侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


幼みほ→幼い頃のみほ
幼まほ→幼い頃のまほ

カエサル→カエ
エルヴィン→エル
左衛門佐→左衛門
おりょう→おりょ

ナカジマ→ナカ

ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ
アッサム→アッサ

アンチョビ→チョビ
カルパッチョ→カル
ペパロニ→ペパ

カチューシャ→カチュ
クラーラ→クラ
アリーナ→アリー

シンデョー→シン

能面ライダー般若→HN
能面ライダーひょっとこ→HT


Chapter27:決着、です!

ビーーーーッ!

ドゴオン!

バアン!

 

三日目、最終日の開始バザーが鳴ったと同時に二両の戦車____Ⅳ号とセンチュリオンが火を吹いた。

 

チャイン!

ギャリッ

 

Ⅳ号の車体をセンチュリオンの76.2mmが掠め、センチュリオンの車体側部をⅣ号の75mmが削り取る。

その反動のまま旋回し離脱を試みるⅣ号。

それに反しその場から動かないセンチュリオンが方針を回し砲身がⅣ号を追う。

 

ドゴオン!

 

即座に放たれる76.2mmだったが、Ⅳ号はそのまま別の建物の影に身を隠していく。

 

愛里寿「流石みほさん、こちらの都合を完璧に把握してる」

 

本来ならそのままま追いかけるものだが、今はそうはいかない。

 

栄子 「おい!もっと早く積み込め!」

イカ娘「やってるじやなイカ!」

 

Ⅳ号とセンチュリオンがやり合っていたすぐ側、田辺邸玄関口ではイカ娘の触手が懸命に玄関と五式の間を行ったり来たりしている。

玄関内には五式に使える砲弾、75mm砲弾が山と積まれている。

イカ娘がそれを掴んでは外にいる五式に届け、受け取った栄子たちが次々と格納している。

 

渚  「ルールでは試合時間外での砲弾の補充も禁じられてますからね」

シン 「試合が始まってから積み込みとなると、やっぱり隙が出来ちゃうわね」

鮎美 「現在、格納できたのは四十発・・・・。そろそろ最大搭載数の半分くらいまでは来ましたね」

 

ギュオオオオン!

 

しかしそれを妨げるようにエンジン音が近づいてくる。

 

鮎美 「後ろから、何か来ます・・・・!」

栄子 「くっそ、アヒルさんチームだ!おいイカ娘、積み込むのはここまでだ、早く乗れ!」

イカ娘「わ、わかったでゲソ!」

 

積み込みを断念し、乗り込むことにしたイカ娘。

 

イカ娘「じゃあ、行くでゲソ」

田辺 「はい、健闘を祈ります」

 

玄関で見届けていた田辺婦人が笑顔を向ける。

と、

 

ミカ 「やあ、ちょっといいかな」

イカ娘「む?」

 

振り向くと、そこにはミカがいた。

 

イカ娘「お主、まだいたのでゲソか」

ミカ 「うん、友人から伝言があってね。君宛てさ」

イカ娘「お主の友人?どんな内容でゲソ」

ミカ 「『仲間を信じて』だってさ」

イカ娘「どういう意味でゲソ?」

ミカ 「さあ。では、確かに伝えたよ」

 

そう言ってミカは去って行った。

 

栄子 「イカ娘!早くしろ!」

イカ娘「今行くでゲソ!」

 

そしてイカ娘は手を振りながら田辺邸を後にする。

乗り込んだ五式が見えなくなるまで、イカ娘は手を振り続けていた。

 

田辺 「道は全て示しましたわ」

藤原 「ええ。あとは彼女たち次第」

 

見届けた二人は満足そうな表情を浮かべた後、踵を返し田辺邸へと戻って行く。

 

田辺 「クッキーはいかが?とっておきが先日届いたの」

藤原 「それは僥倖。実は私もたまたま一級品のおせんべいを持ち合わせていたの」

???「おいしそうね。私もご相伴に預かれるかしら」

 

背後からの声にはっと振り返る二人。

そしてそこに立つ人物の姿を見て、にっこりと少女のような笑顔を浮かべるのだった。

 

ドォン!

バゴォーン!

 

駆ける五式を追う八九式。

しかしその間にセンチュリオンが割って入っているためうまく距離を詰められずにいる。

 

妙子 「うー、絶妙なブロック!」

あけび「どうしましょう、このままじゃ近づけませんよ」

忍  「残念だが私たちだけじゃセンチュリオンには敵わない。彼女を出し抜くためには・・・・」

典子 「今こそ『あれ』を使う時!」

 

ギャイン!

 

突如追跡していた八九式が十字路を曲がり、住宅の陰に姿を隠す。

 

愛里寿(諦めた?)

 

アヒルさんチームの意図を図ろうと警戒していると___

 

ギュイイイイン・・・・

 

建物の向こう側からフルスロットルの音が響き始めた。

その音を聞いて愛里寿が勘づく。

 

愛里寿(姿を隠して全力で追い抜くつもり?そうはさせない)

 

ギャララララララ!

 

動きを読んだ愛里寿の合図でセンチュリオンが一気に加速する。

とにかく五式に近寄らせまいと前へ前へ突き進むセンチュリオン。

その僅かな急かしに、一瞬の隙が生まれた。

 

ギュイイイイン!

 

突如、激しい履帯の回る音が真横(・・・)から響き渡った。

 

愛里寿「!?」

 

予想だにしない位置からの音に咄嗟に横を向くと、そこには

 

典子 「秘技!一人時間差攻撃ーッ!」

 

猛スピードで真っ直ぐ突撃してくる八九式の姿があった。

勢い、位置、仕掛けるタイミング共に完璧にセンチュリオンの真横を捉えている。

そこにもし57mmが命中すれば、センチュリオンとて無傷では済まない。

 

愛里寿「やるじゃない」

 

ギュルン!

 

瞬時に指示を飛ばし超信地旋回、回転で威力を殺しつつ正面装甲で耐える判断を下した。

そして次の瞬間

 

愛里寿「・・・・しまった!」

 

ドバアン!

シュポッ

 

愛里寿の呟きと同時にセンチュリオンの側面装甲(・・・・)が爆風と共に炸裂した。

 

シュポッ

 

真里 『セ、センチュリオン、撃破!島田愛里寿選手のセンチュリオンがついに沈みました!』

観客 「うおおおおっ!?」

 

大黒星に大きく揺れる観客席。

その様子を遠巻きに見ながら、千代は静かに目を閉じ扇をきゅっと握った。

 

愛里寿「・・・・」

 

キューポラに佇み、肩を落とす愛里寿。

その後ろから、静かに近づく戦車の音。

愛里寿は振り向かず、その音が自分を追い越すのをただじっと待っていた。

 

ギュラギュラギュラ・・・・

 

『それ』が愛里寿のセンチュリオンの真横を追い抜かしていく。

愛里寿はちらりと横目で見るが、その目線の先の人物はただ真っ直ぐに前を見据えていた。

 

愛里寿(みほさん・・・・)

 

みほを乗せたⅣ号は、やがてセンチュリオンをその場に残して八九式と共に去っていった。

愛里寿のセンチュリオンを仕留めたのは、あんこうチームのⅣ号だった。

 

愛里寿(あの時、八九式がイカ娘を狙うと見せかけて私を急かし、裏をかいたかのように側面を狙ってきたのも、全て仕込みだった・・・・)

 

八九式の一人時間差攻撃により側面を狙われたセンチュリオンは、側面攻撃を防ぐため超信地旋回を敢行した。

その旋回の初動を後方に潜んでいたⅣ号に合わせられ側面を撃ち抜かれたのだった。

 

愛里寿(私が不意打ちに対抗するために超信地を行うという判断の予測、判断までのラグ、そしてそれにより一瞬だけ生まれた私の後方への警戒心の低下、側面に当てる完璧なタイミングの指示。西住流に携わるようになっただけで、ここまで変わるだなんて・・・・)

愛里寿「みほさん・・・・イカ娘・・・・」

 

愛里寿は、去りゆくⅣ号の後ろ姿をいつまでも悲しげに見送っていた。

 

沙織 「愛里寿ちゃん、すごく悲しそうだったね」

優花里「はい。きっと、自分の手で西住殿を止めたかったのだと思います」

麻子 「だがそのためにこちらが手を抜いたら何にもならない」

華  「はい。そう思うからこそ、私も引き金を引いたんです」

 

センチュリオンの上に膝を抱えた体勢で座り、回収を待つ愛里寿。

そんな愛里寿の姿を、真里たちの中継ヘリがとらえ続けている。

 

真里 「・・・・勝負とは非情なもの。しかし、それでもやはり彼女には哀愁が漂いますね」

亜美 「そうですね。彼女がチームに貢献した戦果は計り知れませんが、やはり最後まで戦い抜きたかったのでしょう。あの子の姿から、無念の気持ちが感じ取られます」

真里 「ここに来て島田愛里寿選手の脱落、これは戦局にどれほどの影響を与えるとお思いですか?」

亜美 「そうですね、例えるなら____」

 

そこまで口を開くと、亜美はとある方向を見て何かに気がつく。

 

真里 「蝶野さん?」

亜美 「さて、そろそろあちらを追いましょう。いよいよ決戦の時が近そうですよ」

真里 「なんと!それは逃してはなりませんね!では場所を移します!」

 

バラバラバラバラバラ・・・・

 

亜美の提言によりヘリは五式を追うべく上空から去っていった。

 

愛里寿「・・・・」

 

ヘリが去ったことで静寂に包まれる周囲。

膝を抱えていた愛里寿は、目尻に涙を浮かべ顔をうずめる。

・・・・そのせいか、

 

ババババババババ

 

後ろから近づく音に気がつくのがかなり遅れてしまっていた。

 

愛里寿「・・・・?何の音・・・・?」

 

何か近づいてくる、と感じた愛里寿が顔を上げた瞬間、

 

ひょいっ!

