侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


あんこうチーム→あん

カエサル→カエ
エルヴィン→エル
おりょう→おりょ
左衛門佐→左衛門

レオポンチーム→レオ
ナカジマ→ナカ

ねこにゃー→ねこ
ももがー→もも
ぴよたん→ぴよ

ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ
アッサム→アッサ


※この略称一覧が邪魔になりそうな場合は、どこかに補足するページを設けます。


大洗女子学園編じゃなイカ?
第1話・はじめての試合じゃなイカ?


イカ娘が戦車道を始めてから数日後。

大洗女子学園艦が神奈川港へ寄港し、大洗女子学園戦車道チームは由比ガ浜へ足を踏み入れた。

 

みほ 「ここが由比ガ浜・・・・」

沙織 「みぽりんみぽりん!ここ海水浴場があるんだよ!」

 

観光案内のパンフレットを広げながら、沙織が声を上げる。

 

優花里「由比ヶ浜海岸ですね。近くには江の島もありますし、かなり有名なレジャースポットのようですよ?」

沙織 「光る太陽!輝く海!ひと夏のアバンチュール!!どうしよう~♪おニューの水着買っちゃおうかな~♪」

華  「見せる相手もいないのに、ですか?」

麻子 「暑い・・・・。日影が欲しい・・・・」

カエ 「砂浜か・・・・。ブリタニアを思い出す!」

エル 「砂浜と言えば塹壕だろう!」

おりょ「月の名所は桂浜ぜよ・・・・」

左衛門「由比ヶ濱と言えば広重だろう」

三人 「それだ!!!」

典子 「ビーチ・・・・!」

あけび「ビーチと言えば、あれですねキャプテン!」

忍  「あれしかありませんねキャプテン!」

妙子 「こんなこともあろうかとネットの準備、しておきましたキャプテン!」

典子 「ナイスだ近藤!今日の我々は、ビーチバレー部だ!根性ーッ!!」

 

止めるヒマもなくアヒルさんチームが砂浜へ駆けてゆく。

 

そど子「ちょっと!団体行動を乱さないで!規則違反よ!」

パゾ美「あっ、待ってよそど子~」

ゴモヨ「水分補給もしないとダメだよそど子~」

 

バレー部を追いかけるそど子を、ペットボトルを持ったゴモ代たちが追いかける。

 

桂利奈「海だ~~っ!」

あや 「海~~っ!」

優季 「海だぞ~っ♪」

あゆみ「海水浴~っ!」

沙希 「・・・・(無言でついていく)」

梓  「もう、みんな!勝手に動いちゃダメだってば!」

 

すでに下に水着を着ていたウサギさんチームの面々は、制服を脱ぎ捨て水着姿で浜辺へ突撃している。

 

杏  「いや~みんな元気だね~」

桃  「ですが会長、ハメを外しすぎては外への示しがつきません。我々は少なからず世間からは注目されている立場です。もっと当事者としても自覚を__」

柚子 「まあまあ桃ちゃん、あまり厳しくしてても可哀そうだよ?」

桃  「しかし・・・・」

杏  「これまでず~っと戦車漬けで頑張ってくれてたんだし、羽目も外したくなるよ~」

桃  「会長がそう仰るなら・・・・」

柚子 「この夏でみんな、本当に大きく成長しましたからね」

杏  「ところで、ホントに留守番でいいの?陸地で海水浴なんて、今年は最後のチャンスかもしんないよ?」

ナカ 「あはは、お心遣いは嬉しいんですけどね」

ホシノ「あの試合以降、レオポンが機嫌直してくれなくて。まだメンテの目星もつかないんですよ」

ツチヤ「やっぱりEPSは無茶すぎましたかね~?」

スズキ「でもあの瞬間、レオポンは何よりも輝いていたぞ?」

ホシノ「またいつ乗ることになるかわからないし、出来るうちに修理は済ませちゃおう、っていうことに決まりましてね」

ナカ 「みんなの戦車のメンテも一緒に済ませておきたいんで。お気になさらず楽しんできてくださいねー」

杏  「いつもすまないね~。お土産たくさん買ってくるからね~」

レオ 「期待してま~す」

 

港から離れ、海岸沿いの道路であんこうチームと話を進める生徒会。

 

杏  「それで西住ちゃん、聖グロとの待ち合わせ場所はどこだっけ?」

みほ 「はい、こちらが由比ガ浜に寄港するころには、グロリアーナも到着していると言っていたのですが・・・・」

沙織 「見渡した感じ、うち以外に学園艦は見当たらないねえ」

華  「到着が遅れているのでしょうか?」

 

丁度その時、みほのケータイに着信。

発信元は、ダージリンからだった。

 

みほ 「はい、もしもし」

ダー 『ご機嫌よう、みほさん。そちらはもう到着された頃かしら』

みほ 「はい、こちらは今着いたところで・・・・」

ダー 『そう。申し訳ないのだけれど、こちらでちょっとしたトラブルが起こりまして』

みほ 「えっ?」

ダー 『どうやら機関部にトラブルが生じた模様で、今原因を探るために船を停めておりますの』

みほ 「ええっ!?だ、大丈夫なんですか!?」

ダー 『ええ。私どもの船舶科は優秀な娘たちが揃っていますから。でも、どうやらまだ出発のめどはたってはいないようですわ』

みほ 「そうだったんですか・・・・」

ダー 『お昼過ぎまでにはそちらに向かえるはず、とのことなので。心苦しいのだけれど、もう少し待ってていただけるかしら』

みほ 「いえ、ぜんぜん構いません。そちらも、お気をつけて」

 

みほがケータイを切る。

 

