侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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第4話・フォーリンラブじゃなイカ?

アリサ(ほんっとしつこい・・・・!)

男A 「ねぇーいいじゃーん?」

男B 「一緒に遊ぼうぜ~?」

 

浜辺で男二人に絡まれる水着のアリサ。

そんなアリサを、ビーチチェアに寝そべりながらケイとナオミが眺めている。

 

ケイ 「あら、アリサ今日はモテモテじゃない」

ナオミ「本人は不本意そうですけどね」

男A 「いいじゃんか、お昼オゴるからさ、ね!」

アリサ「もう、ほっといてよ!」

男B 「ひゅ~っ、気が強いのもカワイイね~!」

アリサ(しつっこい・・・・!)

 

男たちを振り払おうと腕を上げるが__

 

男A 「おっとー」

 

はしっ

 

その前に男Aに腕をつかまれてしまう。

 

アリサ「ちょっ、放しなさいよ!」

男B 「ははは~、気が強いね~。でもそんなコも好きだよ~?」

 

わしっ

 

もう片方の腕も男に掴まれ、身動き取れなくなる。

 

男A 「はい、つっかまえたー♪」

アリサ「くっ・・・・!」

 

流石に男二人に捕まり振り払えないアリサ。

 

男B 「少しだけだからいいじゃ~ん?さあ、いこっか」

アリサ「た、隊長、ナオミ、助け__」

 

二人に助けを求めるが、二人は__

 

ケイ 「(グッ!)」

 

ケイは親指を立てて笑顔を返した。

 

アリサ(見捨てられた!?)

 

助けはないと絶望するアリサ。

 

ナオミ「意外ですね。こういう時はすぐ助けに割り込むのもだとばかり」

ケイ 「まあ、直接害はなさそうだし。アリサもああいう輩に対する対処は自分でできるようになった方がいいかなと思って」

ナオミ「・・・・楽しんでるでしょう」

ケイ 「ナオミもでしょ?」

ナオミ「イエス」

アリサ(なんでこうなるのよ!タカシの誘いだったら無条件で受けるのに、アタシに近寄ってくるのはこんな男しかいないの!?どうしてアタシだけこんな目に合うのよ!タカシ・・・・助けてよタカシィ!)

 

と、身に降りかかる不幸を呪いながらタカシの名を叫んでいると・・・・

 

???「おい!やめないか!」

 

背後から声がしたと思うと、日焼けしたがっちりとした腕が男たちの腕を掴む。

 

男A 「あたたた!な、何だ!?」

男B 「いてて!だ、誰だよ!?」

アリサ(えっ、誰?もしかしてタカシ!?)

 

掴まれた痛みでアリサを離す男たち。

いったい何事が、と振り返ると、そこには__

 

悟郎 「人に迷惑をかける行為はやめろ!ここは泳ぎに来た人たちが楽しむための場所だ!」

 

一人で二人分の男を制止しながら説教する悟郎がいた。

男たちは抵抗しようとするも、人命救助のために本気で体を鍛えている悟郎の筋力に適うはずもない。

抵抗も無駄と悟り、すごすごと去っていった。

 

悟郎 「ふう。君、大丈夫か?」

アリサ「え?あ、ハイ」

悟郎 「時々あんな輩が出るんだ。こんなことでここを嫌いにならないでくれよ。俺はライフセーバーの嵐山。何か困ったことがあったら、すぐ呼んでくれ。それじゃ」

 

さわやかに去っていく悟郎。

その場には、呆けたように顔を赤らめるアリサと・・・・

 

ケイ 「・・・・ナオミ、見た?」

ナオミ「ええ、見ました」

 

面白いものを見てしまった、という顔をするケイとナオミが取り残された。

その後、海の家れもんにて。

渚がいつものようにバイトに勤しんでいる。

 

渚  (ふう、今日はお客さん多いなあ。この人たち、大半が千鶴さんの料理目当てなんだから、凄いなあ・・・・。__あれ?あそこにいるのって・・・・アリサさん?)

