侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


アンチョビ→チョビ
ペパロニ→ペパ
カルパッチョ→カル

南風の店長→南風
ニセイカ娘→偽イカ


アンツィオ高校編じゃなイカ?
第1話・食べていかなイカ?


ある日のお昼頃。

 

チョビ「な、な、な・・・・!」

ペパ 「ありゃー」

カル 「あらあら」

 

海の家れもんの軒先で、アンチョビはがっくりと膝を落としている。

ペパロニは気まずそうに頭をかき、カルパッチョは苦笑している。

 

チョビ「やっと辿り着いたのにー!」

 

叫ぶアンチョビの目線の先、海の家れもんには、張り紙がされていた。

 

『本日、休業日』

 

チョビ「迂闊だった・・・・!まさか、今日が休業日だなんて、考えてもなかったー!」

ペパ 「いやー、意外だったっすねー」

カル 「すいませんドゥーチェ、もっとしっかり下調べをしておくべきでした」

チョビ「いや、カルパッチョは悪くない。この可能性を視野に入れず行動してしまった私に非があるんだ」

ペパ 「そっすねー」

チョビ「ううう・・・・」

 

ペパロニの気遣い0の言葉に反論する気力も、今のアンチョビには無かった。

 

カル 「ドゥーチェ、お気を確かに」

チョビ「すまない二人とも。せっかくここまで一緒に来てくれたというのに……」

ペパ 「何言ってんすかアンチョビ姐さん。アタシらは結構楽しかったっすよ?」

カル 「そうね。初めての体験だったものね」

ペパ 「まあ、ここはまた来たときにして、とりあえずどっかで昼メシにしません?アタシもう腹へって腹へって」

チョビ「そ、そうだな・・・・。どこか、代わりになるうまい店を探すとするか」

 

二人の気遣いに少し心を持ち直したアンチョビは、周囲を見渡す。

すると後ろから声がかかった。

 

イカ娘「海の家れもんに、何か用でゲソ?」

チョビ「えっ?」

 

アンチョビが振り替えると、イカ娘が立っていた。

 

チョビ「・・・・?誰だ?」

イカ娘「私は、イカ娘でゲソ!」

チョビ「そ、そうか。・・・・ん?イカ?・・・・イカの女の子?」

カル 「あら?貴女、もしかしてこの海の家の人?」

 

何かに気づいたカルパッチョが質問する。

 

イカ娘「うむ!この海の家れもんは、私の拠点の一つでゲソ!」

ペパ 「あー、思い出した。この子、ブログに載ってた写真の子ッスね」

イカ娘「ぶろぐ?よく言ってることが分からないでゲソ。とにかく、海の家れもんに用なのでゲソ?」

ペパ 「用と言うか、用、用事?目的?こういう場合、何て言えばいいんだろ?」

カル 「私たちは、ここのお料理を食べに来たんです。でも、今日は休業日だったんですね」

イカ娘「うむ。今日はお休みの日でゲソ」

チョビ「はあー・・・・」

 

現実を改めて突きつけられ、アンチョビが深いため息をつく。

 

イカ娘「ふむ」

 

そして。

 

イカ娘「お客さんでゲソ!」

 

イカ娘はアンツィオ一行を相沢家へ連れてきた。

 

栄子 「ん?お客さん?誰にだ?」

 

栄子がリビングから顔を出す。

テレビを見ているらしく、何かの音声が聞こえてくる。

 

イカ娘「れもんにゲソ」

栄子 「は?」

イカ娘「れもんに来てたお客さんでゲソ」

栄子 「れもんって・・・・お前、今日は休業日だぞ?」

イカ娘「うむ。だからうちに案内したのでゲソ」

栄子 「意味わかんねえよ!」

チョビ「えーと・・・・?」

 

玄関に置き去りっぱなしのアンチョビたちが気まずそうにしている。

 

栄子 「あー、ごめんね?こいつがアホなことしでかしてさ」

イカ娘「アホとは何でゲソ!失礼じゃなイカ!」

栄子 「失礼なのはこの子らに対してだろ!うちに連れてきた後どうするつもりだったんだよ!」

千鶴 「栄子ちゃーん、どうかしたのー?」

 

千鶴がリビングから声をかける。

 

