侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。

ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ
アッサム→アッサ
ルクリリ→ルク
ローズヒップ→ローズ
ニルギリ→ニル

カエサル→カエ
エルヴィン→エル
おりょう→おりょ
左衛門佐→佐衛門

シンディー→シン


第5話・謎を解かなイカ?

海の家れもんに取り付けられている大型テレビ。

そこから映し出される映像に、イカ娘は釘付けになっている。

 

テレビ『私には見えていた。この事件の真の黒幕・・・・それは、貴女だ!』

イカ娘「やっぱり名探偵ポームズは面白いでゲソ!」

栄子 「仕事しろよ!」

 

イカ娘は仕事そっちのけでテレビに映し出されている推理ドラマ『名探偵ポームズ』に夢中になっている。

 

栄子 「お前ほんと好きだよなあ。こないだもコスプレまでして真似ごとまでしてたし」

イカ娘「栄子にはポームズの良さがわからないのでゲソ。かわいそうでゲソね」

栄子 「お前の主観で人を憐れむんじゃねえよ!」

 

その後もお構いなしにポームズを見続けたイカ娘。

 

イカ娘「うーん、今日も面白かったでゲソ!」

栄子 「そうか、それはよかったな。仕事しろ」

イカ娘「焦りは何も生み出さないでゲソよ、ワドソン君」

栄子 「誰がワドソンだ!」

 

見終わった後もポームズの世界から帰ってこないイカ娘。

 

栄子 「探偵ごっこより、目の前の仕事をこなすことのほうがよっぽど大事だろ。そんなんじゃいつまでたってもバイト代稼げないぞ?」

イカ娘「栄子はわかってないでゲソね。『仕事それ自体を、すなわち自分の特殊な能力を__』」

???「『すなわち自分の特殊な能力を発揮する場を得る喜びこそ、最高の報酬なのだ』」

???「名探偵ポームズですね」

イカ娘「む?」

栄子 「お?」

 

ふと届いた声に振り向くと、そこには恒例のティータイムを楽しんでいたダージリンとオレンジペコがいた。

 

ダー 「ご機嫌よう、イカ娘さん」

ペコ 「お邪魔しています」

イカ娘「おお、ダージリンさんじゃなイカ!いつの間に来ていたのでゲソ?」

栄子 「お前がテレビ見てる最中だよ。ダージリンさんたちも手伝ってくれてたんだぞ」

イカ娘「それは悪いことをしたでゲソ」

 

気まずそうに頭をかくイカ娘。

 

ダー 「いいえ。イカ娘さんが夢中になられるのも無理はないことです。お気になさらず」

 

ふと、先ほどの言葉を思い出す。

 

イカ娘「そういえば、ダージリンさんもポームズを知っているのでゲソ?」

ダー 「勿論ですわ。名探偵バーロック・ポームズは、イギリスが生んだ世界一の名探偵。当然グロリアーナ生である私たちも嗜んでおりますわ」

ペコ 「グロリアーナでポームズのお話についていけなくては会話に置いて行かれてしまいますからね」

イカ娘「おお!」

栄子 「まあ、イギリスの代表格みたいなもんだからな」

 

意外なところで同好の志を見つけ、笑顔が浮かぶイカ娘。

 

ダー 「英国紳士の凛とした佇まい、冷静な判断力、明晰な頭脳、そしてわずかな痕跡から全てを見通す推理力。彼からはグロリアーナ戦車道のなんたるかを学ぶこともできますわ」

ペコ 「一時期はまりすぎて、パイプに紅茶を淹れて飲んでいたこともあったんですよ?」

 

おほん、とごまかくダージリン。

 

ダー 「何にせよ、イカ娘さんもポームズを嗜まれるのは素晴らしいことですわ。是非その経験を戦車道に昇華させてくださいまし」

イカ娘「うむ!」

 

その後同じ席に座り、ポームズについて話が弾むイカ娘たち。

 

アッサ「意外でしたね。まさかイカの娘もポームズを嗜まれていたとは」

イカ娘「当然でゲソ。あんな面白い番組、見ない方がどうかしてるのでゲソ」

栄子 「こっち見ながら言うなよ」

ペコ 「原作もお勧めですよ。今度お貸ししましょうか」

イカ娘「おお!それは助かるじゃなイカ!」

ルク 「イカの子に読めるのか?グロリアーナに置いてあるポームズの本は、全部英字で書かれてるんだぞ?」

イカ娘「英語と同じようなものでゲソ?楽勝じゃなイカ」

ルク 「・・・・マジか」

アッサ「ところでルクリリ。この間の『深紅組合』を読んだ感想文がまだ提出されていませんよ?」

ルク 「ギクッ!い、いえ、まだ読み終えていなくって・・・・」

 

