侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。

ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ
アッサム→アッサ
ルクリリ→ルク
ローズヒップ→ローズ
ニルギリ→ニル


第4話・直していかなイカ?

ダー 「ごきげんよう」

イカ娘「いらっしゃいでゲソ!」

 

いつもの時間。

いつものように聖グロリアーナの面々がお茶会のために海の家れもんを訪れた。

 

千鶴 「いらっしゃい。準備出来てるわよ」

ペコ 「ありがとうございます」

ローズ「お邪魔いたしますわー!」

 

我先にといつもの席に飛び乗るローズヒップ。

 

ダー 「ローズヒップ。聖グロリアーナ生たるもの、いつ何時も公共の場で走り回ってはいけなくてよ」

ルク (上品な言い回しだけど、デパートとかで走り回る子供を注意するレベルの内容だな)

ローズ「申し訳ありませんダージリン様!次回は気を付けますわー!」

アッサ「絶対次来るときには忘れてるわね。はあ、頭が痛い」

ニル 「あはは・・・・」

 

そんなこんなで各自席につき、いつものように紅茶が振る舞われ、各々がティータイムを楽しんでいる。

そんな時。

 

磯崎 「よっ、お邪魔するぜ」

 

磯崎が現れた。

いつものライフセーバーの格好ではなく、ノースリーブの黒シャツに膝までのハーフパンツとラフに決めている。

 

イカ娘「磯崎じゃなイカ。服なんて着てどうしたのでゲソ」

磯崎 「人を露出狂みたいに言うな!今日は非番なんだよ」

 

そう言って席につく。

その席は、お茶会をしているダージリンたちとは大して近くはない位置だった。

 

イカ娘「珍しいじゃなイカ。目の前にダージリンさんたちがいるのに声をかけないのでゲソ?」

磯崎 「ああ。今までの俺は数うちゃ当たる戦法で撃沈し続けてたからな。これからはやり方を変えていくのさ」

 

そういって磯崎は持ち込んだ何かの本とノートを取り出すのだった。

それからしばらくして。

 

栄子 「いやー悪い悪い、用事がキリつかなくてさ」

 

栄子がれもんにやって来た。

 

イカ娘「遅いでゲソよ!もうダージリンさんたちには全部出しておいたでゲソ」

栄子 「おお、悪いな。__ん?」

 

ふと、目線を動かすと、その先には磯崎のいるテーブルが映った。

そこでは、テーブルに何冊も本を広げ、真剣そうな顔でノートを取っている磯崎がいた。

 

栄子 「おいコラ!」

 

そんな磯崎の背中を手加減なしに思い切り蹴る栄子。

 

磯崎 「あだっ!?何すんだよいきなり!?」

栄子 「お前誰に許可得てやってるんだ!」

磯崎 「許可って何だよ!ここは長時間居座りすぎなきゃ利用していいはずだろ?」

栄子 「私の許可なく勉強なんてしてんじゃねえよ!私を出し抜こうったってそうはいかないからな!」

磯崎 「意味わからん!」

栄子 「磯崎に勉強なんてされて学力に差をつけられちゃたまらんからな。これは没収する」

 

ひょい、とテーブルに置かれた本を取り上げる。

 

磯崎 「おいコラ、返せ!」

栄子 「んー・・・・?」

 

ふと、開いたそのページから記された内容が見て取れた。

本には戦車のアップ写真や部品の説明図、部品の取り付けなどをしている人物の写真が文章付きで載っている。

 

栄子 「なんだコリャ?戦車の写真ばっかじゃんか」

磯崎 「そりゃそうだ。これは戦車関係の本だからな」

 

表紙を見てみると確かに、『月刊戦車道』と書かれている。

煽り分には、『今注目の修理男子に迫る!』とも書かれていた。

 

栄子 「そっか、なら許そう。読んでよし」

磯崎 「何様なんだお前は」

 

呆れながらも再び本を広げ、再びノートに写し始めた。

 

イカ娘「しかし磯崎よ、どうして急に戦車の本なんて読み始めたのでゲソ?今まで興味なんて無さそうだったじゃなイカ」

磯崎 「そんなことはないぞ?俺はいつも戦車道には興味深々だったからな」

栄子 「ま、やってるのは全部女の子だしな」

磯崎 「その通り!あ、いや、それだけじゃないぞ?」

栄子 「99%それだろ」

 

