侵略!パンツァー娘   作:慶斗

13 / 104
※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。

ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ
アッサム→アッサ
ルクリリ→ルク
ローズヒップ→ローズ
ニルギリ→ニル

聖グロリアーナ聖A、B、C・・・・→グロA、B、C

船舶科の生徒A、B、C→船舶A、B、C


第6話・華麗に行かなイカ?

女性 「ご馳走様でした」

 

海の家れもんにて。

一人の女性客が、料理を食べ終えた。

 

栄子が皿を片付けに向かう。

 

女性 「とても美味しいお料理でした。感謝いたします」

千鶴 「お口に合ってなによりだわ」

栄子 (ん?)

 

女性と千鶴の会話に少し引っかかる栄子。

とはいえ詮索するのも何なのでそのまま片付ける。

と__

 

女性 「あの」

栄子 「はい?」

女性 「こちらでは、お紅茶を出していただけると聞きましたが」

栄子 「あっはい、希望される人には出してますが」

女性 「では、お願いできますでしょうか」

栄子 「はいはい。えーっと、いちおう茶葉の種類はいろいろ揃ってるんですが、どれがいいですかね?」

女性 「そちらにお選びいただいたもので結構です。お任せいたしますわ」

栄子 「はあ・・・・」

 

どうしたものか、と千鶴の元へ。

 

栄子 「どうする?姉貴」

千鶴 「準備は私がするわ。栄子ちゃんは、他のテーブルのお片付けをお願い」

栄子 「ああ、任せた」

 

ティーカップ、ティースプーンに紅茶の茶葉の入った缶、そしてお湯の入ったケトルとポット。

千鶴はそれら一式を手際よく用意し終え__

 

千鶴 「イカ娘ちゃん、お願いね」

 

イカ娘に持って行くように言った。

 

イカ娘「え?まだ紅茶淹れ終わってないじゃなイカ」

千鶴 「ええ。あの人の席でイカ娘ちゃんが淹れてちょうだい。大丈夫、淹れるところは見ていたからやり方はわかるでしょう?」

イカ娘「むう・・・・?保証はしないでゲソよ」

 

いぶかしげな表情をしながら紅茶セットを持っていく。

そして女性客のテーブルに置くと__

 

イカ娘「今から淹れるでゲソ。ちょっと待ってるでゲソよ」

女性 「ええ」

 

イカ娘は目前で紅茶を淹れ始めた。

 

イカ娘「えっと、まずポットにお湯を入れて・・・・」

 

最初にポットにお湯を入れ、ポットを温め始める。

 

イカ娘「そして、まずこのお湯は捨てるのでゲソね」

 

しゅるっ

 

いちいち厨房に戻るのも億劫だったため、触手を伸ばしてポットのお湯を流しに捨てる。

 

女性 「!」

 

イカ娘の触手を目の当たりにして女性客が目を見張る。

 

イカ娘「そしてお湯をポットに入れなおし、茶葉を淹れ、少し蒸らしてから__」

 

次々と触手を展開し、手際よく準備を進めていく。

逐一手だと並べたり持ち直したりする手間も、触手を使うことにより同時進行が可能になっている。

 

イカ娘「そして、出来たお茶を茶漉しを通してカップに__」

 

触手でポットを掴み、触手で茶漉しを持ち、手でカップを固定して器用にお茶を注いでいく。

その間も女性客は面白いものを見ているように目を輝かせている。

 

イカ娘「__よし。お待たせしたでゲソ」

 

女性客に向け淹れ終わったお茶を差し出す。

絶妙な蒸らし時間と迅速かつ正確な手際により、いつになく薫り高い紅茶の香りが店内に広がる。

やがて栄子の鼻にも香りが届く。

 

栄子 (・・・・あれ?この匂い、たしか__)

 

覚えのある香りに首をひねる栄子。

紅茶を一口すする女性客。

 

女性 「!」

 

一瞬驚きからか目を見開いたが、すぐに平静を保つ。

そして一杯分の紅茶を飲み終えたころ、その表情は満足感に満ちていた。

 

女性 「ご馳走様でした。とても美味しかったですよ」

イカ娘「うむ!私にかかればこれくらい当然でゲソ!」

栄子 「調子に乗んな!」

 

二人のやり取りを見て笑顔を浮かべる女性客。

やがて席を立ち、千鶴の方へ向きなおす。

 

女性 「とても有意義な時間を過ごすことができました。お心遣い、心から感謝いたします」

 

そう言うと、女性客はスカートの端をつまみ片足を引き、腰を曲げ頭を下げた。

カーテシーと言われる、イギリス女性の挨拶である。

 

千鶴 「満足してもらえたのなら嬉しいわ。ぜひ、また来てちょうだいね」

女性 「是非」

 

そうして、女性客はれもんを去っていった。

 

栄子 「なんだかすごい上品な雰囲気のある人だったな。もしかしてグロリアーナの関係者かな」

イカ娘「そう言われれば、何だかダージリンさんに似てたでゲソ」

栄子 「紅茶をリクエストするあたり、いかにもな。・・・・そういえば、さっきあの人に淹れてた紅茶。今までにない香りがしてたな。なんて銘柄だっけか」

イカ娘「えーっと・・・・ラベルに書いてあるでゲソ」」

 

イカ娘は勘に書かれたラベルを読み上げる。

 

イカ娘「アール・・・・グレイ?」

 

同じ日。

由比ヶ浜沖に停泊している聖グロリアーナ女学院学園艦にて。

その中にある隊長室で、ダージリンたちは優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいる。

見るからに高価そうなサイドテーブルには椅子が四つ用意されており、アッサムがオレンジペコの淹れた紅茶を口にした。

 

アッサ「美味しい。また腕を上げたわね、オレンジペコ」

ペコ 「恐れ入ります」

ダー 「香りが昨日とはまるで別物ね。同じ茶葉とは思えないほど」

ペコ 「今日は蒸らしの時間を五秒ほど長めにしてみました」

ダー 「素晴らしい躍進だわ、ペコ。明日はどんな感動が待っているのかしら」

 