 

ふと目線を送った先には、物陰から何かを探るアリサの姿があった。

何を見ているのだろう、と目線の先を追うと__

 

悟郎 「しっかりしろ!もう大丈夫だからな!」

 

溺れた男の子を助け出し、海岸まで背負ってきた悟郎が応急処置を行っている所だった。

幸いにも大したことはなく、すぐ男の子は意識を取り戻した。

ぺこぺこと頭を下げる母親に、悟郎は軽く手を上げて去っていった。

そんな様子を、アリサは凝視している。

 

渚  (もしかして・・・・嵐山さんを見てる?)

千鶴 「渚ちゃん、ラーメンあがったわよ」

渚  「あ、はいっ!」

 

もう少し様子をうかがいたかったが、バイトをおろそかにするわけにはいかず、業務に戻った。

 

ケイ 「見てるわねえ」

ナオミ「見てますねえ」

 

れもんでアイスコーヒーを飲みながらアリサを観察するケイたち。

 

ケイ 「ま、アリサの気持ちはわからなくはないわ。自分のピンチを救ってくれた、真っすぐな目をしたマッスルガイ、気にしない方が難しいかもねー?」

ナオミ「まあ、実りそうにない片思いですからね。新しい恋に目覚めるのも仕方ないかと」

ケイ 「その時は応援してあげなきゃね。ラブストーリーはいつもハッピーエンドじゃなきゃ!」

ナオミ「具体的にはどうしましょう。__言っておきますけど、私は経験がないので提案なんてできそうにありませんが」

ケイ 「Oh」

ナオミ「ここは隊長に一任します」

 

ナオミに振られ、目線を外すケイ。

 

ナオミ「・・・・隊長?」

ケイ 「~~♪」

 

そっぽを向いて口笛を吹くケイ。

 

ナオミ「・・・・もしや、隊長もそういった話は全然__」

ケイ 「ヘイ!追加オーダープリーズ!」

 

誤魔化した。

 

渚  「では、お先に失礼します」

千鶴 「ええ、お疲れ様」

 

バイトを上がった渚。

周囲を見渡すと__

 

渚  (いた・・・・)

 

まだアリサが悟郎を見続けている。

砂浜を見回る悟郎の後ろからつけるアリサ。

今日は海水浴客が多いせいで、悟郎はアリサの追跡に気づかない。

悟郎のパトロールは続き、迷子の保護、ポイ捨ての注意と指導、海水浴客にからむ酔っ払いの制止など、様々な役目をこなしている。

その挙動を見逃すまいと見つめるアリサ。

どこから取り出したのかメモとペンまで用意し、何かをメモっている。

 

イカ娘「む?」

 

と、イカ娘がそんな様子のアリサを見つける。

 

イカ娘「おーい、アリサよ、何しムグッ」

悟郎 「ん?」

 

声に気が付いた悟郎が振り向くが、イカ娘の口をふさいだアリサは上手く人並みにもを隠す。

 

アリサ「危なかった・・・・」

イカ娘「ぶはっ、いきなり何するのでゲソ!」

アリサ「ごめんってば。ちょっとワケありなのよ」

イカ娘「さっきから悟郎を追いかけて、何をするつもりでゲソ?」

アリサ「ああ、見られてたのね・・・・。この際だからちょうどいいわ。アンタ、嵐山さんについて詳しい?」

イカ娘「詳しいも何も、悟郎は私の永遠の敵でゲソ!」

アリサ「どういう関係かわかんないけど・・・・とりあえず知り合いなのね。じゃあ少し聞きたいんだけど」

イカ娘「む?」

 

そんな二人の様子をさらに物影からこっそり見ている渚。

 

渚  (今度はイカの人と接触してる・・・・。何を聞いてるんだろう)

 