オホン、と咳払いでごまかす。

 

磯崎 「こないだの戦車道大会の盛り上がりから、戦車道に興味を持った女の子が増えて来てるだろ?」

栄子 「まあ確かに。この辺りの戦車保有率も上がって来てるかもな」

イカ娘「昨日も近くの道路を戦車が走ってたでゲソ」

磯崎 「で、だ。それで始めたばかりの女の子たちは、まだ戦車のイロハも理解しきれていない素人の子ばかり。動かすので精一杯なのに、そこで駆動系のトラブルとかが起こったりしたらどうなると思う?」

栄子 「どうしようも出来なさそうだな」

磯崎 「で、だ!そこに颯爽と俺が現れ、ことも無げに簡単に修理して見せる!どうよ、こりゃホレちまうだろ?」

栄子 (狙いが安易すぎる)

千鶴 「でも確かに、戦車を直せる男の子がいてくれるととても助かるわ」

磯崎 「でしょお!?」

千鶴 「パーツの一つ一つもとても重いし、女の子の腕力では持ち上げることもできないケースも多いのよ」

イカ娘(千鶴には少なくとも縁の無さそうなことでゲソ)

磯崎 「そんな訳で、今『修理男子』、通称『メンテメンズ』が流行りにあるってワケよ!」

イカ娘「ふむ、そんなに需要があるものでゲソかね」

 

疑問に思たイカ娘は、ダージリンたちの席へ歩み寄る。

 

イカ娘「ダージリンさんよ」

ダー 「いかがなさったのかしら?イカ娘さん」

イカ娘「戦車の修理ができる男を、どう思うでゲソ?」

 

率直に質問した。

 

磯崎 (おいっ、なんてストレートな!だがグッジョブ!)

 

遠巻きに席から磯崎が賛美を送る。

 

ダー 「そうですわね・・・・」

 

ダージリンは少し考え込む素振りで紅茶を飲んだ。

磯崎は興味が無い振りをしながら耳に神経を集中させている。

 

ダー 「戦車道は乙女、淑女の嗜みですわ。ですが、戦車に関わるありとあらゆるものが女性だけのもの、であると言い切るのもまた浅はかな答えでもありますわ」

アッサ「戦車は最初から戦車ではありません。鉄を溶かし、形作り、組み合わせ、それが正しくかみ合うように仕立てていただいて初めて戦車として成り立つのです。この過程全てにおいて男性が関わっていないとは決して言い切れませんわ。__むしろ、そちらの方が男性の比率は圧倒的に多いのでは?」

ペコ 「私たちが戦車道を嗜めるのも、支えて下さっている殿方がおられてこそ、ということを忘れてはなりませんね」

ダー 「そういうこと。ましてやその後もメンテナンスなどで私たちの活動を支えてくれる殿方は、もはやパートナーと呼んでも過言ではないでしょう」

磯崎 (おお・・・・!)

 

ダージリンたちの言葉に舞い上がる磯崎。

しかし__

 

ルク 「お言葉ですがダージリン様」

 

ルクリリが口をはさむ。

 

ダー 「何かしら?ルクリリ」

ルク 「残念ながら男のすべてが無償で支えてくれる聖人君子ばかりではありません。男の中には下心があったり、女子とお近づきになりたいだけだったり、そもそも戦車道を大事にしていない連中も多いのが事実です」

 

ギクッとする磯崎。

そんな磯崎に心中を見透かすようにきっとにらむルクリリ。

 

ルク 「我ら気品と誇り高き聖グロリアーナの一面があのようなナンパ男に引っかかったとあれば、それこそ未来永劫続く恥になってしまいます」

磯崎 「ナンパ男って・・・・。それに、俺に引っかかると恥って何だよ」

ルク 「聞いた通りでしょ。アンタみたいな色ボケは、聖グロには用無しって言ってんのよ」

磯崎 「言うに事欠いて色ボケとはなんだ色ボケって!」

ルク 「何だ、やる気か!」

 

ルクリリと磯崎が同時に立ち上がり、歩み寄ってにらみ合う。

険悪な雰囲気が流れ、どうなるのかとハラハラする一同。

 

ダー 「ルクリリ。はしたなくってよ」

 

今にも取っ組み合うんじゃないかという勢いの所で、ダージリンが口で制す。

穏やかながらぴしっとしたダージリンの一言に縮こまるルクリリ。

雰囲気に呑まれ磯崎も恐縮している。

 