優花里「グロリアーナに何かあったんですか!?」

みほ 「うん、エンジントラブルで今動けないって」

沙織 「ええっ!?だ、大丈夫なの!?」

みほ 「ダージリンさんが言う限りだと、大したことじゃないみたいだから。お昼過ぎには着けるだろうって」

華  「安心しました」

麻子 「しかし、お昼過ぎとなるとゆうにあと5~6時間はかかるぞ。それまでどうやって時間をつぶす?」

沙織 「何言ってるの麻子。せっかく海に来たんだから、やることは一つでしょ!」

麻子 「ま、まさか!やめろ!離せ~!学園艦に帰る~!」

 

沙織は麻子を羽交い絞めにしたまま浜辺へ引きずっていった。

 

みほ 「あはは・・・・。でもどうしよう?水着なんて持ってきてなかったし__」

優花里「ご安心ください西住殿!」

 

優花里が満面の笑みでみほに何かが入ったビニール袋を突き出す。

 

みほ 「ふえっ!?優花里さん、まさか・・・・」

優花里「はい!僭越ながら西住殿の水着をご用意させていただきました!もちろん新品ですよ!」

みほ 「ええ~っ!?」

華  「うふふ、準備万端ですね」

優花里「さあ参りましょう!青い海が私たちを待っています!」

みほ 「・・・・。うん!」

 

みほと優花里、そして華は手をつないで砂浜へ駆けて行った。

 

杏  「あれ?そういえばアリクイチームは?」

柚子 「そういえばまだ出てきていませんね?」

 

船内に戻ると、アリクイチームの面々はトレーニングルームで延々と筋トレに勤しんでいた。

 

杏  「お~い、もう由比ガ浜に着いてるよ~」

ねこ 「にゃんと!?」

もも 「気が付かなかったもも!」

ぴよ 「やりすぎたぴよ!」

杏  「もしかしたらこの夏である意味一番成長したの、この子らかもしんないね」

柚子 「確かに・・・・」

 

その後、大洗女子の面々は海で楽しいひと時を過ごした。

 

みほ 「ふう、けっこう長く遊んじゃったね」

華  「そうですね、もうお昼頃でしょうか」

優花里「お腹すいてきましたね」

麻子 「お昼にしよう・・・・今すぐ休もう・・・・」

沙織 「麻子は浮き輪で浮かんでただけじゃない」

麻子 「バランスとるのも疲れるんだぞ・・・・浮き輪を舐めるんじゃない」

みほ 「あはは・・・・。それじゃ、お昼にしようか」

 

海から上がったあんこうチームは、あたりを見渡す。

 

沙織 「みぽりん、どこでお昼にしようか?」

みほ 「そうだね、やっぱり浜辺に近いほうがいいから、近くの海の家に・・・・」

 

ふとみほが一軒の海の家に目をやった瞬間、動きが止まった。

 

優花里「西住殿、どうしまし__」

 

優花里も止まる。

 

沙織 「えっ、どうしたの?何が__」

 

沙織の目線の先、とある海の家の軒先に、戦車が一台停まっていた。

 

華  「戦車、ですね」

沙織 「いやいやいや、さすがにアンバランスでしょ!」

優花里「食べに来たお客さんの物でしょうか?」

麻子 「流石にそんな暇人は__まあ、一時期の私たちも人のことは言えないか」

沙織 「でも、あの戦車って」

みほ 「うん。チャーチル、だね」

華  「どういうことでしょう?ダージリンさんがたは、まだ到着されてないのでは?」

優花里「戦車が同じだけで、持ち主は違う人かもしれませんね」

麻子 「もうどうでもいい。疲れたしお腹すいた。ここにしよう」

 

我慢できないという麻子がふらふらと海の家へ向かっていく。

 

優花里「そうですね。ちょうどいいですし、ここにしましょうか」

華  「お店の方が戦車を好きな方かもしれませんね」

沙織 「すいませ~ん、五人いいですか~?」

???「はーい」

 

沙織が呼ぶと、奥から店員が駆け寄る。

 

イカ娘「いらっしゃいでゲソ!海の家れもんにようこそでゲソ!」

沙織 「えっ?えっと・・・・」

イカ娘「五名様でゲソね?そこのテーブル席でいイカ?」

みほ 「は、はい」

 

初めて見るイカ娘に戸惑いながら、あんこうチームはテーブル席に着く。

 

麻子 「はぁ・・・・生き返った」

 

お冷を飲み干し、麻子はテーブルに突っ伏す。

他の四人の目線はイカ娘にくぎ付けになっている。

 

沙織 「何だろ・・・・あの子」

華  「可愛らしい子ですね」

みほ 「うん、それはそうなんだけど」

華  「恐らく、店員さんではないでしょうか」

優花里「コスプレか何かかもしれませんよ?」

 

視線に気が付いたのか、イカ娘が近付く。

 

イカ娘「ご注文は決まったでゲソ?」

みほ 「えっ、あっ、その」

沙織 「えっと、焼きそばひとつ」

優花里「私はカレーライスを」

華  「私もカレーを、お願いします」

麻子 「私は・・・・ラーメン・・・・」

みほ 「えっと、じゃあ私はエビチャーハンで」

イカ娘「かしこまったでゲソ。オーダー入るでゲソー」

 

イカ娘がオーダーを伝えるため千鶴のいる厨房のほうへ去っていく。

 

みほ 「ふう、焦っちゃった」

沙織 「あまりジロジロ見ちゃ悪いかもね」

みほ 「うん、そうだね」

 

店内には他に数名の客と、栄子、渚がいる。

 