はあ、とため息をつくアッサム。

 

アッサ「いつまでもインターネットで調べた情報だけでは、いつか置いて行かれるわよ?早く自分で読めるようになりなさいな」

ルク 「なななななな、なんのことでござりましょうか!?」

 

語るに落ちるほどの慌て具合を見せるルクリリだった。

 

ダー 「こうしてポームズ談議に華を咲かせているけれど。実はグロリアーナの中ではローズヒップが一番のバーロキアン(ポームズの熱烈なファン)ですのよ?」

栄子 「へえ、そうなんですか?」

イカ娘「それはいいことを聞いたでゲソ!ローズヒップと一晩中語り合いたいでゲソ!」

栄子 「そりゃ迷惑がかかるだろ!ていうかお前夜になったらとっとと寝ちゃうだろ」

 

キョロキョロと周囲を見回したが、ローズヒップの姿が見当たらない。

 

イカ娘「む?ローズヒップがいないでゲソ。今日は来ていないのでゲソ?」

アッサ「そんなはずは__あら?確かにいないわね・・・・」

 

言われてアッサムも見回すが、確かに店の中にローズヒップがいない。

 

ルク 「またお茶飲み終わったからって海で遊んでるんじゃないだろうな?」

ペコ 「まさか。あの後アッサム様にこってり絞られたんですし、流石に同じことをされるとは__」

 

そこまで言った瞬間。

 

ニル 「たたたた、大変です!」

 

血相を変えたニルギリが店に駆け込んできた。

 

ダー 「落ち着きなさい、ニルギリ」

 

一切動じず、紅茶を飲みながらダージリンが落ち着かせる。

 

ニル 「申し訳ありません、取り乱しました・・・・」

ダー 「それで、どうしたのかしら?」

ニル 「あっ、はい、それなんですが、外で・・・・」

アッサ「外で?」

ニル 「えっと、イカ娘さんのチャーチルに、誰か、・・・・えーっと、何て言えばいいのか・・・・」

 

言いたいことをうまく伝えられないジレンマでニルギリがまごまごする。

 

アッサ「ともかく、外で何か起こっているのね。ならば、確かめに参りましょう。ニルギリ、案内を頼めるかしら」

ニル 「はっ、はい!」

 

連れだってれもんを出るグロリアーナ一行。

 

ニル 「あっ、できればれもんの皆さんもご一緒にお願いします」

栄子 「そうだな。私たちのチャーチルに何かあったみたいだからな」

イカ娘「何ごとでゲソかね。誰かにイタズラされちゃったのでゲソか」

栄子 「だったらムカつくなあ」

 

などと話しながら、裏に停めておいたチャーチルのもとへ向かった。

歩いた先には、チャーチルがいつも通り停まっている。

 

イカ娘「見た感じ、大きな変化はなさそうでゲソ」

栄子 「そうだな。どこか傷ついたり壊れたり、も__」

 

言いながら栄子は目線を上げ、言葉を失った。

 

イカ娘「どうしたのでゲソ、え__」

 

同じく目線を上げたイカ娘も言葉を失う。

 

ペコ 「・・・・何でしょう、『あれ』・・・・」

ダー 「見たところ、『足』と見受けられますわね」

アッサ「恐らく、その通りかと」

 

チャーチルの頂上、つまりキューポラのある部分から__足が生えていた。

正しく言えば、キューポラに『人が逆さまの状態』で突き刺さっていたのである。

本来なら腰から頭までが見えている部分に、今は太ももからつま先までしか見えていない。

 

アッサ「・・・・どういう原理でこういう状況になるの」

ニル 「わかりません・・・・。私が悲鳴を聞いて駆けつけた時には、すでにこうなっていて・・・・」

栄子 (・・・・スケ〇ヨ)

ペコ 「そもそも、この足はどなたのものなんでしょう?」

 

見てみると、その足は黒タイツを履いていた。

靴は黒のローファーで、片方脱げかけている。

それを何とか落とさないようにと、足をふらふらと動かしてなんとか保とうとしているのが伺える。

すぐ察しがついたのか、アッサムが頭痛をこらえるように頭を押さえる。

ダージリンは慣れた足つきでチャーチルに登ると、キューポラを覗き込んだ。

そして少し悪戯気味にほほ笑むと__

そのまま降りてきた。

 

