アンチョビ→チョビ
ペパロニ→ペパ
カルパッチョ→カル
レオポンチーム→レオ
ナカジマ→ナカ
チョビ「ほら、起きた起きた!もう朝だぞー!」
朝の相沢家。
栄子とイカ娘の部屋に、アンチョビが二人を起こしに来る。
栄子 「んあー・・・・」
イカ娘「もう朝でゲソ・・・・?」
朝からテンションの高いアンチョビに叩き起こされ、眠気まなこの二人は布団の上で丸まる。
チョビ「今日の当番はペパロニだからな。早く起きてこないと冷めちゃうぞー?」
栄子 「何だって!?」
イカ娘「急ぐでゲソ!」
アンチョビの言葉に二人が跳ね起きる。
チョビ「ちゃんと顔を洗ってから来るんだぞー?」
二人が目を覚ましたのを確認し、アンチョビは一階へ降りる。
カル 「ドゥーチェ、栄子さんたちはどうでしたか?」
リビングではカルパッチョが食器やグラスを並べ、キッチンではペパロニがフライパンで炒め物をしている。
チョビ「ああ、今日の当番はペパロニだと言ったら跳ね起きたよ。すぐ降りてくるんじゃないか?」
千鶴 「みんな、おはよう」
カル 「あっ、千鶴さん。おはようございます」
チョビ「おはようございます!」
ペパ 「千鶴姐さん、おはよーっす!」
千鶴もいいタイミングでリビングへやって来る。
千鶴 「いい匂い。今日はペパロニちゃんの担当よね」
ペパ 「うぃっす!もう出来上がるっすよ!」
千鶴 「あら、美味しそう。この香りは・・・・ワインビネガーかしら」
ペパ 「さっすが千鶴姐さん!これをちょっと垂らすのがポイントっすよ!」
料理という最大の共通点を持つ千鶴とペパロニが会話に花を咲かせる。
たける「ふあ・・・・、おはよう・・・・」
千鶴 「あら。おはよう、たける」
まだ少し眠そうなたけるがリビングへ入ってくる。
チョビ「おはようたける。すぐ食べられるから、座って待っててくれ」
たける「はーい」
たけるは素直に席に着く。
間を置かず、着替えと洗顔を終えた栄子とイカ娘もリビングにやって来た。
栄子 「おはよー」
イカ娘「おはようでゲソー」
カル 「はい、おはようございます」
ペパ 「おはよっす!」
たける「栄子姉ちゃん、イカ姉ちゃんも、おはよう」
イカ娘「うむ!」
栄子 「おう」
そして二人が席に着くと同時に、パペロニがフライパンのまま料理を運んできた。
ペパ 「ほい完成!ズッキーニのアンツィオ炒めっす!」
イカ娘「おおー!」
フライパンから直接出来立ての料理が各自の皿に盛り分けられる。
高火力で一気に火を通した野菜に、隠し味のワインビネガーの香りが食欲をそそる。
一同 「いっただきまーす!」
そして、
一同 「ごちそうさまー!」
イカ娘「はー、おいしかったでゲソー」
栄子 「朝からこんなもん食えるなんて、ウチくらいじゃないか?」
千鶴 「ごちそうさま。今日も美味しかったわ」
ペパ 「へへっ、千鶴姐さんにそう言ってもらえると自信がつくっす!」
千鶴 「これは私もうかうかしていられないわね。今晩は腕によりをかけるわね」
たける「わーい!」
チョビ「イカ娘、今日の練習は浜辺でやるぞ。準備しておくんだぞー」
イカ娘「わかったでゲソ!」
片付けが終わり、イカ娘たちは相沢家に停めてあるチャーチルに乗り込んだ。
栄子 「いやー、それにしてもアンチョビさんが戦車道の指導役を買って出てくれるとはね」
イカ娘「それほどまでに私たちに素質がある、ということでゲソね」
栄子 (逆に指導役を買って出たくなるくらい見てられない腕前、という可能性も・・・・)
砂浜で待ち合わせた渚とシンディーが合流し、イカ娘チームは演習場へ到着した。
チョビ「よし、来たな」
既に演習場ではアンチョビとカルパッチョが待っていた。
チョビ「今日の練習内容は・・・・『超信地旋回』だ!」
イカ娘「超信地旋回でゲソ!?」