時同じくして、校内を一人の女性が歩く。

その女性はまさに、直前までれもんで紅茶を堪能していたその女性客である。

その人物が誰かとすれ違うたび、誰もが振り返り、話し相手がいれば必ずささやきあっている。

と、前方からルクリリ・ニルギリ・ローズヒップが歩いてきた。

 

ローズ「近頃、ダージリン様何かおありになったのでしょうか」

ルク 「うん?どうしてそう思う?」

ニル 「どうも近頃、気にかけていることがおありのようなのです」

ルク 「何か悩み事かな・・・・。戦車道関係とか?」

 

最初に彼女に気づいたニルギリは歩みを止め、廊下の端に寄る。

 

ルク 「?おいニルギリ、どうし__」

 

言い終える前に前方の女性に気が付き、顔色が変わる。

慌ててニルギリと同じように廊下の端による。

一人事態が把握できないローズヒップ。

 

女性 「もし、そこの貴女」

ローズ「?わたくしでございますの?」

女性 「ええ。・・・・ダージリンは、今どこにいるかしら」

ローズ「ダージリン様ですの?ダージリン様でしたら今は隊長室におられますわ!」

女性 「そう、ありがとう」

 

微笑んで女性は去っていった。

 

ローズ「どなたでございましょうね?見たことない顔でございましたわ」

ルク 「おまっ・・・・!聖グロにいてあの人を知らないとかどういうことだよ!」

ローズ「どういうことってどういうことですの」

ルク 「お前・・・・あの人は、あの方はなあ!」

 

コンコン

 

隊長室をノックする音がする。

 

ダー 「どうぞ」

 

ドアが開き、女性が部屋へ入ってくる。

 

ペコ 「あ、貴女様は・・・・!」

アッサ「どうしてこちらに・・・・!?」

 

おもむろに椅子から立ち、カーテシーするダージリン。

 

ダー 「ご無沙汰ですわ。__アールグレイ様」

 

 

※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。

 

アールグレイ→アール

 

アール「お久しぶり。元気でやっていたかしら?__ハヤシアーティ」

 

その呼び方にクスリとするダージリン。

 

ダー 「残念ながら、そのあだ名の期間は昨日で終了いたしましたわ」

アール「あら残念。貴女に面白いあだ名がついたと聞いたから参じたのに」

ダー 「はい。ですから、昨日終了させたのですわ」

アール「相変わらずのようね。いつもの貴女でいてくれて嬉しいわ」

ダー 「アールグレイ様こそ、日々ご健啖のようで何よりですわ」

 

にっこりとほほ笑みあう二人。

 

アッサ「アールグレイ様、立ち話も何ですし、こちらへお掛けになってください」

アール「ありがとう」

ペコ 「お紅茶、淹れなおしますね」

アール「いいえ、気遣いは無用よ。オレンジペコ、貴女もお座りなさい。一緒にお茶を楽しみましょう」

ペコ 「えっ」

 

ダージリンをチラッと見やると、笑顔で頷いた。

 

ペコ 「・・・・では、遠慮なく」

 

おずおずと席に着いた。

そして始まる四人でのお茶会。

他愛のない近況報告や世間話、戦車道について話に花が咲く。

そして、

 

アール「ここへ来る前にれもんへ立ち寄って来たの」

 

突如アールグレイが話を切り出した。

ぎょっとするアッサムとオレンジペコ。

 

ダー 「__いかがでしたでしょう」

アール「一言でいえば・・・・面白い子ね。あのような子は、これまで出会ったことすらなかったわ」

ペコ 「・・・・だと思います」

アール「あの子の持つ資質、思想、そして他の誰も持ち合わせていないあの個性。あの子は、まさに固定概念で凝り固まった私たちに新しい風を吹き込んでくれるでしょう」

ダー 「では」

アール「ええ。私に異論はないわ」

ダー 「決まりですわね♪」

 

何のことを話しているかわからない二人を尻目に、ダージリンとアールグレイはまるで幼い少女のように目を輝かせていた。

数日後、相沢家にて。

 

栄子 「イカ娘ー。お前宛に郵便が来てるぞー」

イカ娘「私にでゲソか?誰からでゲソ」

栄子 「どれどれ、えーと・・・・」

 

栄子の手が止まる。

 

栄子 「・・・・読めん」

イカ娘「は?」

栄子 「全部英語で書いてあんだよ!読めるかこんなもん!」

 

半ギレでイカ娘に封筒を投げつける。

 

イカ娘「どれどれ・・・・何だ、聖グロリアーナからじゃなイカ」

栄子 「は!?」

イカ娘「ほら、封筒に『St. Gloriana Girls` High School』って書いてあるじゃなイカ」

栄子 「読めねえよ!聖グロなら日本語で書けっての!ここは日本だぞ!」

 

すっかりヘソを曲げた栄子。

 

イカ娘「やれやれ、栄子の英語嫌いも困ったものでゲソ」

 

やれやれといった表情で封筒を空けようとするが__手が止まる。

 

栄子 「どうした?」

イカ娘「これ、どうやって開くのでゲソ」

栄子 「ん?」

 

見ると、封筒の口の部分に鮮やかな赤い封蝋がなされている。

もちろん封蝋の印璽は聖グロリアーナの校章がデザインされている。

 

栄子 「下手に手で空けると破けそうだな」

イカ娘「ハサミで開けるのがいいのでゲソかね?」

栄子 「わからん・・・・。姉貴に聞いてみるか」

 

二人は千鶴の元へ向かった。

 

シュパッ

 

手刀で寸分の違いもなく封蝋を空ける千鶴。

 

千鶴 「開いたわよ」

イカ娘「あ、ありがとうでゲソ・・・・」

 

ドン引きするイカ娘。

 

千鶴 「封蝋なんて懐かしいわね。私も学生の頃、お友達とお洒落のつもりで事あるごとに封蝋してお手紙を送っていたわ。手元にハサミが無かったら手で切ったりして」

栄子 (絶対そんなやり方、姉貴だけだったと思う)