優花里「やはりあのチャーチルに乗っているのは、この店の方たちなのかもしれませんね」

沙織 「どこかの戦車道チームに所属してるのかな?」

華  「商店街のチームという可能性もありますね」

沙織 「やっぱり神奈川だから、グロリアーナにあやかってチャーチルなのかも?」

みほ 「うん、そうかも」

 

麻子は話に加わる気力もないのか机に突っ伏したままでいる。

 

イカ娘「おまたせしましたでゲソー」

 

やがて順番に料理が運ばれ、全員の分がテーブルに並ぶ。

 

麻子 「おお~」

華  「とても美味しそうです」

沙織 「すごっ・・・・。海の家レベルじゃないよこれ!?」

みほ 「うん。すごくおいしそう!」

優花里「ここの料理人は只者じゃあありませんね!」

あん 「いただきまーす!」

 

五人一斉に料理に手を付け始める。

 

みほ 「おいしい!」

華  「はい!具も大きくて、でもしっかりと中までで味がしっかり染み込んでます」

麻子 「ただのラーメンに見えるのに、なんでこんな味が深いんだ・・・・!」

沙織 「こ、こんな料理作れたら、男の子なんて一発で虜にできちゃう!」

優花里「カレーには自信あったのですが、格が違いますね・・・・!」

麻子 「沙織、焼きそばちょっとくれ」

沙織 「うん?いいよ。じゃあ麻子のラーメンちょっとちょうだい」

優花里「西住殿も、ぜひこのカレーを食べてみてください!」

みほ 「ありがとう優花里さん、じゃあこのエビチャーハンを__」

イカ娘「じー・・・・」

 

気が付くと、遠巻きにイカ娘がみほたちのことを睨むように見つめている。

 

みほ (こっち見てる・・・・?さっきじろじろ見てたから、怒っちゃった?)

優花里「西住殿?どうかなさいましたか?」

みほ 「えっ?あっ、ごめんね優花里さん」

 

しばらくしてみほたちは全員食べ終わった。

 

沙織 「おいしかった~!」

華  「はい、大満足です」

 

みほたちは食後、ドリンクも頼んでまったりしていた。

しばし談笑していると__

 

イカ娘「ゲッソゲソ~♪ゲッソゲッソ~♪」

 

イカ娘が自分で運んだエビチャーハンを食べ始めるところだった。

 

優花里「あの子もこれからお昼みたいですね」

麻子 「エビ大盛りだな」

華  「あちらもおいしそうです」

沙織 「まだ入るの!?」

みほ (そうか。お腹すいてたんだ)

イカ娘「~~♪~~♪」

麻子 「幸せそうに食べてるな」

優花里「よっぽど好物なんですね」

沙織 「そろそろ行こうか?」

優花里「そうですね。そろそろダージリンさんから連絡が来る頃かもしれません」

みほ 「それじゃあ、お会計を__」

イカ娘「栄子ー。今日の戦車の練習はどうするでゲソー?」

あん 「!」

栄子 「マジか?今日もやるのかよ」

イカ娘「当然でゲソ!私はまだ全然満足してないでゲソ!」

栄子 「渚ちゃん、今日はどう?この後予定あったりしない?」

渚  「いえ、特に無いので大丈夫ですが」

栄子 「あとはシンディーか。・・・・まあ、暇だろうな」

イカ娘「決まりでゲソ!」

優花里「やはりあのチャーチルはこの海の家の人たちのだったんですね」

沙織 「あの子、役割は何だろ。・・・・まさか車長だったりして」

麻子 「あのカッコで戦車に乗るのか」

みほ 「ちょっと気になるけど・・・・邪魔しちゃいけないよね」

沙織 「そうだね。私たちも行こっか」

 

あんこうチームは席を立ち、会計を済ませるためレジへ向かい、千鶴がそれを受ける。

 

千鶴 「ありがとうございました」

沙織 「ごちそうさまでしたとってもおいしかったです!」

華  「また是非お邪魔したいです」

千鶴 「ふふ、ありがとう。・・・・あら?あなた達、大洗__」

みほ 「え?」

イカ娘「栄子ー。準備できたでゲソよー」

 

千鶴がみほ達を見て何か言っていたが、すでにチャーチルに跨るイカ娘が栄子を呼ぶ声にかき消された。

 

栄子 「気早すぎだっての!片付けがあるだろ!」

千鶴 「騒がしくって、ごめんなさいね」

みほ 「いえ、全然」

華  「お店で戦車道をされてるのですか?」

千鶴 「いいえ。あれはイカ娘ちゃんのお友達が貸してくれたの」

沙織 「借り物!?」

優花里「戦車を貸し借りできるお友達ですか・・・・。羨ましいです!」

栄子 「ほとんど借りパクだけどな」

沙織 「借りパク!?戦車を!?」

栄子 「ほんとは一緒に乗るために買ったみたいなんだけどな」

沙織 「買った!?一緒に乗るために!?」

華  「世の中には色々な方がいるのですね」

栄子 「いやー、あいつは異例だからなあ」

 

片付けが終わり、栄子と渚もチャーチルに乗り込み、エンジンをかける。

イカ娘はキューポラから正面を見据えている。

 

みほ (イカ娘?ちゃんが車長なんだ・・・・)

イカ娘「そろそろ試合をしてみたいでゲソねー」

栄子 「ワガママ言うなって。戦車乗れるだけ恵まれてると思えよ」

イカ娘「動くだけじゃ物足りないでゲソ!戦車道って戦車同士で戦うものなのでゲソ!?戦ってみたいでゲソ!」

栄子 (増長しとる)