栄子 「知ってるのか?」
イカ娘「知らないでゲソ!でもなんだかカッコイイ響きでゲソ!」
アンチョビはオホン、と咳払いする。
チョビ「超信地旋回は、前回練習した信地旋回をさらに応用した高等技術だ。片方の履帯だけを動かして向きを変える信地旋回に対し、両方の履帯を逆に動かしさらに高速にその場で回転する。それが超信地旋回だ」
イカ娘「・・・・?」
説明を受けるだけではよくわからないという様子のイカ娘。
チョビ「あー・・・・」
ぽりぽりと頬をかくアンチョビ。
チョビ「やった方が早いな。栄子、右の履帯と左の履帯をそれぞれ逆に回してみろ」
栄子 「こうか?」
栄子は言われた通りに左右の履帯を逆に回す。
グィィイーン
イカ娘「おお!」
超信地旋回を行ったチャーチルはぐるりとその場で旋回を行った。
イカ娘「これは早いでゲソ!これなら方向転換もカンタンでゲソ!」
チョビ「超信地旋回は確かに車体を早く回すことができる。しかし上手く扱えなければデメリットだらけになる。実際にやってみようか」
アンチョビは遠くに的を配置する。
チョビ「あれを敵戦車としよう。シンディー、狙いを少し外した位置で止めておいてくれ」
シン 「オッケー、こうかしら」
シンディーは砲塔を回し、砲身をやや標的からずれた所で止める。
チョビ「よしいいぞ。それじゃあ栄子、その場で思いっきり超信地旋回。シンディーはその状態で的に当ててみてくれ」
栄子 「よーし、いくぞシンディー」
シン 「オーライ!」
栄子は思いっきりレバーを引き、高速で超信地旋回を行う。
シン 「うわっ、うわわわっ!?」
途端に高速で砲塔も一緒に回転しはじめ、あっという間に的が見えなくなる。
一回転したところで砲塔を反回転させて狙おうとするが、旋回スピードが上回り、結局砲身ももっていかれ狙いがつけられない。
シン 「くっ!」
砲塔を合わせることを諦め、再び一周して的の方を向くのを待つ。
そして、
ドオン!
的が見えた時に砲撃を行ったが、かなり外れたところに着弾した。
シン 「ダメだわ、全然狙いがつけられない」
チョビ「これが超信地旋回中のデメリットの一つだ。超信地旋回は確かに車体を早く回すことができるが、同時に砲塔も一緒に回ってしまう。無計画に車体を回すと、砲身が真逆の方向を向いてしまうことだってあるんだ」
栄子 「確かに高度なテクニックが必要になるな」
イカ娘「シンディーが狙いをつけやすいように、栄子がいいところで止まる必要があるでゲソ」
栄子 「私かよ」
イカ娘「だってそうじゃなイカ。操縦は栄子なんだから、栄子の役目でゲソ」
チョビ「いや、これは車長であるイカ娘の役目だ」
イカ娘「え」
チョビ「操縦主は前しか見えないから、横や後ろにいる相手の位置がわからない。そうなれば、どれだけ車体を回しどこで止まるべきか。それを判断するのは車長の役目だ。操縦主の役割は『戦車の動きの全責任を持つ』ことじゃない。『車長の望み通りの動きをすること』なんだぞ?」
イカ娘「つまり、栄子は私の言うことを全て聞かなくてはいけないと」
栄子 「言い方」
チョビ「とにかく。超進地旋回を行うか否か、するならどれくらい回るか、砲塔はどう回せばいいか。全てを決める義務と責任はイカ娘、お前にあることを忘れちゃいけないからな?」
イカ娘「うーむ、車長って思ってたより面倒くさいでゲソね」
栄子 「いまさら言うか」
チョビ「よーし。今日は車体と砲塔の息を合わせる練習にしよう。準備しろー」
イカ娘「うむ!」
その後も練習を続け、お昼になった頃。
チョビ「よーし、そこまで!今日はここまでにしよう」
イカ娘「えー、せっかくうまく動けるようになってきたところじゃなイカ」
チョビ「ここまで出来れば上出来だ。次は今日を振り返って次の目標を立てることだ」