千鶴 「それでイカ娘ちゃん、中身は何だったのかしら?」

イカ娘「うむ・・・・」

 

イカ娘が封筒から取り出したのは、一枚のこれまた上質そうな紙。

それに気品ある書体で文字が並べられている。

 

イカ娘「ふむ、ふむ・・・・」

 

やがて読み終えるイカ娘。

しかし読み終えても表情を変えない。

 

栄子 「?」

千鶴 「イカ娘ちゃん、何て書いてあったの?」

イカ娘「ふむ・・・・」

 

首をかしげる。

 

イカ娘「読んだのでゲソが、意味が分からないでゲソ」

千鶴 「ちょっと見せてちょうだい」

イカ娘「うむ」

 

紙を受け取り目を通す。

千鶴の顔が少し驚いた顔をする。

 

栄子 「姉貴、どうした?何て書いてあった?」

 

横から覗き込む。

 

栄子 「えーっと何々?『拝啓イカ娘殿。この度当校の厳正なる審査の末、貴殿の当校への中途入学を求めるものとします。聖グロリアーナ女学院ちょ__』ちょおおおおおお!?」

 

プルルルルル

 

栄子が叫ぶと当時に、家の電話が鳴った。

まさか、と思い慌てて受話器を取る。

 

栄子 「もしもし!?」

ダー 『お手紙は届きましたでしょうか』

 

電話の主はやはりダージリンだった。

 

栄子 「今読んだところだけど、どうしてそれがわかって__いやいや、問題はそこじゃない!」

ダー 『あらあら』

栄子 「これってどういうことです!?イカ娘を聖グロに入学させるって!」

イカ娘「えっ!?」

 

イカ娘本人も驚いている。

 

ダー 『お読みになった通りですわ。我が聖グロリアーナはイカ娘さんを特別優待生として招き入れる準備が完了したということです』

栄子 「いや、どういうことだ!?」

ダー 『もちろん審査は厳正に、かつ公正に行われましたわ。内外生からの強い推薦、そしてやんごとなき環境に身を置かれていること。イカ娘さんはその条件をすべて満たしております』

栄子 「いやいやいや、どういうことだ!?」

ダー 『あの、栄子さん』

栄子 「いやいやいや!」

千鶴 「栄子ちゃん、お電話変わってちょうだい」

 

変わって千鶴が受話器を持つ。

 

千鶴 「お電話変わったわ。それでダージリンちゃん、精査の基準はやっぱり__ええ、そうだったのね、道理で__ええ、ええ。それはもちろん__」

 

呆けている栄子と、未だ状況が分からないイカ娘。

 

千鶴 「__それじゃあ、そのようにしてもらえるかしら。__ええ。説明は私が詳しくしておくわ。__はい、それじゃあ、またね」

 

千鶴は受話器を置き__イカ娘を見てにっこり微笑んだ。

 

イカ娘「?」

 

二日後。

イカ娘は、聖グロリアーナ女学院の学園艦の入り口に立っていた。

 

イカ娘「ほー・・・・」

 

数ある学園艦の中でも色々な意味で規模の違うグロリアーナ学園艦を目の当たりにし、イカ娘が感嘆の声を上げる。

 

千鶴 「イカ娘ちゃん、聖グロリアーナを間近で見るのは初めてだったかしら」

イカ娘「うむ。遠目には何度も見たでゲソが・・・・でっかいでゲソ!」

 

ギギギギィー

 

重厚な音を立て学園艦の搬入口が開く。

その扉が開いた先には__

 

千鶴 「あら」

イカ娘「む?」

 

車体が鮮やかな赤をした馬車が待ち受けていた。

傍らにはオレンジペコとアッサムが控えていた。

 

ダー 「ご機嫌よう。お待ちしておりましたわ、皆さま」

 

馬車からダージリンが顔を覗かせる。

 

千鶴 「ご機嫌よう、ダージリンちゃん。イカ娘ちゃんがお世話になるわ」

ダー 「はい」

アッサ「では千鶴さま。以降は私たちが責任を持ちましてお招きいたします」

千鶴 「ええ、お願いね。いってらっしゃい、イカ娘ちゃん」

イカ娘「うむ!行ってくるでゲソ!」

 

オレンジペコから促され、馬車に乗るイカ娘。

そのままアッサムたちも馬車に乗り込み、馬車は学園艦内部へと去っていった。

再び扉は締まり__学園艦は出港した。

そんな一連の流れを、千鶴は嬉しそうに見届けていた。

学園艦へ向かう馬車内部。

 

イカ娘「すごいでゲソ!まるで違う国にいるみたいじゃなイカ!」

 

イギリス風の造りを意識したグロリアーナの街並みをはしゃいで眺めるイカ娘。

 

アッサ「グロリアーナはイギリスの文化を強く取り入れた学校です。当然街並みや扱われているものもイギリスに準拠したものになっているのですよ」

イカ娘「ほー・・・・あれ?」

 

ふと気づく。

 

イカ娘「そういえば、馬車に乗ってるでゲソね。戦車ではなかいのでゲソ?」

ダー 「ええ。馬車でなら我がグロリアーナの街並みを存分に堪能していただけるし__」

 

おもむろに何かを取り出す。

 

ダー 「戦車内部でお着替えは困難でしょうから」

 

渡された服に着替えるイカ娘。

それは、イカ娘のサイズに仕立て上げられた聖グロリアーナの制服だった。

 

イカ娘「おお、ぴったりじゃなイカ!」

ペコ 「とてもよく似合っています」

アッサ「ええ。オーダーメイドの甲斐があったというものね」

イカ娘(しかし、どうやって私のサイズを知ったのでゲソ)

 

一瞬頭に早苗の顔が浮かんで消えた。

 

ダー 「これからグロリアーナの一員として貴女を迎えるにあたり__一つだけ、守ってもらわねばならないことがあります」

イカ娘「何でゲソ?」

ダー 「それは__」

 