アリサの動向が気になってたまらない渚。

そしてそんな渚を__

 

栄子 (じー・・・・)

 

さらに物陰からこっそり見ている栄子。

 

栄子 「渚ちゃん、バイト中なんだかそわそわしてると思ったけど・・・・まさか、こんなことになってるとはね」

ケイ 「なかなか複雑な関係よねー」

ナオミ「まったく」

栄子 「うわっ!?」

ナオミ「シー」

 

いつの間にか栄子の真後ろにケイとナオミが立っていた。

人差し指を立てるナオミ。

簡単に事情を説明するケイ。

 

栄子 「なるほど・・・・。アリサは悟郎にナンパから助けてもらったのか。そこから、アリサが悟郎を目で追っている、と」

ケイ 「ええ。これは放っておけない事態じゃない?チームメンバーの悩み事は、リーダーとしてしっかり把握しておかなくちゃ!」

栄子 (理由はもっともらしいが・・・・そんなに目をキラキラさせて言われてもなあ)

 

ちらり、とナオミを見ると、ナオミは『察してくれ』とおどけながら苦笑いする。

 

ケイ 「ところで・・・・渚はどうしてアリサをつけてるのかしら?」

栄子 「ああ、それは__」

 

栄子はかいつまんで渚が悟郎に抱いている(と思い込んでいる)感情を説明する。

 

ナオミ「なるほど、命の恩人に特別な感情を抱いても不思議はない」

ケイ 「至って健全なフォーリンラヴね!」

栄子 「しかし、そうなるとかなりややこしい関係になるな」

ケイ 「アリサはゴローが気になる」

ナオミ「だが渚もゴローを慕っている」

栄子 「そして当の悟郎は姉貴にゾッコン」

三人 「・・・・」

三人 (滅茶苦茶面白い状況になってる!)

 

ワクワクが止まらなくなる三人。

 

ケイ 「これは行く末を見届けないといけないわね。悲しい結末に終わったとしても、隊長として心のケアをしてあげるのが隊長の務めだもの」

栄子 「渚ちゃんは大事なれもんの仲間だからな。いざというときは支えてあげなきゃな」

 

あからさまな大義名分を述べ行いを正当化する三人。

 

ナオミ「むっ、動きがありますよ」

ケイ 「!」

栄子 「!」

 

食い入るように注目する。

 

女性 「あ、あのっ!」

悟郎 「ん?」

 

一人の女性が悟郎に声をかけてきた。

 

女性 「あのっ、覚えておいででしょうか!?先週、岩場に落ちて溺れていたところを助けていただいた・・・・」

悟郎 「ああ、あの時の!もう大丈夫なのか?」

女性 「はいっ、おかげさまで!あの時は本当にありがとうございました!」

悟郎 「そうか。あのあとすぐに搬送されたから、どうなったか気になってたんだ。無事で何よりだったよ」

 

笑顔を浮かべる悟郎に、女性はもじもじしながら何かを取り出した。

 

女性 「あの、差し出がましいとは思うのですが、これを受け取ってください!」

 

女性が差し出してきたのは、一通の封筒。

貼ってあるシールや外見からして、いかにもラブレターにしか見えない。

 

アリサ(!あれって、ラブレター?)

渚  (まさか、告白!?)

 

食い入るように見つめるアリサと渚。

しかし、悟郎は受け取りはせず、そっとその手紙を手で押し返す。

 

悟郎 「別に気にしないでくれ。俺はライフセーバーとしてやるべきことを果たしたまでだからな」

女性 「でも、私は・・・・」

悟郎 「これは俺の使命なんだ。こういったものを受け取るためではないんだ。これは君のために使ってくれ」

女性 「そう、ですか・・・・」

 

女性は少し寂しそうにしながら去っていった。

 

アリサ(断った!)