ダー 「ルクリリ、貴女はまだ本当の戦車道に携わる殿方を見たことが無いのね。一目でも拝見すれば、きっと貴方の考えも変わるでしょう」

ルク 「は、はあ・・・・?」

 

言われても納得しかねない、といった表情のルクリリ。

やがて紅茶を飲み干し、ダージリンはティーカップを置く。

 

ダー 「ご馳走様でした。今日も素晴らしいお紅茶と時間、ありがとうございました」

千鶴 「いえいえ。また来てね」

 

ティータイムを終えたグロリアーナ一行は、手早く手荷物をまとめ、スムーズに帰っていった。

帰り道、ルクリリはダージリンに恐縮してかやや距離を開けてついてきている。

 

アッサ「それにしても」

 

帰り道、アッサムが口を開く。

 

アッサ「あの時、ルクリリを嗜めるのが少し遅かったのではありませんか?もう少し早く諫めてくだされば、あの子もあそこまで過熱していなかったでしょうに」

ペコ 「何だか、一連の流れを楽しんでいるように見えましたが」

ダー 「だって。あの子が殿方とあそこまで距離を詰めるのを見るのは初めてだったもの」

アッサ「・・・・そう言われれば」

 

聖グロリアーナは女子高、ましてやお嬢様学校。

教職員や学園艦管理職にも女性は多く、男性は学生の家族や市街地で商業などを営むごく一部のみ。

探さないと出会うのも難しいほどの比率になっている。

 

ダー 「いずれグロリアーナから羽ばたけば、戦車道に携わっていても殿方と関わる回数が多くなるのは必然。今のうちに交流を経験しておけば、憂うことも無くなるはずよ」

ペコ 「なるほど・・・・」

アッサ「でもダージリン。そう言われるけど貴女がそれを踏まえて殿方と交流を持っている姿、私は見たことないのですが」

ダー 「(ぎくっ)」

アッサ「まさか、殿方とじゃれあうルクリリを見たかっただけ、なんて理由では__」

ダー 「!__何を言っているのかしらアッサム。決して、興味本位などではあり得なくてよ?」

 

すまして返事を返すダージリンを見てため息をつくアッサム。

そんな二人に、オレンジペコは苦笑するのだった。

 

数日後。

 

吾郎 「もう大丈夫だ!陸に着いたからな!」

 

吾郎が溺れていた少女を助け、浜辺まで背負ってたどり着く。

幸い大事なく、すぐ元気になって母親の元に送り届けられた。

 

磯崎 「いや悪い悪い、気が付くのがちょっと遅れたな」

 

波打ち際で磯崎がバツ悪そうに頭をかく。

 

吾郎 「全くだ。こっちのエリアはお前の担当だろ。監視台にも座ってたのに何を見てたんだ」

磯崎 「いや、それはな?」

吾郎 「どうせまた水着の女性とかを目で追っかけていたんだろ」

磯崎 「違うっつの!」

吾郎 「どうだか・・・・。とにかく交代だ。お前はパトロールに出てくれ。監視台は俺が座っておく」

 

言いながら監視台登っていく吾郎。

 

磯崎 「あっ、ちょっ、ちょっと待て吾郎!」

吾郎 「ん?」

 

上まで登ると、座席に何か本らしきものが置いてあるのを見つける。

手に取ると、『戦車メンテナンス中級編講座』と書かれたマニュアル本だった。

すぐに察しが付く吾郎。

 

吾郎 「磯崎!お前仕事中に__」

 

磯崎を叱りつけようと振り向くが、すでに磯崎はその場から逃げ去っていた。

 

吾郎 「まったく・・・・」

 

ため息をつきながら、吾郎は監視台に座り、監視を始めるのだった。

 

磯崎 「いやー、危ねえ危ねえ。あやうく説教くらうとこだったぜ」

 

上手く逃げおおせた磯崎が息をつく。

 

磯崎 (自分なりに戦車修理の知識は大分ついてきた。今なら簡単な故障なら直せる自信はある!見てろよ、俺が下心しかないナンパ男じゃないってことを証明してやる!)