栄子 「誰だかわかりましたか?」

ダー 「残念ながら、上から覗いただけでは誰だかまるでわかりませんでしたわ」

 

すました顔で、全く残念そうにはない素振りでかぶりを振った。

 

ルク 「うーん、いったい誰なんだ・・・・」

 

と、直後

 

イカ娘「ふっふっふ、私にはわかったでゲソ」

栄子 「おっ?」

 

不敵にイカ娘が笑い出した。

表情から見るに自信満々だ。

 

ニル 「イカ娘さん、一体どなただというのですか?」

イカ娘「あそこにいるのは・・・・ローズヒップでゲソ!」

ルク 「何ッ!?」

ペコ 「まあ」

アッサ「やはり」

ダー 「ふふっ」

 

驚いた者、気が付かなかったふりをする者、思った通りだった者と、様々な表情が混ざり合う。

 

ペコ 「イカ娘さん、なぜあそこにおられるのがローズヒップ様だとわかるのですか?」

イカ娘「見ればわかる、簡単なことでゲソ。まずあの足はタイツを履いているでゲソ。この暑い日にタイツを履いているのは、この辺では聖グロの人たちだけでゲソ」

ダー 「そうですわね。グロリアーナにおきましては、季節を問わずタイツを着用するのが決まりとなっていますので」

栄子 「でも聖グロ生じゃなくったって黒タイツ履く人はいるかもしれないだろ」

イカ娘「次に、あの靴でゲソ」

ニル 「あっ、あのローファーは」

イカ娘「うむ、今まさにニルギリたちが履いている靴と全く同じでゲソ。皆と同じ黒タイツに同じ靴、ということは、あそこにいるのは聖グロリアーナ生であるという可能性が非常に高いでゲソ」

ルク 「うん、説得力あるな」

イカ娘「そうとなれば、あとは消去法でゲソ。あの時あの場に、ローズヒップはいなかった。今もどこにも見当たらないでゲソ。ならば、あれはローズヒップだと考えるのが自然じゃなイカ?」

ダー 「素晴らしい推理力ですわ、イカ娘さん」

 

ダージリンが称賛の拍手を送る。

イカ娘は得意満面な顔を浮かべている。

 

イカ娘「というか」

ルク 「ん?」

イカ娘「あんなところに刺さる人物が、ローズヒップ以外思いつかないでゲソ」

ペコ 「それを言っては・・・・」

アッサ「推理が成り立たないわね」

栄子 (誰も異議を唱えんのか)

 

はあ、とため息をつく一同。

 

ニル 「ですが、あの方がローズヒップ様だと分かった所で、次の疑問が出てきます」

イカ娘「む?」

ルク 「あいつ、あんなところで何やってんだ」

栄子 「確かに・・・・」

ルク 「ローズヒップは確かに後先考え無しに突っ込む癖はあるが、悪ふざけはしない。ましてや戦車にあんなふざけたカタチで乗り込もうともしない。何か理由があるはずだ」

ニル 「ローズヒップ様があんな格好で戦車に入ろうとしなければならなかった理由・・・・」

イカ娘「うーむ、何でゲソかね・・・・」

 

うーん、と唸る一同。

 

ダー 「これは、謎ですわね」

 

楽しそうな表情をするダージリン。

と、何かを思いついたように楽しそうな顔をした。

 

ダー 「イカ娘さん、ここは私と勝負いたしませんこと?」

イカ娘「む?勝負でゲソ?」

ダー 「ええ。私もローズヒップがなぜこうなってしまったのか、皆目見当もつきませんわ。ですから、自分の手で原因を探ってみようと思いますの」

イカ娘「なるほど。つまり・・・・」

ダー 「ええ。どちらが先にこの謎を解き明かすか、勝負ということですわ」

イカ娘「乗ったでゲソ!」

 

ダージリンの楽しそうな提案に目をキラキラさせて飛びつくイカ娘だった。

 

ダー 「では勝負開始といたしましょうか。__あ、そうですわ」

イカ娘「?」

ダー 「どうせなら罰ゲームを付けましょう。その方が張り合いがありますわ」

イカ娘「!」

ダー 「そうですわね・・・・」

 

少し考え込むしぐさをする。

 

