侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


シンディー→シン
マーティン→マー
クラーク→クラー


サンダース生A、B→サンA、サンB


第2話・クールに努めなイカ?

操縦主「あの時のは危なかったねスクイーディ」

通信手「むしろよく避けれたよねスクイーディ」

砲手 「前に一緒した時より、腕上がってるんじゃない?スクイーディ」

イカ娘「当然でゲソ!イカ三日会わざれば刮目して見よでゲソ!」

装填手「イカって凄いね」

車長 「ほんと凄いよね、私も見習わなきゃ!」

 

サンダース大付属高校学園艦にて。

イカ娘はサンダース大付属高校の演習に混じっていた。

今日の演習は終わり、思い思いに感想を述べあっている。

近頃曇り空が多く夏にしては陰鬱な天気だが、サンダースの生徒はみんな陽気だ。

 

イカ娘「しかし、ファイアフライは本当にすごいでゲソ!あんなに大勢に狙われてたのに、全く怯まずに三両も打ち負かしたのは驚いたでゲソ!」

通信手「う~ん、それはファイアフライが凄いというより」

車長 「ナオミさんの集中力が凄い、ってことだね」

イカ娘「ナオミがでゲソか」

砲手 「うん。あんなに砲弾が自分を狙っていて、敵も迫ってるのに慌てることもなく次々撃破しちゃうんだもん。私はあそこまでクールにはなれないなー」

イカ娘「ふむ、『クール』でゲソか」

通信手「砲手に必要なのはのは腕前はもちろん、雑念を取り払った集中力、心を常に平静に保ちつづける精神力、どんな事態にもすぐさに対応できる適応力。これは全てクールじゃないと出来ないことだもんね」

砲手 「ほんと、ナオミさん尊敬しちゃうなー」

イカ娘「それほどまでなのでゲソか」

 

イカ娘はナオミに歩み寄る。

 

イカ娘「ナオミよ」

ナオミ「ん?どうしたんだ、スクイーディ」

イカ娘「クールって、どうすればいいのでゲソ?」

ナオミ「ん?クールさ?・・・・んー」

 

イカ娘に尋ねられ、考えるように空を見る。

いつものようにガムを噛みながら、そのまま空を見続ける。

 

ナオミ「・・・・」

イカ娘「・・・・」

ナオミ「・・・・」

イカ娘(動かなくなってしまったでゲソ)

 

ガムを噛みながら空を見続けているナオミに、イカ娘がちょっかいを思いつく。

 

イカ娘「わっ!」

 

すぐ横で大声を上げ、ナオミをびっくりさせようとする。

 

ナオミ「?」

 

しかしナオミは『何かあったか?』と言ったふうに全く動じない。

 

イカ娘(全然びっくりしてないでゲソ!これが・・・・『クール』というものでゲソか!)

ナオミ「・・・・ごめん、上手く説明できないかな」

イカ娘「凄く参考になったでゲソ!」

ナオミ「?そうか」

 

そしてイカ娘はサンダースの学園艦から降り、帰路についた。

 

イカ娘(『クール』・・・・。きっと私に足りないのはそれでゲソ!あれを身に付ければ、戦車道はもちろん、侵略にも役立つこと間違いなしでゲソ!)

 

次の日、海の家れもんにて。

 

イカ娘「もぐもぐもぐ・・・・」

 

れもんでのバイト中、イカ娘はガムを噛んでいた。

 

栄子 「おいイカ娘!仕事中にガム噛んでんじゃねえよ!」

 

栄子がイカ娘に声大き目で注意する。

が__

 

イカ娘「・・・・(ちらり)もぐもぐもぐ」

 

イカ娘は横目に栄子を流し見るだけで、ガムを噛むのはやめない。

そんなイカ娘の態度にカチンとくる栄子。

 

栄子 「こら!イカ娘!」

 

拳骨を振り下ろす栄子。

しかし__

 

スカッ

 

栄子の拳骨を、イカ娘は難なくかわす。

 

栄子「なっ!」

 

今まで見なかったイカ娘の行動に動揺する栄子。

イカ娘と言うと・・・・

 

イカ娘「・・・・(チッチッチ)」

 

舌を鳴らしながら、人差し指を左右に振る。

映画でよくアメリカ人がやっている、『ダメダメ』といったニュアンスのジェスチャーである。

そんなイカ娘の態度が栄子の逆鱗に触れる。

更なる拳骨を振り下ろそうとするも__

 