渚  (やっぱり、悟郎さんは千鶴さん一筋なんだなあ・・・・)

女性が去ったあと、磯崎が悟郎にとびかかる。

 

磯崎 「この贅沢モンがあ!」

悟郎 「うわっ!?何だよ磯崎!」

磯崎 「オメー、今女の子からラブレターもらってただろ!それを断るなんて何考えてんだコラ!」

悟郎 「はあ!?そんなわけないだろう!海水浴客全員を平等に扱うため、贈り物とかは貰っちゃいけないことぐらいお前も知ってるだろ!」

磯崎 「贈り物って、おま__!・・・・はあ、お前のこったから、千鶴さん以外の女の子になびくとは思っちゃいねえけどよ」

アリサ(千鶴・・・・って、れもんの店長さんよね?彼は想い人がいたのね・・・・)

渚  (アリサさん、悟郎さんに好きな人がいるのを知ってショックみたい・・・・)

 

後ろから伺いながら、アリサの気持ちを察する渚。

と、アリサは悟郎の後をつけるのをやめ、あさっての方向に歩いて行った。

渚もそれを追いかける。

メモを書き終え、アリサは立ち止まる。

 

アリサ(高い背、引き締まった体と筋肉、誠実な性格、そして想い人・・・・。間違いない)

アリサ「あの人、タカシにそっくり!」

 

目を輝かせるアリサ。

 

アリサ「あの人を観察していれば、タカシの攻略法も見つかるかもしれない!男の子の好みもわかるし、プレゼント選びの参考にもなるわ!想い人がいる人対策もわかるかもしれないし、これはいい人材を見つけたわ!」

渚  (あれ!?逆に燃え上がってる!?アリサさん、障害があるほど燃え上がるタイプだったんだ・・・・)

 

もう少し様子をうかがおうとアリサに近づいていくと__

 

アリサ「そうとなれば、れもんに張って彼と千鶴さんを観察するわよ!」

 

と、勢いよくUターンすると__

 

渚  「あっ!」

アリサ「あら?渚じゃない」

 

様子をうかがおうと近寄りすぎた渚と目が合った。

 

アリサ「どうしたの、こんな所で」

渚  「ええっ!?あの、その、バイトも終わったんで、少し泳ごうかなと__」

アリサ「制服のままで?」

渚  「うっ・・・・」

 

的確なツッコミに怯む渚。

流石につけてましたとは言えず、言葉を探す渚。

考えすぎて、テンパりはじめる。

 

渚  「あのっ、さっき悟郎さんのこと見てましたよね!?」

アリサ「えっ?!」

渚  「あ」

渚  (しししししまったー!)

 

慌てすぎて言ってはいけないことを言ってしまい、思考が止まる渚。

パニックと恥ずかしさから、顔が紅潮してしまう。

 

アリサ(!もしかして__)

 

アリサはピーンときた。

 

アリサ(渚って、彼のこと好きなんじゃ!)

 

ややこしい考えを思い付いた。

 

渚  (どうしよう、制服でアリサさんをつけまわしてたなんてみんなに知られたら、もう顔向けできない・・・・)

 

後悔から顔を伏せる渚。

それを見てアリサは確信する。

 

アリサ「大丈夫よ、渚!」

渚  「えっ!?」

アリサ「ゼッタイ他の人には(嵐山さんが好きだなんてことは)バラさないから!」

渚  「ほ、本当ですか!?」

アリサ「ええ。サンダース生に二言はないわ!」

渚  「あ、ありがとうございます・・・・」

 

ほっとする渚。

 

アリサ「それにしても渚、アンタも苦労人ね」

渚  「あはは・・・・。まあ、嵐山さんのためですから」

アリサ「?彼に何か恩があるのかしら」

渚  「はい、実は__」

 

渚は先日サーフィンしていた時に溺れかけ、悟郎に助けてもらったことを話す。

 

アリサ「なるほど。そういう訳だったのね」

アリサ(それは惚れるのも無理ないわね、うん)