渚  「でも私たちの周りにはほかに戦車を持っている人なんていないんですし、どこかで大会でもない限り対戦なんて無理ですよ」

イカ娘「むー・・・・」

みほ 「・・・・」

華  「お相手してあげたいんですね?」

みほ 「あっ・・・・。華さんには、わかっちゃうか」

沙織 「みぽりん、そういう所わかりやすいもん」

麻子 「私たちは構わない。戦車道をやる子が増えるのはいい事だ」

優花里「あの子も、きっと喜びますよ」

みほ 「ありがとう。でもダージリンさんとの待ち合わせもあるし、時間が__」

 

丁度その時、都合よくダージリンから連絡が入る。

 

ダー 『ご機嫌よう、みほさん。お待たせしておりますわ』

みほ 「いえ、お気遣いなく。トラブルのほうは、どうなりましたか?」

ダー 『やっと先ほど最終チェックも完了したと報告がありました。今から出発すれば夕方には到着するそうですわ』

みほ 「そうですか。大事にならなくて、よかったです」

ダー 『こちらからお誘いして、お恥ずかしい限りですわ』

みほ 「いえいえ、そんな。お気になさらないでください」

ダー 『ですので、私たちのことはお気になさらず。傍にいるチャーチルの方にも、宜しくお伝えくださるかしら』

みほ 「ふえっ!?ど、どうして」

ダー 『ふふっ、自分の乗っている戦車と同型の音くらい、聞けばすぐにわかりますわ。では、また』

 

みほはケータイを閉じ、ポーチにしまう。

 

優花里「どうでしたか?」

みほ 「うん、修理は終わって、夕方には着けるって」

麻子 「なら、まだ時間は十分あるな」

優花里「西住殿」

みほ 「・・・・うん。あの、ちょっといいですか?」

 

数十分後。

海の家れもんの前に、あんこうチームを乗せたⅣ号戦車が到着した。

 

イカ娘「おおーっ、戦車でゲソ!お主たちが相手してくれるのでゲソか!?」

栄子 「ホントにいいの?せっかく海に泳ぎに来てたのに」

みほ 「いえ、私たちはまだしばらくこちらにいる予定なので、大丈夫です」

千鶴 (Ⅳ号D・・・・。やっぱり、あの娘たちは・・・・)

渚  「あの、付き合ってくれるのはありがたいのですが、私たちまだ初心者でして・・・・」

沙織 「大丈夫!ちゃんとそっちに合わせるから!ね、みぽりん?」

みほ 「はい。それに装填されているのは当たっても絵の具が出るペイント弾ですから、戦車も周囲にも損傷はありません」

栄子 「なんだか気を使わせちゃうね。お手柔らかに頼むよー」

みほ 「はい」

イカ娘「どうでもいいから早く始めるでゲソ!待ちきれないでゲソ!」

 

イカ娘は目をキラキラ輝かせながら身を乗り出している。

二台の戦車は場所を移動し、戦車道専用エリアへ到着する。

四百メートルほど距離を離し、その真ん中には主審を引き受けた千鶴が立っている。

 

千鶴 「では、お互い、正々堂々と。__始め!

 

千鶴の掛け声とともに、二台の戦車が動き出した。

 

イカ娘「進め進めーっ!初勝利をわが手に収めるのでゲソーッ!」

渚  「彼女たち、どれほどの実力なのでしょうか」

栄子 「まあ、間違いなく私たちよりずっと上手だろうな。それにしても・・・・、あの戦車、どっかで見たような気がするんだよなぁ・・・・」

シン 「動く戦車を狙うのは初めてね。うまく当てられるかしら」

イカ娘「撃てーっ!」

栄子 「早ええよ!」

シン 「OK!・・・・Fire!」

 

しかし動きながら、ましてや動く戦車相手では全く当たらず、地面に着弾する。

 

イカ娘「外れたでゲソ!次、装填急ぐでゲソ!」

渚  「よい、しょっと!」

イカ娘「撃てーっ!」

 

次弾もあさっての場所に着弾する。

 

イカ娘「シンディー、どうしたでゲソ!練習の時はもっと当てられてたでゲソ!」

シン 「そうは言っても練習用の的は動かないし、練習の時はもっと的に近かったわ。ましてや行進間射撃なんてそんな高いスキル持ってないのよ」

イカ娘「ならばもっと近づくでゲソ!栄子、距離を詰めるでゲソ!」

栄子 「簡単に言うよなあ。こっちが近付けばくらう可能性だって上がるっていうのに」

 

しかし近づかないわけにはいかず、栄子はⅣ号を見ながら距離を詰め始める。

 

沙織 「チャーチル、距離を詰めてきたよ」

麻子 「あの距離で当てられないなら、仕方ない選択だな」

みほ 「華さん、チャーチルの進行ルートちょっと先に着弾させるように撃ってください。くれぐれも直撃はしないようにお願いします」

華  「はい」

 

みほの指示に、華はいともたやすく進行中のチャーチルの一メートル眼前に着弾させる。

 

イカ娘「うわっ!回避でゲソ!」

栄子 「うわっ、やべっ!」

 

目の前の着弾に焦った栄子は大きく左に切る。

 

イカ娘「うわあっ!?」

 

そして、左に切った先にも再び華は着弾させた。

 

栄子 「うおっ!?」

 

思わず栄子はブレーキをかけ、チャーチルは停止してしまう。

 

イカ娘「栄子、止まったらいい的でゲソ!・・・・でも、この距離で止まっていれば!シンディー、今でゲソ!撃てーっ!」

シン 「今度こそ!Fire!」

 

しかし弾道はわずかに逸れ、またしても当たらなかった。

今やⅣ号は、チャーチルを真正面に捉えている。

 

シン 「SHIT!」

イカ娘「渚!装填__」

みほ 「撃て!」

 

パアンッ!

