シンディー→シン
サンダース付属校の生徒たち→サン生
サンダース生A、B、C・・・・→サンA、サンB、サンC・・・・
※【 】内の台詞は、全て英語で話しているとご解釈ください。
イカ娘「やっぱり海を見ながらの散歩は最高でゲソ」
海沿いの道路を散歩しているイカ娘。
ふと、前方から見覚えのある二人組が歩いてきた。
イカ娘「む?・・・・何だ、悟郎と磯崎じゃなイカ」
悟郎 「何だとはご挨拶だな」
見ると、悟郎と磯崎は長袖にリュックを背負っている。
イカ娘「いつもと違う格好でゲソね。どうしたのでゲソ」
悟郎 「ああ、ちょっとこれから軽くハイキングにでも行こうとな」
イカ娘「吾郎がでゲソ?珍しいでゲソね」
悟郎 「そっ、そんなことないぞ?俺は山好きだからな。海と同じくらい好きだ!」
イカ娘「海くらい好きだとは、聞き捨てならんでゲソね。__まあ、私は心が寛大だから許してやるでゲソ」
悟郎 「はいはいそりゃどーも」
イカ娘「それで、山に行ってキャンプでもするのでゲソ?」
悟郎 「いや、山頂近くに景観のいいスポットがあるって聞いてな。そこに行くつもりだ」
イカ娘「ふむ」
磯崎 「全く、偉そうなこと言いやがって。『千鶴さんをデートに誘うための下調べ』って素直に言えよ」
悟郎 「なっ!そそ、そんなことある訳ないだろ!」
磯崎 「わざわざカモフラージュのために俺まで誘いやがって。晩飯はお前のおごりだからな」
悟郎 「・・・・ったく。それじゃあな、イカ。・・・・あと、俺が山に言ったことは千鶴さんたちには秘密にしておいてくれ」
イカ娘「エビ五匹で手を打つでゲソ」
そして散歩を終え、海の家れもんに戻って来たイカ娘。
栄子 「何でこの世に英語なんて存在してるんだ・・・・」
れもんのテーブルで突っ伏したまま栄子がぼやいている。
イカ娘「また栄子が何か言ってるでゲソ」
渚 「さっき英語の教科書を開いて、それから動かなくなっちゃいましたね」
シン 「まだ英語が苦手なのね。この間も全く進歩しなかったものね」
千鶴 「これから国際社会になっていくわけだし、栄子ちゃんの将来を考えても英語は出来たほうがいいのだけれど」
栄子 「そうは言うけどさー・・・・ここは日本じゃん?何で日本に住んでて英語が使えないといけないんだよ・・・・」
シン 「そりゃ、アメリカから日本に仕事や観光でやって来る人だって多いでしょうに」
千鶴 「そういった人たちとコミュニケーションを取っていかないといけないものね」
栄子 「でもおかしいだろ。日本に来たら日本語だらけなの分かってるのに、何で日本語勉強せずに英語で通そうとする奴らばっかりなんだよ」
シン 「そりゃ英語至上主義とは言わないけど、英語を使っている国は多いわけだから、通用するとは思っちゃうんじゃないかしら?」
渚 「でも、シンディーさんは日本語ペラペラですよね」
シン 「そりゃそうでしょ。宇宙人は色々な国に、そして色々な人種にも姿を変えているのよ?その国の言葉がわからなきゃ追求しづらいじゃない」
栄子 「趣味の延長みたいなもんか」
シン 「立派な使命よ!」
その後、しばらく教科書を眺めていたが__
栄子 「ダメだー。サッパリわかんね」
すぐに投げ出してしまう。
栄子 「ほんと、日本人なら日本語できりゃいいんだよ。みんなすぐ外国かぶれしちゃって、英語がカッコいいとか勘違いしちゃうからこんなことになるんだよ」
イカ娘「今度は屁理屈が出始めたでゲソ」
千鶴 「栄子ちゃん、英語について愚痴を言うのは頭ごなしにダメとは言えないけど、少ししたら控たほうがいいわよ?この後、ケイちゃんたちが来るわけだし」
栄子 「え?__ああ、そっか。今日が合同練習の日だったっけか」
顔を上げてカレンダーを見る。