 

突如愛里寿の体が何かによって浮かび上げられる。

 

愛里寿「!?」

 

ガボッ!

 

次の瞬間何かを被せられる。

 

愛里寿「!?!?」

 

ストッ

 

そして愛里寿が状況を把握する前に何かに乗せられ、

 

愛里寿「!?!?!?」

 

ババババババババ

 

愛里寿を乗せた何かは猛スピードで走り去って行った。

 

ドオーン!

バァーン!

 

逃げる五式を追う八九式とⅣ号。

逃走に専念しているだけあり、未だ被弾せず距離を保ち続けている。

 

鮎美 「・・・・センチュリオンが、愛里寿さんが・・・・」

 

鮎美が声を振り絞り愛里寿の撃破を伝える。

車内の空気は車外の騒音に反比例し静まりかえっている。

きゅっとキューポラのふちを掴むイカ娘。

 

栄子 「そっか・・・・。最後まで愛里寿ちゃんには世話になりっぱなしだったな」

渚  「彼女の頑張りを無駄にはできませんね」

シン 「でも私たちがまずい状況なのは何も変わらないわよ?周囲に仲間はおらず、追ってくるのはよりによってⅣ号と八九式」

鮎美 「相手しようとしたら、一瞬でやられちゃうかも・・・・」

イカ娘「でもこのまま逃げ続けるのも不可能でゲソ。どこかで覚悟を決めないと・・・・」

 

などと話している間にも、距離をじわじわ詰めるⅣ号たち。

 

みほ 「五式を目視。彼女らを守るものは今ならいません、決着をつけるなら今が絶好の機会です」

 

みほの宣言に合わせ、華とあけびが揃って照準器を覗く。

 

華  「・・・・」

あけび「照準、つけました!」

 

やがて二両が五色を捉える。

華がトリガーに指をかける。

 

みほ 「撃____」

 

ドカァン!

 

典子 「うわあっ!?」

 

突如Ⅳ号と八九式の間に爆発が起こり、二両が大きくその場を飛び退くように離れる。

その勢いに典子は大きく揺さぶられ、吹き飛ばされまいとキューポラにしがみついた。

 

沙織 「弾着!?」

優花里「後ろです!」

 

突然の砲撃に三両がまとめて砲撃の主に目を向ける。

砲撃が飛んできた先には___一両の、緑色の戦車がそびえていた。

 

ナオミ「すんでのところだったな」

渚  「ナオミさん!」

 

現れたのは、ナオミのファイアフライだった。

ナオミは小高い丘からあたりを見渡せる位置に陣取り、Ⅳ号や五式のの位置も目視できるポジションについていた。

 

イカ娘「ナオミ、いいところに来てくれたでゲソ!」

栄子 「これで二対二、互角に持ち込めたぞ!」

 

新たに味方が駆けつけたことに、意気揚々なイカ娘たち。

そんな彼女たちに、

 

ナオミ『いや、すまん』

 

ナオミから謝罪が来た。

 

シン 「気にすることはないわ。試合開始からこちらの位置を突き止めて駆けつけるのも大変だったのでしょ?ピンチを救ってくれたのだから、結果オーライよ」

ナオミ『いや、まさにそのことについてなのだが』

渚  「どういうことですか?」

 

ナオミの言っている意味を理解できずにいると、地響きがし始める。

 

ギュギュギュ、ギャガギャガギャガ

 

荒々しいキャタピラの音が響き渡ったかと思うと、

 

ドガァーーーン!

 

ファイアフライの後方にある家屋が吹き飛び、そこからティーガーⅡが飛び出してきた。

 

イカ娘「ティ、ティーガーⅡでゲソ!?」

栄子 「しかもなんか妙に怒ってないか!?」

 

ティーガーⅡに跨るエリカは、栄子の言う通り表情が険しい。

何だか激しく怒っているようだった。

 

ギャラギャラギャラ

 

ティーガーⅡを視認したファイアフライがいそいそとその場を離れ始めた。

しかしそれを見逃さないティーガーⅡ。

 

ドガアン!

ボゴオン!

 

脇目も振らずファイアフライに砲撃を撃ち込むティーガーⅡ。

 

エリカ「アンタね!自分から一騎討ち申し込んどいて逃げ出すとかナメてんの!?」

ナオミ「すまんが、事情が変わったんだ。相手してやらなくなった」

エリカ「だから何で上から目線なのよ!」

 

バガアン!

 

 

〜〜回想・ついさっき〜〜

 

 

三日目が開始された後、イカ娘たちの所へ向かわせないためにナオミはエリカに一騎打討ちを申し込んでいた。

エリカはその申し込みを受け入れ、先ほどまで一騎討ちを演じていたのだが____

 

ナオミ『島田愛里寿が?そうか』

 

ギャラギャラギャラ

 

センチュリオンの被撃破を知り、孤立した五式の支援のため反転、ティーガーⅡを放置して駆けつけたのだった。

 

エリカ『あっ、ちょっと!?ドコ行くつもりよ!?』

 

ギャルギャルギャルギャル

 

そして憤慨したエリカはナオミを追いかけるのだった。

 

 

〜〜回想終了〜〜

 

 

ドガアン!

バゴオン!

 

怒り狂ったエリカの砲撃によりもっと戦場はカオスになっていく。

 

イカ娘「めちゃくちゃ怒ってるでゲソ!」

シン 「これってもっと状況悪くなってない?」

渚  「でもあそこでナオミさんが来てくれなかったら終わっていたかもしれませんよ」

栄子 「そうだな。せっかく繋がったんだ、これを活かさなきゃ見せる顔がないな!」

 

ギュイン!

 

全力でアクセルをふかし、離脱を試みる五式。

しかし流石は大洗というべきか、Ⅳ号と八九式の追う勢いは衰えず、さして距離は離せていない。

 

鮎美 「二両、まだ追ってきます・・・・!」

栄子 「ちっ、さすが西住さんたちだな!」

 

しかし応戦する余裕はない。

 

イカ娘「とにかく逃げるでゲソ!」

 

背を向け、海岸沿いの道を走り続ける五式。

すると突如、

 

ブォンッ!

 

建物側からBT-42が飛び出した。

そしてその勢いのまま横からⅣ号に襲いかかる。

 

みほ 「っ!」

 

ギャリィッ!

 

みほの反応力と指示によりⅣ号は勢いよく蛇行するようにしてBT-42の突撃をかわす。

だが、

 

ガッシィーン!

 

典子 「うわっ!?」

 

八九式の方は反応しきれず、そのまま体当たりが側面に直撃、二両とも大きくきりもむように回転し動きを止める。

 

渚  「継続の方々です!」

栄子 「助かった、これで一対一だ!」

 

ギュイイイイン!

 

五式は速度を落とさず走り抜け、追うⅣ号もやがて見えなくなった。

 

典子 「うーん、やられたなぁ」

 

BT-42に激しく衝突された八九式は、被撃破には至っていないものの車体がガードレールとBT-42に挟み込まれ、全く身動き取れない状態になってしまっていた。

 

ガコンッ

 

BT-42のキューポラが開き、ミカが姿を見せる。

 

ミッコ「や、強引ですまないね」

あけび「ほんとですよ。もう少しでオーバーネットになるところでしたよ?」

忍  「まあ、いいタイミングだったよ。これ以上踏み込むと危ないところだった」

妙子 「そうだね。あとは西住隊長のことはイカちゃんたちに任せよう」

アキ 「じゃあ待つのも退屈だろうし、おやつ食べる?」

典子 「おっ、いただこうかな!」

ミカ 「サルミアッキもあげよう」

アヒル「それはいらない!」

 

かくして、アヒルさんチームと継続チームは白旗を上げないまま戦線離脱と相成るのだった。

 

バァン!

ドオン!

 

海岸沿いの道路を進みながら、激しい砲撃の応酬を続けるⅣ号と五式。

砲塔を回し後方へ威嚇の砲撃を繰り返すも、やはりⅣ号にはかすりもしない。

かたやⅣ号からの砲撃はその都度際どく、五式も必死にかわし続けるがいつ直撃してもおかしくはない。

 

麻子 「相沢さん、いい動きしている。半分勘だろうが、その都度読みが当たってる」

華  「はい。これまで以上に手強く感じますね」

 

今の五式の運用はイカ娘の触手による感覚の疎通の直結によるものが大半である。

しかしいくらイカ娘の触手による伝達が反射レベルで通達されても、それを認識して判断するのはやはり人間である栄子たち。

最終局面が近づいたこの状況下、栄子たちの感覚は過去一番鋭利になっており、張り詰めた糸のような精神状態だった。

 

栄子 「このまま逃げ続けても事態は変わらないぞ、どうすんだ!?」

イカ娘「この先は『あそこ』でゲソ!あそこなら、きっと勝機があるでゲソ!」

 

言われてシンディーが周囲を見渡すと、その風景には見覚えがあった。

 

シン 「なるほど、ここって・・・・」

イカ娘「着いたでゲソ!」

 

ブオンッ!