やがて馬車は聖グロリアーナ校舎へ到着した。

そこにはアールグレイをはじめ、ニルギリ、ルクリリらが出迎えてきた。

 

イカ娘「あれ?お主は・・・・」

アール「ようこそ聖グロリアーナ女学院へ。貴女が来るのを待ちわびいたわ」

 

校舎内を案内される。

 

イカ娘「なるほど、お主はここの卒業生だったのでゲソか」

アール「ええ。ディンブラ様__千鶴様には、わずかな間だったけれどその後の私の人生を大きく変えるほどの大切なことを学ばせてもらったの」

イカ娘「封蝋を手で切るやり方、とかでゲソか?」

アール「ふふっ、そんなこともあったわね」

 

懐かしそうに目を細める。

 

アール「貴女にも千鶴様にあった、他者と違う輝きを持っているのが分かる。これからここで、グロリアーナの子たちにその光を見せてあげてほしいの」

イカ娘「ふっふっふ、いい審美眼じゃなイカ。せいぜい私の威光を皆に見せつけてやろうじゃなイカ!」

ルク (こいつ、自分が新入生って立場なこと忘れてないか?)

ニル 「イカ娘さま。他の生徒の方々へのお目通しは、必要過程を経てから行わせていただきます」

イカ娘「必要過程?」

ダー 「グロリアーナ生としての気品と振舞いの習得、ですわ。簡潔に言えば、覚えてほしいマナーとルール、です」

イカ娘「ふむ・・・・何だか難しそうな課題でゲソ」

ダー 「ご心配なく。それに関しまして一番の講師を手配しておりますわ」

 

とある部屋に辿り着く。

扉を開けると・・・・

 

ローズ「お待ちしておりましたわーっ!」

 

そこにはローズヒップが待ち構えていた。

 

イカ娘「ローズヒップが先生なのでゲソか?」

ダー 「ええ。ローズヒップはああ見えて誰よりも気品と作法を心得ています。彼女が師事すれば、すぐに淑女の仲間入りですわ」

イカ娘「そうなのでゲソか」

ダー 「では、頑張ってくださいね」

イカ娘「うむ!」

 

そしてダージリンたちは部屋から去っていった。

 

アール「では、私たちは準備に取り掛かりましょう」

ペコ 「会場の手配と通知は完了しています。あとはあちらの終わり際を見計らって招致をかけましょう」

ルク 「あのー・・・・」

 

おずおずと手を挙げる。

 

ダー 「どうしたの、ルクリリ?」

ルク 「本当にローズヒップが指導員でよかったのですか?あいつより、オレンジペコさんとかのほうがよっぽど正しい指南ができると思うんですけど・・・・」

ダー 「ふふっ」

ルク 「!」

ダー 「ルクリリ。貴女はだいぶローズヒップと仲良くしてくれているけれど、まだまだあの子を理解しきれてはいないのね」

ルク 「うっ」

 

一笑に付されたような気がしてたじろぐルクリリ。

 

ルク 「・・・・いやだって、ローズヒップだぜ・・・・?」

ニル 「まあまあ・・・・」

 

ぶつぶつぼやくルクリリをたしなめるニルギリだった。

数時間後、聖グロリアーナの多目的ホール。

そこには大勢の聖グロリアーナ生たちが主役の登場を今か今かと待ちわびていた。

 

グロA「今日いらっしゃる特待生の方と言うのは、どのようなお方なのでしょう?」

グロB「わたくしも深くは存じませんの。ですが・・・・ダージリン様とアールグレイ様、ご両名の強い推薦がおありだというお話ですわ」

グロC「あのおふた方の!?いったいどれほどの方が・・・・!」

 

扉の向こう側でスタンバイしているイカ娘たち。

 

イカ娘「ものすごく期待されてるでゲソね」

ダー 「気をやる必要はございませんわ。貴女は貴女のあるがままでいてくだされば」

 

やがて扉が開き__イカ娘が姿を見せる。

わっ!と沸く一同。

一念発起して前へ歩み出る。

・・・・よく見ると、イカ娘の後頭部に触手が髪のように編み込まれ、ヒレの部分は上質そうなベレーで隠されている。

ダージリンのように触手を後頭部に束ね、知らない人が見ると普通の髪のようにも見える。

やがて壇上に立ち、一同を前に立つ。

そして、柔らかな微笑みを浮かべながら__うやうやしくカーテシーをした。

 

イカ娘「本日より共に過ごさせていただきます__『バタフライピー』と申しますでゲソわ。ご指導ご鞭撻、よろしくお願いいたしますでゲソわ」

 

わっ、と歓声が上がった。

 

グロD「あの子が特待生!?」

グロE「ちっちゃくてかわいい!飛び級かしら?」

グロF「あの髪、綺麗な色しているわ。まるでラルワースコーヴのよう!」

 

~~回想~~

 

イカ娘『バタフライピー?』

ダー 『ええ。ここで過ごす、貴女のティーネームですわ』

イカ娘『どんなお茶でゲソ?』

ダー 『青く透んだ、まるで海を閉じ込めたようなそれは美しい色をしておりますの。まさにイカ娘さんを表すお茶ですわ』

イカ娘『おお、それは素晴らしいチョイスでゲソ!あと、これは__』

 

イカ娘は頭に結われている触手を窮屈そうに触る。

 

ダー 『申し訳ないけれど、それもここで過ごすための条件のひとつ。ここで生活するにあたって、貴女がイカであることは知られてはいけないの』

イカ娘『どうしてでゲソ?』

アッサ『グロリアーナの入学選定基準に、健康で健やかな人間の女子とあるのです。ですので、本来イカであっては入学することはかなわない、ということです』

ペコ 『ですので、触手やその他のイカ能力は他の方たちには隠していただきたいのです』

イカ娘『ふむ・・・・。そういうことなら、仕方ないでゲソね』

 

~~回想終了~~

 

ルク 「第一印象は好評だな」

 

生徒集団に混じっているルクリリはニルギリに耳打ちする。

 