ダー 「負けた方は、しばらくあだ名を『ハヤシアーティ』にいたしましょう」

イカ娘「!?」

栄子 「?」

ダー 「では、粛々と勝負開始ですわ」

 

そう言ってダージリンはアッサムを連れて行ってしまった。

 

イカ娘「これは・・・・負けられないでゲソ!」

栄子 「何だよ『ハヤシアーティ』って」

イカ娘「ハヤシアーティはいつも悪だくみをしている、ポームズの永遠のライバルなのでゲソ!あ奴の行く先々で事件が起こり、ポームズが奴を捕まえようとするのが話の大筋なのでゲソ!」

栄子 「三バカ並に迷惑な奴だな」

イカ娘「ポームズファンとして、そんなあだ名は屈辱でゲソ!私たちもすぐに調査に行くでゲソよ、ワドソン君!」

 

イカ娘はいつの間にか以前早苗に作ってもらったポームズの衣装を身にまとい意気揚々としている。

 

栄子 「誰がワドソンだ」

イカ娘「ポームズの名は私の物でゲソ!いざ!」

 

事件解決の一歩を踏み出そうとした瞬間__

 

千鶴 「どこへ行くのかしら?」

 

背後から笑顔で燃え上がる怒りのオーラを放つ千鶴が声を掛ける。

 

イカ娘「え、いや、あの、ちょ、調査を・・・・」

千鶴 「お仕事を放り出して?栄子ちゃんも?」

栄子 「ととととととんでもない!仕事はちゃんとするから!どっか行ったりなんて絶対にしないから!」

イカ娘「えええええ!?」

栄子 「ほら、行くぞイカ娘!調査はバイトが終わってからだ!」

イカ娘「それからじゃ絶対に負けちゃうでゲソー!」

ニル 「あの!」

 

バイトに引き戻されそうだった所へニルギリとオレンジペコが割って入った。

 

千鶴 「あら?二人ともどうしたのかしら?」

ニル 「あの、イカ娘さんたちはダージリン様と大事な約束がありまして!」

ペコ 「どうかお目こぼしいただけませんでしょうか」

千鶴 「そうなの?でも、そうしたらお店は私一人になっちゃうのよね・・・・」

ニル 「私たちがお手伝いします!」

ペコ 「経験もありますから、きっとお役に立てると思います」

千鶴 「うーん・・・・」

 

ちらり、とイカ娘たちとニルギリたちを見比べる。

 

千鶴 「わかったわ。じゃあ今日はニルギリちゃんたちにお願いしようかしら」

ニル 「はい!」

ペコ 「精いっぱいお手伝いいたします」

 

イカ娘たちにウィンクする二人。

こうしてイカ娘たちは堂々と調査に乗り出すことができるようになったのであった。

 

イカ娘「さあ、私に続くゲソー!」

栄子 (なし崩しに相棒にされてる・・・・。ま、いいか)

栄子 「んで?どうするつもりなんだ」

イカ娘「調査の基本は聞き込みでゲソ。周囲にローズヒップを見かけた者がいないか、探すのでゲソ!」

栄子 「気が長い話だなあ・・・・」

 

そしてイカ娘たちも去っていった。

その場に残ったのは戦車から足を突き出したローズヒップとルクリリのみ。

 

ローズ「・・・・ルクリリ様、皆さんもう行ってしまいまして?」

ルク 「ああ、ここには私だけだ。__っていうかお前意識取り戻したのか」

ローズ「取り戻したも何も、最初から起きていましてよ?」

ルク 「じゃあ何でずっと黙ってたんだよ。お前が事態を説明しないから今めんどくさい状況になってるんだぞ?」

ローズ「それは、その__」

 

言い淀むローズヒップ。

 

ローズ「やっぱり、淑女としてこの格好は恥ずかしくって・・・・ダージリン様にも顔見せできなかったのですわ」

ルク 「いっちょ前に恥ずかしがりやがって。それで?どうしてこうなったんだよ」

ローズ「ええ、実は__」

 

聞き込みのために砂浜に出たイカ娘たち。

 

たける「見たよ」

 

砂浜で話しかけられたたけるが質問に答えた。

 