 

先日ルクリリに悪態つかれてから、見返したいという気持ちで磯崎は知識を深めていた。

パトロールしつつ砂浜を歩いていると、前方に見覚えのある戦車が止まっている。

 

イカ娘「どうしたのでゲソ!こんな所で止まってもしょうがないじゃなイカ!」

栄子 「んなこと言っても、突然動かなくなったんだよ!」

 

イカ娘たちのチャーチルだった。

どうやら故障らしく、栄子たちが車外に出て調べている。

 

磯崎 「どうしたお前ら」

イカ娘「あ、磯崎でゲソ」

渚  「突然片側のキャタピラが動かなくなってしまって。何が原因か見ていたんです」

 

履帯、エンジン、アクセルなどを調べているが、原因が特定できないようだ。

 

栄子 「あークソ、わかんねー。何が原因なんだ・・・・?」

 

直射日光に当てられて汗を流しながら調べる栄子。

メンテナンスは得意でないため、時間ばかりかかってイライラしはじめている。

 

磯崎 「そうか、大変だな。頑張れよ」

栄子 「おい!ちょっと待て!」

 

立ち去ろうとする磯崎を制する栄子。

 

磯崎 「何だよ」

栄子 「目の前で女が戦車動かなくて困ってるんだぞ?今こそお前の下心にまみれた勉強の成果を見せるときだろうが」

磯崎 「そんな言われ方でやる気が出るとなぜ思える」

 

明らかにやる気のない磯崎。

 

栄子 「まあ、考えてみろ。この戦車はチャーチルだ」

磯崎 「知ってる」

栄子 「そして、聖グロのダージリンさんもチャーチルだ」

磯崎 「そうだな」

栄子 「つまり、このチャーチルを直せるなら、ダージリンさんが故障で困ったとき、直してあげられるってことじゃないか?」

磯崎 「!」

 

~~妄想~~

 

道の真ん中で、チャーチルが壊れて困っているダージリン。

 

ダー 「ああ、困りましたわ。こんな所で動けなくなるなんて。原因も分からないし、どうしましょう・・・・」

磯崎 「お困りでしょうか?お嬢さん」

ダー 「あっ、貴方は!?」

 

あっ

 

という間に戦車を直して見せる磯崎。

 

磯崎 「直りました」

ダー 「まあ!」

磯崎 「では私はこれで」

ダー 「お待ちになって!せめて後日お礼をさせていただけませんかしら」

 

そう言ってケータイ番号をスッと差し出すダージリン。

 

~~妄想終了~~

 

磯崎 (いい・・・・)

磯崎 「あーやれやれ、しょうがねえな。ちょっと見せてみな」

栄子 (チョロいな)

 

磯崎は栄子をどかし、履帯周りを調べ始める。

 

磯崎 (履帯は切れていない。転輪も外れていないから、故障じゃないかもしれないな)

磯崎 「おい、ちょっと中に入ってアクセルふかしてみてくれ」

 

言われた通りに車内に戻り、アクセルをかける栄子。

 

ブオオオオオン

ブイイイイイン

 

エンジンを稼働する音もアクセルを吹かす音も聞こえてくるが、チャーチルは前に進もうとしない。

右側のキャタピラだけが動き、その場で回転しかけている。

 

磯崎 「んんー・・・・?」

 

磯崎はふと、動かない側の後部転輪に注目する。

じっと覗き込み、何かに気が付いた。

 

磯崎 「おい、ちょっと左だけバックでゆっくり動かしてみてくれ」

栄子 「ん、こうか?」

 

ギュギュギュギュ

 

すると、ほんの僅かだけキャタピラが動く。

 

磯崎 「ストップ!」

 

すぐに止める。

そして転輪に手を伸ばし__

 

磯崎 「あった、こいつだ」

 

中から短めの太い木の枝が出てきた。

 

渚  「それは?」

磯崎 「これが後部転輪に挟まってた。そのせいでつっかえ棒になってたんだな」

イカ娘「どこかで巻き込んでしまったのでゲソか」

磯崎 「恐らくな。これでもう大丈夫だろ。動かしてみな」

 

ギュラギュラギュラ

 

イカ娘「おお、動いたでゲソ!」

栄子 「やるじゃんか磯崎!サンキューなー」

 

そう言ってチャーチルは去っていった。

 

磯崎 (よし・・・・着実に腕は上がってる。この調子だ!)