ニル 「はい。流石イカ娘さん、あの短時間でここまでイギリス式の礼儀作法を体得されるなんて」

ルク 「まあ、あの学習能力は確かにすごいよ。けどなあ・・・・」

ニル 「けど?」

ルク 「あれ、本当にローズヒップから学んだのか?普段のあいつから想像したらできてた覚えないんだけど」

ニル 「ローズヒップ様はいつもきちんと礼儀作法を遵守されていますよ。・・・・ちょっとだけ、ご本人の気質が見えてしまっているだけで」

ルク 「モロ見えだろ」

 

と__

 

グロG「ふっ、何よ。ダージリン推薦の特待生って聞いたからどれほどかと思ったけど、ただの小娘じゃない」

ルク (んっ)

 

気の強そうな上級生が鼻で笑う。

 

グロH「どうやってアールグレイ様に取り入ったかわからないけど、私たちでグロリアーナにふさわしい身の振り方と言うものを教えて差し上げましょう」

 

いかにも意地の悪そうな顔をしている。

 

ルク 「おい、あんたらっ」

 

ルクリリが黙らせようとすると、すっとニルギリが前に出て、二人に話しかける。

 

ニル 「さすがバタフライピー様、初対面にもかかわらず悠然とされていますわ。きっとディンブラ様もご満悦でしょう」

グロG「えっ!?」

 

ディンブラ、と聞いて顔色を変える。

 

ニル 「あら、ご存じなかったのですか?あの方はディンブラ様の妹君であらせますのよ?」

グロH「ディディディ、ディンブラ様の妹君!?」

ルク 「そうそう。しかもディンブラ様直々のご指導も多々受けているって話ですよ?今回の転入も、ダージリン様の是非にっていう声に応じた上だそうで?」

ニル 「おふた方のご指導を賜れば、バタフライピー様はもっと輝かれることでしょう。楽しみにしております」

グロG「そ、そうね。ひ、暇があればね」

 

そそくさと引っ込む二人に、ルクリリは軽くあかんべーをするのだった。

そんな様子を眺めながら、満足そうなダージリンとアールグレイ。

歓迎会も終わり、イカ娘たちは控室に戻って来た。

 

ダー 「素晴らしい佇まいでしたわ」

イカ娘「そうでございましょうでゲソか。ダージリン様のお顔を汚さないように振舞えたのならば感無量でございますでゲソわ」

アッサ「ええ。あのお目通しで皆も貴女を受け入れてくれることでしょう」

ダー 「では、次へ参りましょう」

イカ娘「次、でございますゲソか?」

ダー 「ええ。グロリアーナに在する方は、生徒たちだけではなくてよ。この艦に暮らす、なくてはならない大切な方々をご紹介します」

 

そう言ってダージリンたちはイカ娘を郊外へ連れ出した。

巡る先は、グロリアーナの居住区をはじめ、商業区、娯楽施設、ビッグベンを模した観光施設などを諄々と巡る。

目新しい発見をするたび目を輝かせるイカ娘を、ダージリンは嬉しそうに目を細めていた。

そして__

 

イカ娘「今度はどこへ向かっているのでございまゲショう?」

 

イカ娘は案内されるがままに、とある場所からエレベーターで下り続けていた。

 

ダー 「これから向かうのはグロリアーナに限らず、学園艦で暮らす者ならば感謝を捧げなければならない方々のいらっしゃる場所。私たちを支えてくれているまさに縁の下の方々ですわ」

イカ娘(一体どんな人たちなのでゲソ・・・・)

 

チーン

 

やがてエレベーターが開き、一歩外へ出る。

 

イカ娘「おおっ」

 

そこは、遥か下へ降りた先とは思えないほどの大きく開けた空間。

無数の機械と蒸気機関、巨大な管がそこかしこに張り巡らされていた。

大勢の学生服とは一風違った服装の女生徒たちがせわしなく動き回り、様々な作業を行っている。

 

イカ娘「ここは・・・・」

アッサ「ここは機関部。いわば学園艦の中枢を担う場所であり、舟が船であるがために必須の部分です」

ペコ 「この部署は船舶科の方々が操作や制御をされています」

ダー 「私たちが学園艦に乗って行きたいところへ行けるのも、この方々がいらっしゃってこそ、ですわ」

イカ娘「それは、切っても切れない関係と言えるものでゲソわね」

船舶A「あっ、ダージリン様!?アールグレイ様も!」

 

やがてダージリンに気づいた船舶科の生徒が数人、駆け寄ってくる。

 

船舶B「ダージリン様、ご機嫌麗しゅうございます!」

船舶C「このような場所に、どうされたのですか?」

 

何か不手際があったのか、と不安そうな顔をしている。

 

ダー 「楽にしていただいて結構ですわ。本日はこちらの、バタフライピーさんを皆さんにご紹介しようとお連れしましたの」

船舶A「えっ、もしかして噂の特待生の!?」

船舶B「わあ、お目に書かれて光栄です!」

イカ娘「バタフライピーでゲソわ。どうぞお見知りおきをでゲソわ」

船舶C「こ、こちらこそはじめまして!」

船舶B「ですがダージリン様、バタフライピー様にお目通しならば、私たちから馳せ参じますのに・・・・このような場所にまで!」

ダー 「いいえ。この機関部はグロリアーナのいわば心臓。それを支えてくれる貴女がたを呼び出すなどあってはならないことですわ」

船舶A「ダージリン様・・・・!」

 

ダージリンの言葉に打ち震えている。

そこへ__

 

船舶D「あ、いたいた!ねえ、例のボイラーがまたヘソ曲げてるの!ちょっと手伝って!」

船舶A「あ、うん!すぐ行く!」

 

声を掛けてきた他の生徒に返事する。

 