今日の日付に、『サンダースと合同練習!』と書いてある。
栄子 「サンダース生の前で英語否定したら引っ叩かれちまうな」
千鶴 「ケイちゃんたちはそんなに乱暴じゃないだろうけど、いい印象は持てないでしょうね」
栄子 「わかった、気を付ける」
そして、しばらくして。
イカ娘「む、ケイたちがやって来たでゲソ」
イカ娘たちがいちはやくケイたちの来店に気が付いた。
栄子 「やあケイさん、いらっしゃい。今日はよろしく頼むわ」
さっきまで英語に愚痴っていたのを悟られないように、いつもより明るめにケイに声かける。
すると__
ケイ 【ええ。こちらこそ宜しくお願いするわね!】
ケイは、英語で返した。
栄子 「!?」
思わぬ返答に固まる栄子。
渚 「栄子さん、固まっちゃいましたね」
シン 「突然の生の英語に思考が停止したようね」
イカ娘「ケイよ、何でいきなり英語喋りだしたのでゲソ?」
ケイ 【ああ、ごめんなさいね。実は今日、月に一度の英語の日なの。国際進出を目指す子が多いサンダースでは、こうやって英語を日常として受け入れられるように、一日英語以外で喋っちゃいけない日が決められてるの】
イカ娘【ふむ、そうだったのでゲソか】
ケイ 【あら!スクイーディも流暢に話せるじゃない。もし通じなかったら今日は中止しようかと思ってたんだけれど】
シン 【ネイティブな発音ね。海外進出を視野に入れてるだけに、なかなかキチンとした英語を学んでいるのね】
ケイ 【本場の人にそう言ってもらえると嬉しいわね。合同練習の日に被っちゃってどうしようかと思ったけど、シンディーさんがいれば支障はなさそうね】
シン 【そうね。通訳くらいは出来そうだわ】
栄子 (何言ってるんだかさっぱりわからん・・・・。めちゃくちゃ居心地悪いぞ)
そしてしばらくして。
アリサ【隊長、お待たせしました!】
ナオミ【全隊員と戦車、準備完了です】
栄子 「」
アリサとナオミが英語を喋りながられもんにやって来た。
車長 【やっほー、スクイーディ!】
操縦主【英語で失礼するよー】
砲手 【大丈夫かな、英語できないと困っちゃうんじゃない?】
イカ娘【大丈夫でゲソ、ちゃんとわかってるでゲソよ】
装填手【おお~、さすがスクイーディ】
通信手【イカって万能だねー】
ケイ 【騒がしくってごめんね、すぐ出てくから】
千鶴 【あら、せっかくみんな来てくれたんだから、ゆっくりしていっていいわよ】
ケイ 【ワオ!千鶴さんもペラペラじゃない!】
千鶴 【ふふっ、たしなみ程度には、ね】
栄子 (滅茶苦茶居心地の悪い空間が出来上がっとる・・・・)
自分の周囲で展開される英語空間に不快極まりない栄子。
栄子 「ホント、日本の海の家の風景じゃないよこれ。渚ちゃんだってそう思うでしょ?」
渚 「えっ!?ええ、はい、そうですね・・・・」
何だか歯切れの悪い渚の返事に栄子が違和感を感じていると・・・・
装填手【そういえば、スクイーディのチームの装填手って誰なの?】
イカ娘【そこにいる渚でゲソ】
装填手【あっ!あなたがチャーチルの装填手なんですね!今日は装填手同士頑張りましょうね!】
渚にフレンドリーに話しかけてくる装填手。
そんな装填手に__
渚 【あ、はい、初めまして。お手柔らかにお願いします】
渚は『英語で返事を返した』。
栄子 「!!!!」
渚の英語に衝撃を受ける栄子。
千鶴 【あら、渚ちゃんもきちんと英語喋れるのね。知らなかったわ】
渚 【サーフィンやってる人って外国の人も多いので、そういう人たちと話せる機会があった時のために、ちょっとだけ・・・・】
ケイ 【謙遜することないわよ。十分立派に話せてるわよ!】
渚 【あ、ありがとうございます】
栄子 (そんな・・・・渚ちゃんまで・・・・!仲間だと思ってたのに・・・・!)