スカッ

 

やはり冷静に見切られ、空を切るばかり。

 

栄子 (くそっ、何か今日のイカ娘は調子が狂うな)

イカ娘(いい調子でゲソ。『クール』に保てば、栄子の拳骨なんてハエが止まって見えるでゲソ)

 

ガムを噛むことによる集中力のアップ、そして栄子の動きを注意深く見ることにより、イカ娘は拳骨を見切ることが出来るようになっていた。

 

渚  (栄子さんがイカの人を抑え込めなくなっている!?これは、ついにイカの人の本領が!?)

 

ドキドキしながら行く末を見つめる渚。

すると、イカ娘の背後に一つの影が。

 

ガバッ!

 

早苗 「イカちゃ~~ん!」

 

後ろから早苗が抱き着いてきたのである。

一瞬たじろぐが、すぐに平静を取り戻すイカ娘。

 

早苗 「イカちゃんイカちゃんイカちゃ・・・・えっ?」

イカ娘「・・・・(チッチッチ)」

 

早苗に抱き着かれても騒がず、流し目で指を振る。

 

早苗 「えっ?イカ、ちゃん・・・・?どうしたの・・・・?」

 

そんなイカ娘の様子に、動揺し抱擁を解く早苗。

 

イカ娘「・・・・(フッ)」

 

流し目のまま早苗を見つめ、軽く笑いをこぼす。

 

早苗 「こ・・・・こ・・・・こんなのイカちゃんじゃなーい!」

 

早苗は泣きながら走り去ってしまう。

 

イカ娘(やったでゲソ!栄子はおろか、早苗までも撃退できたでゲソ!やっぱり『クール』は最強なんじゃなイカ!?)

千鶴 「イカ娘ちゃん?」

イカ娘「ひっ!?」

 

厨房から発せられる千鶴のオーラに、今までの平静が全部吹っ飛んでしまう。

 

千鶴 「駄目よ、お友達を泣かせちゃ。あと、もうすぐ忙しくなるから、お片付けとか早めによろしくね?」

イカ娘「はっ、はい!やっておくでゲソー!」

 

千鶴に圧倒され、今まで通りに戻ってしまうイカ娘。

 

栄子 「やっぱり姉貴には敵わないか」

渚  「でも、今日のイカの人、いつもとはちょっと様子が違いましたね」

栄子 「またどっかで変なこと覚えてきたんだろ。気にすることでもないでしょ」

渚  「そう・・・・ですね」

 

その後海の家の営業が終わり、相沢家へ帰宅する三人。

その頃にはイカ娘の様子はすっかり元通りになっていた。

しかし__

 

イカ娘(きっと私の『クール』が未熟だったのでゲソ。もっと『クール』になれるようにすれば、きっと千鶴だって怖くなくなるでゲソ!)

 

イカ娘はまだ諦めていなかった。

そしてまた次の日。

イカ娘は再びサンダースの学園艦を訪れていた。

 

イカ娘「お邪魔するでゲソー」

ケイ 「あら、スクイーディ!また会いに来てくれたのね」

 

戦車倉庫にいたケイがイカ娘を歓迎する。

 

イカ娘「ナオミはどこにいるでゲソ?」

ケイ 「ナオミに用なの?ナオミなら、今ちょっと別の所にいるわよ」

イカ娘「ふむ、そうでゲソか」

ケイ 「ナオミに用ってことは、砲撃に関する質問かしら?」

イカ娘「ちょっと違うでゲソ。『クール』に関してでゲソ!」

ケイ 「クール?」

 

かくかくしかじか。

 

ケイ 「ウーン、なるほどねー。そういうことか」

イカ娘「ナオミのクールさを身に付ければ、戦車道も侵略もうまく行くと思うのでゲソ」

ケイ 「そうねー」

 

ケイはジャンボサイズのコーラをイカ娘に渡す。

 

ケイ 「別に、ナオミはクールってだけじゃないと思うんだけど?」

イカ娘「え?」

ケイ 「ナオミはね、ああ見えて私たちの中では一番ホットな子よ?」

イカ娘「それはないんじゃなイカ?ナオミはいつもあんなに冷静で何があっても動じない、まさにクールそのものじゃなイカ」

ケイ 「うーん、そうよね。スクイーディはナオミが戦車道やってる所しか見たことないものね」

イカ娘「どういう意味でゲソ?」

ケイ 「実際に見たほうが早いかもしれないわね。カモン、スクイーディ」

 

