侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


シンディー→シン
マーティン→マー
クラーク→クラー

ジェニファー→ジェニ

イカ娘と仲のいいシャーマンチームのメンバー→チャー

サンダース大付属高校の生徒たち→サン生
サンダース生A、B→サンA、サンB


第5話・アイドルバトルじゃなイカ?

由比ガ浜沖に停泊している、サンダース大学付属高校の学園艦。

そこに所属している生徒の多数が、敷地内に設立されている多目的ホールに集められている。

大人数が収容できるほどの巨大なホールにひしめく生徒たち。

その中にはケイ、ナオミ、アリサらの姿もあった。

 

ケイ 「ワオ!すごい熱気ね!」

 

ホール内を見渡しワクワク感に満ちているケイ。

 

ナオミ「言われるままに移動したが、これから何が始まるんだ?」

アリサ「さっき言ってたでしょ?ライブよライブ」

ナオミ「ライブ?誰のだ」

ケイ 「えっとねー、私も実はよく知らないんだけど。アメリカで今大人気のカリスマ歌手で、ジェニファーっていうらしいわよ」

ナオミ「ふーむ・・・・初耳ですね」

アリサ「この夏は戦車道に明け暮れてたものね。でもたまにはこういう事にも触れないと、戦車道以外何もなくなっちゃうわよ?」

ナオミ「自分で触れることはまずないジャンルだからな。今日は楽しむとするか」

車長 「それにしても、今日のためにジェニファーを呼んだんでしょ?うちの学校って思った以上にすごいんだね」

通信手「うん、すごいよね~。スクイーディくらいすごい」

砲手 (それって、どういう評価なんだろう・・・・?)

 

うとい生徒も中に入るが、大半の生徒はジェニファーを知っているらしく、ウチワや横断幕、果てはグッズやハッピまで持ち込んだ猛者までいる。

ただでさえ普段から陽気な生徒が多いサンダースだが、今日の会場内の盛り上がりは今までに見ない。

やがてホール内が暗転し、歓声が上がった。

 

ケイ 「あっ、始まるみたいね」

 

途端、軽快なポップスが流れたかと思うと、スポットライトの当たるステージ中央から一人の女性が飛び出してくる。

一斉に沸く会場。

ステージに立つ人物がジェニファーであることは間違いなかった。

 

サンA「キャー!ジャニファーだー!本物だよ、本物!」

サンB「ジェニファー!こっち向いてー!」

ケイ 「ワオ!もうみんな虜になっちゃってるじゃない」

アリサ「ほんと、すごい盛り上がりですね」

ナオミ「それほど人気なんだろう」

ジェニ「Hello Everyone!」

サン生「イエー!」

 

すでに一体化したコール&レスポンスにより、会場は沸くに沸いている。

 

ジェニ「Fitst Track!Ready!?」

サン生「イエー!」

 

すぐに一曲目が始めり、ジェニファーが歌い始める。

軽快なポップが会場に響き渡り、大盛り上がりの様相を見せる。

 

ケイ 「ワーオ、いい曲じゃない」

ナオミ「そうですね。聞いてて気分が高揚してきます」

アリサ「・・・・」

 

持ち込んでいたオペラグラスを覗き込み、食い入るように見つめているアリサ。

 

ナオミ「いいもの持ってるじゃないかアリサ。ジェニファーはちゃんと見えたか?」

アリサ「・・・・」

 

しかしアリサは答えない。

よく見ると、グラスの向いている先はジェニファーよりやや手前、観客席側を映している。

 

ナオミ「アリサ?どこを見てるんだ」

アリサ「ああーっもう!タカシったらあんなにデレデレしちゃって!あんなの胸がデカいだけじゃない!」

ナオミ「そっちか」

ケイ 「ヘイアリサ、ちょっと貸してね」

 