 

五式が道路から飛び出し、空に躍り出る。

そして、

 

ザザザザザザ!

 

着地した先の砂が激しく巻き飛ぶ。

舞い散る砂が落ち着き、最初に目に入ったのは____海の家れもん。

五式が着地を決めたのは、イカ娘たちにとって最も馴染み深い場所。

由比ヶ浜海岸だった。

 

イカ娘「思い返せば、私たちの戦いはいつも砂浜だったでゲソ」

渚  「戦車道を始めると決めたのも」

シン 「初めて戦車に乗った時も」

鮎美 「私たちがいた場所は」

栄子 「いつもここだった」

 

決意を固めた顔で振り返るイカ娘。

 

ザザアアアァ!

 

そのタイミングで同じく砂浜にⅣ号が海岸に舞い降りる。

 

みほ (さっきと目つきが違う・・・・覚悟を決めた目。ここで決めるつもりだ)

イカ娘「・・・・」

 

お互いの位置は有効射程範囲内。

しかしどちれらも動き出す気配を見せない。

お互い真っ直ぐに、視線だけがぶつかり合う。

さながら西部劇の決闘のように、相手が動きを見せるまで自らが動かない、そんな状態でお互い固まるのだった。

 

麻子 「・・・・」

栄子 「・・・・」

 

麻子と栄子が操縦桿を握りしめる。

 

華  「・・・・」

シン 「・・・・」

 

華とシンディーがトリガーに指を置く。

 

優花里「・・・・」

渚  「・・・・」

 

優花里と渚が砲弾を持ち上げる。

 

沙織 「・・・・」

鮎美 「・・・・」

 

沙織と鮎美が除き窓から周囲に目を光らす。

 

みほ 「・・・・」

イカ娘「・・・・」

 

みほが悟られないようゆっくりと片手を車内に降ろす。

イカ娘が車内で余らせていた触手をゆっくりと動かす。

 

次の瞬間

 

ドオン!

バアン!

ギュイン!

ギャリッ!

 

全く同じタイミングで砲撃が同時に放たれ、全く同じ挙動で互いの砲弾をかわす。

 

ギュイイイイイイイン!

 

みほ 「!回避行動を!」

 

そこからは各々の行動は違った。

一撃を放ってから距離をとろうとするⅣ号に対し、五式がそのまま突っ込んできたのだ。

 

ガコンッ!

 

優花里「装填、完了しました!」

 

ギギッ!

 

砲塔が回転し、ぴたりと砲口が五式を捉える。

 

みほ 「撃__退避!」

 

バアン!

 

砲撃指示を出そうとしたみほが即座に回避指示を飛ばす。

五式から放たれた砲弾がⅣ号の側面をかすめる。

 

沙織 「早っ!?もう次詰めてたの!?」

優花里「斎藤殿、あそこまで装填の腕前を・・・・!」

 

ジャコン!

 

五式の車内では排莢を手早く終えた渚がもう次の装填に取り掛かっている。

イカ娘の触手フォローがあったうえとはいえ、渚自身の装填技術も確かに上がっていた。

 

ザザアッ!

 

緊急回避をこなしたⅣ号がドリフトで車体を即座に五式に向けなおす。

体勢を整えたときには既に再度五式を捉えていた。

 

ドオン!

 

間髪入れず放たれる砲撃。

 

ギュルッ!

 

それを信地旋回でかわす。

 

ドオン!

 

返す刃で五式から放たれた砲撃も、Ⅳ号はかわして見せる。

そんな中、次々と繰り広げられる技術の応酬にただ目を奪われる人物がいた。

 

真理 「ななな、なんという攻防でしょうか!私は今、とてつもないものを見ています!」

 

上空を飛び回る実況ヘリの中から、真理が興奮しながら試合に見入っている。

 

亜美 「確かに贔屓目に見ずとも、かなり洗練されたハイレベルな試合展開ね」

 

亜美も感心した様子で戦いを見守っている。

 

真理 「ここに至るまでの皆さんの戦いももちろん素晴らしいものでした。が!それを踏まえたうえでもこの二両の闘いは別格に感じます!まさか町おこし映像のための試合でここまでのものを拝めるなんて!」

 

思わぬ僥倖に真理は感動しっぱなしでいる。

 

亜美 (確かに二両とも己の限界近くまで神経を研ぎ澄ませて戦い続けてる。・・・・でもそれはぴんと張り詰めた糸のようなもの。少しでもそこに衝撃が加われば一瞬でちぎれてしまう。そのきっかけはどちらが先かしら)

 

眼下で広がる激戦を眺めながら、亜美は冷静に分析し続けている。

 

真理 「ですが・・・・」

亜美 「どうしたの?」

真理 「決着をつけるまで見届けたいのですが、それは叶わないかもしれません」

 

真理が差し出したのは電子スコアボード。

そこには各チームの出場車両のデータと、被撃破車両を判別できるリアルタイムのデータも記されている。

そこに表示された残存車両数。

そこには

 

大洗・黒森峰連合チーム・残存車両数11

大学選抜&海の家れもんチーム・残存車両数12

 

とあった。

 

真理 「大規模戦のルールとして、残存車両が十両になった時点で試合終了です。両チームとも、残存車両数は僅か。どこかで戦闘が起きて撃破されれば、その時点で試合終了。大将戦に決着がつかずとも終わってしまいます」

 

せっかくこんな熱い戦いが繰り広げられているのに、と惜しむ真理。

 

亜美 「その心配はないんじゃないかしら」

 

そんな真理に亜美が答える。

 

真理 「どうしてですか?」

亜美 「気づかないかしら。周囲に耳を澄ませてごらんなさい」

真理 「え?」

 

言われ、真理は耳を澄ませてみる。

・・・・何も聞こえない。

細かく言い換えると、眼下の二両の戦闘音以外が聞こえてこない。

 

真理 「あれ・・・・?どうして・・・・?」

 

きょとんとする真理に、亜美はにっこりと笑みを浮かべた。

 

カル 「イカ娘さんと西住さん、戦闘を始めました」

チョビ「そうか。ついに決着をつけるつもりか」

 

小高い丘の上。

停車させたサハリアノの上に立ったカルパッチョとアンチョビが双眼鏡を覗く。

 

チョビ「島田愛里寿も落ちた。となれば覚悟を決めるしかないということか」

ペパ 「やっぱ、最後勝負つけるなら大将戦っすね。居合わせられないのが残念っす」

早苗 「うん。____それにしても」

 

早苗が振り返る。

 

ローズ「いかがでして?これが聖グロ伝統のお茶の淹れ方ですわ!」

おりょ「うむ、いけるぜよ。舶来物もなかなかどうして捨てがたい」

左衛門「陣中茶は極限の動である戦場の中で静を求める者のための代物。今こそ本懐というわけだ」

 

そう言いながら左衛門左は畳を広げお茶の準備をしている。

 

ペパ 「どっから出したんすかその畳」

カエ 「ひなちゃん、はい」

 

カエサルがカルパッチョに紅茶を手渡す。

 

カル 「ありがとうたかちゃん。・・・・おいしいね」

カエ 「うん」

 

お茶を飲みながら由比ヶ浜を見つめるカルパッチョ、そして横に座るカエサル。

 

チョビ「完璧にくつろいでるな、試合中なのに」

エル 「心配はあるまい。ほら」

 

エルヴィンが無線をアンチョビに渡す。

 

杏  『あーもしもし、チョビ子聞こえるー?』

チョビ「チョビ子言うな!・・・・そっちの具合はどうだ」

 

無線から聞こえてきたのは相手チームである杏の声だった。

 

杏  『こっちもみんなでお茶してるとこ。秘蔵の干し芋はなかなか好評だよ』

ダー 『お茶請けに合いますわね、新しい発見ですわ』

アッサ『紅茶に干し芋、ここまで相性がいいとは・・・・新たにデータに加えます』

ペコ 『見聞が深まりますね』

 

無線から語られる杏の後ろから、ダージリンたちがお茶会をしている声が聞こえてくる。

 

チョビ「どうやら、そちらも『提案』をのんでくれたようだな」

杏  『うん。みんなだいぶ考えたみたいだけどね。あちらさんはダージリンちゃんがうまく説得してくれたよ』

西  『もし、皆様方!』

 

と、そこへ西からの無線が加わる。

 

杏  『おー、西ちゃん。そっちはどーお?』

西  『はっ!此方も皆様方のご提案に添い、停戦協定を締結する並びと相成りました!』

ナカ 『今はメンテについて熱く語ってるよー』

ツチヤ『細見ちゃん、結構細いところまで理解してるんだよね。ビックリだよ』

細見 『面手とはすなわち髪結に似たり!どちらも手入れは欠かさぬからな!』

ホシノ『まさかの女子力で語るスタイル』

スズキ『まさにダークホース』

そど子『いいのかしら、試合中にこんなことがあって』

ゴモヨ『いいんじゃーない?』

パゾ美『別に風紀は乱してないよね』

そど子『なら問題なしね!私たちも大いにくつろぐわよ!』

ゴモヨ『見事に論点がずれたねぇ』

 

アンチョビの語る提案、それは杏とかわした密約で、

 