連れてこられた先は体育館。

こっそりのぞき込むと、そこではナオミが腕立て伏せや腹筋など、筋トレをしていた。

 

イカ娘「あれは何をしているのでゲソ?」

ケイ 「あれは砲撃のための筋トレよ」

イカ娘「ナオミは砲手でゲソ?筋力なんて必要ないじゃなイカ」

ケイ 「そうとも言い切れないのよね。砲撃って、撃った瞬間かなりの衝撃が走るのよ?それこそ身構えてないと、次第によっては椅子から転げ落ちちゃう」

イカ娘「物騒でゲソ」

ケイ 「だから砲撃のたびに踏ん張れるように、連続して撃つため砲座に座り続けるためにも、あれは必要な訓練なの」

イカ娘「砲手はただ座って撃てばいいと思ってたが、重労働なのでゲソね」

 

一通り筋トレも終わったナオミは、今度はどこかへ走り始めた。

 

ケイ 「追うわよ。ハリアップ!」

イカ娘「えええええ!?」

 

ナオミは体育館から外に出て、広い校舎の周囲を走り始めた。

ケイは何てことはないが、イカ娘はヒーヒー言いながら追いかけている。

やがてバテて、イカ娘はその場に崩れ落ちる。

 

ケイ 「ヘイ、スクイーディ。大丈夫?」

イカ娘「へぇ、へぇ、へぇ・・・お主たちは、どういう体力しているのでゲソ・・・・」

ケイ 「体力は戦車乗りにとって基本中の基本よ?これくらいでヘバってちゃ、大規模戦で最後まで乗っていられないわよ?」

イカ娘「私たちの試合は、すぐ終わるから、いいので、ゲソォ・・・・。へぇぇぇ・・・・」

 

イカ娘はぺちゃんとその場に伸びてしまった。

その後もナオミを追いかけ、観察し続けた。

柔軟性を保つためのストレッチ。

距離感覚を掴むためか、アーチェリーもする。

戦車知識を深めるための読書もしていた。

全てが終わる頃には、とっくにお昼は過ぎていた。

 

イカ娘「これでやっと訓練は終わりでゲソか。ナオミはいつもこれくらいトレーニングをしていたからあんなに強いのでゲソね」

ケイ 「何言ってるのスクイーディ。あれは自由時間を使った自主トレーニングよ?」

イカ娘「え」

ケイ 「もうすぐ全体練習の時間だから、私も戻らなきゃ。スクイーディは好きなところで見ててね!じゃあまた後で!シーユー!」

 

手を振ってケイは走り去っていった。

その後ケイが言った通りチーム全体で練習が始まり、もちろんナオミも参加していた。

その顔は自主トレの疲れを全く見せず、いつもと全く同じにすら見えた。

 

ケイ 「どうだったかしら?」

 

全体練習も終わり、ケイがイカ娘に声をかける。

 

イカ娘「意外だったでゲソ。ナオミの知らない一面を垣間見たでゲソ」

ケイ 「そうでしょ?ナオミは根っからのクールっていうよりも、自分にやれることに一生懸命なだけ。それが傍目にはクールに見えちゃうってことよ」

イカ娘「一生懸命なだけ・・・・」

ケイ 「ファイアフライの操縦は、それこそ凄いプレッシャーよ。私たちの手持ちの中で一番の戦力であり、フィニッシャーにもなる。だからこそかかる期待とプレッシャーはけた外れ。それに応えるために、私たちのためにナオミは常に平静に勤めようと心がけているの」

イカ娘「私には、到底マネできないでゲソ」

ケイ 「無理にマネる必要なんてないわ。スクイーディーはスクイーティーの、自分がこうありたいと思う戦車道でいいのよ」

イカ娘「私の戦車道、でゲソか・・・・」

ケイ 「楽しみだわ。スクイーディはこれから、どんな戦車道を歩むことになるのかしらね」

 

場所は変わり、ナオミは校舎の屋上で夕陽を眺めていた。

 

イカ娘「ナオミ」

ナオミ「ん?」

 