アリサからひょいとグラスを預かり覗く。

ステージで歌い踊るジェニファーがアップになる。

ジェニファーの動きと歌に合わせ、ケイも自然と体が動く。

 

ケイ 「アハハ、見える見える!へえ、カワイイ子じゃない!・・・・あら?」

 

ふと、見ていたケイの動きが止まる。

じっとジェニファーの顔を見る。

 

ナオミ「どうしました?」

ケイ 「ナオミ・・・・あの子、見覚えない?」

ナオミ「え?」

 

ケイからグラスを受け取り、ジェニファーを見る。

しばらく見続けて、言いたいことに気が付く。

 

ナオミ「・・・・そっくりですね」

ケイ 「でしょ?」

アリサ「えっ?何何?」

 

ナオミは「ん」とオペラグラスをアリサに返す。

 

ナオミ「見てみろ。__タカシの方じゃないからな」

アリサ「わ、わかってるわよ」

 

釘を刺されつつ、おずおずとオペラグラスを覗く。

ステージで歌うジェニファーが見える。

その顔は、アリサにも確かに見覚えがあった。

 

アリサ「・・・・え?シンディー?どういうこと?」

ナオミ「よもや本人ではないと思うが・・・・気になるな」

ケイ 「これは、本人に確かめないといけないわね!__でも、その前に」

ジェニ「Are You Ready?」

ケイ 「イエーーーーイ!」

 

ともあれ、以降は全力でライブを楽しむケイたちだった。

それからしばらくして、海の家れもんにて。

 

シン 「はあ・・・・」

 

シンディーがスポーツ新聞を読みながらため息をついている。

 

イカ娘「暗いでゲソね。まだ宇宙人見つからないのでゲソ?」

シン 「それはまあ、どっちでもいんだけ__いえいえ、それもよくないんだけど」

栄子 (言い直した)

シン 「ほら、これ見てよ」

 

シンディーの差し出したスポーツ新聞の一面には、でかでかとシンディにそっくりなジェニファーの写真が載っている。

見出しには『カリスマの女王、来日!』と書いてある。

笑顔や歌手としての輝きなどの違いはあれど、見分けられる人はそうはいないほどの瓜二つ具合である。

 

栄子 「へえ、ジェニファー日本に来てるんだ」

シン 「そうらしいのよ。しかも来日は初だって言うわ。だからこの辺りでも騒いじゃって」

イカ娘「それとシンディーに何の関係が・・・・ああ、そういうことでゲソか」

シン 「そういうこと。ここに来るまでに何度も声を掛けられちゃって、対処するにも骨が折れたわよ」

イカ娘「そっくりさんも大変でゲソ」

栄子 「苦労してるなあ」

シン 「本当よ・・・・。はあ、早く帰ってくれないかしら」

 

ぼやきながらアイスコーヒーを一気飲みする。

 

シン 「あら、もうなくなっちゃった。おかわりもらえ__」

ケイ 「ああ、いたいた!ヘイ、シンディー!」

シン 「?」

 

ケイの呼び声に振り向くと・・・・ケイたちが同じスポーツ新聞を持ってれもんへ入ってきたところだった。

 

シン 「ゲッ」

 

一瞬にして事態を察するシンディ。

 

装填手「やっほ~スクイーディ」

操縦手「遊びに来たよー」

イカ娘「うむ、よく来たでゲソ!」

アリサ「出会い頭に『ゲッ』とは随分じゃない」

シン 「言いたくもなるわよ・・・・。要件はそれでしょ?」

 

シンディーが指さす。

ケイの手にしているスポーツ新聞には、でかでかとシンディーの写真がはみ出て見える。

 

ナオミ「やはりシンディーも知っていたか」

シン 「そりゃねえ・・・・嫌でも耳に入ってきちゃうってもんよ。それで?サインなら書かないからね?」

ケイ 「ん?」

アリサ「なんでアタシたちがシンディーのサインを欲しがるのよ」

シン 「え?だってそのために来てたんじゃないの?」

ナオミ「私たちがシンディーのサインをもらって何の意味があるんだ」

シン 「???何が言いたいの?」

アリサ「ジェニファーのサインなら自慢になるけど、シンディーのサインは別に自慢にはならないでしょ」

 