『残存車両が十両に達する前に戦闘をやめる』という内容だった。

 

チョビ「このまま戦闘が続けば、どちらかが残り十両になり試合が終わるのは明白。それはだれも望んだ形じゃあない」

ペパ 「どちらにせよ試合が終わるなら、西住さん本人に決着をつけさせたいってことっすね?」

チョビ「そういうことだ」

ペパ 「コレ、大会でやったら無気力試合とか言われて大騒ぎっすね」

チョビ「この試合がエキシビションの体だから出来ることだ。そして、全員があいつら自身による決着を望んでいる。選手も、観客も、全員が、な」

 

無線を聴きながら杏が催眠用の五円玉をぶらぷらと揺らす。

 

カル 「西住さんがこの先どうなるとしても、それを掴むのは西住さん自身に決めてもらいたいから。この試合に勝って西住さんを連れ戻すにしても、負けて西住さんが師範代に襲名しても、私たちが決着をつけてはいけないと思うの」

カエ 「・・・・そうだね。西住隊長の人生は、西住隊長自身に決めてもらわないと」

おりょ「しっかし、催眠状態で師範代継いでも後々苦労するんでは?」

左衛門「その時こそあの人たちの出番だ」

エル 「そうだな。きっかけはどうあれ道が定まったのなら、隊長のことは彼女たちが支えてくれる」

ペパ 「いいっすねー、そこまでして支えてくれる友達って。もし私がそうなったら、ドゥーチェは来てくれるっすかねー?」

チョビ「私は友達じゃないだろう」

ペパ 「えー」

 

二人のやり取りに場が和む。

 

チョビ「・・・・それに、私はそう言った心配はしていない」

ペパ 「何すか、私の実力じゃ黒森峰はムリってことっすか!」

チョビ「そっちじゃない!西住のことだ!」

 

おほん、と咳払いして改める。

 

チョビ「私は西住が勝って黒森峰に行く可能性なんて万に一つもないと思っている」

ペパ 「そりゃまたどうして?」

チョビ「考えてみろ。西住の相手をしているのはあいつら(・・・・)だぞ?」

早苗 「あー、納得!」

 

その場にいた全員が腑に落ちた顔をする。

 

チョビ「あいつらを見てるとあの大会の時を思い出す。どんなに不利な状況でも、自分たちの道を見失わず突き進んでいった、あの試合。あの姿が被って見えるあいつらなら、どんな状況だってひっくり返すさ」

 

アンチョビは、遠い目をしながら戦いの続く由比ヶ浜を見つめ続けていた。

 

バァン!

バザァッ!

 

五式の足元に砂煙が舞い上がる。

それに目を背けることなく前を見るイカ娘。

戦いが始まってから、未だ拮抗した戦いが続いていた。

 

麻子 「向こう、腕あげたな」

優花里「そうですね。夏の最後にお手合わせした時とは段違いです!」

華  「きっとこの試合の中でも成長されていますね」

沙織 「これなら、もしかしたら!」

 

一種の期待をしながらも、一切手を抜かないⅣ号の猛攻を掻い潜り食らいつく五式。

 

栄子 「ちっ、あっちも手加減なしだな!」

渚  「ですがついていけてます、このまま行ければ・・・・!」

シン 「お互い糸が張り詰めた状態ね。少しのきっかけでひっくり返るわよ、気をつけて」

鮎美 「!」

 

その時、鮎美が何かに気づく。

 

鮎美 「道路側、来ます!」

イカ娘「来る!?何がでゲソ!?」

 

反射的に道路方面に目を向けた次の瞬間____

 

ブォンッ!

 

道路から戦車が勢いよく飛び出してきた。

 

栄子 「あれは・・・・!?」

渚  「ファイアフライです!ナオミさん、援護に来てくれたんでしょうか!?」

 

飛び出してきたのはファイアフライ。

周りが停戦協定を結んでいることを知らないイカ娘たちは、援護が来たと期待を寄せる。

が、次の瞬間

 

バゴオオオオオオン!

 

飛び出したファイアフライが空中で爆裂し、そのまま波打ち際にまで吹っ飛んでいった。

 

シュポッ

 

直後ファイアフライから上がる白旗。

 

イカ娘「ナオミ!」

ナオミ『すまん、止められなかった』

シン 「えっ!?」

 

ギャラギャラギャラ・・・・

 

ファイアフライが飛び出してきた道路方面から、重厚な戦車の履帯の音が響いてくる。

そして間もなく、そこに姿を現したのは・・・・

 

みほ 「エリカさん!」

 

エリカのティーガーⅡだった。

 

チョビ「何やっとるんだあいつはー!?」

 

双眼鏡で覗きながらアンチョビが叫ぶ。

 

ねこ 「やる気マンマン絶好調だにゃ」

もも 「殺気すら感じるもも」

ぴよ 「エリカさん、もしかして無線届かなかったぴよ?」

エル 「いや、無線はフラッグ車を除く全車両に行き渡るように通達された。彼女ほどの者が聞き逃してるとは思えないな」

おりょ「つまるところ」

左衛門「あ奴は我々の計画に乗らなかった、ということだな」

 

ドガアン!

 

ティーガーⅡの88mmが火を吐くたび、五式が吹き飛びそうなところを堪えるように砂浜を駆け回る。

しかもそれに呼応して攻撃を重ねるⅣ号の攻撃も重なり、いつ直撃してもおかしくない状況だった。

 

栄子 「まずいぞ!Ⅳ号一両の相手だってキツいってのに、ティーガーまで!」

シン 「ていうか、彼女私たちを仕留めにきてるわよね?攻撃してるフリっていう風には見えないけど」

渚  「どういうことですか!?この試合に勝ったら、西住さんは黒森峰にから戻れなくなるんですよ!?」

鮎美 「・・・・もしかして、エリカさんは・・・・」

渚  「え?」

 

アッサ「負けるつもりが、無い・・・・?」

ダー 「そう思うのが自然ね。彼女は、逸見さんはこの試合に勝つことに全力を注いでいる」

ペコ 「どういうことでしょう?確かに大将戦ではどちらが勝つかは分かりませんし、西住さん側が勝利する可能性も存在します。ですが提案を無視してⅣ号と共闘すると言うことは・・・・」

杏  「逸見ちゃん、西住ちゃんを大洗に返すつもりはないみたいだね」

桃  「なんですと!?あいつ、裏切ったんですか!」

柚子 「裏切った・・・・とはちょっと違うと思うな」

桃  「え?」

ダー 「ええ。彼女もまた、みほさんのために動いている。違いはそれがどちら側の立場で動いているか、だけですわ」

 

西  「逸見殿は、黒森峰に西住殿を迎え入れる所存なのですな」

ナカ 「きっとね」

福田 「西住殿はかつて黒森峰に属し、袂を分かった間柄と聞きました。それなのに、何故・・・・?」

そど子「きっと、やり直したいんだと思う」

細見 「やり直す?」

そど子「西住隊長はかつて、黒森峰の優勝を逃した責任をとるように黒森峰から去って行った。でも、もしかしたら誰かが強く引き留めてたら、結果は違ったかもしれない」

パゾ美「十連覇を逃しちゃったきっかけだったから、みんなどう接するべきか悩んでたんだろうね」

ゴモヨ「そして、行動に移す前に隊長は黒森峰から去って行った。きっと、支えになれなかったことを後悔してた人もいたと思う」

ホシノ「その一人が逸見さんだって?」

そど子「きっと、そうね」

ツチヤ「だから、西住隊長が黒森峰に戻ってくるのなら、今度こそ支えるつもりでいるんだと思う。戻ってきた西住隊長がどう思われようと」

スズキ「私たちは西住隊長を取り戻すことしか考えていなかった。もし黒森峰に行ってしまったら、私たちには何もできなかったからな」

西  「逸見殿は、もう一つの可能性側から西住殿を支えているのですな」

 

カチュ「まったく、黙って見てられないなんてエーリカもお子ちゃまよね!」

 

黒森峰本隊を足止めするため市街地に陣取っていたカチューシャたちと清美のオイ。

無線により状況は聞かされており、エリカがフラッグ車同士の戦いにわって入ったことも知らされていた。

 

ノンナ「まさにペレストロイカ、凝り固まった思想に風穴を開けてきましたね」

カチュ「心配いらないわ、イカチューシャは絶対に勝つ。私たちはイカチューシャの勝利報告をただ待つだけよ!」

 

残存する黒森峰の本隊と戦闘を繰り広げていたプラウダ隊も、戦闘を休止させていた。

 

ノンナ「はい。ですがそれまでの間に我々が全員健在ではなかったことは残念ですね」

 

後方では唯一撃破されてしまったKV-2が白旗を上げている。

 

カチュ「まったく、あとちょっとで停戦だったのに!ニーナたちがやられて規定数に達しちゃったのよ!不名誉な節目をつけてくれたわね!」

ノンナ「帰ったら特訓ですね」

ニーナ「ひぇーーっ!」

クラ 「清美さんがた、大丈夫ですか?」

清美 「はい、なんとか耐えられました。集中されないように皆さんが注意をひいてくれたからです、ありがとうございます!」

由佳 「もう主砲もダメになってたし、危ないところでしたね」

綾乃 「でも最後まで耐えれたし、さすがオイだね」

知美 「これでイカ先輩に胸を張って報告を____」

 

バギョッ!