渚  (それで恩返ししたくて、千鶴さんとの仲を取り持ってあげたいんだけど・・・・)

 

目の前に悟郎を想っている(と思っている)アリサを前にはそれは言い出せなかった。

 

渚  「アリサさんは、嵐山さんをどうして?」

アリサ「それはね・・・・」

 

今日、強引なナンパ二人組から助けてもらったことを話す。

 

渚  「そうでしたか。さすが嵐山さんです」

アリサ「そうね。彼ほどしっかりした男はそうはいないわね」

アリサ(タカシ以外は)

アリサ「だから、彼をもっと知りたいのよ」

渚  「そうだったんですね」

アリサ「そうだ。ねえ渚、アンタ私より彼との付き合いながいでしょ?色々教えてくれないかな」

渚  「ええっ?」

 

急な申し出に戸惑う渚。

 

アリサ「彼の好きそうなものとか、喜びそうなこととか。なんでもいいから教えてほしいのよ」

アリサ(嵐山さんを参考にすれば、きっとタカシが喜ぶものもわかるはず!)

渚  「ええっと・・・・」

 

しかし渚はその提案に渋る。

 

渚  (どうしよう・・・・。アリサさんは本気で嵐山さんを好きなんだ。でも嵐山さんは千鶴さんしか見てないし、このままアリサさんがアタックしても、結果的にアリサさんを傷つける結果になっちゃうかもしれないし・・・・)

 

アリサの失恋を危惧して考え込む渚。

 

渚  (私としては嵐山さんには幸せになってほしい。アリサさんとの橋渡しは、嵐山さんにとっては迷惑になってしまうかもしれない。でも、アリサさんの気持ちも無視できない)

 

しばらく考えたのち

 

渚  「わかりました。私に出来る範囲でなら」

渚  (嵐山さんが千鶴さんとアリサさん、どちらと結ばれるのが幸せなのか見極めよう。それが一番嵐山さんのためになるのかもしれない)

アリサ「ありがとう!もちろんこっちも見返りはあるからね!」

渚  「?あ、ありがとうございます」

 

お互いがお互いを誤解しながら話は進んでいった。

 

アリサ「(タカシ攻略のための情報を)よろしくね、渚」

渚  「はい、(嵐山さんの幸せのために)がんばります!」

 

固く握手を交わす二人。

 

ケイ 「あら、何か話してたと思ったら、握手かわしてるわ」

ナオミ「ライバル同士、正々堂々と、ということでしょうか」

栄子 「いやー、ますます目が離せないわ」

イカ娘(こ奴ら、いったい何をしてるのでゲソ)

 

さっぱり状況が呑み込めないイカ娘は、終始?マークが頭に浮かびっぱなしだった。

れもんに戻ってきたアリサと渚。

奥の席でテーブルを挟み話し合っている。

 

アリサ「何事もまずは作戦会議よ。彼の好みを聞き出すには、段取りとチームワークが絶対条件」

渚  「直接お聞きするのは、さすがに気が引けますからね」

アリサ「そうね。なにも正面から突破するだけが作戦じゃないわ。陽動から引き付けての横撃。戦車道においても情報戦においても一手絡めるのは常套手段」

渚  「具体的には、どうしたらいいのでしょう」

アリサ「まずね__あら」

悟郎 「お邪魔します、千鶴さん!」

千鶴 「あら、悟郎さんいらっしゃい」

 

と、当の悟郎がれもんにやって来た。

 

アリサ「これは好都合ね!いい?渚。まずは__」

 

悟郎は近くのテーブルに座り、千鶴の料理を待ちわびている。

渚はその隣のテーブル席に座り、近場にスタンバイする。

 

アリサ(よし、作戦開始よ!)