栄子 「そういや、そろそろ昼メシの時間だな」
イカ娘「!早く帰るでゲソ!」
こうしてイカ娘たちはアンチョビを乗せて相沢家への帰路についた。
イカ娘「ただいまでゲソー」
千鶴 「おかえりなさーい」
イカ娘「む?」
千鶴の返事が庭から聞こえた。
庭へ出てみると__
栄子 「おお!今日の昼はバーベキューか!」
千鶴とペパロニ、カルパッチョが庭でバーベキューセットを展開し、色々焼き始めていた。
たけるも目を輝かせながら焼けるのを待っている。
カル 「皆さん、おかえりなさい。焼けしだいどんどん食べられるようになってますよ」
シン 「ワオ!お昼からゴ-ジャスね!」
渚 「あの、私、お邪魔じゃないでしょうか」
イカ娘「何を言ってるでゲソ、渚はれもんの一員でありチームの仲間じゃなイカ!遠慮することはないでゲソ!」
栄子 「お前が仕切るな。・・・・まあでも、私も同意見だな」
千鶴 「みんなの分を用意したから、遠慮せず食べてちょうだい」
渚 「あ、ありがとうございます!」
そして全員に焼き立ての串が配られ__
チョビ「オホン。では諸君!今日の訓練もご苦労様だった!せーの、かんぱーい!」
みんな「かんぱーい!」
アンチョビの音頭で乾杯を切った一同がバーベキューにかぶりつき始める。
ペパ 「んー!うまい!サイコーっすよ!」
栄子 「おい、イカ娘!肉ばっかり食ってんじゃねえ!」
イカ娘「心配せずとも、栄子の野菜はちゃんと取っといてあるでゲソ」
栄子 「自分で食え!」
シン 「やっぱり肉はバーベキューに限るわね!本国でのバーベキューパーティを思い出すわ」
カル 「あちらではやはりバーベキューは定番なんですね。どういう風に焼いてるんですか?」
シン 「それはね。専用の焼き器で__」
ペパ 「ほれたける。育ち盛りなんだから肉をもっと食べろ!」
たける「うん、ありがとうペパロニ姉ちゃん!でも、ピーマンは・・・・」
ペパ 「ん?ピーマンも好きか?ほーら」
ペパロニはたけるの皿にピーマンをどんどん盛っていく。
青くなるたける。
千鶴 「アンチョビちゃん、今日もお疲れ様」
チョビ「いえ、いろいろ私たちもお世話になってるんだし、これくらい」
千鶴 「アンチョビちゃんが指導してくれるようになってから、イカ娘ちゃんたちも上達するのが楽しいみたい。次はいつだろうって、よく言っているもの」
チョビ「そう言ってもらえると、役目を買ったかいがあります。でも__」
ペパ 「そうでしょう!ドゥーチェの指導は天下一品ですから!」
突然ペパロニが割って入る。
チョビ「うわっ!パペロニ、串を持ちながら割り込むな!刺さったら危ないだろう!」
ペパ 「あっ!すんませんドゥーチェ!」
チョビ「全く・・・・」
千鶴 「アンチョビちゃん。今、何か言いかけたかしら?」
チョビ「えっ?__ああ、これは贅沢な悩みなんですけど」
千鶴 「何かしら。言ってみてちょうだい?」
チョビ「確かにみんな上手くなっている。的当ても精度が上がり、操縦技術もどんどん吸収してモノにし始めている。だけど、今のチャーチルだけではどうしても出来ないことがあるんです」
千鶴 「・・・・模擬戦、ね」
チョビ「仰る通り、です」
ペパ 「?」
二人の会話を聞いても理解できないのか、ペパロニに?マークが浮かぶ。
チョビ「今の訓練では、射撃訓練の相手は『動かない相手』。軌道訓練をしても、『何も飛んでこない』。そんなシチュエーションの中では、実践に対応しきれるとは言えない」
千鶴 「動き回り、砲弾も撃ってくる戦車を相手しないと、訓練としては弱い、とうことね」
ペパ 「何言ってんすか。それならもう一台が相手すりゃいい話じゃないっすかー。ドゥーチェもまだまだっすね!」
チョビ「で、もう一台はどこだ?」
ペパ 「え?」