シンディーは言っていることの意味を理解できず、ぽかんとしている。

 

ケイ 「そっくりさんも大変よね。特にこんなに有名な歌手なんだもん」

シン 「!」

 

ケイの言葉にシンディーは驚き、震え・・・・

 

シン 「サ__」

アリサ「サ?」

シン 「Thank You Verymatch!」

 

シンディは涙目になりながらケイたちに抱き着いた。

 

アリサ「うわっぷ!?」

シン 「わかってくれたのは貴女たちが初めてよ!ありがとうありがとう!」

ナオミ「わかった、わかったから落ち着いてくれ」

 

しばらくして。

シンディーは上機嫌でケイたちにスイーツを奢っていた。

 

シン 「さすがサンダース生だわ!やっぱり物事を正しく見極める目に長けているのね!」

ナオミ「凄い笑顔だな」

ケイ 「こんなに喜ぶなんて思わなかったわ。私たちも訪ねた甲斐があったわね!」

アリサ「そうですね」

栄子 「それにしてもケイさんたち、よくシンディーとジェニファーが別人だってわかったね」

イカ娘「他の人たちはみんなシンディーをジェニファーだと思ってたでゲソ」

アリサ「そりゃ無理もないでしょ。ここまでそっくりなんだもの」

千鶴 「じゃあ、なぜ別人だと分かったの?」

車長 「実は、午前中うちの学校でレクリエーションがありまして」

アリサ「それで、ジェニファーがウチのホールでライブしてったのよ」

シン 「あら、そうだったの」

栄子 「日本での初ライブがサンダースの学園艦か。やっぱ格が違うねー」

ケイ 「アハハ、そこまでのものじゃないわよ。それでね、実物のジェニファーを見たんだけど、やっぱりすごくそっくりでね。チームではみんなシンディーさんだって大騒ぎだったのよ」

砲手 「私たちも何度もシンディーさんと顔を合わせていたのに、区別が全然つきませんでした」

ナオミ「だが本物のシンディーを見てきた我々としては、どうにも同一人物とは思えなかった」

アリサ「これは確認するっきゃないと思ってやって来た訳よ」

ケイ 「ジェニファーはまだ学園艦にいる。でも今れもんにシンディーがいるってことは、それが何よりの証明じゃないかしら?」

栄子 「そのためにわざわざ来てくれたのか?行動力あるなあ」

ケイ 「疑問に思ったことはすぐ解決させないと気になっちゃうタチなの。でもこれでスッキリしたわ!」

シン 「私も少し気が晴れたわ」

栄子 「こないだなんかも結構な騒ぎになってたもんな」

イカ娘「みんな本物だって疑わないものだから、シンディーにジェニファーの格好までさせてたでゲソ(※)」

 

※侵略!イカ娘第245話・そっくりさんじゃなイカ?より

 

シン 「あの時は自分を否定された気分だったわ・・・・」

栄子 「あれのせいで壊れたシンディーを戻すのに苦労したよ」

イカ娘「でも姿はそっくりでも歌はまるでダメダメだったでゲソね」

シン 「仕方ないでしょ。それが本業じゃないんだから」

操縦手「へえ、シンディーさん歌が苦手なんだ」

装填手「英語の歌だからかな?」

車長 「それじゃできないと逆におかしいでしょ」

砲手 「隊長は上手だったけどねー」

栄子 「ん?ケイさんは歌上手いんだ」

通信手「はい!隊長はすっごく上手ですよ!」

ケイ 「アハハ、そんなでもないよー」

ナオミ「ですがCDにもなって出ている程です。胸を張ってもいいことかと」

イカ娘「CDが出てるのでゲソ!?」

シン 「凄いじゃない!すでにメジャーデビューしてたの!?」

ケイ 「ううん、私はそんなすごいものじゃないのよ。戦車道の更なる普及のために、戦車道協会の要請を受けた隊長さんが集まって歌ったアルバムだから」

栄子 「いやいやいや、それだけでも十分快挙だよ」

イカ娘「ケイの歌、聞いてみたいでゲソ!」

ケイ 「あら、いいわよ?」

 