イカ娘「見つけたでゲソ!」

栄子 「早すぎるだろ!」

たける「あのピンク色の髪の賑やかなお姉ちゃんだよね?さっき浜辺を歩いてたよ」

栄子 「タイミング的にれもんに来る直前だな」

イカ娘「それで、どこか変なところは無かったでゲソか?」

たける「うーん、ボクあんまりそのお姉ちゃんのこと知らないから、どう違うかわからないよ」

栄子 「誰かと一緒だったとか」

たける「ううん、一人だったよ」

イカ娘「うーむ」

たける「あ、そういえば」

イカ娘「何かあったでゲソね!?」

たける「さっき友達と遊んでたら、ビーチボールが消えちゃったんだ」

栄子 「ビーチボール?」

たける「うん。大きく飛んじゃったから、どこに飛んじゃったか探してるんだけど、どこにも無いんだ」

イカ娘「どうやら関係なかったようでゲソね。次へ行くでゲソ」

たける「あっ、栄子姉ちゃん」

栄子 「どした?」

たける「ビーチボールを見つけたら教えてね。あれ、友達のなんだ」

栄子 「オッケー、まかせとけ」

 

それからしばらく聞き込みを続ける。

 

シン 「あっ、イカ星人。私の帽子を見なかった?」

 

シンディーに声を掛けられた。

 

イカ娘「いや、見てないでゲソよ?」

栄子 「帽子がどうかしたのか?」

シン 「今日はちょっとおしゃれしてお気に入りの帽子をかぶって来たのよ。そしたらさっきの強風で飛ばされちゃって。探してるけど見当たらないのよ」

イカ娘「見てないでゲソね」

シン 「見かけたら教えてね」

イカ娘「わかったでゲソー」

栄子 「これも事件には関係なさそうだな」

イカ娘「そうでゲソね」

 

その後。

 

カエ 「ローズヒップ?」

左衛門「うーむ、今日は見かけていないな」

 

泳ぎに来ていたカバさんチームの面々にも聞き込みを行っていた。

 

エル 「私たちがここに来たのもつい先ほどだからな。見かけていたら挨拶の一つもしていたんだが」

おりょ「しかし、姿の見えぬ間に起きた惨劇か・・・・。歴史の動く瞬間はいつも刹那ぜよ」

カエ 「シーザーの暗殺!」

左衛門「本能寺の変!」

エル 「独ソ開戦!」

おりょ「池田屋事件・・・・」

三人 「それだ!」

イカ娘「つまり、ローズヒップに関しては何も知らないということでゲソね」

エル 「残念だが、そういうことになるな」

おりょ「ああ、でも変なことはあったぜよ」

栄子 「おっ?どんなことだ?」

カエ 「あれは、れもんの近く__そう、まさにれもんの裏にある、あの道路から砂浜に向かう時だった」

 

~~回想~~

 

カエ 『しかし会長も珍しいことを言うな。『今日の練習は中断。各々好きに遊んできていいよ~』とはな』

おりょ『目の前が海だというのにほとんど泳いだ覚えが無かったからな。いい機会だからたっぷり遊び貯めするぜよ』

エル 『左衛門佐、水着はどれにしたんだ?』

左衛門『うむ、真田紐は何故か西住隊長らの猛反対を食らってな。専門ショップから仕入れた、この結び雁金紋入りのななふんを__』

???『ととっ、おっとっと・・・・』

おりょ『む?今、何か言ったぜよ?』

カエ 『え?何も言ってないぞ?』

???『とっとっと・・・・ふぎゃっ!?』

エル 『ふぎゃ?』

 

奇妙な声にあたりを見渡すが、声を発した主は見当たらなかった。

 

~~回想終了~~

 

左衛門「あの時声の主は見つけられなかったが、位置から考えてもしやそれがローズヒップ殿だったのやもしれぬ」

イカ娘「ローズヒップの悲鳴を聞いたのでゲソ!?」

カエ 「うーん・・・・あれは悲鳴というより__」

イカ娘「有意義な情報を得たでゲソ!ありがとうでゲソー!」

カエ 「おーい!話をちゃんと聞けー!」

おりょ「行ってしまったぜよ」

エル 「まあ、大事件ではないだろう。彼女らに任せておこう」

おりょ「それもそうぜよ」

 

カバさんチームは海遊びを再開した。

その頃。

 

ルク 「うーん、これどうすりゃいいんだ」

 

現場に一人残っていたルクリリ。

ローズヒップを助け出すためにチャーチルに登っていた。

 

ルク (うーむ、見事にはまってるな)

ルク 「こんな様が世に広がれば聖グロリアーナ最大の不祥事だからな。さっさと引き抜くか」

 

キューポラの隙間から腰を掴み、力いっぱい引っ張る。

 

ルク 「ふんぬっ!__っ!くくっ!」

 

しかし力を入れて引っ張ってもローズヒップの体は持ち上がらない。

 

ルク 「ダメだ、引っぱり出せない。何かに引っ掛かってるのか?」

ローズ「恐らく、お洋服が機材に引っ掛かってしまっているのですわ」

ルク 「そっちからどうにかならないのか?」

ローズ「手の届かないところで引っかかっておりますの。こちらからでは無理ですわ」

ルク (ならこっち側からならどうにかなるか?)