勝手に仲間扱いしていた渚までも英語を操り、気が付けば店内で英語を話せないのは栄子だけになっていた。
その後も続く英語交流に、栄子はすっかり憔悴してしまっていた。
ケイ 【さて、そろそろいい時間ね。今日の演習場に向かいましょうか!】
アリサ【了解!さあみんな、出発の準備をしなさい!】
サン生【了解!】
イカ娘【じゃあ、私たちも準備するでゲソ】
ナオミ【スクイーディのチームとやりあうのは初めてだ。楽しみにしてるよ】
イカ娘【期待以上のものを見せてやるでゲソ!】
そして、目と耳をふさぎっぱなしだった栄子に歩み寄るイカ娘。
イカ娘【という訳でゲソ、栄子よ】
栄子 「あん?」
イカ娘「おほん、今日の練習はみんな英語で行くでゲソ!」
栄子 「お断りだ!」
その後。
アリサたちと合流し、イカ娘たちは今回の練習の場となる山岳演習場にやって来た。
チャーチルは山のふもとで山頂の方を向いて待機している。
イカ娘「山で戦車に乗るのは初めてでゲソね」
栄子 「そうだな。山には何度か来たが、この山に来るのは初めてだな」
渚 「サンダースの人たちとご一緒するのは初めてですが、こういう形も初めてです」
シン 「そうね。さすが戦車道有力候補だけに、訓練も個性があるわ」
ケイ 【皆定位置についたかしら?】
ナオミ【準備完了です】
アリサ【こっちも大丈夫です!】
車長 【配置につきました!】
ケイ 【オッケー、みんな所定に着いたようね】
シャーマンやファイアフライなど、サンダースの戦車もチャーチルと同じように、周りに一両も戦車がいない。
それぞれが一両ずつ、山のふもとに待機している。
ケイ 【ルールを改めて説明するよー。今回はスクイーディのチャーチルチームを迎えたスペシャルルール!一両ずつがそれぞれ独立した、サバイバルルールよ!】
イカ娘【つまり、出会う全てが敵と言うことでゲソ?】
ケイ 【そういうこと。そして、山頂に刺さったフラッグを抜いた最初の車輛の勝ち!周囲を全て敵に囲まれた状況でみんながどれだけの生存能力を見せられるか、楽しみにしてるわよ】
シン 【面白いルールを思いつくものね】
ケイ 【そして、スペシャルルールがもう一つ。チーム無線は、常にオープンにしておくこと!】
渚 【あの、それって一体どういう狙いなんですか?】
ケイ 【うん、これは相手を補足した場合、その相手をどこで見つけたかをみんなに知らせるためのものよ。見つかった方はどこで誰に見つかったのか、そして自分に向かってくる相手の包囲にどれだけ対応できるかを試されるわけ】
イカ娘【かなりゲーム要素の強いルールでゲソね】
ケイ 【アハハ、せっかくだから楽しんでいってもらおうと思って。それじゃ、みんな準備はいい?】
みんな【イエー!】
ケイ 【それじゃ、レディー・・・・】
イカ娘【ゴー!でゲソ!】
かくして、サンダースルールの特別演習の火ぶたが切って落とされた。
すぐに動き出したメンバーたちの無線の応酬が始まる。
サンA【シャーマン発見!ポイントB7!】
サンB【わあ、まずい!C6へ退避!】
サンC【うわあ、やられちゃった!J2、ファイアフライがいるよ!】
ナオミ【む、撃破されながら上手く位置を補足できたな。こちらも移動しよう】
サンD【ポイントC9、シャーマンが隠れてるよ!】
サンE【わあ!バラさないでよー!】
サンF【ねえねえ、今だけ一緒に組まない?いいっていう子は、C2で待ってるよー】
サンG【C2に一両いるぞー!やってやるー!】
サンF【ちょ!それズルいー!】
サンH【アリサさーん、こういう時ってどう対処すれば出し抜けますかねー?】
アリサ【なんでアタシに聞くのよ!】
ケイ 【アハハ、みんな楽しんでくれてるねー】
各々が動き、喋り、早くも交戦を始めている所もある。
渚 【早くも大混戦ですね】
シン 【今までこんな形式とったことないでしょうからね。みんな手探りで動いているわ】
イカ娘【みんな楽しそうでゲソ!私たちも早く参加するでゲソ!】