すんなりOKが出た。

すっとスマホを取り出し操作する。

少し距離を取り、正面に立つケイ。

と、おもむろにシャーマンチームの四人が背後に回る。

よく見ると四人はチアガールが持つようなポンポンを手にしている。

そして曲がスマホから流れてくる。

 

シャー「レッツゴーサンダース!」

 

曲に合わせシャーマンチームが掛け声とともにポンポンを振りながら踊り始める。

 

栄子 (バックダンサー!?)

 

チャーチルチームのコールから入り、ケイが歌いだす。

急に人前で歌うにも関わらず堂々と、楽しそうに歌声を披露している。

 

千鶴 「あら、すごく上手」

装填手「みんな上手ですよね~」

イカ娘「む?お主は歌わないのでゲソ?」

装填手「わたしリズムを取るのがちょっと苦手で~。一緒に歌うと置いてかれちゃうんだよね~」

栄子 (なんとなくわかる気がする)

 

曲は続いていき__

 

ケイ 「~♪」

 

ジャン!

 

曲が終わると同時に、店からたくさんの拍手が響く。

 

イカ娘「カッコよかったでゲソよ、ケイ!」

栄子 「ああ、これだけ歌えるんならCDになるのも納得だわ」

千鶴 「素晴らしかったわ」

ケイ 「アハハ、ありがとう!」

イカ娘「お主たちも息ぴったりだったでゲソ!」

車長 「ありがとスクイーディ」

装填手「隊長の足を引っ張らないようにだけは頑張ったつもりだもんね!」

栄子 「これならジェニファーとも渡り合えるんじゃないか?」

ケイ 「まさか。流石に本業のコに勝てるとは思ってないわ」

千鶴 「でもこれほどの才能を埋もれさせるには勿体ないわ」

 

店内を見ると、ケイの歌に惹かれてやって来たのか大勢の客で賑わっている。

 

栄子 「いつの間に・・・・」

ナオミ「隊長の歌の影響だな」

千鶴 「そうだ。ケイちゃん、お願いがあるんだけど」

ケイ 「?」

 

しばらくして。

 

イカ娘「おおー」

 

そこには早苗と、早苗が手掛けたアイドル衣装を身にまとったケイが立っていた。

チアガールを連想させる、ヘソ見せの露出度高めの衣装だ。

 

イカ娘「まるでアイドルじゃなイカ!」

栄子 「ほんと、こういう腕に関しては右に出るものはいないな」

早苗 「えへへ~」

ナオミ「隊長、お似合いですよ」

アリサ「ほんと、隊長って何でも着こなしちゃうわよね」

ケイ 「前にチアリーディングやってた時のユニフォームなんだけどね。もう着る機会も無いからしまいっぱなしだったのよ」

 

くるっと横に一回転する。

恵まれたボディが存在を主張し、軽い素材で出来た衣装がふわっと舞い上がる。

 

男客ら「おお~~・・・・」

 

何に対してとは言わないが、男性客たちから感嘆の声が上がる。

 

ケイ 「ありがとう早苗。想像以上の素晴らしい出来栄えだったわ!」

早苗 「私もやってて楽しかったわ。あっちの文化にも触れられて、インスピレーションにも恵まれたし!」

 

早苗はイカ娘の方に怪しい光を帯びた目線を送り、イカ娘は鳥肌を立てる。

 

ケイ 「それで、私はここから何をすればいいかしら」

千鶴 「実は、うちのお店には一人、アイドルがいるのよ」

アリサ「え!?」

 

そして。

 

鮎美 「わ、私ですか・・・・!?」

 

千鶴に呼ばれた鮎美は、即座にアイドル衣装に着替えさせられていた。

 

ナオミ「おお、アイドルだ」

アリサ(か、可愛い・・・・!まさかここにこんな可愛い子がいるだなんて・・・・!)