 

と思いついたルクリリは、ローズヒップのお尻側から手を突っ込み、引っ掛かりを解こうと試みる。

 

ローズ「うひゃあ!?ルクリリ様、どこを触っていらして!?」

ルク 「どこってお前、引っ掛かりを解かないとどうしようもないだろ」

ローズ「おやめくださいましー!そこは、淑女として触られてはいけない場所ですわー!」

ルク 「こんなカッコでハマってる奴のどこが淑女だよ」

ローズ「もっといい方法があるはずですわ!ルクリリ様ももうちょっと考えていらしてはどうですの?」

ルク 「言ったなこのやろ!」

 

カチンときて、ローズヒップの足をくすぐり始めるルクリリ。

 

ローズ「あひゃひゃひゃひゃ!おやめになってくださいましー!」

ルク 「うりうり、うりうりー」

 

その頃。

 

ダー 「お替りを頂けるかしら」

ペコ 「・・・・はい、ただ今」

 

ダージリンはれもんで席に着き、紅茶を飲んでいた。

アッサムも同席している。

 

ニル 「あの、ダージリン様」

ダー 「何かしら?」

ニル 「恐れながら、調査に出られなくてよろしいのですか?イカ娘さんはどんどん調査を進めていらしてますが・・・・」

ダー 「そのようね」

 

意に介さぬように、お替りの紅茶を口にする。

 

ニル 「あの・・・・」

ダー 「『安楽椅子探偵』というものをご存知かしら」

ニル 「現場に出ることなく、室内で聞いた情報だけで推理・真相へたどり着くスタイルの探偵、です」

ダー 「正解。何も歩いて真相を探るだけが探偵ではないということよ」

ペコ 「それは、ポームズというより・・・・」

アッサ「ミス・メープルに近いですね」

ダー 「ふふっ、彼女も私の理想でしてよ」

アッサ「むしろ、そちらの方がダージリンにはお似合いですね」

ニル 「でも、本当に頑張ってくださいね。私、ダージリン様をハヤシアーティ様だなんてお呼びしたくありません」

ダー 「心配してくれてありがとう、ニルギリ。でも、私は__」

 

ちらり、と外を見る。

外では、イカ娘が元気に証拠探しに邁進している。

 

ダー 「あの子の資質をもっと見極めたいのですわ」

 

その顔は、期待を込めるような、子供を見守る母親のような優しさを感じさせていた。

三十分後。

 

ローズ「ぶはーっ」

ルク 「ぜはーっ」

 

汗だくになったルクリリが、同じく汗に濡れたローズヒップを連れて店にやって来た。

ローズヒップは何故かビーチボールを抱えている。

 

ダー 「お疲れ様、ルクリリ。ローズヒップも抜け出せて何よりですわ」

 

スッ、とオレンジペコが氷入りのアイスティーを二杯、二人の前に差し出す。

 

ガッ!

 

瞬時にそれを掴み、あっという間に飲み干してしまう。

 

ローズ「ぷはーっ!生き返りましたわー!」

ルク 「熱射病で倒れる寸前だったもんな」

ニル 「ローズヒップ様、お体は差し当たりありませんか?」

ローズ「う~ん、暑いは暑かったですけれど、ちょうど日陰になっていたおかげで助かりましたわ」

ルク 「直射日光食らってたら終わってたな」

ニル 「それにしても、どうしてあのようなことに?」

ローズ「ええ、実は__」

 

スッ

 

ローズヒップが語りだそうとすると、ダージリンは手を軽く上げて制した。

 

ダー 「ローズヒップ、それを語るのはもう少し後でよろしいかしら」

ローズ「へ?ええ、構いませんことよ?」

ダー 「もうしばらくしたらイカ娘さんたちも戻られる頃でしょう。今のうちに着替えていらっしゃい」

ローズ「そうですわね!お言葉に甘えさせていただきますわー!」

 

そう言ってローズヒップは駆けて行った。

テーブルの上に残されたビーチボールを見て、ダージリンがクスっと笑う。

 