 

言いかけた時、オイの足元で不気味な音がした。

これまで辛うじてオイを支えていた転輪がひん曲がったのである。

 

清美 「えっ、なんの音!?」

 

ギギギギ・・・・

 

途端、大きく傾き始めるオイ。

 

由佳 「うわ、うわわわわ!」

ノンナ「いけません、車体が傾き始めています!」

アリー「このまま行ったら横転して走行不能だべな!」

カチュ「くっ!」

 

ギャララララ

 

カチューシャのT-34/76がいち早く動く。

 

ガシィンッ!

 

側面をオイにぶつけ、これ以上傾くのを阻止する。

 

清美 「カチューシャさん、すいません!」

カチュ「まったく、詰めの甘い子だわ!」

 

ギギ、ギギギ・・・・

 

しかし上手く位置を取れたとはいえT-34/76は中戦車。

次第にオイの重量を支え続けられなくなっていく。

 

カチュ「くっ、でっかいからって図に乗るんじゃないわよ!この程度の重量差、カチューシャの采配にかかれば・・・・!」

 

ギギギギ・・・・

 

しかし戦車において重量差は明確に差を現す。

傾き続けるオイは、T-34/76では支えきれないのは明白となっている。

 

ノンナ「カチューシャ、私が代わります!」

カチュ「ニエット!今動いたらオイが倒れるわ!」

 

だがしかしそのままでいても遅かれ早かれオイは支えきれなくなり崩れ落ちるのも時間の問題である。

 

カチュ「ぐぬぬぬぬ・・・・!かーべーたんが無事なら抑えきれたのに・・・・、ニーナたちがだらしないから!」

ニーナ「思わぬ飛び火しとるー!」

 

と、そんなカチューシャたちに迫る大きな影があった。

 

ノンナ「カチューシャ、マウスです!」

カチュ「!?」

 

事態を認識したのか、対峙していた黒森峰陣営からマウスが進み寄ってきていた。

 

カチュ「ちょっと!停戦協定結んだんでしょ!?何寄って来てるのよ!____まさか!?」

 

現在大学選抜&れもんチームは残り十一両。

もしオイが削れ落ちればその時点で試合終了、黒森峰大洗連合の勝ちになる。

それを狙って寄ってきたと狼狽するカチューシャの顔が険しくなる。

そして接触するほどまでに接近したマウスは__

 

ガキン、グググググ・・・・

 

オイの側面に陣取り、その重量と体躯を利用して前進を続け__

 

カチュ「ちょ、ちょっと・・・・!?」

 

T-34/76を押し出し、オイを支える役をそっくりそのままマウスが引き継いだ。

 

クラ <オイの傾きが止まりました>

 

マウスがぴったりオイに寄り添う形になり、オイは完全にマウスによって支えられ傾きが治まった。

 

知美 「やったー、倒れずに済んだよ!」

綾乃 「これなら試合終了までもちそう!」

清美 「あの、ありがとうございます!」

 

清美がマウスに向かって礼を言う。

 

黒森A「礼なんていらないわよ。これは本来なら黒森峰の意向に反る行為なんだから」

ノンナ「ですが、皆様は停戦協定に応じてくださいました。そして今もまた___」

黒森B「・・・・そうね。つまり、私たちもそういう気持ちだってこと。西住さんには、笑っていてほしいもの」

クラ <素晴らしい仲間たちですね>

カチュ「これで憂いは無くなったわ。あとは、あそこで暴れてるお馬鹿さんをどうにかできれば・・・・」

 

カチューシャたちはなおも戦いの続く由比ヶ浜海岸を見つめていた。

 

梓  「でも、やりすぎじゃないかなぁ」

 

由比ヶ浜海岸から少しだけ離れた場所から望遠鏡で眺めるウサギさんチームの面々。

 

あゆみ「そうだよね、二対一じゃイカちゃん側が不利だよ」

優季 「じゃあ私たちが味方しちゃう?『謀反だ〜っ♪』って」

桂利奈「それ、いいかも!」

あや 「いやいや、大問題になりそう」

紗季 「・・・・だいじょうぶ」

梓  「え?」

紗季 「あの人たちがいる」

 

バザザザザ!

 

Ⅳ号からの砲撃を交わしきれず五式がスピンする。

 

イカ娘「ま、まずいでゲソ!」

栄子 「くそっ、砂にハマって動けない!」

シン 「来るわよ!」

 

ティーガーⅡのアハトアハトが五式を捉える。

 

エリカ(これで、あの子は・・・・)

 

そして、ティーガーⅡが火を吹こうとした瞬間____

 

バァン!

 

ティーガーⅡの側面が爆発し車体が大きく揺れる。

 

みほ 「エリカさん!?」

エリカ「っ、誰!?」

 

咄嗟に振り向いた先には、戦車にしては小さいシルエットが一つ佇んでいる。

 

???「誰か誰かと問われれば」

???「名乗る名はなく人は呼ぶ」

???「その名は!」

 

ブォンッ!

 

直後、砂浜にそれは飛び出した。

 

HN 「全ての感情を怒りで表現する女、般若!」

HT 「全ての感情を楽で表現する女、ひょっとこ!」

 

ケッテンクラートに跨った能面ライダー般若と能面ライダーひょっとこが口上を名乗る。

 

イカ娘「の、能面ライダーでゲソ!」

栄子 「何やってんだー!?」

 

衝撃と驚愕の声がこだまする。

 

吾郎母「あらあら、いいとこで出てくるわねー、さすがヒーローだわぁー」

 

観客席でモニターを通じて見ている吾郎の母が楽しそうに声をあげる。

その映像を見て、千代はくすっと笑う。

 

千代 「あら、活き活きとしてらっしゃいますわね」

 

しほを見て悪戯っぽい視線を向ける。

 

しほ 「・・・・」

 

特に返すことなく、モニターをまっすぐ見つめるしほ。

 

千代 「いくらエキシビションと言って、少し自由奔放すぎるかもしれませんわね。戦車道の先駆けを自負されるのならば、もう少し謙虚に振る舞われても良いかと」

 

直接誰にどうと言っているわけではないが、内容的に誰に向けたものかは明らかである。

反応を押し殺すようにモニターを見つめるしほ。

モニターに映る、能面ライダーひょっとこを渋い顔で見つめている。

しかしまだ終わりではなかった。

二人の間から、小柄な人物が立ち上がる。

その頭部には、能面ではなく・・・・

 

鮎美 「・・・・黒い、ボコ?」

 

その人物は、能面の代わりに黒いボコの頭を被っていた。

黒を基調とし、口元は白く、頬の部分は赤い丸が目立つ。

 

???「私は!」

 

三人目のライダーが名乗りを上げ始める。

 

???「私は感情の全てを喜びで表現する女!」

 

そして少しふらつきながら____

 

???「能面ライダー、ボコもん!」

 

ぎこちないながらもポーズを決める。

 

吾郎母「あらかわいい!ねえちーちゃん、あの子ってもしかして!」

千代 「」

 

千代は絶句していた。

 

 

 

※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。

 

 

能面ライダーボコもん→BKM

 

 

 

イカ娘「の、能面ライダーが三人!?」

 

呆気に取られるイカ娘の元に、ケッテンクラートに乗った三人が近づく。

 

HN 「私たちが力を貸すわ」

HT 「これで二対二、不利はなくなった」

BKM「最後まで戦い抜こう!」

渚  「は、はい・・・・」

 

目が点になり、気の抜けた返事しか返せない渚。

 

栄子 「何やってんだ、あね____」

HN 「しっ」

 

言いかけた栄子に指を立てて静止する般若。

その動きは柔らかだったが、圧倒的な威圧感を感じた栄子は黙ってしまうのだった。

 

沙織 「あ、あれが無線で聞いた特別ゲスト!?」

麻子 「いろいろと個性的だな」

優花里「まさか輸送車であるケッテンクラートに戦車砲を括り付けて戦えるなんて、世界中探したって出来る人はいませんよ!?」

華  「もしかして、あの方たちは・・・・」

みほ 「・・・・」

 

みほは現れた能面ライダーたちをじっと凝視している。

 

ドォン!

 

再び打ち込まれるティーガーⅡの88mm。

素早く二両はその場から離れ回避する。

そのまま五式はⅣ号の元へ、ケッテンクラートはティーガーⅡへと向かう。

 

エリカ「こいつ、あとちょっとだったのに!」

 

ドォン!

 

憎々しげにケッテンクラートへ砲弾を撃ち込む。

しかし悪路を想定して設計されているケッテンクラートは、たとえ砂浜であろうとも難なく高軌道を描いてみせる。

 

ババババババババ

 

エリカ「くっ!運搬用の車両のくせになんて機動力よ!?」

 

卓越した般若の運転技術に翻弄されるエリカ。

さらにそれに加えて

 

BKM「一秒後。砲撃、来る」

 

ドカアン!

 

般若の真後ろに位置どったボコもんが周囲の状況を逐一般若に伝えており、そのせいで動きは二日目のものよりも精細さを増している。

 

渚  「す、凄いですね・・・・あちらは」

 

渚は能面ライダーズのテクニックに度肝を抜かれている。

 

栄子 「もうあちらさんだけで戦えばいいんじゃないか?こっちが耐えきれば勝手に倒してくれそうだし」

シン 「そうも言ってられないでしょ。私たちで決着つけなくちゃ示しがつかないわ」

渚  「飛び入りゲストに全部やってもらいました、じゃ誰も納得してくれませんでしょうし」

鮎美 「西住さんも帰ってきてくれないかも・・・・」

イカ娘「本末転倒でゲソ!」

 

バァン!