アリサ「タカシはここに来させないようにしないと・・・・」

ナオミ「アリサ、何か言ったか?」

栄子 「常田鮎美ちゃん。時々うちの店を手伝ってくれてる子なんだ。そしてうちの看板アイドルでもある」

ケイ 「へえ!れもんの看板アイドルだなんて、すごい子なのね!」

鮎美 「い、いえそんな大それたものじゃ!私なんて、タヌキの置物にも劣るくらいですから!」

ナオミ「かなり控えめな子のようだな」

栄子 「まあね。これでも良くなってきた方だよ。それでその一環としてアイドル活動をしてもらってたんだけど、そろそろ次の段階へ行くべきだって、姉貴が」

ケイ 「次の段階?」

千鶴 「ケイちゃん。鮎美ちゃんとコンビを組んでもらえないかしら」

アリサ「ええっ!?」

車長 (何でアリサさんが驚くんだろう)

千鶴 「ケイちゃんが鮎美ちゃんと組めば、もっと目立って多くの人に見てもらえると思うの。そうすれば鮎美ちゃんももっと人前に出るのが平気になるはずよ」

早苗 「確かに、一理あるわね。それで集まったお客さんの目線に耐えられれば、もう怖いものはないわね」

千鶴 「もちろんお礼はちゃんとするわ。今後はうちのメニューを全部一割引きにさせてもらうから」

装填手「一割引き!」

砲手 「いいなー、隊長」

 

車長たちがキラキラした目でケイを見つめる。

 

ケイ 「オーケー、わかったわ。でも私はいいから、この子たちにおまけしてもらえるかしら」

千鶴 「ええ、いいわよ」

通信手「やった~」

砲手 「隊長、ありがとうございます!」

栄子 「気前いいなあ」

ナオミ「そこが隊長のいいところだ」

イカ娘「ケイのアイドルでゲソか。いったいどうなるのでゲソかね」

早苗 「けっこういい線行くんじゃないかしら?」

シン 「・・・・」

 

そんな中、一人取り残され蚊帳の外なシンディーは、何だか悔しそうな顔をしていた。

かくして。

 

男A 「ケイちゃーん!」

男B 「あゆみちゃーん!」

ケイ 「イエーイ!」

鮎美 「う、うう・・・・」

 

ケイと鮎美のアイドルユニットは大好評で、店の中は大勢の客でにぎわっている。

 

男A 「いやあ、またアイドルが増えるとは思わなかったよ」

男B 「鮎美ちゃんもすごく可愛いけど、新しく入ったケイちゃんもすごくいい!」

男C 「あの日本人離れしたプロポーションとあの美貌!」

男たち「イッツフォーワンダフォー・・・・」

アリサ「まったく、ナンパな連中だわ」

 

二人の魅力にデレデレな男たちをアリサが冷めた目で見ている。

 

鮎美 (お、男の人がこんなにいっぱい・・・・!)