Ⅳ号は完璧にチャーチルの砲塔にペイント弾を命中させ、カラフルな黄色の塗料がぶちまけられる。

 

イカ娘「うわあああ!?」

 

一瞬にしてチャーチルの砲塔とイカ娘の上半身は真っ黄色に染まった。

 

千鶴 「勝負あり!Ⅳ号チームの勝利!」

 

試合後、お互いのチームは砂浜に立ち、今の試合の意見交換を行っていた。

イカ娘は塗料を落とすために海で顔を洗っている。

 

栄子 「いやー、やっぱりてんでダメだったな私たち」

シン 「一発も当てられなかったわ。かすりもしない」

栄子 「シンディーは大学で戦車道やってたんだろ?砲撃の練習とかしなかったのか?」

シン 「練習も何も、私ポジションは通信手だったから」

栄子 「なーる」

みほ 「すいません、やりすぎちゃったかもしれません」

栄子 「いやいや、あれ以上手加減されたらこっちが惨めになっちゃうよ。やっぱりやってる子は動きが違うねー」

渚  「砲撃の間隔が凄く短かったです。あれだけ早く装填されたら、避ける暇もありませんね」

優花里「いえいえ、私なんてまだまだですよ」

栄子 「あの二発の着弾で完全に動きを制御されちゃったもんな。あれには驚いた」

華  「当てずに止める、というのも奥が深いものですよ」

 

和気あいあいとしている両チームのもとに、チャーチルの塗料を軽く流し終えた千鶴が歩み寄ってくる。

 

千鶴 「手加減した動きの中にも洗練された技術がつぶさに垣間見れたわ。さすが、大洗女子のあんこうチームさんね」

みほ 「えっ!?」

渚  「えええ!?」

栄子 「マジか!?」

シン 「ワーオ」

イカ娘「オーアライ?」

栄子 「おまっ!こないだテレビでもやってただろ!」

優花里「西住殿は今や時の人ですからね」

千鶴 「あら。貴方たちも知っているわよ?装填手の秋山優花里さん」

優花里「ぇっ!?」

千鶴 「砲手の五十鈴華さん」

華  「あらあら」

千鶴 「操縦手の冷泉麻子さん」

麻子 「私もか」

千鶴 「通信手の武部沙織さん」

沙織 「ひゃ~っ」

千鶴 「車長、大洗女子戦車道チームの隊長さん、西住みほさん」

麻子 「意外だな。隊長の西住さんなら知っている人は多いと思ったが、私たち個々まで知ってるとは」

千鶴 「ふふっ。戦車道は、私も大好きだから」

イカ娘「この人たち、有名人なのでゲソ?」

栄子 「戦車道やってて何で知らないんだよ!こないだの戦車道全国大会で優勝した大洗女子学園の主力チームだぞ」

イカ娘「どれだけすごいのでゲソ?」

栄子 「つまり、日本で一番強い子たちってことだよ!」

イカ娘「日本で一番・・・・!」

みほ 「いえ、あの、そんな大それたものでは」

渚  「日本一で大それたことはないって、どれだけのものなんでしょう」

シン 「視線はすでに海外へ、ということかしら」

 

みほたちの正体が知れ、栄子たちとの会話がさらに弾む。

そんな中、イカ娘の体が震え始める。

 

栄子 「?どうした、イカ娘?相手が凄すぎて、震えが来たか?」

 

イカ娘はみほの前にずいと歩み出て、きっと強い目線を向ける。

 

イカ娘「お主に真剣勝負を申し込むでゲソ!」

栄子 「はあっ!?」

みほ 「ふえっ!?」

 

突然の申し出に驚く面々。

 

栄子 「おいイカ娘、お前話聞いてなったのか!相手は日本で一番強いんだぞ!」

イカ娘「つまり、勝てば私が日本一ということでゲソ!人間どもに私の偉大さを知らせるビッグチャンスでゲソ!」

栄子 「身の程を知れよ!さっき手加減してもらってあれだぞ!」

イカ娘「今度は大丈夫でゲソ!絶対勝つでゲソ!」

渚  「いつもながら、根拠のないすごい自信ですね・・・・」

シン 「さすがに私も勝ち目はないと思うのだけど」

イカ娘「相手がどんなに強くても逃げるのは私の侵略の道に反するでゲソ!退いたら私の道は無くなっちゃうのでゲソ!」

みほ 「!」

 

みほはイカ娘の目を真っすぐに見つめ、決意したように真剣な表情になる。

 

みほ 「わかりました。本気でお相手します」

沙織 「みぽりん!?」

華  「あらあら」

みほ 「ですが、使用する弾は先ほどと同じペイント弾を使用します。それを呑んで頂ければ」

イカ娘「受けて立つでゲソ!」

栄子 「はぁ・・・・。今日に限ったことじゃないけどさ」

 

かくして同じ条件で、試合を再開することになった。

そして__

 

千鶴 「始め!」

みほ 「撃て!」

 

パアン!

 

イカ娘「うぎゃ!」

 

開始直後、正確無比な華の砲撃が開始地点からチャーチルに直撃し、速攻で決着がつく。

 

シン 「あの距離でこの精度!?」

渚  「やっぱり格が違いすぎますよ・・・・」

 

渚たちはすでに戦意喪失しているが__

 

イカ娘「まだ諦めないでゲソ!もう一試合でゲソ!」

 

まだイカ娘は諦めず、即座に再試合を申し込む。

 

千鶴 「始め!」

イカ娘「栄子!すぐ大きく左に曲がるでゲソ!」

 

再度の開幕直後の砲撃を警戒し、車体を大きくカーブさせるが、

 

みほ 「撃て!」

 

パアン!