 

砲撃で牽制し、Ⅳ号と距離を取る。

 

栄子 「しかしどうする?一対一に戻ったとはいえ、別に有利なわけじゃないぞ」

渚  「むしろ腕前の差で私たちが不利ですよね」

シン 「車長、作戦はあるのかしら」

イカ娘「もちろんあるでゲソよ!」

 

シンディーの問いにイカ娘はニヤリと笑う。

 

鮎美 「さすがイカ娘さん、人では思いつかない発想があるんですね!」

 

目を輝かせて鮎美が期待の眼を寄せる。

 

渚  「それで、どんな作戦なんですか!?」

 

ザザザザザ

 

五式が大きく旋回し始める。

 

麻子 「ん」

優花里「今までにない動きですね」

沙織 「何かの作戦かな!?」

 

Ⅳ号の周囲を囲うように回り続ける五式を注意深く観察するみほ。

やがて五式に動きが見え始めた。

 

ニョキッ!×2

 

突如、五式から触手が二本飛び出した。

厳密に言うと、イカ娘の触手が二本上に伸びあがった状態である。

 

華  「あれは・・・・イカ娘さんの触手、ですね」

麻子 「五式から伸びあがった触手・・・・何だか別の生物に見えるな」

沙織 「こわっ!?」

優花里「いったい、何を・・・・?」

 

みほは慌てずじっくりっ観察する。

そして、伸びた二本の触手、その先に何かが握られているのに気が付く。

そして、それをもった触手が大きく後ろにのけぞり始める。

 

みほ 「!全速離脱!」

イカ娘「ゲッソォー!」

 

イカ娘が気合と共に振り上げた触手を振り下ろす。

 

ギュイイイイ!

 

みほの指示に即座に呼応し急加速するⅣ号。

直後、

 

ドオオオン!

 

Ⅳ号のいた場所に大きく爆発音と砂ぼこりとが上がる。

 

沙織 「爆発!?」

 

突如起こった爆発にうろたえる沙織。

後方窓を開けて状況を確認しようとする優花里。

 

優花里「榴弾です!」

沙織 「榴弾?!」

 

爆発が起きていた場所には未だ立つ砂埃と、砂浜に突き刺さったままの榴弾が残されていた。

 

イカ娘「くっ、かわされたでゲソ!」

栄子 「あれを初見で避けるのか!やっぱ西住さんハンパねえな」

渚  「イカの人、次の榴弾です!」

 

しゅるっ

 

渚に差し出された榴弾二つを触手で掴む。

それをさっきと同じように上空に持ち上がげる。

 

イカ娘「ゲッソォーッ!」

 

ブンッ!

 

そして勢いよくそれを振り下ろし、二発同時にⅣ号に向かって投げつける。

 

ドゴオン!

ドオオン!

 

すんでのところで躱し続けるⅣ号。

 

麻子 「今までにない体験だな」

沙織 「悠長!」

 

今まで幾度と砲撃に晒されてきていたが、高角度からの二砲門による攻撃の覚えは無かった。

しかも狙いをつけているのはイカ娘の触手、精度が違う。

 

栄子 「よし、押してる、今だ!」

 

ギュン!

 

回避に遷延しているⅣ号のスキを突くように五式が反転、Ⅳ号へ迫る。

 

ドゴオン!

バスッ!

 

絶えず振り下ろされる榴弾が爆発、あるいは不発で砂浜に突き刺さる。

 

ドオン!

 

それに合わせるように放たれる75mm。

付け入るスキの無い弾幕に追われっぱなしのⅣ号。

 

沙織 「マズいって!さすがにこんなに撃ち込まれてたら!」

みほ 「大丈夫です」

沙織 「えっ?」

みほ 「今は反撃に転じず、回避に専念してください。そのうち・・・・」

 

ドガアン!

ドゴオン!

バアン!

ドゴオン!

バスッ!

バアン!

ドゴオン!

ドゴオン!

バアン!

 

バアン!

 

バアン!

 

沙織 「あれ?」

 

やがて、五式から榴弾が来なくなった。

 

イカ娘「何やってるでゲソ!次の榴弾を渡さなイカ!」

渚  「弾切れですよ!」

イカ娘「えっ!?」

 

あまりにも景気よく榴弾を投げまくっていたため、あっという間に榴弾を使い切ってしまっていた。

 

栄子 「何やってんだお前!もうちっと考えて投げろよ!」

イカ娘「絶えず攻撃しなきゃ意味ないじゃなイカ!あれだけ攻めてたのにどうして仕留められなかったのでゲソ!」

シン 「えっ、何!?私のせい!?」

渚  「ああもう、こんな時に喧嘩しないでください!」

 

車内でギャーギャー言い争いを始めてしまうメンバーたち。

その和の乱れを逃さなかったⅣ号が、しっかりと狙いを定める。

しかしそれに気づかないイカ娘たち。

 

鮎美 「!」

 

唯一鮎美が狙われていることに気づくが、既に照準は定まっていた。

そしてみほが口を開く。

 

みほ 「撃____」

 

バアン!

 

Ⅳ号から放たれる直前、横から強い衝撃が走る。

 

麻子 「何だ?」

優花里「横からの被弾、能面さんたちです!」

 

ババババババババ

 

見ると、ティーガーⅡと交戦中だったはずのケッテンクラートがⅣ号に向かって突撃してきている。

 

みほ 「どうして!?エリカさんは!?」

優花里「あっ、あっちの奥にいます!砂にはまっちゃったみたいです!」

 

遥か向こうではエリカが必死に砂にはまったティーガーⅡを脱出させようと四苦八苦しているのが見える。

その隙を使ってⅣ号に攻撃を仕掛けてきた。

操作しずらいはずの砂浜の上で猛スピードで迫りくる般若の面。

 

沙織 「ぎゃー!怖い怖い怖い!」

華  「落ち着いて、沙織さん」

みほ 「っ・・・・!」

 

ギュイン!

 

旋回し、ケッテンクラートの方に向き直るⅣ号。

 

みほ 「どうして・・・・どうして邪魔をするんですか!」

 

バアン!

 

放たれた砲撃をいともたやすくかわし、なお接近するケッテンクラート。

 

麻子 「すごい操縦技術だな」

みほ 「ですが戦車砲の向きから考えて、正面には放てません!旋回に注意してください!」

 

ケッテンクラートの特徴を瞬時に掴み対応するみほ。

せまるケッテンクラートに対し、

 

ギュイイイイン!

 

同じく急接近で距離を詰めるⅣ号。

 

HN 「あら」

 

急接近に気づいた般若が旋回しようとハンドルを回す。

しかしみほの判断の方が一瞬早かったのか、

 

ガシンッ!

 

旋回しかけのケッテンクラートの側面にⅣ号が体当たりをする。

しかし距離が詰まっていたせいか跳ね飛ばすまでにはいかず、Ⅳ号の先端に押されるように横滑りしていく。

位置が近すぎてⅣ号の75mm砲は照準が合わせられず、しかしケッテンクラートも後ろを向けられないのでPak38も撃ち込めない。

 

ズザザザザザ

 

そのままケッテンクラートを押し続けるⅣ号。

ふと、みほとひょっとこの目が合う。

 

みほ 「・・・・」

HT 「・・・・」

 

まっすぐひょっとこを見つめるみほ。

面の横から流し見るようにみほを見るひょっとこ。

 

みほ 「お____」

 

みほが何かを言おうとした瞬間、

 

バゴオン!

 

Ⅳ号の目の前で爆発が起こる。

立ち上る砂煙に一瞬顔を背け、再び目線を戻した時にはケッテンクラートの姿は無かった。

 

バババババ

 

どうやら爆発直前に離脱していたらしく、既に離れた場所を走っている。

 

エリカ『ちょっと!大丈夫!?』

みほ 「エリカさん!」

 

今の爆発は、はまりから脱したエリカの放った一撃だった。

 

エリカ『あのタイミングでかわすだなんてやってくれるわね、そっちには当たらなかった?』

みほ 「うん、大丈夫だよ。・・・・あのね、エリカさん。あの人たちは、あの人は・・・・」

エリカ『・・・・わかってるわ』

みほ 「!」

エリカ『理由はどうあれ、あの人は今私たちの前にいる。それが事実。あの人が私たちと事を構えるのを選んだのなら、私たちも答えるのが道理よ』

みほ 「・・・・うん、そうだね」

 

ババババババ

 

離脱したケッテンクラートが旋回し再度接近してくる。

 

ギャギャギャギャ

 

落ち着きを取り戻した五式も迫り寄ってきている。

 

みほ 「エリカさん、そちらは____」

エリカ「わかってる。ちゃんとケリつけなさい」

 

ギュイン!

 

Ⅳ号とティガーⅡが各々の相手に向かっていく。

 

栄子 「また来るぞ!」

渚  「もう榴弾はありませんよ!」

シン 「ていうか今のでかなり使っちゃったんじゃない?」

鮎美 「たぶん、あと五発ほどかと・・・・」

栄子 「マジかよ!」

 

せっかく補充した砲弾も消費量が激しすぎたせいで弾切れ寸前。

 

イカ娘「どうしてこんなことに・・・・!」

栄子 「お前が考えなしにポイポイ投げるからだろーが!」

 

ドオン!