栄子 「ああ姉貴、イカ娘がやらかしてさ」

イカ娘「やらかすとは何でゲソ!せっかく連れてきたのにそれはないじゃなイカ!」

栄子 「とにかく!うちに来てもらってもどうしようもないだろ!」

イカ娘「冷たいでゲソ!いつかられもんは来るもの拒むようになったのでゲソ!」

栄子 「休業日くらい休ませろよ!」

カル 「ドゥーチェ」

チョビ「ああ、そうだな。・・・・あのー、私たち、帰りますんで。お邪魔しました」

栄子 「ん?」

イカ娘「む?」

カル 「また改めて、お店がやっているときにお邪魔しますね」

栄子 「ああ・・・・、そう?なんだかごめんね、ぬか喜びさせちゃったみたいでさ」

カル 「いえ、こちらこそご迷惑を・・・・」

 

カルパッチョが挨拶を終える直前、リビングで流れっぱなしになっていたテレビから音声が聞こえてきた。

 

TV『うわあああああ!こっち見てるぞおおおおおおおお!』

 

チョビ「!?」

カル 「!」

ペパ 「あれ?どっからか姐さんの声が?」

チョビ「っ、バカ!黙ってろ!」

 

音声につられた栄子が、反射的にテレビを見る。

流れていたのは、大洗vs大学選抜のエキシビション戦のDVD。

そしてちょうど流れていたのは、カールに砲口を向けられたアンチョビが叫んでいるシーンだった。

もちろん、顔もバッチリ映っている。

 

栄子 「あ」

チョビ「ぁ」

 

数分後。

アンツィオ三人組は、相沢家のリビングで椅子に座っていた。

千鶴が三人に麦茶を出す。

 

千鶴 「ごめんなさい、大したおもてなしもできなくて」

チョビ「いえいえいえいえ、そんな」

栄子 「いやー、まさかアンツォのドゥーチェ、アンチョビさんたちがうちの店に来てるれるなんてな」

イカ娘「む?こやつら有名人なのでゲソ?」

栄子 「お前、戦車道やってんのになんでこういう所に疎いんだよ。アンチョビさんっていえば、一人でアンツィオの戦車道を立て直したり、大会で西住さんと激戦を繰り広げたり、かなり実力派なんだぞ?」

イカ娘「おお!お主も戦車道やっていたのでゲソ!?」

ペパ 「そっすよー!ドゥーチェは高校戦車道の財産なんスから!」

チョビ「言い過ぎだって・・・・」

 

人前でとことん褒められ、流石に顔を赤らめるアンチョビ。

 

栄子 「それにアンツィオと言えば料理がうまいって評判で、それ目的のために観光客も来てるっていうくらいなんだぞ?」

イカ娘「おお!」

千鶴 「それにしても、気になるのだけれど」

イカ娘「どうしたのでゲソ?」

千鶴 「アンツォオ高校の学園艦は、今は岩手に寄港しているはずじゃなかったかしら?」

チョビ(ギクッ!)

栄子 「え?じゃあ、アンチョビさんたちわざわざ電車で来たのか?」

ペパ 「いや、ヒッチハイクで来たッス!」

チョビ「おまっ!」

栄子 「マジか!?」

カル 「はい・・・・」

 

気まずそうにカルパッチョが答える。

 

チョビ「あーもう、内緒だって言ったのに・・・・」

ペパ 「あ、そうでした!すんませんドゥーチェ!」

チョビ「はぁ・・・・」

カル 「アンツィオから由比ヶ浜へ行こうと計画したんですけど、旅費が集まらなくて。それで・・・・」

栄子 「それで、ヒッチハイクで?」

カル 「はい・・・・」

イカ娘「ヒッチハイクって何でゲソ?」

栄子 「目的地の方向に進む通りがかりの車に乗せてくださいって頼んで、乗り継いで目的地に近づく方法だよ」

イカ娘「おお!それは便利でゲソ!」

栄子 「だけど、いい事だけじゃないぞ?乗せてくれたのがいい人ならいいが、もし悪い人間だったら・・・・」

イカ娘「だったら・・・・!?」

栄子 「身ぐるみ剥がされて置いてきぼりにされたり、誘拐されたり、最悪殺されることだってある」

イカ娘「死!?」

ペパ 「いやー、でもみんないい人ばっかだったっすよ?」

千鶴 「でも女の子だけでヒッチハイクだなんて危ないわ。何かあったら悲しむのはあなたたちだけじゃないのよ?」

カル 「それについては、返す言葉もありません」

イカ娘「それにしても、そこまでして何故ここまで来たのでゲソ?」

ペパ 「それはっすね!話に聞いたウワサの海の家れもんの料理を食べにっす!」

千鶴 「あら、うちが目的だったの?」

カル 「はい、そうなんです」

チョビ「うちの高校のOBの先輩が名の知れたグルメブロガーやってまして。その先輩が、海の家れもんを誉めていたんで、どうしても気になっちゃって」

ペパ 「アタシら三人で、ぜひ食べに行こう!ってハナシになりましてねー!」

イカ娘「それで店の前にいたのでゲソね」

ペパ 「いやー、タイミング悪かったっす!」

千鶴 「でも、イカ娘ちゃんがあなたたちを連れて来てくれてよかったわ」

チョビ「え?どうして__」

 

アンチョビが振り返ると、千鶴は台所で鍋やフライパンを出し始めている。

 

チョビ(何か出してる!?)