 

イカ娘「うわああ!」

 

完璧な偏差射撃で横っ腹に被弾し、討ち取られる。

 

イカ娘「まだまだ!もう一度でゲソ!次はバックするでゲソ!」

 

パアン!

 

イカ娘「ならば右に!」

 

パアン!

 

イカ娘「こっちもすぐに撃つでゲソ!」

 

パアン!

 

イカ娘「撃ってきた瞬間に避けるでゲソ!」

栄子 「無茶言うな!」

 

パアン!

 

イカ娘「ゲソー・・・・」

 

結局、何度挑んでも瞬殺されてしまい、ついにイカ娘の戦意は尽きてしまう。

イカ娘は幾度のペイント弾の被弾のため、非常にカラフルになってしまっている。

 

栄子 (こないだ早苗んちに行った時こんなゲームあったな)

千鶴 「みんなお疲れ様。飲み物持ってきたわよー」

沙織 「わあ、ありがとうございます!」

華  「いただきます」

栄子 「いやーやっぱ半端ないわ。どうやっても避けれる気がしない」

みほ 「でも、段々動きがよくなってきてました。もっとフェイントを絡めた動きが出来れば、避けられるようになると思います」

麻子 「弾を避けるのに必要なのは、セオリーから抜け出した動きだからな」

シン 「あれだけの精度、どんな練習すれば身に着くの?」

華  「特に特別なことはしてないのですが・・・・。強いて言えばみほさんの教え方が上手だから、でしょうか」

みほ 「そんな事ないよ。華さんが頑張ってくれているからだもん」

渚  「でも、いい経験になりました。お相手、ありがとうございました」

優花里「いえいえ。同じ装填手として、お互い頑張りましょう!」

渚  「はい!」

栄子 「ほらイカ娘、お前もお礼言えって」

イカ娘「・・・・」

 

栄子が礼を促すが、イカ娘はうつむいたまま動かない。

 

栄子 「おい、イカ娘__」

イカ娘「つまらないでゲソ・・・・」

みほ 「えっ・・・・?」

栄子 「は?」

イカ娘「全然勝てないでゲソ!こんなの全然面白くないでゲソ!」

 

涙目で怒り始めるイカ娘。

 

栄子 「おい、イカ娘」

イカ娘「こっちの弾は全然当たらないし、そっちの弾は全然避けられないし、全然勝負にもならないでゲソ!」

栄子 「いい加減にしろ!こっちは素人なんだし、西住さんたちはずっと戦車道をやってきてたんだぞ!勝負になるはずもないだろが!それに本気で来いって言ったのはお前だろうが!」

イカ娘「ずるいでゲソ!そっちばっかり強くて不公平でゲソー!」

栄子 「イカ娘!!」

 

栄子が大声で叱りつけると、イカ娘の目に大粒の涙がこぼれ始める。

 

みほ 「っ・・・・!」

イカ娘「ううううーっ!戦車道なんて、やめてやるでゲソーっ!うわああああああん!」

 

イカ娘は泣きながら走り去ってしまう。

 

栄子 「ったく、ああいう所がガキなんだよ・・・・。ごめんね西住さん、あいつこういう所全然未熟でさ」

みほ 「いえ、そんなこと・・・・」

 

泣きながら去っていくイカ娘を、心配そうな目でみほは見つめていた。

 

イカ娘「うっ・・・・。ひっく・・・・」

 

夕暮れに染まり始めた、少し離れた別の海岸にて。

泣きじゃくるイカ娘は、波打ち際に座り込んでいた。

 

サクッ・・・・

イカ娘の背後で、誰かが砂を踏みしめる音がした。

 

???「イカちゃん」

イカ娘「・・・・?」

 

泣きすぎで赤くなったイカ娘の目に映ったのは、ペットボトルを持った沙織だった。

 

沙織 「隣、いい?」

イカ娘「・・・・」

 

拒絶が無かったので沙織はイカ娘の隣に腰を下ろす。

イカ娘の傍らにペットボトルを置く。

 

沙織 「綺麗な夕陽だね~」

イカ娘「・・・・」

沙織 「イカちゃんは、毎日この夕陽を見てるんだ?羨ましいな」

イカ娘「・・・・」

沙織 「戦車道、嫌いになっちゃった?」

イカ娘「・・・・」

沙織 「・・・・」

 

沙織は返事を急かさず、夕陽を見つめる。

 

沙織 「・・・・」

イカ娘「だって・・・・」

沙織 「うん?」

イカ娘「だって、全然勝てなかったでゲソ。少しも弾が当たらなかったでゲソ。勝負にもならなかったでゲソ」

沙織 「うん、そうだね。みぽりん、手加減なしだったね」

イカ娘「・・・・」

沙織 「・・・・」

 

イカ娘はまた黙り込んでしまい、沙織も目線を夕陽に戻す。

 

イカ娘「ズルいでゲソ」

沙織 「うん?」

イカ娘「そっちは誰にも負けないくらい強くて、こっちは弱いでゲソ。不公平じゃなイカ」

沙織 「そうだね~。私たち、考えたらすごい所にまで来ちゃったのかも」

イカ娘「楽しくないでゲソ」

沙織 「楽しくないの?」

イカ娘「だってそうでゲソ?戦車道は勝ち負けを競うって聞いたでゲソ。勝てなかったら意味がないじゃなイカ。お主たちだってずっと勝ってきたから、日本一になれたのでゲソ?私もそっちと同じくらい強かったら、絶対楽しかったでゲソ!私も最初から強ければ、あんな事には・・・・」