しかし、栄子は不機嫌そうな顔をしながら全く動こうとしない。
イカ娘「どうしたのでゲソ栄子。もう練習は始まってるのでゲソよ!」
栄子 「・・・・」
栄子は言葉を返さず、ムスっとしながら操縦桿を握りながら、全く動こうという気配がない。
シン 【このまま動かず、周囲の数が減るのを待つ作戦かしら?】
渚 【それも作戦かもしれませんが、それじゃ練習の趣旨に沿えませんよ】
イカ娘【このままじっとしてるなんてつまらないだけでゲソ!こちらから撃って出て__む?】
ふと、音が聞こえてきた。
イカ娘が耳をそばだてると、離れたところからシャーマンが一両、チャーチルに近づいてきていた。
イカ娘【見つかったでゲソ!右から来るでゲソよ!】
車長 【スクイーディ、みっけ!】
イカ娘【むっ?】
聞きなれた声が聞こえ、シャーマンの方をよく見ると・・・・
イカ娘【おおっ、お主たちでゲソか!】
近づいてくるシャーマンに乗っていたのは、イカ娘と仲のいいシャーマンチームのメンバーだった。
車長 【まだ動いてなかったんだね。みんなの消耗を待つ作戦?】
イカ娘【そのつもりは無いのでゲソが、栄子が動かしてくれないのでゲソ】
通信手【ふーん、じゃあ待つ作戦なのかな?】
砲手 【ねえスクイーディ。私たちと組まない?】
イカ娘【む?】
装填手【まだ私たち未熟だから、一両だけで動いてたらすぐにやられちゃうからさ。どうせだったらスクイーディたちと一緒に戦いたいなーって】
渚 【それは心強いですね!こちらもお願いしたいです】
シン 【手を組めば勝率は跳ね上がるわね。いい提案だわ】
イカ娘【うむ、お主たちなら大歓迎でゲソ。同盟締結でゲソ!】
車長 【やったー!】
操縦主【それじゃ__】
会話を進めようとすると・・・・
栄子 「・・・・しい・・・・」
イカ娘「む?」
栄子が何かつぶやく。
イカ娘「栄子?どうかしたのでゲソか?」
栄子 「やっかましいいいいい!」
イカ娘「うわっ!?」
ギュララララ
栄子が突然叫んだかと思うと、車体を急旋回させ砲口をシャーマンに合わせる!
栄子 「シンディー!撃てえっ!」
シン 「えっ、ええっ?!」
突然の栄子の豹変に驚き、思わず__
ドオン!
シンディーは引き金を引いてしまった。
バアン!
車長 「きゃあっ!?」
シュポッ
砲弾はばっちりシャーマンに命中し、白旗を上げた。
チャーチルはそのまま全速力で山を登り始めた。
砲手 【ええっ、どうしたの!?やられたの!?チャーチルに!?】
通信手【ええーっ、スクイーディ、ひどいよーっ】
イカ娘【私は何も指示してないでゲソ!栄子が勝手にやったのでゲソー!】
渚 「え、栄子さん!?一体どうしたんですか!?」
イカ娘「みんなを撃つなんてひどいでゲソ!」
独断を下した栄子を非難するイカ娘たち。
しかし__
栄子 「うるさい・・・・」
渚 「え、栄子さん・・・・!?」
栄子 「どいつもこいつも英語で喋りやがって!あまつさえ無線からも始終聞こえてくる!分からない方の身にもなれっての!」
イカ娘「は?」
栄子 「こうなったら全員倒してやる!そうすりゃ無線から何も聞こえなくなるだろ!」
イカ娘(横暴!)
身勝手な理由でチャーチルが暴れだす。
その栄子の鬼気迫る様子に戦慄するサンダース生たち。
サンB【え!?一体どうしたの!?】
サンD【チャーチルがすごい暴れ回ってるんだよ!すごい勢い!】
サンA【もう三両はやられたって!】
サンD【うわあっ!ケイ隊長が来たあっ!】
サンE【なにそれ!?スクイーディたち、そんな強いの!?】
サンI【わああ、やられたー!チャーチルがG5に来てるよ!】
サンB【ええっ!?すぐ近くじゃん!?どこに__ふぎゃっ!(無線が途切れる)】
サンA【ジーザス!】
予想外の事態に狼狽え始めるサンダース生たち。
なおもチャーチルは暴れ回る。
アリサ(あの子たち、予想以上だわ。でもこれ以上いいようにさせるわけにもいかないわ!)