千鶴 「ちょっと待っててくれれば、すぐ出来上がるから」

 

そう言うや否や、千鶴は食材を手際よく切り始める。

 

カル 「千鶴さん、そんな!そこまでしていただかなくても・・・・」

千鶴 「させてちょうだい。遠いところから、わざわざ私のお料理を食べに来てくれたのよ?振る舞いたくてウズウズしているのよ」

 

返事をしながらも勢いは落ちず、千鶴はテキパキとどんどん調理を始めていく。

 

栄子 「姉貴は言い出したら聞かないよ。おとなしく待ってたほうがいいな」

カル 「はあ・・・・」

イカ娘「じゃあ待ってる間、私の部屋に来なイカ?一緒にゲームやろうでゲソ!」

栄子 「私の部屋、な」

 

かくして五人は栄子の部屋で待つことになった。

 

栄子 「くっ、このっ!なかなかやるじゃんか!」

ペパ 「へっへへー、アタシに操縦テクで挑もうなんて、十年早いっす!」

栄子 「言ったな!ここからが腕の見せ所だ!」

ペパ 「うわっ!?そんな手アリっすか!?」

 

栄子とペパロニはレースゲームで盛り上がっている。

 

チョビ「・・・・というわけで、これがコンパス作戦の全容という訳だ」

イカ娘「はー、ためになるでゲソ。アンチョビは作戦立てるのが上手でゲソ!」

 

アンチョビはイカ娘が戦車道をやっていると聞き、自らの立案した作戦の解説を聞かせている。

 

チョビ「まあな。これでも総帥を名乗る以上、しっかり実戦で活かせる作戦計画を立てるのは私の責務だからな」

カル 「そして、それをドゥーチェの手足として実行するのが、私たちです」

チョビ「ほんとになー。あの時、ペパロニがちゃんと言ったこと覚えててくれれば、もしかしたら西住に勝ててたかもしれないのに」

イカ娘「あの時?」

チョビ「ああ。戦車道大会二回戦、大洗女子と当たった時のな。あのマカロニ作戦、自信あったんだけどなあ・・・・」

イカ娘「マカロニでゲソ?」

カル 「ええ。マカロニ作戦というのは・・・・」

 

カルパッチョとアンチョビがイカ娘にマカロニ作戦を説明し終えた頃。

 

千鶴 「みんなー。出来たわよー」

 

千鶴が階下から呼ぶ声が聞こえてきた。

 

チョビ「おおーっ!」

 

テーブルには、海の家れもんのメニューがすべて並べられている。

 

イカ娘「れもんのメニューが目白押しじゃなイカ!」

カル 「とても美味しそう!それに、この量をあの時間で全部仕上げられるなんて・・・・!」

パペ 「千鶴姐さん、タダモンじゃないっすね!」

千鶴 「ちょっと頑張りすぎちゃったかしら。さあ、冷めないうちにどうぞ」

みんな「いっただっきまーす!」

 

イカ娘たちも加え、れもんの料理の立食パーティーが始まる。

 

チョビ「!美味い!このチャーハン、こんなパラパラで芯まで火が通って・・・・!並の中華料理屋だってこんな仕上がりにはできないぞ!」

ペパ 「ドゥーチェ、ラーメンもうまいっすよ!スープもダシが効いてて、メンのコシも半端ないっす!」

 

アンチョビとペパロニは一口ごとに目を丸くしている。

 

カル 「このタコ焼き、表面はカリッとしてるのに中はすごいトロトロです。どうやったらこんな上手に焼けるんですか?」

千鶴 「それはね、出来上がり直前に油を・・・・」

 

千鶴も料理の話ができる相手がいることが嬉しいのか、笑顔で受け答えている。

そして、全てのの料理が平らげられた。

 

チョビ「ご馳走様でした!やっぱり話に聞いていた通りの腕前でした」

カル 「私も、とても勉強になりました。ありがとうございます」

ペパ 「すごっくうまかったっす!ごちそうさま!」

千鶴 「おそまつさま。喜んでもらえて、私も嬉しいわ」

 