イカ娘がフェンスの向こう側からニューッと姿を現す。

触手を伸ばし、屋上の高さまで上がっている。

 

ナオミ「本当に便利だな、それは」

イカ娘「うーむ、やはり驚かないでゲソね」

 

触手を操り、屋上に降り立つ。

 

イカ娘「この間、『クール』について聞いたのを覚えてるでゲソか?」

ナオミ「ああ、そういえばそんなこと聞かれたこともあったな。それでどうだ?何かわかったのか?」

イカ娘「うむ!私の目指していた『クール』は、私が思っていたものとは違ったでゲソ」

ナオミ「そうか。それは、残念だったな」

イカ娘「逆でゲソ。私が思ってたより、もっといいものだったでゲソ!」

ナオミ「そうなのか」

イカ娘「でも、今の私じゃまだまだ習得できそうにないでゲソ。だから、もっとお手本を見て近づくでゲソ!」

ナオミ「それは楽しみだな。完成したら見せてくれ」

イカ娘「うむ!一番に見せてやるでゲソ!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

三バカ「イヤッホォーウ!」

クラー「ついに成功シマした!」

マー 「我々の頭脳と技術の結晶!」

ハリス「イエス!ウィーキャン!」

 

数日後。

久しぶりに晴れた空の下、海の家れもんで三バカがはしゃいでいる。

シンディーもいるが、我関せずといった具合で一人アイスコーヒーを飲んでいる。

 

栄子 「今日のあいつらはいつになくうるさいな」

イカ娘「まったくでゲソ」

栄子 「ところでイカ娘。最近あのモノマネみたいのはもうしなくなったのか?」

イカ娘「モノマネ?何のでゲソ」

栄子 「ほら、何日か前、仕事中にガム噛んだり、外人みたいなジェスチャーしたりしてただろ。あれだよ、あれ」

イカ娘「ああ、あれでゲソか。あれはもうやめたでゲソ。私の求めたものとは違ってたでゲソ」

栄子 「そりゃ何よりだ。あんなウザいの続けられたらストレスたまる」

ケイ 「ヘイ!スクイーディ!」

 

水着姿のケイたちがれもんへやって来た。

 

イカ娘「おお、ケイじゃなイカ!よく来たでゲソ」

ケイ 「今日は練習お休みだから、みんなを連れて遊びに来たわよ!」

車長 「やっほー、スクイーディ」

砲手 「海の家で働いてるって、ほんとだったんだね」

通信手「イカってたくましいんだねー」

イカ娘「おお、みんなも来てたでゲソか!」

アリサ「ああ、あっつい・・・・。かき氷食べたい・・・・」

 

既に暑さでバテ気味のアリサが机に突っ伏す。

 

ナオミ「アリサ、海に来たばかりだろう」

アリサ「勘弁してよ・・・・連日炎天下の演習でただでさえ夏バテなんだから・・・・」

ナオミ「仕方のないやつだな」

ケイ 「じゃあ、二つに分かれましょっか。先に海の家でくつろぎたい子はこのまま待機、海に行きたい子は・・・・」

装填手「行きたい子は~?」

ケイ 「私に続けーっ!ゴーアヘーッ!」

サン生「イエーッ!」

 

ケイのテンションに呼応した大半のサンダース生たちが海へ突撃していった。

れもんには少しばかりのサンダース生と、へばっているアリサ、ナオミ、装填手が残った。

 

イカ娘「ナオミはいかないのでゲソ?」

ナオミ「私はサードパーティだ」

 

ナオミはおもむろにビーチパラソルを砂浜に突き刺し、ビーチチェアをセットし、そこへ寝転がる。

顔にはサングラス、傍らにはトロピカルな色合いのジュース。

まさに絵になるバカンス中の様子である。

 

イカ娘「うーむ、『クール』でゲソね」

栄子 「海で何をするかしっかり決めていたな、あれは」

 

感心する栄子。

 

シン 「サンダースか。懐かしいわね」

 

ぽつりと、シンディーが呟く。

 