アッサ「例の不具合のことかしら」

船舶B[あ、はい。先週からどうもヘソ曲げちゃってる所がありまして」

船舶C「こまめに見ているのですが、未だ原因がつかめずじまいで・・・・」

ダー 「それは忙しい所を引き留めてしまいましたわね。すぐおいとまいたします」

船舶A「いえいえ、とんでもない!」

船舶C「では、私たちはこれで!先輩、行きましょう!」

船舶B「ええ。ではダージリン様、ご機嫌よう!」

ダー 「ご機嫌よう」

イカ娘「ご機嫌ようでゲソわ」

 

かくして校舎へ帰って来たダージリンたち。

 

イカ娘「学園艦は、ああいった方々によって支えられていたのでゲソわね。勉強になりましたゲソわ」

アッサ「ですがダージリン様。先ほど言われたように、わざわざバタフライピーさんを連れてあそこまで行かなくても」

イカ娘「ダージリン様は、あの方々を随分大切に思われているのでゲソわね」

ダー 「One for All, All for one」

イカ娘「え?」

ダー 「一人は皆のために、皆は一人のために。聖グロリアーナで生きる者にとって、忘れてはならない大切な心構えですわ」

アール「彼女らは私たちの生活の安心を守ってくれている。だから、彼女ら一人一人に私たちが感謝をするのも当然、ということね」

 

ダージリンはにっこりと笑顔で紅茶を飲んでいた。

それからというもの。

 

ペコ 「バタフライピー様、お茶会の準備ができました」

イカ娘「ありがとうでゲソわ、オレンジペコさん。今行きますでゲソわ」

 

イカ娘はお茶会をはじめ、

 

アッサ「バタフライピー、このデータ、どう見るかしら」

イカ娘「悪くないと思いますでゲソわ。あとはこれをこちらに移せばもっと効率があがるのではないでゲショうか」

 

持ち前の適応力を活かし、

 

ローズ「急ぎますわよバタフライピーさん、購買限定販売のパスタ焼きそばパンが売り切れちゃいますわ!」

イカ娘「合点承知でございますでゲソわ!」

 

聖グロリアーナでの生活に、

 

ニル 「今回の演習は私たちのチームの勝利ですね。バタフライピー様の読み通りです」

イカ娘「皆さん方が力を貸してくれからでゲソわ。私の力なんて、微々たるものでゲソわ」

 

そして同時に戦車道チームの一員としても、

 

ルク 「バタフライピー!このチラシなんて書いてあるんだ?英字で書いてあるかわかんないんだよ」

イカ娘「本日大根大安売り、と書かれておりますでゲソわ」

 

グロリアーナ生として馴染み始めていった。

それからまた数日経ち。

 

アール「ご機嫌よう。仲良くできているかしら?」

 

アールグレイが再び訪ねてきた。

 

イカ娘「あ、アールグレイ様。ご機嫌うるわしゅうございますゲソわ」

アール「ふふ、すっかりグロリアーナの一員として溶け込めたようね」

イカ娘「お心遣い、感謝いたしますでゲソわ」

ダー 「あら、アールグレイ様。いらっしゃっておいででしたのね」

アール「ええ。バタフライピーさんの様子をうかがいに」

イカ娘「ダージリン様もお座りくださいでゲソわ。今お茶をお淹れしますゲソので」

 

手慣れた様子で、両手を使ってお茶を淹れる。

 

アール「手を使って淹れるのも、すっかり慣れた様子ね」

イカ娘「皆さまが手ほどきくださったおかげでございますゲソわ」

アール「私としては、最初のあの触手を使った淹れ方も他になくて好きだったのだけれど。ここへ来て触手を使えなくて、何か不便していないかしら」

イカ娘「いいえ、皆さんがお助け下さっているゲソので。何不自由ございませんゲソわ」

アール「そう。それを聞けば、ディンブラ様もご安心なさるでしょうね」

イカ娘「そういえば、ちづ__ディンブラ様は、お元気でゲショうか」

アール「ええ。ここに来る前にお邪魔してきたけれど、貴女がグロリアーナに溶け込めていると知ってとても喜ばれていたわ」

ダー 「私どもとしても。バタフライピーさんには卒業まで在学してもらい、後に大学進学も視野に__」

 

そこまで言いかけた瞬間。

 

ドオオオオオオオオオオオン!

ドオオオオオオオオオオオン!

バゴオオオオオオオオオオン!

 

幾度の強い衝撃と音が彼女らを襲った。

 

イカ娘「な、何ごとでゲソ!?」

 

すぐに慌てた様子でオレンジペコが部屋に駆け込んでくる。

 

ペコ 「ダージリン様!」

ダー 「落ち着きなさい、オレンジペコ。何が起きたのかしら」

ペコ 「それが・・・・どうやら、爆発が起きた様子なのです!」

アール「爆発ですって・・・・?」

 

いぶかしげにしながらも慌てず紅茶を飲んでいるダージリン。

 

ダー 「それで、爆発元は?」

ペコ 「それが、詳しくはわかっていないのですが・・・・どうやら機関部らしいのです!」

ダー 「っ!?」

 

ガチャン!

 

ダージリンがカップを落とした。

 

アッサ「ダージリン!」

ダー 「アッサム、事態はどうなっているのかしら」

 

すぐに招集がかかり、主たるメンバーが一室に集う。

 

アッサ「入って来た最新データによると、爆発は学園艦最後尾に位置する機関部区画。爆発の影響で学園艦の航行にも影響が出ています」

アール「それで、被害の方は。船舶科の皆さんの退避は済んでいるのかしら」

アッサ「はい。速やかな退去により負傷者はゼロ。爆発のあったブロックの封鎖は完了しており、これ以上の被害は食い止められたという見込みです」

 

ほっ、と胸をなでおろし、平静を取り戻すダージリン。

 

ダー 「それを聞いて安心しましたわ。ではのちの処理は文部省への手配と見積もりの後提出を__」

 

プルルルルル

 

そこへ、アッサムのケータイに着信。

 

アッサ「失礼します。__ええ、私よ、どうしたの?・・・・えっ__何ですって!?」

 

時同じくして、学園艦最後部、爆発のあった機関部ブロック。

 