いつぞやと同じようなやりとりに、ペパロニが辺りを見回す。
ペパ 「あれ?もう一台は・・・・」
チョビ「相沢家にはチャーチルしかないだろう!」
ペパ 「あー、そうでした!」
チョビ「まったく・・・・」
千鶴 「でも、確かにもう一台あれば練習の幅が広がるわ。でも、うちにはもう一台を手に入れる余裕なんてないし・・・・」
カル 「そういえば、このチャーチルも借り物だっておっしゃってましたね」
チョビ「個人で買って貸してくれるとか、どんな富豪だよ・・・・」
ペパ 「ウチにも欲しいっすねー。そんな気前のいい人」
千鶴 「無いものを欲しがってもしょうがないわ。まだお肉も沢山あるし、食べましょう?」
ペパ 「おー!」
その後もバーベキューパーティは続き。
栄子 「おーいイカ娘、縁側にジュースあるから取ってきてくれ」
イカ娘「わかったでゲソー」
イカ娘が縁側に歩み寄る。
すると__
イカ娘「あ痛っ」
イカ娘が急につんのめって転ぶ。
たける「イカ姉ちゃん、大丈夫?」
イカ娘「転んだだけでゲソ。どこもケガはないでゲソよ」
チョビ「それは何よりだ」
栄子 「それにしてもドジだなお前は。なんで何もない所で転ぶかな」
イカ娘「ドジじゃないでゲソ!何かにつまづいたのでゲソ!」
栄子 「つまづくって、うちの庭にそんな大きいものないだろ」
イカ娘「本当でゲソ!そこの辺りに、何か__」
イカ娘が転んだ辺りを指さすと、確かに地面から何かが少し飛び出ている。
千鶴 「本当だわ。金属に見えるけど・・・・鉄パイプかしら」
栄子 「何で鉄パイプが庭に埋まってるんだ?」
たける「このままじゃ危ないし、掘り出しちゃおうか?」
たけるがスコップを用意する。
千鶴 「そうね。でも先に全部食べちゃいましょう。みんな足元には気を付けてちょうだい」
そしてバーベキューは終わり、片付けが済み、掘り出しにかかる。
各々がスコップなどを取り出し掘り始めた。
栄子 「こないだも掘り返したばっかなのに、また掘ることになるとはね」
千鶴 「言われてみればそうね」
チョビ「何かあったのか?」
栄子 「ああ。こないだうちの庭に人形の腕が埋まってるの見つけてさ。他にも埋まってるんじゃないかって掘り返したことがあったんだ」
ペパ 「へー。それで、見つかったんすか?他のパーツ」
栄子 「頭が二つ見つかった」
チョビ「え」
栄子 「気持ち悪いから埋めなおしたよ。他にも色々変なもの埋まっててさ。ああ来ると何が埋まってても不思議じゃないね」
チョビ「そ、そうなのか」
掘り返すのが怖くなったのか、少し掘る手が鈍るアンチョビ。
やがて__
千鶴 「だいぶ掘り返せたわね」
栄子 「思ったよりデカいな、これ」
イカ娘「鉄パイプというより・・・・土管みたいでゲソ」
細いパイプかと思っていたそれは、かなり太さのある物だとわかってくる。
栄子 「おい、これ・・・・まさか・・・・」
カル 「いえ、まさか、そんなことが・・・・」
千鶴 「ちょっと信じがたいわね・・・・」
チョビ「えええ・・・・ありえないだろ・・・・」
ペパ 「?」
埋まっているいるものに、見当がつけながら認めようとしない栄子たち。
イカ娘「こうなったら、専門家を呼ぶでゲソ」
イカ娘はケータイを取り出し、とある人物に電話をかけた。
優花里「これは75mmL/34戦車砲ですね!」
イカ娘に呼ばれた優花里は、一目で難なく答えた。
栄子 「やっぱりかー!」
栄子が頭を抱えて叫ぶ。
栄子たちが思った通り、それは鉄パイプや土管ではなく、戦車砲の先っぽだった。
チョビ「75mmL/34戦車砲ってことは・・・・」
優花里「はい!アンツィオのセモヴェンテに使われている戦車砲と同じ砲ですね!」
イカ娘「なんでそれが庭に埋まってるのでゲソ」
栄子 「私が聞きたいわ!今まで暮らしてきて庭に戦車砲埋まってるなんて考えたこともなかったよ!」