栄子 「ん?シンディー、サンダースを知ってるのか」

シン 「知ってるも何も・・・・前に話したでしょう?私の行っていた大学の同系の高校が日本にもあるって」

栄子 「あー、そういえばそんなこと言ってたな。あれってサンダースのことだったのか」

装填手「それじゃ、お姉さんは本場アメリカのサンダース校の人なんですね~」

シン 「あの頃は、宇宙人と戦車道漬けの毎日だったわ。もう何年前になるかしら」

イカ娘「ということは、シンディーはケイたちの先輩にあたるのでゲソ?」

シン 「先輩・・・・というのかしらね。同系と言っても私は大学からだし、ましてや日本とアメリカ。距離も全然違うし、接点も無いわ。というか同じ高校でないと先輩後輩にならないでしょ」

栄子 「そりゃそうだ」

シン 「でも、時々日本のサンダース高校の話はあちらでも耳にしたわ。いつも上位に食い込んで、世界進出してきたら是非一緒のチームを組みたいと言っていたわ」

装填手「夢のある話ですね~。私たちもぜひお願いしたいくらいです~」

シン 「そうね」

三バカ「イヤッホォーウ!」

 

和やかな交流の空気をぶち壊す、三バカの陽気な声。

怪しい装置を持って砂浜へ駆けていく。

その頃、海に出たケイたちは、思い思いに海ではしゃいでいた。

ケイとイカ娘と組んでいるシャーマンチームの面々は、ゴムボートを借りて来て沖へ漕ぎ進めていた。

 

操縦主「よいしょ、よいしょ・・・・」

通信手「がんばれ~」

砲手 「ほら、そんな速度じゃ波に押し返されちゃうよ?」

操縦主「だったら手伝ってよ!」

車長 「いやほら、操縦はあんたの専門だし。私は進行方向をアシストするよ。よーそろー!」

操縦主「んもう!」

ケイ 「アハハハハ!無理はしちゃいけないよー。それにしても、ホントいい天気よね」

 

雲一つない青空、仰ぎ見るようにケイはゴムボートのフチに背中をもたれかけ姿勢を崩す。

フチにもたれて背中が反り返り、ケイに備え付けられた巨大な二つの砲弾の存在が強調される。

 

砲手 「・・・・」

車長 「・・・・」

 

急に沈黙し、自分の胸元に手をやる。

 

車長 「あの、隊長!」

ケイ 「ンー?どうしたの?」

 

リラックスしたまま返事をするケイ。

 

車長 「どうしたら、・・・・その、__『隊長のように』なれるんですかっ!?」

ケイ 「私のように?」

 

考えるように空を仰ぐ。

 

ケイ 「・・・・そうね。やっぱり、戦車道に誠実であること、かしら」

砲手 「戦車道に・・・・」

ケイ 「そう。私は戦車道が大好き。戦車道から学んだことや得たことは数えきれない。そしてこれからも沢山の大切なものを貰い続けていく。だからこそ、そんな戦車道に反するようなことはしたくないの」

車長 「・・・・」

 

真面目な顔で聞き続ける二人。

 

ケイ 「戦車道、書いてその通り、戦車の道。道にならえば、戦車はきっと応えてくれる。戦車に誠実になれば、道は必ず見えてくる。私は、それを守り続けただけ。でも__」

砲手 「でも・・・・?」

ケイ 「私が望んだ以上のものを戦車道は与えてくれたわ。仲間、誇り、喜び、出会い。だからこそ戦車を愛して、戦車が喜ぶことをしていきたい。それが私を形作っていくの。・・・・アハハ、何だかスピリチュアルな話になっちゃったかしら」

 

気が付くと、みんな真剣な顔をしてケイを見ている。

 

車長 「隊長!感動しました!」

操縦主「私、ずっと隊長についていきます!」

通信手「私たちも、もっと戦車道頑張ります!」

砲手 「小さいだの大きいだの、気にしてた私たちがバカでした!」

ケイ 「うん?あー・・・・うん。頑張ってね!期待してるわよ、未来のエースたち!」

 

その頃、砂浜では。

 

三バカ「イヤッホーゥ!」

 

まだ三バカが騒いでいる。

 

栄子 「さっきからうるせえよ!何だって言うんだよ」

クラー「これを見てクダさい!」

 

クラークは空を指さす。

 

栄子 「んー?」

 

よく目を凝らすと沖のほう、かなりの高さに何かが浮いている。

 