渚  (これでうまく行くのかな・・・・)

 

席を立ちあがる渚。

しかし椅子が足に引っ掛かり__

 

渚  「えっ?きゃあっ!」

 

つんのめって倒れてしまう。

丁度悟郎の真横になるように。

 

悟郎 「っと、大丈夫か渚ちゃん」

渚  「すいません」

 

悟郎が手を伸ばす。

悟郎の手を掴み、引き起こしてもらう渚。

 

渚  「椅子に足が引っかかっちゃって・・・・」

悟郎 「気を付けないと駄目だぞ?ケガしてからじゃ遅いんだ」

 

もちろん演技なので痛くもなんともないが、派手に転んで見せたので悟郎は気にかかっている。

 

悟郎 「とりあえず、そこの椅子に座って。足にケガしてないか見てみるから」

渚  「ええっ!?いいですよ、大丈夫ですから」

悟郎 「いいから。後で異常が見つかってからじゃ遅いぞ」

 

渚を自分と同じテーブル席に座らせる。

渚の足を押したり軽く曲げたりしてケガがないか確かめる悟郎。

 

悟郎 「うん、捻挫はしていないようだな。打ち身もないようだから、心配はなさそうだ」

渚  「ありがとうございます」

 

こうしてうまく悟郎と相席になった渚。

 

アリサ(第一フェイズは成功。続いて第二フェイズよ!)

渚  「嵐山さんって、本当にすごいですよね。自分を鍛えるだけじゃなくて、他人のためにすごく頑張ってくれていますし」

悟郎 「そりゃライフセーバーだからな。人命救助には応急処置の知識は欠かせない。誰かがピンチな時に、知識がないから助けられません、なんて事態は望んじゃいないからな」

渚  「さすが嵐山さんです」

悟郎 「ありがとう」

 

ライフセーバーとしての自分を褒められ、顔をほころばせる悟郎。

近くのテーブルで聞き耳を立てているアリサには、会話がすべて入ってきている。

 

アリサ(いい感じよ。相手のいいところを持ち上げて心を開かせ、無警戒に持ち込ませる。情報を聞き出すにはもってこいだし、彼も渚にいい印象を抱くはずよ)

渚  (自然な流れで悟郎さんの情報がどんどんアリサさんの耳に入っていく。こうやって間接的に嵐山さんの好みを探っていく作戦、うまく行ってるかも)

ケイ 「共同戦線を張ってるわね」

ナオミ「アリサが立案、渚が実行部隊。うまく彼から情報を聞き出してるわ」

栄子 「渚ちゃんも大胆だなあ、あんな演技までするなんて。まあ、アリサじゃまだ同席できるまでの交流はないからなあ」

 

後を追いかけてきたケイたちが離れたテーブルで見張る。

 

アリサ(さあ、第三フェイズ!)

渚  「あの、嵐山さんって、筋トレはどうやっているんですか?」

悟郎 「うん?まあ、普通にダンベルとか腹筋とか・・・・どうしたの?」

渚  「あっ、あの、サーフィンには丈夫な足腰が必要なので、もう少し鍛えなきゃと思って・・・・」

悟郎 「ならランニングが一番だな。スクワットも筋力を上げるには有効的なんだが、サーフィンをするなら持久力を持たせる方が重要だろうな」

渚  「なるほど・・・・ためになります」

ケイ 「?会話がズレてきてる?」

ナオミ「まだです。なんといってもアリサの立案ですよ?このまま会話が脱線するとは思えない」

栄子 「高度な情報戦だ」

渚  「ライフセーバーのお仕事は全身使いますからね。色々試されているのですか?」

悟郎 「そうだな。ダンベルとかエキスパンダーとかは持ってるけど、あまり踏み込んだ筋トレ器具は持ってないかな」

渚  「欲しいと思ったことはありますか?」

ケイ 「うまい!」

ナオミ「相手の趣味をついた上で、足りない部分を埋めるプレゼントを探る作戦か」

栄子 「私じゃ到底思いつけないな」

 

自然な流れで相手を探る会話術に食い入る三人。

 

