

ペパ 「カルパッチョ?」

カル 「ドゥーチェはこれまで、早苗さんがイカ娘さんを狙えないことを、チームから外す理由にしようとしませんでした。むしろ、それをどうにかできないかととても奔走していましたし」

ペパ 「そっすね。ドゥーチェはすごい頑張ってたっす。そして、失敗しても絶対に見捨てなかったっす」

カル 「その積み重ねで、きっと早苗さんの心に、ドゥーチェへの信愛が沸いていたんだと思います。そのドゥーチェへの気持ちは、きっとイカ娘さんへの気持ちの次に強くなっていたんです」

栄子 「だから、イカ娘への執着が無くなった矢先、その気持ちがアンチョビさんに向いたのか・・・・」

イカ娘「のんきに話してる場合じゃないでゲソ!早苗、離れなイカ!アンチョビが嫌がってるでゲソ!」

チョビ「あー、いやいや、別に私は嫌がってないぞ?」

イカ娘「え?」

 

早苗にほっぺすりすりされながら、くすぐったそうにしながらもアンチョビは笑顔で答える。

 

チョビ「これくらいアンツィオじゃ当たり前の信愛表現だしな。チームの子たちにもよくされてた」

ペパ 「そういや私もよくしてたっすね」

カル 「私も・・・・」

チョビ「それに、ここまで想ってもらえるなんて、ドゥーチェ冥利に尽きるじゃないか。むしろ嬉しいくらいだ」

早苗 「ドゥーチェ~♪」

チョビ「はっはっは、落ち着け落ち着け。私は逃げないから」

 

早苗に密着されながら和やかに受けこたえるアンチョビ。

 

栄子 「あの状態の早苗を受け入れるとか、なんちゅう包容力」

ペパ 「それがドゥーチェの凄いトコロっすからね!」

カル 「ええ」

 

それからというもの。

 

早苗 「ドウーチェーーーーッ!」

チョビ「おおっと!」

 

ダキツキッ

 

全速力で飛び込んでくる早苗を受け止めるアンチョビ。

 

チョビ「今だ!撃てっ!」

早苗 「はい!」

 

ドオン!

ボヒュンッ!

 

イカ娘「うわっ!またくらったでゲソ!」

栄子 「向こうのチーム強すぎだろ!」

 

サハリアノチームの一員として、凄腕の砲撃主として活躍する早苗。

 

早苗 「ドゥーチェ!写真撮らせてください!」

チョビ「またかー?一枚だけだぞー?今忙しいんだからな」

早苗 「はーい!」

 

早苗の写真撮影に嫌がるそぶりを見せず応じるアンチョビ。

 

早苗 「ドゥーチェ!一緒にお風呂入りましょ♪」

チョビ「そうだな、今日はみんなでパルマエ(銭湯)に行くとしよう!」

ペパ 「ひゃっほーう!」

 

風呂の誘いも拒まず、みんなで仲良く入浴へ向かうサハリアノチーム。

その様子はまるで家族のようで、崩れることのない絆のようにも見えた。

が__数日後。

 

栄子 「早苗、お前・・・・何があった」

 

早苗を見た栄子は絶句した。

早苗はペパロニとカルパッチョに支えられて、やっと立っていると言える状態にあった。

早苗の頬はこけ、目は焦点がうつろで、髪もボサボサでツヤを失っていた。

どう見ても具合が悪そうだった。

 

イカ娘「一体何があったのでゲソ・・・・」

早苗 「えー・・・・?何もないわよイカちゃん、毎日充実して楽しいから・・・・」

栄子 「とてもそうは見えねえよ!アンチョビさん、どういうことだよ!」

 

あまりの早苗の急なやつれ具合にアンチョビに詰問する栄子。

 

ペパ 「ドゥーチェは何もしてないっすよ!むしろ私たちはすごくうまく行ってたっす!」

カル 「ええ。一緒に戦車に乗ったり、お料理を作ったり、遊びにも出かけたり・・・・やましいことは一切していません」

 