千鶴 「私も知らなかったわ。誰が埋めたのかしら・・・・」
ペパ 「じゃあ、下にはセモヴェンテが埋まってるんすかね?」
カル 「まさか、そこまでは・・・・」
否定はするものの、確証はない。
栄子 「どうする姉貴。埋めなおしちまうか?」
優花里「ええっ!?」
信じられないと言った声を上げる優花里。
千鶴 「確かに掘り出すのは大変だわ。でも、庭に戦車砲が埋まりっぱなしなのも、気になってしまうわ」
栄子 「うーん、それもあるけどなあ。だけど、掘り出すにも一苦労だぞ?」
千鶴 「完全に土の中に埋まっちゃってるわね。だとすると、ショベルカーが必要になってくるわ」
栄子 「そんな重機、簡単に借りられるわけが__」
優花里「それなら、私たちにお任せください!」
栄子 「え?」
そして。
レオ 「どーもー」
優花里に連絡を受けた自動車部の面々が相沢家にやって来た。
チョビ「大洗のレオポンチーム!?」
ナカ 「やー、ちょっとぶり」
イカ娘「ナカジマたちじゃなイカ。お主たちが掘り出すのでゲソ?」
ツチヤ「えーと、ちょっと違うかな?」
ホシノ「掘るのは~」
スズキ「この子だー!」
グイーン!
ショベルカーに乗ったスズキが姿を現した。
イカ娘「おお!何だかカッコいいメカが来たでゲソ!」
栄子 「ショベルカーの運転もできるのか!?」
スズキ「へへー!タイヤとキャタピラの付いたものの操縦なら、なんでもござれー!」
慣れた操縦で相沢家の庭にショベルカーが入る。
千鶴 「これは頼もしいわね」
ナカ 「えーと、それじゃ始めちゃっていいですか?もちろんお家とかは気づ付けないように気を付けますんで」
千鶴 「ええ。ぶつかりそうになったら私が何とかするから、気にせずやってちょうだい」
ナカ 「了解!スズキ、やっちゃっていいよー」
スズキ「オッケーイ!」
千鶴の許可を得て、スズキのショベルカーが豪快に地面を掘り返す。
そして。
イカ娘「あっという間だったでゲソ」
栄子 「あれだけの作業、難なく終わらせちゃったよ」
一時間経たず、地面は見事に掘り返され__地中に埋まっていた『それ』が姿を現した。
イカ娘「戦車でゲソ・・・・」
栄子 「戦車だな」
千鶴 「戦車ね」
チョビ「戦車だなあ」
ペパ 「戦車っすね」
カル 「戦車ですね」
優花里「戦車です!」
地中に埋まっていたのは、戦車砲などではなく、『戦車砲を含む戦車まるごと』だった。
千鶴 「まさか、本当に戦車がまるごと埋まっていたなんて」
栄子 「もうツッコむのもめんどくさいわ」
イカ娘「しかしさすがに泥だらけでゲソ。これじゃ何の戦車なのかわからないでゲソ」
ナカ 「オーラーイ、オーラーイ」
ナカジマたちは手際よく戦車を吊り上げ、戦車運搬用の荷台に掘り出した戦車を乗せた。
ホシノ「それじゃ、ちょっとだけ預かりますね」
ツチヤ「レストア終わり次第お返ししますんで~」
栄子 「悪いね、至れり尽くせりで」
ナカ 「いえいえ、とんでもない」
スズキ「最近ここまで壊れた車両の修繕はご無沙汰でしたからね。腕がなまってたところですよ」
ツチヤ「水没してたⅢ突とどっちが難しいでしょうね~?」
ホシノ「よーし、レストア最短記録目指すぞ!」
そして自動車部と優花里は帰っていった。
渚 「凄い人たちでしたね」
チョビ「あれが大洗の異能技術者集団、自動車部・・・・」
ペパ 「噂通りの人たちだったっすね」
栄子 「あれだけの技術持ってて、なんで普通に高校生してるんだ?あの人たち」
そして翌日。
スズキ「お届けにあがりましたー」
栄子 「早っ!!」
朝一番でスズキが戦車を届けに来た。
ホシノが覆っていた白い布をまくると、そこには新品のように修理が完了した戦車があった。
イカ娘「おおっ!戦車でゲソ!」