 

勉強の成果が出ていることを時間する磯崎。

次の日。

 

栄子 「おーい、磯崎」

磯崎 「ん?」

栄子 「またチャーチルの様子がおかしくてさ。ちょっと見てもらえないか?」

磯崎 「ええー・・・・」

 

あからさまに面倒臭そうな顔をする磯崎。

 

栄子 「なあ頼むって。身近で一番知識持ってるのはお前くらいしかいないんだよ。なっ?」

磯崎 「・・・・そ、そうか。俺が一番詳しいって言うんだったら、仕方ないな!」

 

おだてられた気分になって引き受けてしまう磯崎。

上機嫌でチャーチルの修理に向かう。

 

栄子 (単純なやつ)

 

その後も。

 

栄子 「磯崎、今度はハンドルのレバーが重くてさ」

 

事あるごとに

 

イカ娘「磯崎よ、キューポラの立て付けが悪くなってきた気がするでゲソ」

 

磯崎は

 

栄子 「磯崎ー、砲身の固定が甘くなってきちゃったんだけど」

 

栄子たちに

 

イカ娘「磯崎ー、そこのジュース取ってでゲソー」

 

いいように利用されていた。

 

磯崎 (今の戦車関係ねえじゃん!)

 

その後もいろいろとこき使われ・・・・

 

磯崎 「・・・・」

 

磯崎はゲソッとしてしまっていた。

 

磯崎 (あいつら、いいように使いやがって・・・・。当分はれもんに近づかないでおこう・・・・)

 

そんな夕方、とぼとぼ歩いていると、前方に見覚えのある戦車を見つけた。

 

磯崎 (ゲッ、チャーチル!)

 

反射的に物陰に隠れる。

気付かれないようにとじっとしていると、声が聞こえてきた。

 

ダー 「災難ですわね。まさかこんなことになるだなんて」

アッサ「どうやら被害を免れた戦車の方が少ないようです」

磯崎 (あれ?今の声って・・・・)

 

そっと物陰から覗くと、聖グロリアーナの戦車道チームの一団だった。

どうやらトラブルらしく、何人もの隊員が降り戦車を調べている。

そんな中でもダージリンはキューポラから顔を覗かせ優雅に紅茶を飲んでいる。

 

磯崎 (あれは・・・・もしかしてマシントラブル!?よっしゃ!運は俺に味方してくれたようだな!)

 

これまで培った修理技術がいよいよ実る時と、磯崎は勇んでチャーチルに近づいた。

 

磯崎 「お困りでしょうか?お嬢さん」

ダー 「あら?貴方は先日、海の家にいらっしゃった・・・・」

磯崎 「ええ。磯崎、磯崎辰雄です。見たところ、トラブルのようですね」

 

パッと見駆動系のトラブルらしく、どの生徒も履帯や転輪を調べて回っている。

 

ダー 「そうですの。どうやら道に廃材が落ちていたらしく、気が付かなかった子たちが巻き込んでしまい、走行不能になってしまいましたの」

アッサ「お恥ずかしながら我々の戦車も、ですが」

 

ダージリンがおほん、と咳払いする。

 

磯崎 「それはお困りでしょう。では俺に任せて__」

 

言いながら修理しようとチャーチルに近づいていく。

が__

 

ダー 「ああ、お気遣いなく」

 

ダージリンに制止されてしまう。

 

磯崎 「へっ?」

ダー 「聖グロリアーナで戦車道を嗜む者として、この程度の損傷ならば自力で直せて当然ですわ。大破ならいざしらず」

 

ブイイイイン

 

言った矢先にチャーチルのキャタピラが復活し、問題なく動けるようになる。

 

ペコ 「修理、滞りなく完了しました」

ダー 「言った通りでしょう?我が校は皆優秀な子たちばかりですから」

ニル 「修理、完了しました!」

ローズ「こちらも万事オッケーでございましてよー!」

 

次々と修理完了を告げる声が上がり、ほぼ全ての隊員が戦車へと乗りこみ終えていた。

 

ダー 「お気持ちは受け取っておきますわ。ご心配頂き、ありがとうございます」

磯崎 「あー・・・・いや、大事なくてよかったです、はは、ははは・・・・」

 

せっかくのチャンスと今までの努力が無駄になり、乾いた笑いを浮かべる磯崎。

 

アッサ「では全員終わったようですし、参りましょうか」

ニル 「あっ、あの、アッサム様?」

アッサ「何かしら?」

ニル 「その、ルクリリ様のところが、まだ完了していないようなのですが・・・・」

 