ダー (そう。そういうことだったのね)

ルク 「あんな目に逢ったってのに、元気な奴だなあ」

ダー 「ルクリリ、貴女はローズヒップから真相をお聞きになったのかしら」

ルク 「あ、はい。__でも、まだ黙ってた方がいいんですよね」

ダー 「ええ。答え合わせ役として同席してもらえるかしら?」

ルク 「はい、わかりました」

 

やがて__

 

イカ娘「これで間違いないでゲソ!すべての証拠と状況が物語ってるでゲソ!」

栄子 「だから強引すぎるだろ。もうちょっと考えてからにしろって」

 

見当がついたらしいイカ娘がれもんへ戻って来た。

 

ダー 「お帰りなさい、イカ娘さん。推理は完成いたしましたかしら」

イカ娘「バッチリでゲソ!」

栄子 「素っ頓狂な推理なんで、笑わないで聞いてやってください」

イカ娘「栄子は黙ってるでゲソ!」

 

しばらくして。

 

ローズ「ただいまですわー!」

 

着替え終わったローズヒップがれもんへダッシュで帰って来た。

 

イカ娘「おお、ローズヒップじゃなイカ。もう抜けさせたのでゲソね」

ローズ「お恥ずかしいところをお見せしましたわ!」

 

照れくさそうに少し顔を赤らめる。

 

ペコ 「皆さん、お揃いになられましたね」

 

一同がれもんに集結し、目線がイカ娘とダージリンに注がれる。

 

ダー 「では、答え合わせと参りましょう。イカ娘さん、そちらからどうぞ」

イカ娘「うむ!私の考えは__」

アッサ「考えは?」

イカ娘「『事故』でゲソ!」

ペコ 「事故・・・・ですか」

イカ娘「うむ!」

ダー 「推理を詳しくお聞かせ願えるかしら」

イカ娘「聞き込みを続けると、様々な情報が手に入ったでゲソ。それは、

『ローズヒップは一人だった』

『あの事件が起こる直前、強風が吹いた』

『たけるの遊んでいたビーチボールが無くなっていた』

『ローズヒップが戦車に刺さる前、『おっとっと』という声が聞こえた』

という点でゲソ」

ニル 「おっとっと、ですか」

イカ娘「最初、グロリアーナかローズヒップに恨みを持つ者の犯行だと睨んでたでゲソ。だけど、不審な人物は一切目撃されていない。犯人説は否定されたでゲソ」

アッサ「そうなりますね」

イカ娘「次にローズヒップが自分で入ろうとして引っかかった、という可能性でゲソ。でもみんながローズヒップが戦車に対してあんなふざけたことはしない、と言っていたでゲソ。だから自分で入った説もあり得ないでゲソ」

 

ローズヒップはちょっと気恥かしそうにしている。

 

イカ娘「『不可能なことを消していって、最後に残ったものがどんなに奇妙でも、それが真実なのだ』とポームズも言ってたでゲソ。だから、最後の可能性を主張したのでゲソ」

ニル 「その最後に残ったものが、『事故』ですか」

イカ娘「うむ!恐らく、起こったことはこうでゲソ」

 

~~推理~~

 

ローズ『ふんふんふ~ん♪今日はれもんでお茶会ですわ~♪』

たける『うわあ!ボールがあさっての方向に~!』

ローズ『お任せあれ!わたくしがキャッチしてご覧に入れますわ~!』

 

ビュウッ!

 

ローズ『あっ!強風でさらに吹き上げられてしまいましたわ!お待ちなさい~い!』

 

風にあおられ、ビーチボールはれもんの裏に停めてあるチャーチルの真上を通る。

 

ローズ『そうですわ、チャーチルに乗っかれば届きますわ!』

 

ひらりと飛び乗り、足を延ばしてボールを両手でキャッチする。

 

ローズ『やりましたわ~!』

 

ツンッ

 

勢いづいたせいで出っ張りに足を取られるローズヒップ。

不安定な体制だったため、つんのめってしまう。

 

ローズ『ととっ、おっとっと、とっとっと__』

 

そして、運悪く開いていたキューポラに勢いよく頭から突っ込んでしまう。

 

ローズ『ふぎゃっ!?』

 

~~推理終了~~

 

イカ娘「これがこの事件の真相でゲソ」

 

ふふん、と胸を張るイカ娘。

しーんと静まる店内。

 