沙織 「それは違うよ、イカちゃん」

イカ娘「え?」

沙織 「最初から戦車道が強い子なんて、誰もいない。みんなはじめてから練習を続けて、上手くなっていくんだよ」

イカ娘「でも、強いから大会で勝ち続けたんじゃなイカ」

沙織 「・・・・実はね、イカちゃん。私、戦車道を始めたのは今年からだったの」

イカ娘「え?」

沙織 「華も、麻子も。戦車には詳しかったけど、実際に戦車道で戦車に乗るのは、ゆかりんも一緒だったの。みんな、戦車道のせの字も知らなかった初心者も初心者」

イカ娘「それで、どうしてあそこまで強くなれたのでゲソ?」

沙織 「今年の春、みぽりんが大洗に転校してきて。それで、いろいろあって、戦車道をやらなきゃいけなくなったの。みぽりんは前にいた学校でも戦車道をやってて、事情があってこっちへ来てたから」

イカ娘「それじゃ、西住さんがみんなを強くしたのでゲソ?やっぱり強い人がいたからじゃなイカ」

沙織 「ううん、みぽりんは確かに一から戦車道を私たちに教えてくれた。・・・・でも、私たちが強くなれたのは、みぽりんが教えてくれたからじゃない。・・・・楽しかったから、だよ」

イカ娘「楽しかった・・・・?」

沙織 「うん。みぽりんと同じ戦車に乗って、一緒に戦車を動かして。うまくできた時も、うまく行かなかった時も。負けた時も、戦車に乗ってない時だって、みぽりんと、みんなと一緒だったから。だから楽しかったの」

イカ娘「一緒だったから・・・・」

 

イカ娘の脳裏に、栄子たちの顔が浮かぶ。

 

沙織 「楽しかったから、だからみんなと一緒に戦車道を続けられた。一緒に戦車道を続けられたから、だから私たちは強くなれたの。勝負に勝つためじゃなくて、みぽりんのために」

イカ娘「西住さんのため・・・・」

沙織 「みぽりんがいてくれたから、私たちは戦車道を続けられた。戦車道を続けられたから、私たちは楽しかった。だから、楽しい戦車道をさせてくれたみぽりんのために私たちは頑張ったの」

イカ娘「・・・・」

 

イカ娘は何かを思い出すかのように遠くを見ている。

 

沙織 「イカちゃんにもいるはずだよ。一緒にいると楽しい、一緒に戦車道をしていたい人たちが」

イカ娘「・・・・」

 

朱い空に、栄子たちとしてきた戦車道の練習が浮かび上がってくる。

 

イカ娘『全速前進でゲソ!』

栄子 『うおっ、戦車って思ったより振動が凄いんだな』

渚  『確かに、ビールケースほどでは、ないかも!よいしょ!』

シン 『三バカはこの戦車に近づけないようにしないといけないわね』

イカ娘『進め進めーっ!でゲソーッ!』

 

この時、確かにイカ娘たちは笑顔だった。

 

沙織 「みんなと一緒に戦車に乗って、練習して、楽しくなかった?」

 

イカ娘は無言のまま首を横に振った。

 

沙織 「戦車道には確かに勝ち負けもあるよ。でも、楽しいのは勝負だけじゃないのは、イカちゃんにも分かってるでしょ?」

 

今度は縦に首を振った。

 

沙織 「それじゃ、これからどうすればいいか。イカちゃんにはもう分かるよね」

イカ娘「でも・・・・」

沙織 「うん?」

 

イカ娘はまだ不安そうな顔をしている。

 

イカ娘「きっとみんな怒ってるでゲソ。栄子だって、きっともう一緒に戦車に乗ってくれないでゲソ」

沙織 「ちゃんと謝ろう?イカちゃんがちゃんと謝れば、栄子さんもきっと許してくれるよ。一緒の戦車に乗る仲間なんだもん」

イカ娘「うん・・・・」

 

沙織は立ち上がり、イカ娘に手を伸ばす。

戸惑い気味ながらも、決意した顔でイカ娘も沙織の手を取る。

沙織は満面の笑みでイカ娘に語り掛ける。

 

沙織 「行こう、イカちゃん!」

イカ娘「うむ!」

 

しばらく後。

栄子たちは各々、あんこうチームに指導を受けていた。

 

麻子 「チャーチルは戦車としては遅い部類に入る。仕掛けるより、迎え撃つためのポジション取りが重要だと思う」

栄子 「なるほど。相手の位置を踏まえた初動の選択が大事って訳だな」

華  「こうしてシュトリヒから距離を計算して、レティクルを__」

シン 「あ、ごめんね?シュトリヒの計算ってまずどうするんだっけ?」

渚  「サーフィンもやっているので体力にも自信はあるのですが、連続で装填していると段々持ち上げられなくなってきちゃいまして」

優花里「同じチームに、装填動作の練習器を使っている子もいましたよ?今度作り方をメモしてきますよ」

みほ 「あっ」

 

ふと、みほが手をつないでこちらへ戻ってくる沙織とイカ娘に気が付く。

やがて、イカ娘は全員の前に立った。

 

栄子 「やーっと戻ってきたか」

イカ娘「えっと、その・・・・」

 

不機嫌そうな顔をした栄子を前にする。

決意はしたものの、いざとなると言葉に濁るイカ娘。

そんなイカ娘とつないだ手を、沙織がきゅっと握る。

 

イカ娘「!・・・・。さっきは、ごめんなさいでゲソー!!」

 