アリサ【ナオミ、聞こえる?相談があるんだけど】
チャーチルの暴れ具合に危機を感じたアリサが、オープン無線を通じてナオミに語り掛け始めた。
その後。
山頂を目指して坂道を進むチャーチル。
イカ娘「気を付けるでゲソ栄子。どうやらアリサとナオミが何やら計画を立てたようでゲソ」
栄子 「・・・・」
集中しているのか、返事を返さない栄子。
渚 「栄子さん、人が変わったみたいになっちゃってますね」
シン 「英語への拒絶反応があそこまでとは思わなかったわ」
イカ娘「こうなったら早く終わらせるでゲソ。これ以上暴れ回られたらケイに顔向けできないでゲソ!」
そこへ__
アリサ【今よっ!】
ガサササ!
坂道を登るチャーチルの両脇の茂みからシャーマンが挟み撃ちを仕掛ける。
即座に引き金を引き__
バアン!
バアン!
シュポッ
シュポッ
二両のシャーマンが
栄子は撃たれる寸前に全速力でバックをかけていたのである。
結果、お互い射線上にあった二両のシャーマンは相打つ形となってしまった。
アリサ(嘘でしょ・・・・!?作戦はハンドサインで伝えたから、向こうにバレているはずがない!それなのにかわせたってことは、挟まれた瞬間判断を下して避けたってこと!?)
アリサ【やるじゃない・・・・でもね!】
バアン!
そんなアリサたちを、さらに高所から覗いていたナオミのファイアフライが、間髪おかず火を吹いた。
アリサ【作戦は二段構えなのよ!】
ドオン!
しかしそれをさらに読んでいたかのように、バックした速度を活かした急旋回でナオミの狙撃をかわすチャーチル。
即座に車体をファイアフライに向け、砲を合わせる。
ナオミ【まずい!全速後退!】
バアン!
ヒュッ
すんでのところで砲撃をかわし、ナオミのファイアフライは姿を消した。
シン 「ソーリー、外したわ」
渚 「それにしても、凄い操縦テクニックですね。栄子さん、いつのまにあそこまで腕前をあげたんですか?」
栄子 「大分静かになったな・・・・。だが、あと五両はいる・・・・!」
イカ娘「まったく聞いてないでゲソ」
アリサ【ごめんナオミ、しくじっちゃった・・・・】
ナオミ【気にするな。あとは任せとけ】
そしてチャーチルはファイアフライを追うため、進行を再開した。
その頃。
悟郎 「着いたぞ、ここか!」
悟郎と磯崎は、山の中腹にある開けた場所にいた。
そこは山の上とは思えない広く平らで、一面に花が咲き誇っていた。
悟郎 「この山にこんな場所があったなんて、知らなかったな」
磯崎 「ここは知るものぞ知る隠れスポットでな。女の子連れてくるには絶好のポイントなんだぜ?」
悟郎 「流石、連れてくる相手がいないのにそういう所は頼りになるな」
磯崎 「一言余計なんだよ!」
リュックを下ろしてしゃがみ込む。
目に前に咲く花を見ながら、悟郎の心にある情景が浮かぶ。
~~妄想~~
悟郎 「千鶴さん、これがあなたに見せたかった景色です」
千鶴 「まあ、素敵なところ!連れて来てくれてありがとう、吾郎さん」
悟郎 「千鶴さん、これを」
悟郎はおもむろに足元に生えている花を摘み、千鶴に差し出す。
千鶴 「これは・・・・クルクマ?」
悟郎 「花言葉は・・・・『あなたの姿に酔いしれます』」
千鶴 「悟郎さん・・・・!」
~~妄想終了~~
悟郎 「完璧だ・・・・!これでいけ__」
ドオン!
瞬間、真後ろで大きな音がした。
悟郎 「なっ、何だぁ!?」
音のした方を向くと、藪の中からチャーチルが飛び出してきた。
悟郎 「せせ、戦車ぁ!?」
チャーチルは悟郎の目の前で止まった。
イカ娘「吾郎じゃなイカ。磯崎もいるでゲソ。お主らここで何やってるでゲソ」
悟郎 「そりゃこっちのセリフだよ!なんでお前らこんな所で戦車乗ってんだ!」
イカ娘「なんでって、今日はここで戦車道の練習だからじゃなイカ」
悟郎 「何だって!?」
驚いた表情の悟郎。
悟郎 「だって、今日はここで戦車道の予定があるなんて聞いてなかったぞ!」
イカ娘「そんな訳ないじゃなイカ。ちゃんとケイは許可を取っていたでゲソ」
磯崎 「あー・・・・」
悟郎の後ろで磯崎が、何かの紙を持って気まずそうに頭をかいている。
磯崎 「すまん、一日間違えてたわ。戦車道の練習があるのは明日じゃなくて今日だわ」
悟郎 「磯崎ぃぃぃい!」
磯崎に食って掛かる悟郎。
悟郎 「どうりでやけに今日は周りで戦車の音が聞こえてくると思ったら・・・・!」
イカ娘「普通気が付くでゲソ」
悟郎 「とにかく、ここにいたら危ないってことだな。急いで下山するぞ!」
すると__
ドオン!