船舶B「どうしよう、どこも閉じられてるよ!」

船舶C「先輩!どうしたらいいんですか!?」

船舶A「落ち着いて!パニックは禁物よ!」

 

完全に退去が終わり封鎖されたはずのブロックに、船舶科の三人が取り残されている。

目前では激しい火災により黒煙が上がり、彼女らの行動範囲を制限してしまっている。

 

船舶C「ごめんなさい先輩、私が逃げ遅れたばっかりに・・・・!」

船舶A「何言ってんの!後輩置いて逃げだすようなバカはグロリアーナにはいないわ!」

船舶B「ねえ、ちょっと見て!」

 

指さした方を見ると__

 

ザアアアアアアアア

 

船舶A「水が・・・・!」

 

爆発によって亀裂が生じたのか、彼女たちのいるブロックに海水が流れ込み始めていた。

 

アール「船舶科の子たちが三人、閉じ込められている・・・・!?」

ニル 「さらに爆発のせいで隔離ブロックに海水が流れ込み始めているそうです!」

アッサ「勢いから見るに、一時間と持たないかと・・・・」

ペコ 「そんな!」

ダー 「取り残された子たちの救助の手配は?」

 

逐一専用の無線機らしきもので通信を取っているアッサム。

 

アッサ「すでにダイバーを数名手配し救助計画の立案に着手しているそうなのですが、いかんせん爆発の影響で発生した瓦礫の大きさや流れ込む海水の勢いが強く、ことは容易く行えないようです」

ルク 「そんな悠長なこと言ってる場合ですか!一刻を争うんでしょう!?」

ニル 「落ち着いてください、焦ってはできることもうまく行かなくなります!」

 

焦りと動揺が広がる中、ダージリンが口を開く。

 

ダー 「・・・・ブロックを繋げる隔壁のロックを解除しましょう」

アッサ「ダージリン様!?」

ダー 「そうすれば隔離されているブロックの水位は下がります。上手く事が運べば内部からの救出も可能になるわ」

ペコ 「ですが、そうすると隣のブロックに海水が、それどころか機関部全体が水没するのは必然です。そうなればグロリアーナは良くて長期の運航不能、最悪の場合廃船もあり得ます!もしそうなったらダージリン様のお立場が・・・・!」

アッサ「いくらダージリン様のお家であろうとも、学園艦一つ潰してしまえば無事では済みません。もっと効率的な判断を下すべきです」

ダー 「未来ある少女三人と学園艦。秤にかけるまでもないわ。ペコ、学院長に繋いでちょうだい」

ペコ 「ダージリン様、落ち着いてください!何か別の妙案があるはずです!」

アール「らちが明かないわね。ダージリン、学院長の元へ参りましょう。私も一緒に直談判いたします」

アッサ「ちょ、アールグレイ様まで!?」

 

身を切ってでも救助を果たそうとするダージリンたちと、何としてもそれだけは阻止したいオレンジペコたち。

そんな場面を目の当たりにし、イカ娘は何か決意したような顔をして、そっと部屋から抜け出しケータイを取り出した。

 

イカ娘「もしもし、ローズヒップさん。少々お願いしたいことが__」

 

三十分後。

学院長に直談判すべく校内を突き進むダージリンらと、後から慌てて追いかけるオレンジペコたち。

 

アッサ「お二人とも、どうか考え直してください!」

ダー 「打開策は見つからず、残り時間もない。選択の余地は無くってよ」

アール「それに二人で責任を分かち合えば痛手は軽くなるわ。これが最善の選択よ」

ペコ (もう私たちじゃダージリン様たちを止められない。一体どうしたら・・・・!)

 

そこへ__

 

ギュオオオオオン!

 

校庭の方から戦車の音がする。

何ごとかと覗き込むと、そこにはローズヒップのクルセイダーと__

 

アール「バタフライピーさん・・・・?」

 

キューポラの上に立つイカ娘がいた。

おもむろに帽子を脱ぎ、しゅるっと結った触手を解く。

その顔は、決意と誇りに満ちていた。

瞬間、察したダージリン。

 

ダー 「貴女・・・・」

イカ娘「皆さま。これにて、Thank you for everything、でゲソ」

ダー 「イカ娘さん!」

 

ダージリンの引き留める声を聴きながら、イカ娘はうやうやしくカーテシー。

そして__

 

ギュイイイイイイイイイイイン!

 

イカ娘を乗せたクルセイダーは、全速力で走り去っていった。

学園艦最後尾に向けて。

 

ローズ「バタフライピーさん、本当によろしいのですわね!?」

イカ娘「もちのロンでゲソ!」

 

そしてやがて最後尾デッキに辿り着いたクルセイダー。

勢いを落とさず、落下防止のフェンスに突撃する。

 

ローズ「お跳びあそばせーーーーーーっ!」

 

ぶつかる直前に急激なドリフトをかけ、猛スピードのままフェンスに激しくその側面を叩きつけた。

 

ガッシィィィィィン!

 

衝突により生じた慣性によって大きく宙に放り出されるイカ娘。

 

しゅるっ!

 

即座に一本の触手をキューポラに絡みつかせ、真っ逆さまに海へ向かって落下していく。

 

イカ娘「One for All, All for one・・・・!」

 

イカ娘は呟きながら、海の中へ飛び込んでいった。

そして即座に亀裂を発見、その中へ潜りこんでいく。

 

船舶A「もう、足場が・・・・!」

 

海水から逃れ続けるうち、残されたの足場でかろうじて生き残っている三人。

だがもうその足場も足元まで水没し始めている。

 

船舶B「私たち、ここで死んじゃうのかなぁ・・・・」

船舶C「パパ、ママァ・・・・!」

船舶A「最後まで諦めちゃだめ!絶対助けが来るから!希望を捨てちゃだめなんだから!」

 

とはいえもはや絶望的な状況に泣き出してしまいそうなその時。

 

ザバアッ!