渚  「例えば、プロテインとか?」

悟郎 「プロテインか・・・・」

 

悟郎は腕を組んで考え込む。

 

悟郎 「確かにあれを使えば筋力は増えるかもしれない。だけど、鍛える結果についてくる筋力こそが自信と実践につながるんだ。人によりけりだが、俺は必要ないと思ってる」

アリサ(なるほど・・・・。あえて効率化を求めない、ストイックな姿勢の人には不要な可能性が)

 

会話をどんどんメモしていくアリサ。

 

渚  「じゃあ、食べ物とかを気を付けたりしているんですか?」

ケイ 「マーベラス!」

ナオミ「この流れで好みの食べ物に会話を持って行った!」

栄子 「こいつは高度すぎる!マネできん!」

 

大いに盛り上がっていく。

 

悟郎 「そうだな・・・・。うちの母ちゃんよく食うから、毎回すごい量作るんだよ。だから選んで食ってるんだけど、一番避けているのは穀類だな」

渚  「穀類、ですか」

悟郎 「白米に合う料理は多いからたくさん採ってしまいがちだが、米は体内で糖分に替わる。食べすぎないように気を付けているよ。基本的にたんぱく質を取るために肉と、あとは野菜を食ってるな」

アリサ(なるほど・・・・。糖質制限ってやつね。ならタカシへの差し入れを考えるなら、ライスボールよりグリルチキンかしら?)

渚  「確かに、お米は食べすぎちゃいますね」

悟郎 「全く食べるなとは言わないけど、それを自覚して少しでもセーブすることが重要だな」

渚  「ためになります」

 

ちらっとアリサに目線を送る。

アリサは親指を立て、作戦完了を知らせる。

 

渚  「あっ、長々とお話ししちゃってすいません。お昼食べに来たんですよね」

悟郎 「ああ、気にしなくていいよ。サーフィン頑張って」

渚  「はい。あの、ありがとうございました」

 

そうして渚はアリサのテーブルに戻っていった。

 

ケイ 「見事な作戦だったわ。私、アリサの評価上がっちゃったわ」

ナオミ「渚は自然な接触からの会話に移り、相手を立てることにより好印象を与え、情報を引き出す」

栄子 「そしてその情報を漏らすことなくアリサが回収し、次回に活かす。完璧だな」

アリサ「グッジョブ、渚!パーフェクトスコアよ!」

渚  「うまく行って何よりです。それで、アリサさんのほうは?」

アリサ「こっちもパーフェクトよ。とても参考になったわ。これで次のステップに移れそう」

渚  「頑張ってくださいね」

アリサ「ええ。渚も頑張りなさいよ!」

渚  「え?・・・・えっと、はい」

 

お互いがお互いのためになったと作戦成功を喜んでいると__

 

千鶴 「おまちどうさま」

 

千鶴がエビチャーハンを持ってきた。

途端に悟郎の顔がほころぶ。

 

悟郎 「ありがとうございます!くーっ、今日も千鶴さんのエビチャーハン、美味しそうです!」

千鶴 「うふふ、たくさん食べていってね」

悟郎 「はい!いただきます!」

 

即座にエビチャーハンにがっつく悟郎。

至福の表情を浮かべる。

 

悟郎 「うまい!今日も最高ですよ、千鶴さん!」

千鶴 「ありがとう悟郎さん」

 

あっという間に平らげる。

 

悟郎 「至福だ・・・・」

千鶴 「あ、悟郎さん」

悟郎 「はい?」

千鶴 「チャーハン作りすぎちゃって、よかったら食べてもらえないかしら?」

悟郎 「はい、喜んで!」

アリサ「!」

渚  「!」

 

さっきまで食べすぎ注意だの糖質制限だの言っていた悟郎が、チャーハンお替りの提案を迷うことなく受ける。

すぐに大盛りのお替りが運ばれてきて、同じスピードで夢中で食べる。

 