 

いつも以上の男性客の人数に、慣れ始めていた鮎美も怯み始めてしまう。

そんな鮎美に気づいたケイが、鮎美の手をきゅっと握る、

 

ケイ 「鮎美、リラックスリラックス」

鮎美 「ケイさん・・・・?」

ケイ 「鮎美はこれまでもアイドルやっていけてたんでしょう?なら、これまで通りにやればいいの。お客さんが多いとか、視線があるとかないとか関係ない。いつもの自分を出していけばいいのよ」

鮎美 「いつもの、自分・・・・」

 

鮎美はきゅっと目をつぶり、これまでのアイドル活動を思い出す。

そして決意したように、ケイの手をぎゅっと握り返す。

ケイは笑顔で頷く。

そして鮎美は目をかっと開き__

 

鮎美 「あの、豚の皆さん、こんにちわ!」

 

強烈な第一声を放った。

 

アリサ「!?」

ナオミ「!?」

ケイ 「鮎美!?」

 

しーんとする店内。

客が怒り出す!と焦りかけていると__

 

鮎美 「今日もゆっくりしていってくださいね!」

男客ら「うおおおおおお!鮎美ちゃーーーーーん!」

 

超盛り上がり始める。

 

アリサ「な、何!?悪口言われて余計にテンション上がってない!?」

栄子 「あれが鮎美ちゃんのスタイルなんだよ。緊張を解くために、頑張りすぎると観客が豚に見えるんだ」

アリサ「はあ!?」

栄子 「それでお客さんを豚呼ばわりし始めるんだけど、そのギャップがいいってことでコアなファンがついてるんだ」

イカ娘「あれで盛り上がるんだから不思議でゲソ」

ナオミ「理解しがたい世界だな・・・・」

 

ケイのパフォーマンスと鮎美の強烈な毒舌(?)トークにより大盛り上がりの店内。

 

早苗 「うーん、やっぱり実際に着て動くと予想より誤差があるわね。本番に向けて調整しなきゃ!」

栄子 「本番って何をするつもりだ」

早苗 「~♪」

 

早苗はそっぽ向いて口笛で誤魔化す。

と、そこへ__

 

???「そこまでよ!」

 

一人の女性が乱入した。

 

女A 「えっ、あっ、あれは!」

女B 「うそっ、ジェニファー!?」

 

そこには、ライブ衣装を着たジェニファー・・・・ではなく、ジェニファーの衣装を着こんだシンディーがいた。

 

男A 「えっ、ジェニファー!?」

男B 「すげえ、本物だ!」

 

突然のジェニファー(シンディ)の乱入に、客のケイたちへの目線が全部シンディーに向けられる。

視線を一点に集めながら、シンディーはステージに上がりケイと鮎美の前に立つ。

 

栄子 「おいシンディー、何やってるんだよ」

 

しかしシンディーは栄子に構わず、ケイと鮎美を指さす。

 

シン 「そこの二人!私と勝負しなさい!」

鮎美 「ええっ!?」

ケイ 「勝負?内容は何かしら」

 

うろたえる鮎美、動じず相手するケイ。

 

シン 「私を差し置いてアイドルを名乗るのなら、もちろん勝負内容はこれよ!」

 

ジャン!と取り出したのはマイク。

それが意味するのはもちろん__

 

ケイ 「歌で勝負、という訳ね?」

シン 「Yes!」

客たち「おおおおおーっ!」

 

思いもしなかった展開に沸くに沸く観客たち。

 

イカ娘「何やってるのでゲソか、シンディーは」

早苗 「ライバル心でも沸いちゃったのかしら」

栄子 「姉貴、止めなくていいのか?」

千鶴 「せっかくお客さんも盛り上がってるんだし、様子を見ましょ」

ナオミ「急な展開だな」

車長 「隊長ー!がんばれー!」

シン 「まずは私からよ!」

 

マイクを握り、息を吸う。

ジェニファーの曲が流れ始め__

 

シン 『We Live Here♪Welcome To Here♪』

 

流暢な英語で、完璧にジェニファーの歌を歌い始めた。

 

客ら 「おおおおー!」

 

さらに盛り上がる客たち。

 

イカ娘「シンディー、めちゃくちゃうまいでゲソ!」

ナオミ「私たちが聞いたジェニファーの歌と全く聞き分けが付かんな」

アリサ「まさに本人そのものじゃない!」

鮎美 (シンディーさん、すごく上手・・・・!)