イカ娘が勢いよく頭を下げる。

 

栄子 「・・・・」

イカ娘「あんな事言ったけど、私はまだ栄子たちと一緒に戦車道をしたいでゲソ!だから__」

 

頭を下げっぱなしのイカ娘の前に栄子が立つ。

ビクッとしたまま固まるイカ娘の頭を、栄子がポンポンと手を当てる。

 

栄子 「ほんっと・・・・。お前は考えなしに発言しすぎなんだよ」

イカ娘「栄子・・・・?」

栄子 「いちいちお前の言ってること本気にしてたらこっちが持たん。気にしてないって」

渚  「そうですね。ちょっと負けが込んで、イライラしてただけですよね」

シン 「次は一発で当てるから!見てなさいよ?」

イカ娘「みんな・・・・」

 

ようやくイカ娘に笑顔が戻る。

 

イカ娘「西住さんたちも、ごめんなさいでゲソ」

みほ 「ううん、そんな。戻ってきてくれて本当によかった!」

麻子 「沙織が説得したのか、流石だな。どんな話をしたんだ?」

沙織 「ふっふっふ~、秘密♪」

華  「でも良かったです。これで元通りですね」

イカ娘「西住さん、また相手してくれなイカ?・・・・手加減ぎみでお願いするでゲソ」

みほ 「うん。またやろうね」

 

みほとイカ娘が固い握手を交わす。

 

イカ娘「次こそ、お主たちを侵略してやるでゲソ!」

 

その後、あんこうチームはダージリンと合流するため、Ⅳ号に乗って港へ向かった。

イカ娘は去っていくⅣ号にずっと手を振っていた。

 

優花里「楽しい人たちでしたね」

みほ 「うん。また会いたいね」

華  「海の家のほうにもお邪魔しましょう」

麻子 「次はチャーハン食べたい」

沙織 「私はラーメンかな~」

みほ 「きっと、あのチームは強くなるね」

沙織 「そうだね。間違いないよ」

みほ (それにしても・・・・)

 

各々思うことはあっても、考えることは一つだった。

 

あん (侵略って、何だろう?)

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ダー 「そうでしたの、そんな事が」

 

ダージリンたちと無事合流できたその日の夜。

大洗女子の戦車道チーム全員は、ダージリン主催の親睦会兼晩餐会に招かれていた。

大洗では出ないような豪華な夕食の後、あんこうチームはダージリンに誘われテーブルを囲みお茶を楽しんでいた。

 

みほ 「はい。個性的だけど、とってもいい人ばかりでした」

麻子 「とても海の家とは思えない海の家だったな」

沙織 「いろんな意味でね」

アッサ「運用する戦車にチャーチルを選ぶというのも、好感が沸きます。やはり神奈川と言えば、グロリアーナの戦車道を切り離して語れないのですね」

優花里「でも、その戦車は友達が貸してくれた、って言ってましたよ」

アッサ「貸しっ・・・!?」

 

流石にアッサムも狼狽える。

 

ダー 「友人同士は完全な平等のうちに生きる。この平等は、まず第一に彼らが会ったときに社会上のあらゆる相違を忘れるという事実から生まれる」

ペコ 「ボナールですね」

ダー 「戦車を貸してくれるということは、彼女たちもまた、それほどまでにその友達へ友情を与えている、という事ね」

みほ 「すごい友達ですよね」

ダー 「私たちも、みほさんが困っていたらマチルダの一台や二台、喜んでお貸ししますわ」

みほ 「お気持ちは嬉しいです。でも、私たちの使う戦車だから、自分たちの手で手に入れていきたいんです」

華  「初めてⅣ号に会った時のことを思い出します。あの時はまだ一台でしたのに・・・・」

優花里「各チームが眠っていた戦車たちを見つけ出して、それに乗って。そして今も乗っているのですから、まさに縁のなせる業、ですよね」

ダー 「みほさんたちのその『縁』、羨ましさも感じますわ」

沙織 「ダージリンさんたちは、今乗っている戦車は自分で選んだりしなかったの?」

ダー 「まさか。私たちの乗る戦車は、先輩方から粛々と受け継いだものですわ。私たちが戦車に選ばれるのではなく、戦車に選ばれるのよ」

みほ 「それも縁、ですよ。きっと、チャーチルはダージリンさんに乗ってほしかったんですよ」

ダー 「ふふっ。みほさん、可愛らしいことをおっしゃいますのね」

みほ 「あぅ・・・・」

ダー 「でも。私も、チャーチルで良かったと思いますわ」

みほ 「・・・・、はい!」

 

オレンジペコが紅茶を淹れ直し、各々に注ぎ始める。

 

華  「ありがとうございます」

ダー 「・・・・時に、みほさん?」

みほ 「え?はい」

ダー 「その海の家の方なのだけれど。その方のお名前は、相沢さん、で間違いないのかしら」

みほ 「はい。相沢栄子さん、です」

ダー 「ああ、ごめんなさい。お姉さん、店長さんの方ですわ」

みほ 「あっ、はい。相沢千鶴さん、です」

ダー 「相沢、千鶴・・・・」

みほ (ダージリンさん・・・・?)

 

千鶴の名前を呟くダージリンの表情はこれまで見てきた余裕のある表情ではなく、常に傍にいたアッサムやオレンジペコさえ見たことのない、重みのある思いつめたような表情だった。




初投稿からの執筆ペースから、毎週更新が出来そうです。

キャラの名前や表現、描写が間違っていた場合はご指摘いただけると幸いです。

ちなみにこの世界はサザエさん時空を採用していますので、みほたちが帰る日は話が続く限りやって来ません。(ご都合主義)

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