目線を送ると、列の後方に位置していたルクリリのマチルダⅡだけは、まだ隊員たちが外で修理を行っているようだった。

ダージリンに気づかれ、焦りだすルクリリ。

 

ルク 「あのっ、すいません!あとちょっとで終わりますんで!」

ダー 「そう」

 

ダージリンは懐からそっと懐中時計を取り出す。

 

ダー 「そろそろハイ・ティーの時間ですわね。そろそろ出立しなければ間に合いませんわ」

 

パチン、と時計を閉じる。

 

ダー 「では、我々は先にお茶会の用意をしておきます。ルクリリ、ゆっくりでいいから修理が終わったら追いかけていらっしゃい」

ルク 「!・・・・は、はい・・・・」

 

ダージリンの言葉に絶望したような表情を一瞬浮かべ、ルクリリは力なく返事した。

そしてダージリンたちは待つこともなく、そのまま出発し建物の陰で見えなくなった。

その場に取り残されたルクリリたちは必死に修理を続けている。

夕焼けの赤とカラスの鳴き声がやたらと哀愁を誘う。

 

ルク 「くそっ・・・・なんで直らないんだ!」

隊員A「まずいですよルクリリ様、ダージリン様のティータイムに間に合わなかったら、欠席扱いになっちゃいます・・・・」

隊員B「噂じゃティータイムに遅刻や欠席をしてしまったチームは、レギュラーから補欠に移されちゃうってもっぱらの噂ですよ!?」

ルク 「わかってる!だから急いでるんでしょ!」

 

焦りと苛立ちでルクリリの口調が荒くなる。

しかしルクリリのチームは全員が修理が苦手らしく、未だ解決のめどが立たない。

 

ルク (くそおっ、これじゃ間に合わない!もっと修理の勉強しておけばよかった!せっかく、せっかくティーネームももらえて、これからダージリン様たちと肩を並べていけると思ってたのに!)

 

絶望がルクリリを襲い、眼尻に涙が浮かび始める。

と、そんなルクリリの背中に影が重なった。

はっと振り返ると、そこには磯崎が立っていた。

 

ルク 「アンタ・・・・」

磯崎 「どきな。俺が見る」

 

手でルクリリたちにどくように促し、真剣な表情でキャタピラを見据える。

 

磯崎 (転輪と履帯には一切の損傷が見えない。原因は外部からの損傷じゃないのか?)

 

手が汚れるのもいとわず、色々な個所を触って確かめていく磯崎。

そんな磯崎を、横から唖然とした表情で見つめているルクリリ。

 

磯崎 「やっぱり外側じゃないか・・・・。それなら」

 

突然磯崎は仰向けに寝転がり、背中をこすらせながらに戦車の下に潜り込んだ。

 

隊員B「あのっ、そこまでしていただかなくても!」

磯崎 「いいっていいって、そこで待ってな」

 

戦車の下側面を詳しく調べる。

 

磯崎 「・・・・あった。やっぱここだったか」

 

呟きながら、カチャカチャと音を立てて損傷個所を修理する。

そして、しばらくが経ち。

磯崎が戦車の下から這い出てきた。

 

磯崎 「これで動くはずだ。試しにやってみてくれ」

隊員A「はい、わかりました!」

 

言われた通り、エンジンをかけ、ゆっくりアクセルを踏むと__

 

ギャギャギャ・・・・

 

マチルダⅡは元通りに動くようになっていた。

 

ルク 「動いた!?」

隊員B「よかったー・・・・これならまだお茶会に間に合いますよ!」

 

大喜びの隊員たち。

 

隊員A「ありがとうございました!」

隊員B「すごく助かりました!」

磯崎 「いやいや、大したことじゃないさ」

 

手渡されたタオルで手を拭いている磯崎。

だが手以外にも顔や腕、服のいたるところにも汚れと油がこびりつき、どれだけ大変な修理だったのかを物語ってていた。

喜びはしゃいでいる隊員とは対照的に、ルクリリは気まずそうな顔をして何か言いたげにもじもじしている。

 

ダー 『ルクリリ、貴女はまだ本当の戦車道に携わる殿方を見たことが無いのね。一目でも拝見すれば、きっと貴方の考えも変わるでしょう』

 

先日れもんでダージリンに言われた言葉を思い出するルクリリ。

 

ルク (そうか、ダージリン様が仰ってたのは、このことだったのか・・・・)

 