 

水中からイカ娘が飛び出して来た。

 

イカ娘「お主たち!無事でゲソか!」

船舶A「バタフライピー・・・・さま!?」

 

変装をしていない、イカ帽子と触手を身にまとったいつものイカ娘の姿に戸惑う三人。

 

船舶B「あの、そのお姿は・・・・!?」

イカ娘「話はあとでゲソ。とにかく脱出するでゲソよ!」

 

しゅるっ!

 

触手を三人に巻き付ける。

 

船舶C「ひゃあっ!?」

 

理解できない状況に軽く悲鳴を上げる。

 

船舶A「・・・・」

 

まっすぐな目でイカ娘を見つめ、イカ娘も目をそらさず見つめ返す。

 

船舶A「・・・・よろしくお願いします」

イカ娘「うむ!三人とも、合図したら思いっきり息を吸い込むでゲソ!・・・・今でゲソ!」

 

合図に大きく息を吸い込む三人。

そして__

 

ザプンッ

 

四人の姿は水中に消えた。

 

ローズ「・・・・」

 

後部デッキではローズヒップがただ待ち続けている。

 

ダー 「ローズヒップ」

 

やがて追いついてきたダージリンたちが駆け寄ってきた。

 

アッサ「ローズヒップ、貴女たちいったい何をしているの」

ローズ「うーん、何と申しましょうか・・・・」

 

質問に答える前に、キューポラに巻き付けてある触手がピクピクと動き始めた。

それに反応するローズヒップ。

 

ローズ「強いて言えば、釣りですわ!」

 

ザッパアアアアアン!

 

次の瞬間、海面から何かが飛び出して来た。

__それは、触手が巻き付いた船舶科の三人だった。

 

アール「あれは、イカ娘さんの触手!?」

ペコ 「それにあれは・・・・閉じ込められていた人たち!」

 

そのまま触手は伸びていき、三人を巻き付けたまま後部デッキに降ろしていく。

 

ローズ「もうちょっと左、左・・・・ちょっぴり前!そこですわー!」

 

ローズヒップはクルセイダーの位置を微調整し__

 

ガシッ!

 

ローズ「よっしゃあー!」

 

三人をしっかり受け止めた。

しゅるっと触手がほどけ三人を解放し、そのまま引っ込んでいった。

 

船舶B「ゴホッ、ケホッ・・・・」

船舶A「ここって・・・・後部デッキ?」

船舶C「た、助かった!?私たち、助かったんですね!」

アール「ルクリリ、この子たちを医務室へ。しっかりとしたメディカルチェックを受けさせてちょうだい」

ルク 「はい、わかりました!」

 

手早く三人を保護し、ルクリリたちは去っていった。

 

ダー 「イカ娘さん・・・・」

 

残されたダージリンが身を乗り出し海面を見つめるが、もうそこにはイカ娘の姿はなかった。

 

ペコ 「ダージリン様・・・・」

アッサ「ダージリン・・・・」

 

寂しそうにするダージリンの肩に、アールグレイはポンと手を乗せた。

 

アール「素晴らしい子だったわ。やっぱり貴女の目に狂いはなかったのよ」

 

優しく語り掛けるアールグレイに、ダージリンは小さく頷いてほほ笑んだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

次の日。

 

イカ娘「カレーライスお待たせでゲソー」

 

イカ娘は海の家れもんでバイトをしていた。

グロリアーナで培った礼儀作法はすっかり消えてしまっている。

 

栄子 「全く、グロリアーナに特別入学したと思ったら、一週間そこらで帰ってきやがって」

イカ娘「いやあ、どうにもあそこは合わなかったでゲソ。やはり私はれもんでのんびりするのがあってるでゲソよ」

栄子 「だろうよ」

 

そんなやり取りを聞きながら新聞を見る千鶴。

そこには『聖グロリアーナで爆発事故!取り残された少女たち、決死の脱出に成功!』と書かれた記事。

新聞にはイカ娘が助けたことや、人でない者が学院に入り込んでいたことを示す記述は何もなかった。

 

千鶴 「イカ娘ちゃん」

栄子 「ホレ姉貴がお呼びだ。せいぜい叱られて来い」

イカ娘「うっ」

 

千鶴に呼ばれ、辞めたことに対して怒られると身構えるイカ娘。

身をこわばらせるイカ娘に近づき・・・・千鶴は優しくイカ娘の頭を撫でた。

 

イカ娘「千鶴・・・・?」

 

千鶴は何も言わず、きゅっとイカ娘を抱きしめた。

 

栄子 「?どういうこっちゃ」

宅配員「郵便でーす」

栄子 「ああ、はいはい」

 

受け取り表にサインする栄子。

 

宅配員「では、お荷物ここに置いておきますね」

栄子 「荷物って・・・・なんじゃこりゃあああああ!」

千鶴 「栄子ちゃん、どうしたの?」

 

栄子の叫び声に歩み寄るイカ娘たち。

栄子の目の前には、大きな箱が何十個も積み上げられていた。

 

栄子 「何なんだよこの箱の数!差出人は・・・・聖グロリアーナ!?どういうことだよ!」

 

千鶴は箱の山を眺めた後、手ごろな大きさの一つを持った。

 

千鶴 「はい、イカ娘ちゃん」

イカ娘「む?」

 

渡された箱を開く。

そこには__沢山のティーセットが入っていた。

ダージリン。

アッサム。

オレンジペコ。

ルクリリ。

ニルギリ。

ローズヒップ。

アールグレイ。

船舶科の三人からのお礼の手紙と、そして・・・・メッセージカードが一枚。

それに書かれた内容を読んで・・・・イカ娘は顔をほころばせた。

 

 

Dear to Our Friend(親愛なる私たちの友へ)




大洗に続きまして、聖グロリアーナ女学院も夏編終了と言う運びになりました。
だいぶシリアスな雰囲気に仕上がりましたがいかがでしたでしょうか。

アールグレイは設定上にしか存在しないキャラでしたが、ダージリンの先輩ならば絶対に面白いこと好きであることは間違いないとああいったキャラ付けになりました。

最近は都合もつけやすくなりましたので、また毎週しっかりとしたペースで投稿を続けることができそうです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。