それは栄子も見ていた。

アンチョビは代償行動とはいえ、イカ娘の時と同じくらいのテンションで慕ってくる早苗に真っ向から向き合っていた。

だからこそ今の早苗の具合に説明がつかなかったのだ。

 

チョビ「実のところ・・・・心当たりはある。解決策も、すでに見つけてある」

イカ娘「本当でゲソか?!」

栄子 「それで、どうすりゃいいんだ!」

チョビ「だがそれは・・・・今までのみんなの協力を無下にしてしまうものなんだ。結果を考えると・・・・私一人の判断では下せない」

イカ娘「何を言ってるのでゲソ!早苗がこんななのに、対処しなくていいわけが無いでゲソ!早く治すでゲソ!」

チョビ「・・・・分かった。じゃあイカ娘、そこへ立ってくれるか」

 

イカ娘は指示された通りに立つ。

そしてその真正面に、アンチョビに支えられた早苗が立つ。

アンチョビが早苗の背中に手を回す。

 

チョビ「・・・・早苗。お前の心が戻ったとしても、私たちはチームだ。それは絶対に、変わらないからな」

早苗 「ドゥー、チェ・・・・?一体、なに__」

 

トン

 

早苗が言い終わる前に、アンチョビは軽く早苗の背中を押した。

 

早苗 「あっ__」

 

ふらっと、早苗が前に倒れかける。

 

イカ娘「!」

 

反射的にイカ娘が早苗を抱きかかえた。

 

イカ娘「早苗、大丈夫でゲソか!・・・・早苗?」

 

変化はすぐに現れた。

早苗の体から少量の湯気が立ち始めたかと思うと、まず最初に早苗の目に生気が灯る。

次に髪が柔らかくツヤを取り戻し、そして顔の肉付きが元通りになった。

__そして。

 

早苗 「イカちゃあああああああああああああああああああああああああああああん!」

イカ娘「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

悪寒を感じ逃げようとするイカ娘より一瞬早く、元通りになった早苗がガッチリとイカ娘を抱きしめた。

 

早苗 「ああ~っ、久しぶりのイカちゃんの体温、イカちゃんのほっぺ、イカちゃんのにおい~♪」

イカ娘「離すでゲソ!離すでゲソーーーッ!」

 

もがくイカ娘、離そうとしない早苗。

すっかり元通りになっている。

 

栄子 「一体、どういうことだ?」

チョビ「千鶴さんが言ってただろ。『催眠をかけても、本質は変わらない』って」

栄子 「まさか」

チョビ「そう。いうなれば、早苗は、『イカ娘成分が不足していて』やつれてたんだ」

栄子 「まさか__と言いたいところだが、それで納得できちまうのが恐ろしい」

 

未だにイカ娘に抱きついて離れない早苗。

頭のピコピコ攻撃を食らってもなお離れようとしない。

 

栄子 「しっかし、これでふりだしに戻っちゃったわけか」

チョビ「そうなるな」

千鶴 「あら、果たしてそうかしら?」

チョビ「千鶴さん」

千鶴 「うふふ」

 

それから。

訓練に行く時も。

 

チョビ「おーい、これから訓練始めるぞー。準備しておけー」

早苗 「はーい、ドゥーチェ(・・・・・)♪」

 

戦車道の時も。

 

チョビ「よし、撃て!」

早苗 「そこ!」

 

ボフン!

 

イカ娘「うわっ!また当てられたでゲソ!」

チョビ「よし、よくやったぞ!」

ペパ 「さすがっす!」

カル 「早苗さんがいれば、怖いものなしですね!」

早苗 「うふふ、まかせといて♪」

 

早苗は、アンチョビたちに笑顔で応えていた。




かくして、サハリアノチームが名実ともに完成いたしました。

アンチョビのドゥーチェたるゆえんは、カリスマだけでなく所々に見える母性に近いものから来るのではないか、などと思えたりする私です。

かくしてれもんには二両の戦車チームが所属することになりましたが、もちろんただ戦車道の練習をして遊ぶだけではありません。
今後の展開にご期待ください。

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