ペパロニは至福といった表情だが、アンチョビとカルパッチョはまだ満足しきっていないという表情だった。

言い出すことに少しためらっているようにも見える中、カルパッチョが口を開く。

 

カル 「あの、千鶴さん。こんなにご馳走になってしまってから言い出すのはとても心苦しいのですが・・・・」

チョビ「いや、ここは私が話そう。千鶴さん、私たちがここに来た理由、もちろんれもんのメニューの食べ物も目的でした。ですが、私たちにはそれと同じくらい大事な目的があるんです」

千鶴 「大事な?」

チョビ「そう、それは・・・・」

 

真面目な顔で切り出そうとするアンチョビに、ペパロニが割って入る。

 

ペパ 「イカスミスパゲッティーっす!」

栄子 「!」

 

栄子はその単語に激しく狼狽する。

 

栄子 「ちょっと待て、イカスミスパゲッティーまで知ってるってことは・・・・、アンチョビさんの先輩って、もしかして大澤さん(※)か!?」

ペパ 「おっ、知ってるッスか?!やっぱカペッリーニ先輩は有名なんスねー!」

栄子 「カペ・・・・?ああ、アンツィオにおけるあだ名みたいなもんか」

カル 「はい。カペッリーニ先輩から、れもんで食べた料理のお話を聞きまして。ブログには書けなかったけど、とってもおすすめの一品だって言ってました」

栄子 「そ、そうなんだ・・・・」

 

※侵略!イカ娘396話・評価されなイカ?に登場した、食べログ界の女王です。

 

チョビ「パスタが主食の我々としては、外すことのできない目的の一つだったんだが・・・・頼めるかな?」

栄子 「えーっと・・・・」

イカ娘「それなら__」

栄子 「ストップ!待てイカ娘!」

 

イカスミを吐き出しかけたイカ娘を栄子は慌てて制する。

 

イカ娘「何でゲソ?食べたいっていうなら出してあげるでゲソ。前みたいに搾り取られるわけでもなさそうでゲソからね」

栄子 「それはそうかもしれんが、万人がお前のイカスミを受け入れると思うな!もし期待してたパスタの正体が知れたら、ショックを受ける可能性が・・・・」

ペパ 「ん?どしたんスか?」

栄子 「え?ああ、いや、えっと、イカスミの在庫が、今あったかな~って、ね!?」

 

何とかごまかしを入れようと焦る栄子。

 

ペパ 「イカスミの在庫?ああ、もしかしてイカスミはイカっ子が出すから、今出せるか聞いてるってことッスか?」

栄子 「!!」

チョビ「おいおい何言ってるんだペパロニ。いくらこの子がイカっぽくてもイカスミなんか出る訳ないだろ。ホンっとお前は考えなしに喋るから__」

イカ娘「出せるでゲソよ?」

チョビ「へっ?」

イカ娘「おぶぇ~~」

 

イカ娘が手に持った素パスタに吐き出したイカスミをかけていく。

 

ペパ 「おおーっ!」

 

珍しいものを見て目が輝くペパロニ。

 

カル 「あらあら」

 

苦笑しつつ、予想はしてたらしく動じないカルパッチョ。

 

チョビ「んな・・・・!?」

 

絶句してるアンチョビ。

 

イカ娘「一丁上がりでゲソ」

 

ドヤ顔をしてイカスミパスタを差し出すイカ娘であった。

その後。

 

ペパ 「いやー、ご馳走様ッす!」

 

結局、ペパロニが平らげた。

 

チョビ「すごい料理工程だとは聞いていたが、これは予想できなかったな」

ペパ 「でもすごいウマかったっすよ?カペッリーニ先輩がオススメするのも納得っす!ドゥーチェも食べればよかったのに」

チョビ「うん、まあ、次の機会にな」

 

ふと、アンチョビが時計を見る。

 

チョビ「おっと・・・・、もうこんな時間か。そろそろ帰る時間だな」

ペパ 「えー、アタシもっと話ししたいっすよー」

チョビ「そろそろ行かないと帰りが遅くなるだろ」

イカ娘「もう帰るのでゲソ?」

カル 「ええ。もともと日帰りの予定だったから」

千鶴 「帰りは電車?」

ペパ 「いや、ヒッチハイクっす!」

栄子 「帰りもかよ!」

カル 「本当は泊まりも兼ねて、もっとゆっくりしたかったんですけど。なにぶん泊まるお金もなくて」

ペパ 「大洗の学園艦が来てるって聞いたから、最初は泊めてもらおうか、って話だったんすけどね」

チョビ「西住たちに迷惑はかけられないだろう」

イカ娘「ならうちに泊まればいいじゃなイカ」

チョビ「へっ?」

 