栄子 「そりゃあたり前だろ」
千鶴 「とても綺麗だわ。とても昨日まで土の中に埋まっていたとは思えない」
戦車の出来栄えに感心する相沢家に反し、アンチョビは違う意味であんぐりしていた。
ペパ 「あー、セモヴェンテじゃなかったっすねー。残念」
カル 「ドゥーチェ、あれは、もしかして・・・・」
チョビ「ああ、間違いない・・・・!あれは、M16/43サハリアノ!」
ペパ 「え?」
チョビ「サハリアノ快速中戦車だ!」
ペパ 「え?ドゥーチェ知ってるんすか?」
チョビ「おまっ!アンツィオ生なのにあれを知らないとかどうかしてるぞ!」
ペパ 「えっ?えっ?なんか有名な戦車なんすか?」
チョビ「サハリアノ快速中戦車って言えば、北アフリカ戦線のために作られた、イタリアの戦車だぞ!」
ペパ 「へー、イタリアの戦車だったんすねー。快速戦車ってことは、CV33くらいは出るんすか?」
チョビ「アホー!サハリアノは最高時速70kmは出せるんだぞ!」
ペパ 「70!?マジっすか!」
ペパロニが目を輝かせる。(※CV33は頑張って時速42kmくらい)
カル 「でも、サハリアノ快速中戦車は、確か・・・・」
チョビ「ああ。サハリアノは、『世界で一台』しか存在しない戦車だ。なぜそれが、相沢家の庭に埋まっていたんだ・・・・?」
千鶴 「アンチョビちゃん」
千鶴がアンチョビに声をかける。
チョビ「何ですか?」
千鶴 「これから最終確認も兼ねて、練習場で走らせるそうなの。それで、ペパロニちゃんに操縦をお願いしたいのだけれど」
ペパ 「マジっすか!?」
千鶴に指名を受けてペパロニが飛びあがる。
チョビ「いいんですか?操縦主なら栄子だっていますし、ペパロニに任せたらどんな運転するかわかりませんよ?」
ペパ 「ドゥーチェ、それはひどいっすよー!」
チョビ「大会の二回戦で吹っ飛びながらP40にぶつかりそうになったのはどこの誰だ?」
ペパ 「あれは、後ろから八九式に__」
千鶴 「大丈夫よ。その後の選抜戦で、あんなに素晴らしい操縦を見せてくれたんだもの。私は適任だと思うわ」
ペパ 「千鶴姐さん・・・・!」
千鶴からの太鼓判に感激するペパロニ。
チョビ「・・・・わかりました。いいなペパロニ!借り物なんだから慎重に扱えよ!」
ペパ 「お任せっす!」
三十分後。
ペパ 「ひゃっほー!いけいけいけーーーっ!水平線の彼方までいくぜーーっ!!」
サハリアノは全速力で演習場を爆走している。
チョビ「あいつは・・・・!」
先ほどまでの約束をすっかり忘れ走り回るペパロニにアンチョビは頭を抱えた。
イカ娘「すごく速いでゲソねー。戦車とは思えないスピードじゃなイカ」
チョビ「サハリアノはイギリスの快速戦車であるクルセイダーに対抗するために作られた戦車だ。速度で言えば最速の部類と言えるんじゃないか?」
栄子 「しかしとんでもないスピードだな。私にゃあれは扱えんわ」
今度は連続ドリフトまで披露しはじめている。
チョビ「ああもう、見ててハラハラする・・・・!」
千鶴 「アンチョビちゃん」
そんなアンチョビに千鶴が声をかける。
千鶴 「『もう一台戦車があれば、模擬線ができる』。昨日、そんなことを話したわね」
チョビ「ええ、確かにそんな話を・・・・って、千鶴さん、まさか__」
千鶴 「あの戦車をアンチョビちゃんたちに任せたいの。あれに乗って、イカ娘ちゃんたちの相手をしてもらえないかしら」
チョビ「千鶴さん、いくらなんでもそれは__」
千鶴 「戦車だって乗ってもらえなければ宝の持ち腐れだわ。あれがイタリア戦車なのも、きっと縁があるとおもうの」
チョビ「・・・・」
アンチョビは黙ったまま爆走するサハリアノを見つめる。
そして、そのまま歩いて演習場に入り込む。
後を追うカルパッチョ。
チョビ「ペパロニ!