栄子 「ほら見ろ!みんな呆れかえって__」

 

さぞ呆れているだろう、と周りをうかがうと・・・・

 

栄子 「あれ・・・・どうしたの?」

 

みんな驚愕した表情を浮かべている。

 

ニル 「理に適っています」

ペコ 「はい。無理はない推理かと」

アッサ「矛盾はありませんわね」

栄子 「へ?」

 

呆れるどころかみんながイカ娘の推理を肯定している。

 

栄子 「ま、まさかこの推理がおかしくないとか言うつもりじゃないよな!?なあローズヒップ!?」

 

すがるような栄子に、ローズヒップはばつが悪そうな顔をする。

その表情ですべてを悟った栄子。

 

栄子 「マジか・・・・!」

 

栄子は言葉を失った。

 

ローズ「お恥ずかしい限りですが・・・・全くもってその通りですわ」

ルク 「ああ、驚いた。その通りまさかじゃないか」

ダー 「素晴らしい推理でしたわ」

 

ダージリンが拍手し始めると、周囲も拍手を送り始めた。

 

ダー 「いかに発想が滑稽であろうとも、己の信念と直感を信じ、真実への歩みを諦めないその勇気。まさに名探偵とお呼びするに相応しい器ですわ」

ニル 「感服いたしました」

ペコ 「おめでとうございます」

 

称賛に顔を赤くするイカ娘。

と、はっとした顔をする。

 

イカ娘「そうでゲソ!ダージリンさん!罰ゲームは覚えてるでゲソね!?」

ダー 「ええ。言ったことは守りますわ。これから当分の間、私のことを『ハヤシアーティ』とお呼びいただいて結構ですわ。勿論グロリアーナでもそう呼ぶようにふれておきます」

ペコ 「ダージリン様、そこまでなされなくても・・・・」

ダー 「ペコ」

ペコ 「あ、はい・・・・わかりました。ハヤシアーティ様」

 

 

※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。

 

あだ名がハヤシアーティになったダージリン→ハヤシ

 

 

ハヤシ「とても有意義な時間を過ごせましたわ。では、本日はこれで失礼いたしましょう。皆さん」

アッサ「わかりました、ハヤシアーティ」

ニル 「かしこまりました、あの・・・・ハヤシアーティ様」

ローズ「ハヤシアーティ様!いつまでハヤシアーティ様とお呼びすればよろしいんですの!?」

ルク 「あんまりハヤシアーティハヤシアーティ言うな!怒られるぞ!」

 

かくしてハヤシアーティ一行はれもんを去っていった。

 

イカ娘「見たでゲソか、私の名推理!」

栄子 「ああ。開いた口がふさがらんとはこのことだ」

栄子 (そういえば・・・・)

 

ビーチボールを手に取る栄子。

ふと一つ思い出していた。

 

栄子 (ハヤシ・・・・ダージリンさんの推理は聞けずじまいだったな)

 

帰路に就くハヤシアーティ一行。

こっそりと、アッサムがハヤシアーティに耳打ちした。

 

アッサ「貴女、ビーチボールを見た時に真相に辿り着いていたわよね?」

ハヤシ「あら、何のことかしら」

アッサ「こんな罰ゲームを受けてでもあの子のことを立てて、何を企んでいるのかしら?」

ハヤシ「企むだなんて人聞きの悪い。イカ娘さんの推理が先に真実を立証していたから私の負け、でよろしいのではなくて?」

アッサ「そもそも今回の勝負も、あの子が真相に辿り着くのを期待して仕掛けていたわよね?あれによって、イカの娘の才覚を皆に示すことができた。あれこそが貴女の望んだ結果なのではなくて?」

ハヤシ「アッサム」

 

アッサムの方を振り向き、人差し指を口元に立てた。

その眼には悪戯っぽい光が宿っている。

 

ハヤシ「私、ハヤシアーティ教授も好みですの。__それで構わないのではなくて?」

 

その後。

 

シン 「私の帽子、私の帽子・・・・」

 

夕方まで、シンディーは帽子を探し続けていた。

 




推理物は、描くのが難しいですね(書いてから言う)。

かの名探偵はこんな事件、見た瞬間に看破してしまうのでしょうね。
私の周囲にも『彼』の熱烈なファンは多数います。
生誕百年たっても、彼の威光は全く衰えることを知りませんね。

ちなみに、自分は推理物は好きでも推理力は皆無です。
少しは欲しいですね・・・・推理力。

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