突然の申し出に目を丸くするアンチョビ。

 

栄子 「簡単に言うなよイカ娘。アンチョビさんたちにも予定ってもんが__」

ペパ 「いいんスか!?」

チョビ「おいっ!?」

 

全く遠慮を感じさせず、ペパロニがイカ娘の提案に乗ってくる。

 

ペパ 「いやー助かるっす!アタシらもこのまま帰るのは惜しいなって思ってて!」

チョビ「おいペパロニ、図々しすぎるぞ!そんな突然言われても千鶴さんたちが迷惑__」

千鶴 「構わないわよ」

 

千鶴があっさりと許可を出す。

 

チョビ「通ったーっ!?」

ペパ 「よっしゃ!」

カル 「本当にいいんですか?」

千鶴 「ええ。それと、提案もあるの」

チョビ「提案?」

 

そして、次の日。

 

チョビ「いらっしゃいませー!」

カル 「海の家れもんにようこそー!」

パペ 「アンツィオ特製コラボメニューやってるっすよー!」

 

アンチョビ、ペパロニ、カルパッチョの三人は海の家れもんにいた。

しかも三人ともれもんの従業員Tシャツを着ている。

 

栄子 「まさか、三人をバイトとして雇うとはね」

千鶴 「これなら、帰りの旅費も稼げるでしょう?」

 

千鶴の提案は海の家れもんとアンツィオ高校のコラボを謳い、期間中アンツィオオリジナルメニューを提供していく、というものだった。

 

千鶴 「ペパロニちゃんは私のお料理しているところが見えるし、私もペパロニちゃんのお料理作るところが見られる、一石二鳥よね」

栄子 「ほんとこういう所は頭が上がらないな」

イカ娘「鉄板ナポリタン三人前でゲソー」

ペパ 「あいよー!ナポリタン三丁ー!」

 

調理担当のペパロニが、慣れた手つきで店先の鉄板を使い鉄板ナポリタンを仕上げてゆく。

 

客A 「おっ、凄いいい匂いするぜ」

客B 「あの店かな?行ってみようぜ!」

栄子 「さすがアンツィオ、すごい客の入りだ」

チョビ「いらっしゃいませー!」

カル 「二名様ですね?こちらのお席へどうぞ」

客C 「おっ、あの子たち可愛い!」

客D 「俺らも行こうぜ!」

 

加えて、接客担当のアンチョビとカルパッチョの影響で、男性客がどんどん釣られて入ってくる。

 

吾郎 「おお、大繁盛だな」

 

そんな中、吾郎がいつも通りに昼食を取りに来た。

 

栄子 「おお吾郎、今日から特別メニューやってるんだ。食ってくか?」

吾郎 「そうだな。じゃあ、エビチャーハンで」

栄子 「言うと思ったよ」

 

驚きもせず、栄子はオーダーをとった。

 

ペパ 「ナポリタン三丁あがりー!」

カル 「はい、鉄板ナポリタン二人前ですね」

チョビ「お待たせしましたー、アンツィオ特製鉄板ナポリタン三人前!」

栄子 「いやー、それにしても三人ともよく働いてくれるなー」

渚  「今日は私たち、あまり出番無いかもしれませんね」

イカ娘「楽なのはいいことでゲソー」

 

アンツィオの三人の働き具合に感心しながら栄子たちが立ち話をしていると、

 

南風 「たのもうー!」

 

店先に南風の店長が現れた。

 

イカ娘「南風のおっさん!」

栄子 「何しに来たんだ?」

南風 「れもんが大繁盛してると聞いてな。なるほど、アンツィオ高校のアルバイトを雇ったのか」

 

店内を一瞥し、すぐ三人に気が付く。

 

イカ娘「おっさん、アンツィオを知っているのでゲソ?」

南風 「ああ。料理に精通してりゃ、一度は聞く名前だ。オレも一度食いに行ったことがあるが、あれは本物だった」

チョビ「お待たせしましたー」

南風 「ふむ」

 

何かを思った南風の店長が、のしのしとアンチョビに近づいていく。

 

チョビ「いらっしゃいま__」

 

客と思って振り向いたアンチョビの両肩を、ガシッと掴む南風の店長。

 