栄子 「なんだありゃ?またアタンタらの発明か」

ハリス「イエス!あれこそ我々が持てる技術を総結集して作り上げた!」

クラー「望むままに天候を操作できる!」

マー 「『お天気チェンジャー』デース!」

栄子 「まーた変なもの作りやがって・・・・」

ハリス「デスが栄子サン、この青空を見テ同じコトが言えますか?」

クラー「天気予報デハまだ曇リや雨が続くト言ってマセンでしたカー?」

栄子 「ん?そういえばそんなこと言ってたような・・・・まさか!?」

マー 「イエース!この青空は我々の作ったお天気チェンジャーが周囲の雲全テを吸い込んで晴れを作り出シタのデース!」

ハリス「これこそ全ての人が喜ぶ文句なしの発明!」

マー 「MIT主席の我々ガ人類に大キク貢献する日がヤッテ来たのデース!」

三バカ「イヤッホォーウ!」

栄子 「確かにこれは凄い発明だが・・・・ホントに安全なのか?」

 

そのころ再び、沖の方でボートに乗っているケイたち。

 

砲手 「だいぶ沖まで来たねー」

通信手「これ以上離れたらさすがに危ないよね~?」

車長 「そうだね。ストーップ」

操縦主「くはーっ、やっと解放されたー!」

ケイ 「アハハ、お疲れ様」

 

ポツリ

 

操縦主の頭上に水滴が当たる。

 

操縦主「ん?今ポツリとこなかった?もしかして雨?」

砲手 「何言ってんの。雲一つない青空で、それはあり得ないでしょ」

 

ポツリ

 

水滴が、ケイの頬にも当たった。

 

ケイ 「・・・・あら?」

 

ポツ・・・・ポツ・・・・

 

気が付いてから間を置かず、段々と雨の勢いが増し始める。

 

操縦主「やっぱ雨だよ、ほら!」

車長 「どうして?空には雲なんて・・・・」

 

車長が見上げると__

どこから発生したのか、黒い雲がどんどんと空を覆い始め、それに比例して雨の勢いも強くなり始める。

 

通信手「ウソっ!?どうして!?」

ケイ 「っ!みんな、漕いで!急いで浜辺に戻るわよ!ハリアップ!」

 

ケイの掛け声に慌てて全員でゴムボートを漕ぎ始めるが、雨足はどんどん強くなり、瞬く間に土砂降りなほどにまでになっていた。

 

男  「うわー!土砂降りだー!」

女  「早くあがりましょう!」

 

雨に慌てた海水浴客たちがどんどん海からあがっていく。

 

栄子 「おい!何だよこの雨!」

ハリス「ドウヤラお天気チェンジャーが吸い込んダ雲の量が、キャパシティーを越えてしまったようデスね」

マー 「抑え込んデいた反動デ雨雲が異常発達シテしまったようですネ」

栄子 「何っ!?」

 

お天気チェンジャーはどんどん自身から黒い雲を吐き出し続け、天候を悪化させていく。

 

クラー「マダマダ改良の余地ガがアリましたか」

栄子 「言ってる場合か!」

サンA「あの!隊長たち、戻ってきましたか!?」

栄子 「えっ?」

サンB[隊長たち、ゴムボートを借りて沖まで出てたんです!」

栄子 「何だって!?」

 

栄子は監視台で双眼鏡を除いている吾郎のもとへ駆け寄る。

 

栄子 「吾郎!海水浴客たちは無事か!?」

吾郎 「ああ、この雨でみんな慌ててあがったようだ。周囲には残っている人はいなさそうだが・・・・」

栄子 「一組、沖の方にゴムボートで出てた子たちがいるんだ!」

吾郎 「何だって!?」

 

吾郎が沖の方に双眼鏡を向けると・・・・

 

吾郎 「・・・・!いたぞ!」

栄子 「やっぱりか!」

 

大雨で荒れた海の上で、ボートから振り落とされないように必死にボートを掴むケイたちが見えた。

 

吾郎 「まずいぞ・・・・距離がある上に、この荒れ具合じゃ助けにも行けない!」

 

栄子は急いでれもんに戻る。

 

栄子 「まずいぞ!ケイさんたちが沖に取り残されてる!」

イカ娘「!」

 

沖の方では、漕ぐことすらままならなくなったゴムボートの上で、ケイたちが耐え続けていた。

 

砲手 「た、隊長ー!」

ケイ 「落ち着いて!絶対に海に落ちちゃダメよ!ボートにしがみついて、収まるのを待つの!」

通信手「うわあああああん!」

 

まだ何とか耐えてはいるが、時間の問題である。

 

栄子 「おい三バカ!機械を止めろ!」

ハリス「ソレはやまやまナンですけド」

クラー「壊れてしまっタようで言うことキキマセーン」

マー 「発明に失敗ハつきものですカラね!」

 

栄子の右ストレートで三バカは崩れ落ちた。

 

イカ娘「ケイ!今助けるでゲソ!」

 

イカ娘が触手を伸ばしてケイたちを掴もうとするが__

 

ピシャーン!バリバリ!