すぐ近くで着弾が起こる。
少し離れた尾根から、ファイアフライが狙撃してきている。
着弾の衝撃で、花畑に穴が開く。
悟郎 「ああーーっ!花がーっ!」
悲鳴を上げる吾郎。
ドオン!
チャーチルも応戦するが、再びファイアフライは姿を消す。
栄子 「くそっ、ちょこまかと!」
渚 「先手を取られっぱなしです。このままじゃ・・・・」
栄子 「ぐぬぬ・・・・!はっ!」
すぐに何か気が付いたのか、栄子が顔を出す。
栄子 「悟郎!お前、この山の地理に詳しいか!?」
悟郎 「えっ!?ああ、まあ、来る前に下調べはしてきたから、大体は把握してるつもりだが・・・・」
栄子 「よし!イカ娘、さらえ!」
悟郎 「はあ!?」
しゅるっ
瞬時にイカ娘が吾郎を触手で捕まえ、チャーチルの中に押し込む。
悟郎 「うわっ、ちょっ、何を!?」
栄子 「追うぞ!」
ギュオオオオオオ!
そして悟郎を(強制的に)加えたチャーチルはその場から走り去っていった。
磯崎 「・・・・俺は?」
その場に取り残された磯崎は茫然とその場に立ち尽くした。
悟郎 「おい!どういうつもりだ!何で俺が戦車に乗せられてるんだ!」
栄子 「心配するな!チャーチルはもともと五人乗りだ!お前の座るスペースくらいはある!」
悟郎 「そういう問題じゃねえ!」
栄子 「それより!向こうの尾根に回り込むにはどの道を行けばいい!」
悟郎 「そのために俺を拉致ったのか!__ええと、そこを左だ!」
悟郎の指示で左に曲がる。
渚 「すみません嵐山さん、変なことに巻き込んでしまって・・・・」
悟郎 「いや、君が気にすることじゃな__うわっ!」
突然チャーチルが急旋回する。
栄子 「撃てっ!」
ドオン!
サンA【オーマイガー!】
栄子 「あと三両!」
悟郎 (こいつは一体何と戦ってるんだ)
やがて吾郎のナビによってフアイアフライのいた尾根付近にたどり着く。
狙撃を警戒し、藪の中を進む。
イカ娘「ナオミはどこでゲソ!」
シン 「さすがにいつまでも同じ場所にいる訳はないでしょ。相手が向かってくると知ったら、離脱するか、もしくは__」
渚 「__逆手に取るか、ですね」
その頃。
ナオミのファイアフライは、先ほどの狙撃ポイント周辺が狙える別の場所・・・・をさらに狙える場所で藪に身を隠していた。
ナオミ(スクイーディのチームの操縦主、いい勘をしている。ならば、あの後私が即座にこの場を離れ、次の作戦に出ると踏んでいるはず。そして、待ち伏せから近付いたところを狙撃してくると踏むはずだ)
ファイアフライは極力姿が見えないように隠れながら、空の狙撃ポイント周辺に目を配る。
ナオミ(花畑からあそこに近づくには、必ずあの開けた場所を通らなければいけないはず。そこを叩く)
照準器を覗き続け、チャーチルの出現を待つナオミ。
・・・・が、チャーチルは現れない。
ナオミ(おかしい・・・・。私にマークされていることを知ったうえで、別の相手を探しに行ったりするものか?リスクしかないぞ)
しかしいくら見回してもチャーチルの姿は見えない。
ナオミ(おかしい、何かが__)
ガサササッ
ナオミが異変を感じ始めた瞬間、背後の藪がざわめいた。
ナオミ「!」
二重の待ち伏せを構えていたファイアフライの背後から、チャーチルが姿を現した。
ナオミ【・・・・流石だよ】
バアン!