 

イカ娘「うわあっ!?」

 

そんな隙を見逃さないⅣ号の攻撃に慌てふためく五式。

とにもかくにも離脱を試みるが、Ⅳ号はそこまで甘くない。

距離が離れるどころかどんどん詰め寄り、五式を追い詰めていく。

 

シン 「どんどん追い込まれて行ってるわ!」

栄子 「くっ、あんだけ引っ掻き回したのに最後にはこうなるのか・・・・!」

 

初日、二日目にわたりイカ娘たちには確かな手ごたえがあった。

西住流の体現となったみほ率いる黒森峰と大洗に対して、何度もかき乱し、裏をかき、各所で勝利を収めてきたはずだった。

なのに____今、追い詰められている。

みほたちとの実力差はこれほどまでのものか、とメンバーに諦めの色が浮かび始める。

 

ドバアン!

 

イカ娘「うわあああ!」

 

ギュルルル!

 

ひときわ間近くで着弾し、逃げる勢いのままスピンしてしまう。

 

ガンッ!

 

そして何かに当たって動けなくなった。

 

イカ娘「くっ、早く逃げるでゲソ、いい的でゲソ!」

 

ギュイイイイン!

ギュイイイイン!

 

しかし体勢と砂に足を取られているせいか、履帯は空回る音を立ててばかりでどうにも動かない。

 

麻子 「・・・・勝負あり、だな」

 

麻子がため息をつく。

 

華  「はい。ですが、皆さん全力でみほさんのために戦ってくれたこと、決して忘れません」

沙織 「うん。向こうに行っても頑張るからね!」

優花里「いい試合でした!」

 

決着はついた、と今後を覚悟する面々。

そしてみほは浅く息を吸い、口を開く。

 

みほ 「撃____」

 

直後、みほの言葉と体が止まる。

五式がもたれかかっている建物を見て。

その建物は・・・・れもんだった。

その瞬間、みほの脳裏にある光景がフラッシュバックする。

 

 

~~回想~~

 

沙織 『みぽりん、どこでお昼にしようか?』

みほ 『そうだね、やっぱり浜辺に近いほうがいいから、近くの海の家に・・・・』

 

ふとみほが一軒の海の家に目をやった瞬間、動きが止まった。

 

優花里『西住殿、どうしまし__』

 

優花里も止まる。

 

沙織 『えっ、どうしたの?何が__』

 

沙織の目線の先、とある海の家の軒先に、戦車が一台停まっていた。

 

華  『戦車、ですね』

沙織 『いやいやいや、さすがにアンバランスでしょ!』

 

 

覚えがないはずの、みんなと夏に見つけたれもんの記憶。

 

 

沙織 『すいませ~ん、五人いいですか~?』

???『はーい』

 

沙織が呼ぶと、奥から店員が駆け寄る。

 

イカ娘『いらっしゃいでゲソ!海の家れもんにようこそでゲソ!』

沙織 『えっ?えっと・・・・』

イカ娘『五名様でゲソね?そこのテーブル席でいイカ?』

みほ 『は、はい』

 

 

覚えがないはずの、イカ娘が現れて驚いた記憶。

 

 

イカ娘『こっちの弾は全然当たらないし、そっちの弾は全然避けられないし、全然勝負にもならないでゲソ!』

栄子 『いい加減にしろ!こっちは素人なんだし、西住さんたちはずっと戦車道をやってきてたんだぞ!勝負になるはずもないだろが!それに本気で来いって言ったのはお前だろうが!』

イカ娘『ずるいでゲソ!そっちばっかり強くて不公平でゲソー!』

栄子 『イカ娘!!』

 

栄子が大声で叱りつけると、イカ娘の目に大粒の涙がこぼれ始める。

 

みほ 『っ・・・・!』

イカ娘『ううううーっ!戦車道なんて、やめてやるでゲソーっ!うわああああああん!』

 

イカ娘は泣きながら走り去ってしまう。

 

栄子 『ったく、ああいう所がガキなんだよ・・・・。ごめんね西住さん、あいつこういう所全然未熟でさ』

みほ 『いえ、そんなこと・・・・』

 

泣きながら去っていくイカ娘を、心配そうな目でみほは見つめていた。

 

 

覚えがないはずの、訓練で負けて拗ねてしまったイカ娘を見送った記憶。

 

 

イカ娘『みほ!絶対また来るでゲソよーーー!』

 

燃えるような夕日が沈む砂浜で、チャーチルに乗ったイカ娘が大きく手を振る。

出港した大洗女子学園艦の後部デッキから、みほたちが手を振り返している。

 

みほ 『うん!ぜったいまた来るからねー!』

 

あんこうチームをはじめ、大洗の戦車道チーム全員が手を振っている。

お互いに、はるか遠くに見えなくなるまで、手を振るのをやめなかった。

 

 

記憶にないはずの、夏の終わりのイカ娘たちとの別れ。

 

 

~~回想終了~~

 

 

瞬時にみほの脳裏にこの光景が駆け巡った瞬間____

 

みほ 「撃たないで!」

 

みほは叫んでいた。

 

ピタッ

 

トリガーを握る華の指が、ほんの僅か寸前で止まった。

 

優花里「西住、どの・・・・!?」

 

メンバー全員が驚いた顔でみほを見る。

しかし、誰よりも落ち版驚いていたのはみほ自身だった。

 

みほ 「・・・・今、私、何を・・・・?」

 

自分で自分の言った言葉が信じられず、呆然とする。

 

ガガガガガ!

 

直後に響いた音の方を向くと、脱出に成功した五式が再び走り出していた。

再度追うⅣ号。

 

みほ (・・・・今、撃てば勝負はついていた。どうして、私は止めたの?勝とうとしなかった?私、勝ちたくなかったの?____どうして?)

 

五式を追い揺れるキューポラの上で、みほは自問自答を繰り返す。

 

みほ (そもそも、どうして私は勝ちたかったんだっけ?・・・・師範代。そうだ、この試合に勝って、お母様に師範代として認めてもらうため。・・・・でも、どうして)

 

さらに自問自答を繰り返す。

 

みほ (どうして、私、師範代になりたかったんだけ・・・・?)

 

 

~~回想・再び十年前の熊本、西住邸にて・夜~~

 

 

幼まほ『みほ、これから言うことはお母様に内緒にできるか?』

幼みほ『えっ?・・・・うん!』

幼まほ『そうか。私のお願いごとは____』

 

まほは一息ついて再び口を開く。

 

幼まほ『戦車道には関係ない道を進んだ未来の自分を見てみたい』

幼みほ『えっ?』

幼まほ『学校の友達といろいろ将来の夢について話したんだ。みんなたくさんの夢やつきたい職業の話をしていた。それを聞いてるうちに』

幼みほ『うちに?』

幼まほ『羨ましくなったんだ。もし私も未来にしたいことを好きに決められたら。もし他の道を歩いたらどうなるんだろうって思った』

幼みほ『へえー、そうなんだ。・・・・あれ?それじゃあおねえちゃんは・・・・』

幼まほ『もちろん思っただけさ。お母様が戦車道のために、西住流のためにどれだけ熱心に取り組んでいるか。そのために私たちに戦車道を教えこんでいる理由もわかってる。だから今の生き方にも不満はないさ』

 

そう言って星空を見上げる。

 

幼まほ『そう。思っただけ。思っただけさ・・・・』

幼みほ『おねえちゃん・・・・』

 

心配そうな顔でまほをみつめていたみほだったが、

 

幼みほ『おねえちゃん』

 

みほがあえて陽気に語りかける。

 

幼まほ『うん?』

幼みほ『もしお願いが叶うなら、どんな将来がいい?』

 

まほが驚いた顔でみほを見る。

そして、ふっと笑顔を浮かべ、思い浮かべる未来を語った。

にっこりと笑顔になるみほ。

 

幼まほ『いいな、お母様には内緒だぞ』

 

そう言って小指を差し出すまほ。

 

幼みほ『あ・・・・うん!』

 

 

~~回想・一カ月前、みほの自宅にて~~

 

 

みほ 「えっ・・・・ドイツに強化選手として?」

まほ 『ああ。既に連盟にも話は通っている。年内にも発つ予定だ』

 

みほは寮の自室で、まほから戦車道強化選手としてドイツに向かうことを電話で聞かされた。

 

まほ 『ドイツで成果を出せば、今後の戦車道プロリーグ設立にも拍車がかかるだろう。お母様にもくれぐれもと念を押されたよ』

 

はははと笑うまほ。

 

みほ 「でも、そうしたらお姉ちゃんの夢は・・・・」

まほ 『ん?』

 

それに反して、みほの表情は暗い。

 

まほ 『・・・・みほ?どうかしたのか?』

みほ 「あっ、ううん、何でもない。おめでとうお姉ちゃん、頑張ってね」

まほ 『ああ』

 

そして通話が終わった。

ケータイを握りしめながら部屋に立ち尽くすみほ。

 

みほ(戦車道強化選手として成果を出せば、今後日本での戦車道選手としての立場は揺るがないものになる。でも、そうしたら、お姉ちゃんは・・・・)

 

みほは机の上に置いてある写真立てを見る。

そこには、幼いみほとまほの笑顔の写真が飾られていた。

 

〜〜回想・一週間前、由比ヶ浜海岸にて〜〜

 

ことねと出会い、不意の事故により催眠が成立したみほ。

うつろな目とおぼつかない足取りで歩みを進めている。

 

みほ (わたし・・・・どこにいこうとしてるんだっけ・・・・)

 

歩きながら自問自答しているみほ。

 

みほ (えっと・・・・そうだ、あのお姉さんに催眠術をかけてもらって、それで・・・・)

 

朧げながら現状を把握するみほ。

 

みほ (そうだ。もし黒森峰に今もいたらっていう催眠術で・・・・それをかけてもらって・・・・)

 

はたと足を止める。

 

みほ (もしかして私、今催眠術にかかってる?それで、黒森峰に帰ろうとしてる・・・・?)