南風 「おい、アンタ、うちの店へ来ないか」

チョビ「はえっ!?」

栄子 「おいおっさん!」

栄子 「バイト初日の子を引っこ抜こうとすんなよ!」

イカ娘「節操がないでゲソ!」

南風 「何を言う。優秀な人材がいたら、引き抜きたくなるのは経営者のサガだろう」

栄子 「バイト中に交渉しようとすんなよ!」

南風 「もちろん無条件にとは言わん。ここより好待遇は約束するぞ?」

カル 「すみません。私たち、相沢さんたちにお世話になっているからこそ、ここで働きたいんです。お金の問題ではないんです」

 

やり取りに気づいたカルパッチョが、穏やかながらはっきりとした強い口調で断りを入れる。

 

南風 「ふむ、今どきの若者にしては立派な心がけだ」

栄子 「な?だから諦めて__」

南風 「余計に気に入った!是非とも来てもらうぞ!」

栄子 「おいコラおっさん!」

南風 「まあ待て。何も力づくて連れて行こうという訳じゃあない。いつもの様に勝負して決めようじゃないか」

栄子 「誰も受けてはないんだが・・・・。あれ、ところでニセイカはどうした?いつもこういう時は連れてきてるだろ」

 

ふと気が付くと、店の外が騒がしい。

 

栄子 「んー?・・・・んなっ!?」

 

外には、ニセイカ娘の巨大な顔を取り付けたⅣ号戦車があった。

 

南風 「今回は、このニセイカⅣ号を使う!」

栄子 「どっから手に入れたこんな戦車!」

南風 「最近れもんが戦車を手に入れたと聞いてな。自分で作ってみた」

栄子 「手作りかよ!?」

チョビ「なあ、あのおっさん、何者なんだ?」

 

アンチョビがイカ娘に耳打ちする。

 

イカ娘「隣町の海の家、南風の店長のおっさんでゲソ」

チョビ「・・・・海の家?兵器工場じゃなくて?」

イカ娘「海の家でゲソ」

チョビ「そ、そうなのか・・・・」

南風 「もちろんタダとは言わない。もしこのニセイカⅣ号に勝てたら、ウチの看板メニューのレシピを一つ教えてやろう!」

千鶴 「!」

 

南風のレシピ、と聞いて千鶴が反応する。

しかしすぐに顔色を戻す。

 

千鶴 「とても魅力的な申し出だけれども、お受けすることはできません」

南風 「む」

千鶴 「この子たちはアルバイトである前に、大事な我が家の一員でもあるの。賭けごとのための材料にはできないわ」

栄子 「姉貴・・・・」

南風 「そうか、受けないというのなら仕方ない。ウチの特性パスタは自信があったのだがな」

ペパ 「!」

 

『パスタ』という単語に調理中のはずのペパロニが反応する。

 

南風 「また出直そう。日を改めて__」

ペパ 「受けて立つっす!」

 

いつの間にか厨房を抜け出したペパロニが突然叫ぶ。

 

チョビ「おい!?」

ペパ 「だってパスタっすよ!?しかも特製!知りたいに決まってるじゃないっすか!」

カル 「でも、負けたられもんを辞めないといけないのよ?」

ペパ 「何言ってんだカルパッチョ!アタシらは天下のアンツィオ高校!シロートのオッサンに負けるほどヤワじゃないって!」

チョビ「で、戦車はどこだ?」

ペパ 「え?」

 

アンチョビにツッコミを受けて、周囲を見渡すペパロニ。

だが由比ヶ浜にアンツィオの戦車が置いてあるわけがない。

 

ペパ 「あれ?アタシらの戦車は・・・・」

チョビ「旅行で来たんだから、持ってきてる訳無いだろうが!」

ペパ 「あ、あははははは。・・・・どうしましょ」

チョビ「お前・・・・」

 

勝負を受けたものの戦車が無いという状況をどうやって打開しようか、とアンチョビが頭をフル回転させていると、

 

イカ娘「戦車なら、ここにあるじゃなイカ!」

 

チャーチルに乗ったイカ娘が姿を現した。

 

ペパ 「おお!チャーチルっすね!」

イカ娘「私としてもこのままペパロニたちをくれてやるわけにはいかないでゲソ!私の力を見るといいじゃなイカ!」

栄子 「やれやれ、結局こうなるのか」

 

かくして、アンツィオ一行の雇用権を賭けた海の家同士の勝負が幕を開ける。

 

南風 「ギャラリーがいるから実弾は使用禁止、車長にイカスミ弾が当たったほうの負けとする!」

偽イカ「ヨロシクオネガイシマスゲソ」

 