ケイ (ワーオ、やるじゃないシンディー!)

栄子 「シンディーの奴、歌苦手なんじゃなかったのか?」

早苗 「突然上手になったとも思えないわね」

栄子 「ということは、まさか__」

三バカ「イヤッホーゥ!」

 

突然三バカが沸いた。

 

アリサ「うわっ、出たっ!」

栄子 「やっぱりお前たちの仕業か」

マー 「イエス!あれこそMIT主席ノ我々が開発シタ!」

ハリス「『自動音声変換マイク』デース!」

クラー「アレに向かって歌うト、セットした思い通りノ人物の声ヤ言語ニ装置が変換して出してクレるのデース!」

マー 「サラに!歌を歌えば、元ノ歌手の歌声ソノママに調整もシテくれる優れモノデス!」

ナオミ「つまり、シンディーはそれを使ってジェニファーの歌を歌っているように見せているのか」

ハリス「イエス!」

早苗 「そんなのズルじゃない!ジェニファー本人が歌ってるようなもんよ!」

三バカ「コレが科学の力とイウものデース」

アリサ「誤魔化すな!」

 

ジャン!

 

シンディーの歌が終わり、店内はいまだ興奮の渦に包まれている。

 

シン (道具に頼るのは心苦しいけど・・・・大勢に歓声を受けるのも悪くないわね)

シン 「さあ!次は貴女たちの番よ!」

鮎美 「・・・・!」

 

シンディーのジェニファーさながらのパフォーマンスを先に見せられ、鮎美はすっかり戦意を喪失してしまっていた。

 

ケイ 「鮎美」

 

ケイがポン、と鮎美の肩に触れる。

 

ケイ 「私たちの番よ。彼女に私たちのアイドルとしての意気込みを見せてあげましょう!」

鮎美 「ケイさん・・・・。でも、私なんかじゃ・・・・」

 

すっかり自信を無くして委縮してしまっている。

 

鮎美 「あんなすごい人に敵うほど、私は立派な人間じゃないんです・・・・。やっぱり私は、被り物をしていた方が__」

ケイ 「ヘイ、鮎美!私を見なさい!」

 

グイッ!

 

ケイが鮎美の頭を掴み、自分に向かせる。

 

ケイ 「鮎美、それは絶対に『貴女が後悔しない道』なのね?]

鮎美 「えっ・・・・」

ケイ 「不安があるのはわかるわ。私だって勝てるなんて思えない。だからって逃げたら絶対に後悔する。だから私はこの勝負から逃げない」

鮎美 「後悔しない道・・・・」

ケイ 「手段を選ばず勝つ方法より、正々堂々と負ける道を私は選ぶ。その方が自分に胸を張れるから」

鮎美 「ケイ、さん・・・・」

ケイ 「鮎美、後悔したくないのなら、自分のやりたいことをやりなさい。私たちはチーム。私は絶対に貴女の選択を信じる。責めたりなんかしない」

アリサ「うっ、何だか胸が痛い」

ナオミ「いい加減乗り越えろ」

車長 「懐かしいなあ、隊長のあの励まし方。落ち込んだ時、あの言葉が立ち直らせてくれたっけ」

通信手「青春だね~」

 

そして__

 

鮎美 「・・・・!」

 

鮎美は、強いまなざしでケイを見つめ返した。

ケイは、嬉しそうにふっと笑う。

 

ケイ 「さあ、私たちのアイドル道を見せてあげましょう!Go A Head!」

鮎美 「はいっ!」

 

ケイと鮎美は歌った。

それは、お互いを思い合う気持ちのこもった、優しくも力強い歌だった。

そして、沸く店内。

それの盛り上がりはシンディーの時に負けず劣らず、しかし観客の感動具合では圧倒的に勝っていた。

皆、惜しみない拍手を送り、涙ぐむ客までいる。

 

栄子 「勝負あり。だな」

シン 「そんな・・・・」

 

がっくりと肩を落とすシンディー。

と__

 

イカ娘「む?」

 

ふと見ると、シンディーのマイクから少し煙が出ている。

 

栄子 「何だ?煙?」

クラー「ああ、セーフティが発動シマしたネ」

早苗 「セーフティ?」

ハリス「イエス!アレは宇宙人との通話を成立サセる装置デモあるのデス」

マー 「故ニ、最高機密なのデス!」

クラー「ダカラ、役割を終えるト、回収されナイために__」

シン 「え?ちょっ、何こ__」

 

BOOOOMB!