 

みほの心中に焦りが浮かぶ。

 

みほ (いけない、戻らなきゃ。このまま黒森峰に行ったら、みんなに迷惑がかかる・・・・)

 

その場に立ち尽くす。

 

みほ (でも)

 

みほの脳裏に幼い日の、夢を語るまほを思い出す。

 

幼まほ『戦車道に関係のない未来の自分を____』

まほ 『ドイツで成果を出せば今後の戦車道プロリーグ設立にも拍車がかかるだろう』

みほ (お姉ちゃんは、このままだと____)

 

再びみほの足が動き始める。

 

みほ (そうだ。私が黒森峰に戻れば、そこで成果を出せれば、お母さんに認められれば、私が西住流を継げば、お姉ちゃんは自由になれる。お姉ちゃんは夢を叶えられる。お姉様は____)

 

そしてみほは黒森峰の学園艦に向かい歩き始めた。

 

 

〜〜回想終了〜〜

 

 

みほ (そうだ。私が師範代になれれば、お母様に認められれば、お姉様は西住流から解放される。私がこの試合に勝てば、お姉様は自由になれる!)

 

バァン!

 

鋭い砲撃が五式に再び襲いかかる。

 

みほ (私は、これまでずっとお姉様に迷惑をかけ続けていた。辛い訓練で泣いていた時も、私のせいで十連覇を逃した時も、私が戦車道から逃げた時も、そのせいで西住流の名前から逃げられなくなった時も)

 

ドォン!

 

足元ギリギリに被弾した五式の車体が一瞬浮き上がる。

 

みほ (お姉様は、ずっと私を助けてくれた。支えてくれた。でも)

 

ギャリン!

 

五式の前部装甲が大きく削られる。

 

みほ (私は何もお姉様に返せていない!恩を返せてない!だから、だから!)

みほ 「私が、お姉様に自由をあげるの!お姉様に自分の道を見つけてもらうの!だから、誰も邪魔しないで!」

 

バァァン!

バギィン!

 

栄子 「うわおおおおお!?」

 

みほの裂帛の気合とともに放たれた砲弾が、五式の前部履帯と転輪を弾き飛ばす。

激しくスピンし、砂浜にめり込む五式。

 

BKM「五式が!」

HT 「まずいな」

 

五式の事態に気がつき、フォローに回ろうとする能面ライダーズ。

しかし、

 

エリカ「させないわ!」

 

エリカのティーガーⅡが身を挺して前を塞ぎ、手出しを許さない。

 

BKM「っ・・・・!」

エリカ「みほ(・・)!決めなさい!」

みほ 「!」

 

エリカの声に意思を固めるみほ。

五式は身動き取れず、ケッテンクラートは今ならエリカが完全にブロック。

他の車両も、無線から流れる情報で今すぐ駆けつけられないのも確認できている。

だから、この一撃を阻止できるものはどこにもいない。

 

ガコンッ!

 

Ⅳ号が五式に狙いを定める。

尚も諦めない五式が砲塔を回し、擊ち返そうと気概を見せる。

しかしもう間に合わない。

 

みほ 「撃て!」

 

みほが叫んだ瞬間。

 

ガインッ!

 

Ⅳ号の側面で大きな音がした。

全く予想しなかった音と事態に固まる一同。

 

沙織 「えっ、何!?」

華  「今の音、被弾です!」

麻子 「どこからだ」

優花里「被弾箇所は、右側面装甲です!」

栄子 「何だ、誰の砲撃だ!?」

シン 「もしかして、味方が駆けつけたの!?」

渚  「でも、ここには他に味方はいませんよ!?」

 

予想しなかった砲撃に一瞬試合を忘れる一同。

 

鮎美 「私・・・・見ました」

栄子 「見たって・・・・何を?」

鮎美 「あの砲撃・・・・江の島から飛んできました」

シン 「江の島!?」

渚  「でも、江の島にはもう誰も・・・・」

 

ふるふると横に振る鮎美。

 

鮎美 「正確には・・・・江の島沖から、です!」

栄子 「江の島沖・・・・海の中!?そんなところから、誰か、が・・・・」

 

言いかけて、栄子がはっとする。

全員が江の島を見る。

 

ゴボボ・・・・ボコッ

 

砲身から漏れるわずかな空気。

 

ギギギ・・・・ガコン

 

壊れた履帯がちぎれ、転輪が海底に落ちる。

 

 

砲撃を放ったのは、水没したチャーチルだった。

 

 

江の島から由比ヶ浜海岸までは数キロある。

もちろん距離によって威力は減算されるため、砲弾が命中してもダメージは皆無、せいぜいぶつかった衝撃がわかる程度。

しかし、チャーチルの放った一撃は、確実にⅣ号の足を止めた。

海に沈み車体が損壊している状態にあるにもかかわらず、五式を守ったのである。

 

イカ娘「チャーチル・・・・!」

 

泣きそうな顔で江の島を見るイカ娘。

直後、

 

ガコンッ!

 

いち早く先に相手に砲口を合わせたのは・・・・五式だった。

 

みほ 「!」

 

一瞬だけ、我に帰るのが遅かったみほ。

 

イカ娘「撃つでゲソ!」

みほ 「うっ、撃て!」

 

バァン!

バァン!

シュポッ

シュポッ

 

直後双方が火を吹き、ほぼ同時に白旗が上がる。

上空から見守っていた亜美と真里が、ビデオ判定で審議をつけ始める。

しばらくの静寂が続き・・・・上空のヘリから真里と亜美がマイクを手に取る。

 

真里 「しょ、勝者は・・・・!」

亜美 「勝者、大学選抜&海の家れもん連合チーム!」

 

ウオオオオォォォ!

 

途端に上がる観客たちの歓声。

 

車上で祝杯をあげるカバさんチーム。

肩を組んで歓声を上げるアリクイさんチーム。

お互い抱き合い喜びを分かち合うカモさんチーム。

ガードレールに腰掛け、ペットボトルで乾杯し合うアヒルさんチームと継続チーム。

車体のいろいろなところに登りはしゃぎ回っているウサギさんチーム。

横並びに立って爽やかな笑顔を浮かべるレオポンさんチーム。

結果を聞きながらも、平静に紅茶で乾杯する聖グロメンバー。

周囲にいたメンバーを手当たり次第抱きしめ、全身で喜びを表現するサンダースチーム。

総出でカチューシャを胴上げしたり、黒森峰本体メンバーに労いの挨拶をかけたりしているプラウダチーム。

勝鬨をあげる知波単チーム。

モニターを見ながら歓喜の声をあげるバミューダトリオ。

それを見ながらふう、と一息をつくしほと千代、そしてそんな二人にまんじゅうをすすめる吾郎の母ちゃん。

 

勝敗がついた後、みほはⅣ号の上で項垂れるようにして動かなかった。

 

バババババ

 

そこへケッテンクラートに乗った能面ライダーズが駆け寄る。

 

HT 「みほ」

 

みほに声をかけながら、お面を外すひょっとこ。

その下からは、まほが顔を覗かせていた。

 

みほ 「・・・・やっぱり、お姉様だったんですね」

まほ 「・・・・ああ」

 

返事をするまほに、みほは申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

みほ 「ごめんなさいお姉様、私、わたし・・・・」

 

ふわっ

 

泣きそうになっていたみほを、まほが優しく抱き寄せる。

 

まほ 「いいんだ、わかっている。今、私は何より嬉しいんだ。お前が、こうまでして私を思ってくれている。それがわかっただけで、それで十分だ。・・・・だから、もういいんだ」

みほ 「おねえ・・・・ちゃん(・・・・・・・・)・・・・」

 

その言葉に、みほは大粒の涙を流し____目を閉じて、まほにもたれかかるように意識を失った。

そんなみほを抱きしめるまほ。

そんな二人を、居合わせた者たちはずっと見つめていた。

 

杏  「終わったね」

 

カメさんチームのヘッツァーの中では、結果に大号泣した桃をなだめる柚子で大騒ぎになっている。

そんな二人を横目に見ながら、杏は五円玉から紐を外し、自分の財布の中に放り込んだ。

 

チャリン。




ついに決着まで至ることができました。

書く時間が無かった期間と書く気力の無かった期間を経て、書ける時間と書く意欲があるうちにと一気に仕上げたため、最後に長文となってしまいました。

劇場版を始めた当初は一定のペースで書き続けられると自信を持っていましたが、時が経てば事情も変わるという点を甘く見ていた点は反省すべきところだと痛感いたしました。

いよいよ残すはエピローグのみ、最後はきちんとまとめるつもりですので、もうちょっとだけお付き合いいただければと存じます。

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