ニセイカⅣ号のキューポラからニセイカ娘が顔を覗かせている。

そして、お互いがそれなりの距離を離し、試合が開始された。

 

イカ娘「ニセイカなんかに戦車で負けるはずがないでゲソ!最初から全力で倒してやるでゲソ!全速前進でゲソー!」

 

試合開始とともにチャーチルが前進し、距離を詰める。

 

シン 「あれから行進間射撃はかなり練習したのよ?任せてちょうだい!」

イカ娘「うむ、任せるでゲソ!撃てーっ!」

 

揺れる車内においても、安定して狙いをつけ、シンディーは正確な一撃を放つ。

しかし__

 

栄子 「避けた!?」

 

イカスミ撃が放たれるか否かという瞬間、ニセイカⅣ号は高速で旋回を行い、弾を難なくかわす。

 

栄子 「んなっ、速い!?」

 

その旋回の最中にもニセイカⅣ号の砲口はしっかりとチャーチルを捉え、ためらいなく砲撃を行う。

だが砲弾は僅かに逸れ、砲塔を僅かにかする。

 

イカ娘「うわああっ!?」

 

あまりに正確な反撃に面食らうイカ娘。

 

シン 「このっ!」

 

装填が終わり再び砲撃を放つも、今度は急ブレーキによりタイミングを外されてしまう。

 

イカ娘「また避けられたでゲソ!」

 

急ブレーキによる動揺をものともせず、次のニセイカ側の射撃もギリギリの位置に着弾する。

ニセイカⅣ号の車内では、ニセイカ娘が十本の触手を器用に使い分け、操縦、装填、発射を同時に操作している。

 

栄子 「うわっ!大丈夫かイカ娘!」

イカ娘「まだ大丈夫でゲソ!こんなもんじゃ何ともしないでゲソ!」

 

思った以上のニセイカⅣ号の動きに苦戦するイカ娘たちを、アンチョビたちはギャラリーに混じって観戦している。

 

チョビ(あのⅣ号・・・・。見覚えがある動きばかりしてる)

 

ふと、ニセイカⅣ号を見ているうちに、アンチョビがとあることに気づく。

 

カル 「ドゥーチェ、あの動き、やっぱり・・・・」

チョビ「やはりカルパッチョもそう思うか。・・・・間違いない」

ペパ 「え?どうしたんすか姐さん?」

チョビ「ペパロニ、お前はあのⅣ号の動きに見覚えはないか?」

ペパ 「んー?んー・・・・」

チョビ「もういい。聞いた私が馬鹿だった」

ペパ 「ちょっ、時間切れ早いっすよ姐さん!」

 

やれやれ、とため息をつく。

 

チョビ「あのⅣ号、西住たちの動きにそっくりだ」

南風 「その通り!」

チョビ「うわっ!?いきなり出てくるな!」

 

急にアンチョビたちの間に南風の店長が割り込んでくる。

 

南風 「あのニセイカⅣ号を操るニセイカには、大洗女子の西住みほをはじめとする、あんこうチームの戦術と思考パターンを組み込んである!」

チョビ「なにっ!?」

南風 「冷泉麻子の運転技術!秋山優花里の装填速度!五十鈴華の砲撃力!そして西住みほの統率力と戦術論!それらを一体で担える、戦車道特化のニセイカだ!」

チョビ「あんた本当に海の家の店長なのか!?・・・・あれ?一人、足りなくないか?」

南風 「ん?」

チョビ「通信手の武部沙織が抜けてるぞ?」

南風 「通信する相手も居ないのにいらんだろう」

チョビ「ちょっ、あんこうチームは五人揃って本来の力が出るんだぞ!?一人抜けたらそれだけ能力が落ちるだろう!」

南風 「オレは無駄な事が大嫌いなんだ!」

チョビ(無駄って言い切った!)

 

南風の店長の堂々としすぎる一言に呆気にとられるアンチョビ。

 

イカ娘「くっ、ニセイカがここまでやるなんて予想外じゃなイカ!」

 

未だ決着に至る一撃を決められないことに焦りを感じ始めるイカ娘。

 

栄子 「どうする!こっちの攻撃は当たらないし、あっちの攻撃をくらうのも時間の問題だぞ!」

渚  「どうにかして、相手の注意を逸らせれば・・・・」

イカ娘「注意を逸らす・・・・。はっ!そうでゲソ!」

 

ふと、何かを閃いたイカ娘が、戦車内のメンバーに声をかける。

 

イカ娘「作戦は以上でゲソ!シンディ!やるでゲソー!」

シン 「OK!」

 