シュポッ
栄子 「あと二両!!」
悟郎 「エグすぎるだろ」
やがてチャーチルはついに山頂へとたどり着く。
山頂にそびえたつフラッグのすぐ横には、ケイのシャーマンが待ち構えていた。
近くには、煙と白旗を出して動けなくなったシャーマンが一両佇んでいる。
ケイ 【グッドゲームだったわ、栄子!】
栄子 「ケイさん!」
ケイはフラッグにすぐ手が届く場所にいながらも、それを抜こうとはしない。
イカ娘【ケイも、かなりの数を倒していたようでゲソね】
ケイ 【ええ。みんなよってたかって来るもんだから、流石にヒヤっとしたわ】
渚 【それで生き残ってるんだから、やっぱりケイさんも只者じゃありませんね】
ケイ 【アハハ、ありがとう。でね、このままフラッグを抜いて終わりにしても良かったんだけどー・・・・】
ケイの目に悪戯っ子のような光が宿る。
ケイ 【十数両にも上るシャーマン、アリサ、そしてナオミまでも倒しちゃったスクイーディのチャーチル。どうしても、貴女たちと一戦交えたくなっちゃったのよ】
イカ娘【それでわざわざ待っててくれたのでゲソか】
ケイ 【ええ。そして、ここで動ける車輛は私たちだけ。つまり、生き残った方が勝者。サバイバルゲームの幕引きにはピッタリじゃない?】
撃破されたシャーマンを横目に見ていた栄子が、何かを悟ったように視線を前に戻す。
栄子 「そうか、ケイさんが最後の一人か・・・・」
イカ娘「栄子?」
栄子 「じゃあ、ケイさんを倒せば英語は聞こえなくなるわけだな!」
ドオン!
チャーチルが不意打ちの一撃を放つ。
悟郎 「汚ねえ!」
しかしそれも予測済みなのか、シャーマンは少し後退するだけで難なくかわす。
ケイ 【アハハ、はーずれー!じゃあ、ラストバトルを楽しみましょう!】
そう言ってケイは起伏の向こう側へ姿を消す。
栄子 「絶対に黙らせてやる!」
栄子の闘志が激しく燃える。
しかしケイを追って起伏を超えようとすれば、待ち伏せの一撃を食らうのは目に見えている。
栄子 「悟郎!向こう側へ回り込めるいい道は無いか?!」
悟郎 「ああ、それなら向こう側に反対側に回れる道がある。そこを辿れば__」
グオオオン
チャーチルはそこへ向かって急発進する。
悟郎 「最後まで聞けよ!それに岩場も多いから、足に負担が出るぞ!」
栄子 「今動けばそれでいい!」
そしてハイキングコースであろう道を渡り、尾根の向こう側へと回り込んだ。
ケイのいる側は開けた草原となっていて、遮蔽物は無い。
__そして、そこのいたるところに白旗の立っているシャーマンが転がっている。
その数は十を超えている。
イカ娘【これ、全部ケイが撃破したのでゲソか!?】
ケイ 【ううん、全部じゃないわよ。やっぱり山頂付近ともなると戦いも激しくなってて。さすがに危なかったかな】
渚 【全部じゃない・・・・っていうことは、大半はケイさんが倒した、ってことですよね】
ケイ 【そこは想像に任せるわ。それに、このゲームの本懐は倒した数じゃない。・・・・最後まで生き残ることよ!】
ドオン!
ケイのシャーマンが火を吹き、チャーチルがかわす。
バアン!
お返しにチャーチルが砲撃を放ち、シャーマンもそれをかわす。
そしてお互いが距離を離し、並走するように平原を走り回る。
バアン!
ドオン!
疾走しながら交錯する砲弾。
しかしやはり決定打には至らない。
やがて二両とも草原の端にたどり着いてしまう。
その先は急斜面、降りれば横転してしまいそうなほど急なため、降りる選択肢はない。
直前で曲がり、斜面ギリギリ、沿うようにしてシャーマンとチャーチルがお互い正面を向きながら全速力で急接近する。
ケイ 【ファイヤー!】
栄子 「撃てえ!」
バアン!!
双方全く同じタイミングで砲弾が放たれ、お互いの正面装甲に着弾する。
しかしそれでも白旗判定には至らず、そのまま正面衝突する。
ガシンッ!