 

イカ娘「うわあああ!」

 

雷まで発生し、伸ばした触手に当たりそうになる。

 

栄子 「イカ娘!大丈夫か!?」

イカ娘「だ、大丈夫でゲソ!当たらなかったでゲソ」

 

しかし、これでは仮にケイたちを掴めても、引き戻すときにケイたちに雷が当たりかねない。

 

イカ娘「こうなったら・・・・!」

 

イカ娘が海へ駆けだす。

 

栄子 「あっ、おい!イカ娘!」

 

栄子が停める間もなくイカ娘は海の中へ飛び込んでいった。

そして、海の中を潜航し__

 

イカ娘「みんな!」

通信手「スクイーディ!?」

 

イカ娘はゴムボートまでたどり着いた。

触手を使いゴムボートを包み込む。

 

イカ娘「このまま浜辺まで引っ張っていくでゲソ!」

ケイ 「ありがとう、助かるわ!」

 

固定し終え、引き戻そうとするが、

 

ザッパーン!

 

車長 「きゃああああ!」

 

高波まで発生し、大量の海水がゴムボートを襲う。

大量の水がゴムボートに溜まり、操縦主が泣きそうな顔になる。

かつ、大波でボートが大きく揺さぶられ、いつひっくり返ってもおかしくない状況である。

 

イカ娘「くっ!」

 

イカ娘は引っ張るのを諦め、ゴムボートを触手で包み込む。

ゴムボートはマリの様になった触手に包み込まれ、やっと少しばかりの安定を得る。

 

通信手「スクイーディ、ありがとう!」

イカ娘「みんな無事でゲソね!?」

ケイ 「ええ、みんな大丈夫よ!でも、海がこのままじゃ、戻ることはままならないわね」

イカ娘(これでも完璧にみんなを守れてるとは言えないでゲソ、何か手は無いのでゲソか・・・・!)

 

再び砂浜にて。

 

栄子 「おいお前ら!アレはどうやったら止まるんだよ!」

 

栄子が殴り倒した三バカを詰問している。

 

マー 「アレは完全に壊れてシマってマスね」

ハリス「止めるのハ最早我々では不可能デス」

クラー「完全に壊してしまうしかありまセーン」

栄子 「だから、どうやって壊すんだよ!」

ハリス「幸い物理耐性はさほどデハないので、強い衝撃を与えレバ、きっと・・・・」

栄子 「強い衝撃って・・・・あんな遠くの空中に浮いてるものをどうやって壊せって言うんだよ!」

シン 「あるわ!」

栄子 「え?」

 

シンディーの目線の先には__イカ娘たちのチャーチルがあった。

 

栄子 「まさか、あれを使って撃ち落とそうっていうのか!?」

シン 「今はそれしかないわ。他の手段を講じている時間は無いはずよ」

栄子 「・・・・よし、やろう!」

 

ドオン!ドオン!ドオン!

 

チャーチルに乗り込んだ栄子とシンディー、装填手たちがチャーチルを操作してお天気チェンジャーを狙うが、いかんせん的が小さすぎて当たらない。

 

シン 「くっ!こんなことなら、もっと砲撃精度を高める練習をするべきだったわ!」

装填手「はあ、はあ、はあ・・・・!」

 

短時間で連続装填し続けている装填手の体力もかなり削られてきている。

 

栄子 「無茶はしないで!きつかったらペースダウンしていいから!」

装填手「だ、大丈夫です!当たるまで、何十発だって装填しますから・・・・!」

 

ドオン!ドオン!