 

シンディーが言い終わる前に、マイクが爆発した。

 

男D 「うわああああ!」

男E 「ジェニファーが爆発したー!」

 

蜘蛛の子を散らすように逃げ出す客たち。

客が誰もいなくなった店内には、呆気にとられるケイたちと、爆発で髪がアフロになったシンディーが立っていた。

 

ケイ 「オーマイゴッド・・・・」

鮎美 「シンディーさん・・・・大丈夫ですか!?」

シン 「・・・・」

 

しばらくムスっとした表情で立っていたが__

 

グッ!

 

シンディーは鮎美に笑顔で親指を立てた。

 

シン 「我ながら冷静さを欠いていたわ」

イカ娘「しょっちゅうでゲソ」

 

騒ぎが収まり、全員がいつもの服装に戻った後。

シンディーたちは一緒ののテーブルを囲み、一緒にドリンクを飲んでいた。

 

栄子 「それにしたってどうしてああなったんだよ。散々ジェニファーと間違われて愚痴ってたくせに」

シン 「うーん、そうなんだけれどね。同じようにアイドルをやっても、皆に高評価を受けてる二人を見てたら何だか悔しいって言うか、我慢できない気持ちが沸き上がってきちゃって。例えズルをしても、みんなに私にも出来るってところを見せたかったのよ」

早苗 「大人げないわねえ」

シン 「わかってるってば。__ごめんなさいね、せっかくのデビューをメチャクチャにしちゃって」

ケイ 「ノープロブレム。私は楽しかったわよ。鮎美もでしょう?」

鮎美 「はい。何だか私、少し変われた気がします」

千鶴 「確かにちょっとした騒ぎにはなっちゃったけれど、結果的に鮎美ちゃんの成長に繋げられたのなら成功と言えるかもしれないわね」

 

傍らにはボロ雑巾のようになった三バカが転がっている。

 

シン 「そう言ってもらえると助かるわ」

 

おもむろに手を差し出すシンディー。

 

シン 「これからもよろしく。戦車道を嗜むもの同士として、__アイドル同士として、ね」

ケイ 「オフコース!」

シン 「鮎美も、ね」

鮎美 「はっ・・・・、はい。よろしくお願いします」

 

ケイと鮎美は笑顔で握手に応えるのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

その後の海の家れもんにて。

 

イカ娘「また新聞にジェニファーの記事が載ってるでゲソ」

栄子 「またか。やっぱ大人気だなあ」

 

言われて新聞を開いてみると__

 

『白昼の惨劇!?カリスマ歌手ジェニファー、海の家で爆死疑惑!?』

 

と、デカデカと見出しに書かれていた。

 

栄子 「・・・・」

イカ娘「・・・・どうするのでゲソ、これ」

栄子 「・・・・まあ、放っておいていいだろ」

 

シンディーはその後、しばらくれもんに近寄ることができなかった。




実際、ケイほどの素質があればアイドルデビューも楽勝なのではないでしょうか。
彼女のリーダーシップとポジティブさ、フェアプレイの精神があれば何でもやれてしまうような気もしてきます。

鮎美の資質も実際は相当の物ですし、もし彼女が人見知りを克服出来たら敵う者はそうはいないのではないでしょうか。
(その場合、南風が繁盛して結果的にれもんはピンチになりかねませんが)

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