瞬間、イカ娘はチャーチルの後部地面に触手を突き立て思い切り伸ばし、チャーチルが前のめりになるように傾かせた。

即座にシンディーが眼前の砂浜に空砲を打ち込み、衝撃で大量の砂が舞い上がり、チャーチルとニセイカⅣ号の姿を覆い隠してしまう。

 

チョビ「うわっ!?」

ペパ 「うへっ、砂埃が!?」

カル 「これじゃ、前が見えません!」

南風 「なるほど、視界を隠して攪乱する作戦か。しかし!」

 

ニセイカ娘の目が特殊なレンズに切り替わる。

 

偽イカ「特殊センサーモード起動デゲソ」

南風 「こんなこともあろうかと、ニセイカはどんな状況においても周囲を見渡せるのだ!」

 

センサーを切り替えたニセイカ娘の視界には、砂埃の中にいる戦車の影がハッキリと見えていた。

 

偽イカ「発見デゲソ。撃テ!」

 

そして発射されたイカスミ弾は戦車の影に当たり・・・・バラバラになった。

 

偽イカ「エッ!?」

 

そしてバラバラになった戦車は、何本もの線のようなものにばらけ、そのまま地面に吸い込まれ消えていった。

 

偽イカ「ニセモノ!?・・・・ハッ!?」

 

段々と砂煙が晴れていったそこには、全く別の場所に構えるチャーチルがいた。

イカ娘は触手を地面に潜らせ、触手でチャーチルに見せかけていたのである。

 

イカ娘「奴はあそこでゲソ!撃てーーっ!」

シン 「Fire!」

 

ブシャア!

 

今度は完璧に、イカスミ弾は車長のニセイカ娘を仕留めていた。

 

ペパ 「おーっ!やった!イカっ子が勝ちましたよ姐さん!」

カル 「お見事です!」

チョビ「ふう・・・・。見ててヒヤヒヤしたよ」

 

はしゃぐペパロニの傍らで、胸をなでおろすアンチョビ。

 

南風 「まさかニセイカⅣ号が敗れるとは・・・・。予想外だった」

チョビ「ニセイカは確かに、西住たちレベルの性能を持っていた。だが、結局考えられるのはニセイカ娘一人分でしかない。もし相談しながら、それこそ五人の意見を出し合いながら戦えていたら、イカ娘たちに勝利はあり得なかっただろう」

カル 「西住さんの強さは、西住さん一人の力ではなく、みんなの力を一つにできること、ですからね」

ペパ 「よくわからねっすけど、まあ勝てたからめでたいっす!」

イカ娘「見たでゲソか!私たちの華麗な勝利!」

 

イカ娘がチャーチルに乗ったまま戻ってきた。

 

ペパ 「おお!見てたぜイカっ子!あそこで自前のマカロニを作るなんて、やっぱおめーはタダモンじゃねえな!」

イカ娘「当然でゲソ!」

 

感激したペパロニはイカ娘の方を抱き寄せて健闘を讃えている。

 

栄子 「おっさん、約束だぞ。南風の人気レシピ、教えてもらうぞ?」

南風 「ああ、分かっている。・・・・これだ」

 

南風の店長がレシピを書いたメモを栄子に渡す。

 

南風 「次は負けんぞ。新たな調整を加えて、再び挑戦させてもらうからな!」

イカ娘「うむ!次も負けないでゲソよ!」

 

そして、南風の店長はイカスミまみれのニセイカ娘とニセイカⅣ号を連れて去っていった。

 

シン 「そういえば、私たち初勝利だったんじゃない?」

渚  「言われてみれば・・・・。まあ、あれがちゃんとした戦車道の試合だったか、というと微妙なところですが」

イカ娘「勝ちは勝ちでゲソ!」

千鶴 「みんな、お疲れ様」

栄子 「そうだ、早速南風レシピ、見てみようか」

 

栄子はみんなの前でメモを開き、書かれた内容を公開した。

 

カル 「え・・・・」

 

メモを見て、みんなが呆気にとられる。

 

チョビ「南風特製、鉄板焼きナポリタンスパゲッティー・・・・!?」

 

そこには鉄板ナポリタンとそっくりなメニューのレシピが書かれていた。

 

みんな(被ってんじゃん!)

 

結局、メニューは採用されなかった。




いよいよ主要な高校が由比ガ浜に結集し始めてきました。

もちろん各高校一話ずつで終わらせるつもりはありませんので、これからも長くお付き合いいただけたら幸いです。

れもん×アンツィオコラボ、自分で書いておきながら最強すぎてたまりません。

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