れもんの時とは違って映る磯崎の姿に、経験したことのない感情が芽生えるのをルクリリは感じていた。

ふと、ルクリリの視線に磯崎が気が付く。

 

磯崎 「どうよ。オレだってやるときゃあやるんだぜ?」

ルク 「ま、まあな・・・・」

磯崎 「?」

 

目線を合わせられないルクリリ。

 

磯崎 「まあいいや。気を付けて帰れよ。またトラブったりしないようにな」

 

ポンポンとルクリリの頭を軽く叩き、立ち去ろうとする磯崎。

磯崎的にはルクリリを見返せたという達成感だけがあった。

 

ルク 「あっ、ちょっ、ちょっと待った!」

 

そんな磯崎を引き留めるルクリリ。

 

磯崎 「ん?どした?」

ルク 「えっと、あの、さ__」

 

引き留めながらも用件を切り出せず、頬を赤らめるルクリリの様子に隊員たちが気が付き、まさかまさか、とひそひそ話を始める。

 

ルク 「実は私たち、まだ修理が得意じゃなくてさ。またトラブっちゃうかもしれないから、今度でいいから、その、修理のやり方とか教えてくれないかな、って」

 

顔を真っ赤にさせながらスマホを取り出すルクリリ。

 

ルク 「とりあえず、連絡取りやすいように、その、番号とか、交換とか、いい、かな・・・・」

 

後半消えそうな声で番号交換を申し出るルクリリ。

隊員たちはキャ-キャー言いながら成り行きを見守っている。

そして、磯崎は__

 

磯崎 「いや、遠慮しとく」

 

あっさりと断った。

 

ルク 「へ」

 

予想してなかった返事に間の抜けた声と表情になるルクリリ。

 

磯崎 「いやー、散々お前に言われてから、どうにか見返せないかと頑張ってたかいがあったわ。もう満足だ。あとな、オレはスタイル抜群の美女からしか番号を受け取らん主義だ!」

ルク 「はあああ!?」

 

磯崎の返答に呆れた表情に変わるルクリリ。

 

磯崎 「オレに番号交換を申し出るなら、ダージリンさんくらいのナイスバディになってから出直すんだな!あと、その性格と口遣いも直せ!苦手な知り合いに似てるから落ち着かないんだよ!・・・・あ、君たちの番号なら教えてほしいな」

 

ルクリリをスルーして隊員たちから番号を聞き出そうとする磯崎。

ギャップから隊員たちは若干引いている。

 

ルク 「ふざけんなこいつ!」

 

怒りの表情で磯崎の胸元を掴み上げる。

 

ルク 「こっちから恥を忍んでケータイ番号教えたって言うのに、何だその態度は!それが淑女に対する礼儀かっつーの!」

磯崎 「お前のどこが淑女だ!全国の淑女の皆さんに謝れ!」

ルク 「んだとぉ!?」

 

激怒するルクリリと、それに負けじと声を張る磯崎。

ギャーギャーと言い争う二人を茫然とした表情で見つめる隊員たち。

そして__それを建物の陰から見守る人影があった。

 

ペコ 「あらら、こうなってしまいましたか」

ダー 「あらあら、ふふふ」

 

ダージリンたち聖グロリアーナのメンバーたちである。

曲がり角で姿が見えなくなってから停車し、全員で成り行きを覗き見ていた。

 

アッサ「しかしダージリン、どうせ見守るのならここまで回りくどい方法をとる必要は無かったのでは?」

ダー 「山や谷のない人生などつまらないでしょう?ミルクティーにペッパーを入れるように、時には刺激が個性を引き立てるのよ」

ペコ 「この場合、水面が胡椒で埋め尽くされてしまっていますが」

ルク 「アッタマきた!二度とお前に戦車は触らせないからな!」

磯崎 「そりゃ願ったりだ!もうお前の世話しなくてよくなるからな!」

 

そんなこととは露知らず、二人はしばらくの間口喧嘩をし続けていた。




ガルパン本編ではやられ役だったルクリリさん、劇場版では名前もつき終盤まで生き残る快進撃。
さらに今年の初めに大洗にパネルが設置され、スマホゲームにも声付きで登場し、どんどん知名度が上がっている感じです。
完結編ではどんな活躍を見せてくれるのでしょうか?

磯崎のモテたいエネルギー、もう少しだけ別の方向に活かせれば見てくれる人もいるんでしょうにねえ・・・・。
ムリでしょうね、磯崎ですし。

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