千鶴 「うふふ、そんなにおいしそうに食べてもらえて、作り甲斐があるわ」

悟郎 「千鶴さんの作ってくれたものなら、何十杯だって入りますよ!」

千鶴 「もう、悟郎さんったら」

 

断言する悟郎に、嬉しそうな千鶴。

 

アリサ(あっ、これは・・・・)

渚  (やっぱり、このお二人は・・・・)

 

悟郎の様子に全てを悟った二人。

 

アリサ(彼は自分のポリシーを捨てても、千鶴さんを立てるくらい好きなのね)

渚  (やっぱりわかってたことだったけど・・・・これじゃあ、万が一にも・・・・)

アリサ(渚が入り込む余地がない!)

渚  (アリサさんが入り込む余地がない!)

 

途端に絶望した表情になる二人。

その後、どちらが先に立ったとも知れないが、二人は外に立っていた。

 

アリサ「これまでにない程お似合いの二人だったわね・・・・」

渚  「そうですね・・・・」

 

お互いに気を使う二人。

 

アリサ「ごめんね渚、あそこまでさせておいて」

渚  「いえ、気にしないでください。アリサさんこそ、大丈夫ですか?」

アリサ「?アタシならバッチリOKよ!」

渚  「えっ?!」

アリサ「オトコは好みのためなら信念を曲げることもありうると分かったわ!ならば、アタシが信念を曲げるほどのアプローチを見出せばいいことなのよ!」

アリサ(たとえタカシがあの子を好きだとしても、それを上回る魅力があればきっと振り向かせられる!)

渚  「アリサさん・・・・!」

アリサ「アタシは諦めない。アタシが諦めるのは、白旗を上げるときよ!それまでは絶対に後退なんてしないんだから!」

渚  「はい!応援してます!」

アリサ「渚も頑張りなさいよ!アンタの決意、どれほどのものか見せてもらうんだから!」

渚  「はっ、はい!(嵐山さんに恩返しするために)私も全力で努めます!」

 

バッ!とアリサは渚に手を差し伸べる。

 

ガシッ!

 

二人はこれまでにないくらいしっかりした握手を交わした。

 

ケイ 「アリサー!」

 

ガバッ!

 

感極まったケイが後ろからアリサに抱き着く。

 

アリサ「うわっ、隊長!?ナオミに栄子も!どこから!?」

ケイ 「あなたのガールズポリシー、感動しちゃったわ!私も応援しちゃう!」

ナオミ「正直、アリサがここまで情熱的とは知らなかった。例え挑戦する側だとしても、私もアリサを支持しよう」

栄子 「いやー青春だね!二人とも頑張ってね!」

渚  「は、はあ・・・・」

 

ケイたちの誤解に気づけないアリサたちは戸惑いっぱなし。

 

ケイ 「今日は飲みに行きましょう!ノンアルコールビールとハンバーガーの美味しいお店見つけたのよ!今日は私が奢っちゃう!」

アリサ「本当ですか!?」

栄子 「さあ行くぞ!二人の未来に乾杯だ!」

ナオミ「ああ!」

渚  「ご、ごちそうになります・・・・?」

 

かくして、お互いを誤解したままの五人は歩みを揃え歩いて行った。




あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いいたします。

果たして、アリサとタカシの恋物語はどうなるのか。
そもそも始まるのか!
アリサには諦めず頑張ってほしいですね。

渚の悟郎好き疑惑は人間関係を複雑にするには便利ですね(酷)
すれちがい劇の思い込みと誤解、かみ合わないはずの会話が成立する様は、第三者だからこそ楽しめるものですね。

先日、ついに最終章一話を立川で見ることができました!
まだ第一話なのに話す内容や推測できることがたくさん詰まった素晴らしい出来になっていました!
オープニングも素晴らしかったのですぐ買ってしまいました。
まるごとゼヒお勧めしたい作品です。

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