ペパ 「!」
きっと通ったアンチョビの声に、ペパロニはサハリアノを停車させる。
そして停まったサハリアノに乗り込むアンチョビと、カルパッチョ。
カルパッチョはそのまま内部に潜り込み、アンチョビはキューポラから身を乗り出す。
チョビ「すー・・・・はー・・・・」
アンチョビは深呼吸をし__
チョビ「
合図とともに発信するサハリアノ。
そしてアンチョビの指示が飛び、ペパロニは速度を保ったまま様々な運転をこなす。
そして千鶴たちの真正面に停まる。
アンチョビは何も言わず笑顔で返し、千鶴も笑顔になった。
チョビ「やっぱりお前は私が抑えてやらないといけないな」
ペパ 「へへっ、やっぱりアンチョビ姐さんはそこが似合うっす!」
そんな二人の掛け合いを、カルパッチョは嬉しそうに眺めていた。
イカ娘「これからはアンチョビが練習の相手になってくれるのでゲソか!」
栄子 「しかも戦車はサハリアノ。こりゃいきなりハードになりそうだな」
戦車を降り、アンチョビたちが練習相手をしてくれることを告げられ、テンションの上がるイカ娘。
カル 「ですがドゥーチェ、一つ問題があるます」
チョビ「ん?何だ?__あ」
アンチョビは車長。
ペパロニは操縦主。
カルパッチョは装填手。
つまり__砲手がいない。
練習相手になるには、しっかりした腕前の砲手も必要なのである。
チョビ(ペパロニは操縦専任だったから砲撃技術はない。カルパッチョも装填手としての訓練をさせてばかりだったし__まずい、私も自信が無いぞ)
チョビ「あー・・・・なんとかなる。なんとかする!任せろ!」
カル 「はあ・・・・」
とは言ったものの、現時点ではいい打開案の無いアンチョビは頭を悩ませた。
__そんな様子を遠くから双眼鏡で眺める、ひとつの人影があった。
その後。
チョビ(うーん、どうすれば・・・・)
アンチョビは砲手の空きをどうすれば埋められるか頭を悩ませながら散歩をしていた。
チョビ(千鶴さんは砲手はいなくても他の練習ができるから、と言ってはくれたが、やるからには全力で応えたい。しかし、私も今から練習したところで大した腕にはなれないだろうし・・・・)
チョビ「うーーーーーん・・・・」
いい案が浮かばずうなるアンチョビ。
そんなアンチョビの後ろから、ひとつの影が近付いた。
???「もしかして、砲手をお探しですか?」
チョビ「えっ?」
そして。
チョビ「喜べ!砲手を見つけてきたぞ!」
満面の笑みでアンチョビが相沢家に帰ってきた。
イカ娘「おお、もう見つかったのでゲソ!?」
ペパ 「さっすがドゥーチェっす!」
チョビ「戦車に乗るためにあらゆる訓練をこなしてきたという人でな。砲手ももちろんこなす自信があるって言っていたぞ!」
栄子 「それで、どんな人なんだ?アンチョビさんの見つけてきた砲手って?」
チョビ「ああ、実は一緒に来てもらった。入ってくれ」
アンチョビが手招きすると、その砲手候補が玄関先に現れた。
途端__イカ娘は絶句し、栄子は呆れた顔でその人物を見つめた。
早苗 「砲手希望、長月早苗です。よろしくね♪」
機会を狙い続けてきた狩人、ついに参戦(恐怖)
果たしてこの砲手で練習になるのかどうか、神のみぞ知る、です。
この話以降、他の高校編にやや影響が生まれはじめるので、混乱しないようにガイドラインのようなものを用意しようと思っています。