重い金属同士がぶつかる重厚な音が響き、砲身を相手に合わせようとお互いが砲塔を回し、鍔迫り合いのような状態になる。
ケイ 【・・・・!】
栄子 「ぐぬぬぬぬ・・・・!」
緊迫した状況に、ケイは笑顔を浮かべ栄子は歯を食いしばって操縦桿を握っている。
ギギギギギ・・・・
力比べのような戦車の取っ組み合いが続き・・・・
栄子 「これでどうだ!」
ギュオオオオ!
グワッ!
チャーチルは急旋回を起こし、その勢いでシャーマンを弾き飛ばす。
ケイ 【きゃあっ!】
激しくはじかれたシャーマンは体制を崩し、無防備な側面をチャーチルの前に晒す。
栄子 「これで終わりだ!撃__」
そのまま旋回し、シャーマンにとどめを刺そうとした矢先・・・・
バキンッ!
足元で何かがはじけるような音が聞こえ、チャーチルが右側にガクンと傾く。
栄子 「んなっ、何だあ!?」
これまでの無茶な運転がたたり、チャーチルの右転輪と履帯が完全に壊れてしまっていた。
シュポッ
間もなく、チャーチルから白旗が上がった。
その後、撤収が完了したのちの海の家れもんにて。
一同が席につき、お互いの健闘を讃えあっている。
ケイ 【いやー、まさかこれほどまでだなんてね!いい勝負だったわ】
イカ娘【栄子が無茶するから、最後までチャーチルが持たなかったんでゲソ】
ケイ 【ううん、むしろたどり着くまであんなに戦ってきたのに、最後の最後まで持ちこたえていたのは栄子のコントロールのたまものだと思うわよ?生半可な腕だと、上る最中に履帯が外れちゃうもの】
渚 【それにしても、栄子さんの運転、これまで以上のものでしたね】
ケイ 【そうね。まさか英語嫌いがあそこまでの底力を引き出すなんて。これからスクイーディたちとやるときは、いつも英語で行こうかしら】
栄子 (絶対よからぬ会話してる)
勝負が終わり、少し心が落ち着いたのか栄子はいつも通りの表情を受かべている。
ナオミ「お疲れ様」
大ジョッキにソーダをなみなみと注いだナオミが栄子にジョッキを差し出す。
栄子 「ああ、ありがとう・・・・って、いいのか?英語で喋らないといけないんだろ?」
アリサ「隊長が、今日のMVPに敬意を表して特別に日本で話していい、ってさ」
栄子 「そっか。・・・・んぐっ、んぐっ、ぷはー!」
ソーダを一気飲みする栄子。
ナオミ「しかしいい腕と読みだった。いい勉強になったよ」
アリサ「そうね。今までにないタイプの相手だったし」
ナオミ「しかし悪かったな、みんな英語で居心地悪かったんじゃないか?」
栄子 「ああ、それはもういいよ。学校の決まりなんだし、こっちもムキになりすぎたよ、ごめんな」
ナオミ「苦手なものは仕方ないさ。でも、それから逃げない姿勢も立派だった」
栄子 「え?」
アリサ「だって、無線から英語が聞こえてくるのを嫌がってたのに、さっさと撃破されずにきちんと戦ってたじゃない。撃破されちゃえば無線も使えないから、英語も聞かずに済んだのに」
栄子 「・・・・」
栄子は一瞬、何を言ってるんだ、という顔をしてから__
栄子 「あーーーーーっ!」
その手があったか、と大声を上げた。
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その後。
悟郎 「あの、千鶴さん!御隣山って、知ってますか?」
千鶴 「ええ、知ってるわよ。あそこの中腹に、お花畑があるのよね」
悟郎 「ぇ」
千鶴 「よくランニングコースで通りがかるの。今は夏のお花が沢山咲いていて綺麗な場所よね」
悟郎 「」
千鶴 「悟郎さん?・・・・あっ」
悟郎の意図するところがわかり、はっとする千鶴。
悟郎 「・・・・」
千鶴 「・・・・」
悟郎 「綺麗な場所、ですよね・・・・」
千鶴 「え、ええ・・・・」
悟郎の計画は水の泡となった。
栄子+英語=大暴れの法則。
嫌いなものを拒絶する力は、ある時は強大な力を持つものですね。
サンダースの英語しばり、到底自分にはついていけそうにありません。
本編ではケイの実力はほとんど表現されていませんでしたが、間違いなく腕はいいのではないかと思っています。
そういえば、ついにガルパン最終章の情報が大きく解禁されましたね!
とても楽しみです!
もちろんPS4版も買うつもりです!