 

シン 「何で!?何で当たらないのよ!」

 

焦りと苛立ちから、シンディーの砲撃がどんどん荒くなっていく。

さらに荒れた海の上では、イカ娘の触手ボールが大波に遊ばれるように大きく揺さぶられ続けている。

 

ナオミ「・・・・!アリサ!」

アリサ「・・・・わかってるわよ!」

 

今まで様子を見守り続けていたナオミとアリサが、意を決してチャーチルへ駆け込む。

 

ナオミ「代わらせてください!」

シン 「!」

 

かくして、アリサが車長、ナオミが砲手として加わり、臨時のチャーチルチームが改めて狙いをつけ始める。

 

アリサ「北東から風速二十、目標距離目視五百、高度三百、定位置にて浮遊。射角十六度に調整。__撃て!」

 

ドオン!

 

ナオミの第一射は、いいコースを捉えるもののやや逸れてしまい、当たらなかった。

 

シン 「ああっ、惜しい!」

 

外れたことを惜しがるシンディーだったが、アリサとナオミは動じない。

 

アリサ「次、右二度修正、射角一度上げ!__次で決めるわよ、ナオミ」

ナオミ「当然だ」

 

次弾が装填される。

ナオミの脳裏に、ケイや車長たち、イカ娘の顔が浮かぶ。

一度目を固く閉じ、しっかりと目を見開き前を見据える。

チャーチルが沈黙に包まれ、そして__

 

ナオミ「・・・・・・・・」

 

ドオン!

 

チャーチルから放たれた砲弾は、吸い込まれるようにお天気チェンジャーに向かっていき、

 

ドッカーン!

 

見事命中し、粉砕した。

 

栄子 「おお!」

シン 「すごい!二発で当てちゃった!」

 

途端に青空が広がり、海も穏やかさを取り戻した。

イカ娘がゴムボートをけん引し、浜辺までケイたちを無事に連れ戻した。

 

装填手「みんなーーー!」

 

装填手が泣きながら飛びつく。

 

車長 「わぷっ!もう、勢い良すぎ!」

装填手「よかった、よかったよおーー!」

通信手「あはは、それにしてもよく生きてたよね~、私たち」

砲手 「隊長がいてくれなかったら、早々と海に投げ出されてたよね」

ケイ 「そんなことないわよ。みんなを助けてくれたのは、スクイーディだもの。来てくれて本当に助かったわ、ありがとうスクイーディ」

操縦主「ほんとほんと!あそこでスクイーディが来てくれたのが、どれだけ心強かったか!」

通信手「私たちの命の恩人だよ!ありがとう、スクイーディ!」

イカ娘「た、大したことじゃないでゲソ!友達、を・・・・迎えに来ただけでゲソよ」

栄子 「それだけかー?あんな必死な形相で嵐の海に飛び込んでおいて?」

イカ娘「そ、それはもう過ぎたことでゲソ!」

 

真っ赤なイカ娘。

そしてケイはナオミとアリサのもとへ歩み寄る。

 

ケイ 「ありがとう、ナオミ。試合どころか、命まで助けられちゃったわね」

ナオミ「・・・・私は、自分のできることをしたまでですから」

 

ケイは右手を差し出す。

ナオミも、右手を出して握手をする。

__その手は、小刻みに震えているのを、ケイは気づいていた。

 

ナオミ「うわっぷ!?」

ケイ 「サンキューベリマッチ!!」

 

そのままケイはナオミを引っ張り、強く抱きしめた。

ナオミの顔を胸元にうずめ、ナオミにだけ聞こえる小さな声でささやく。

 

ケイ 「__本当にありがとう。貴女がいてくれて、貴女たちに会えて。本当によかったわ」

ナオミ「__!」

 

ナオミはケイに顔をうずめているため、表情は見えなかった。

だが、ナオミはケイを抱きしめ返し、

 

ナオミ「本当に無事で、良かった・・・・」

 

震えた声で、ぽつりと呟いた。




クールに装い中身はホット、自分なりのナオミ観はそんな印象です。

サンダースのメンバーは三人しかいないので、話を広げるためにイカ娘と組んだモブチームの子らにも個性が付き始めてしまいました。

戦車ゲームなどで自走砲などを操作することもありますが、一撃当てられるかどうかで戦局が左右されかねない役割を担うと、プレッシャーは並みならぬものですね。

各キャラの鍛錬している所は本編には出てこなかったので自分なりに想像して書きましたが、実際の所はこれくらいじゃ済まないかもしれませんね。
あまり努力とかしない自分にはこれくらいの表現が限界です。

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