正直なところ、本編に関係こそありますが、緊張感の欠片もないので、決戦、天にも斉しき大聖者終了後に読んでくれても構いません。読まなくても、フェイが何か手を回したんだな、と思えば本編は繋がります
『にしても、ひっどい戦いですね』
ヴァルトシュタイン邸の窓から、大荒れの空模様を見上げて、ワタシはそんなことを呟く
妖精郷アヴァロン。そうであるように、とされたブリテン世界。本来の世界からは、魔術的に位相がズレた、異世界。本来は常に穏やかな気候のはずのそこにすらも、強い風が窓を叩き、黒雲が渦巻く嵐の空が顕現する
『全くもって、異次元にまで干渉してくるとか、神か何かですか』
『そうですねぇ。神でもなければ……いや、本物の神霊だったわ、アレ』
ワタシに合わせ、同じく空を見ていたピンクい髪を二つに纏めた狐耳の少女……
『それにしても、ここまで来ますか……』
ワタシの左隣、ピンク狐と逆で空を見ていた銀髪中性的イケメン狐耳ことC001が、ふと呟く
『……時間停止までは、届きませんけどね。まあ、正直此処、時の流れは割と滅茶苦茶ですし、止まっていても動きそうですが』
『流石にそれはねーです
ってか見ました?見ましたよね
『問題ありません。最初からスペックがバグってますから、彼。抑える側のルーラーのスペックも同じくバグってるので、ルーラー基準だとまだありの範疇扱いなんですよね』
『
『おや、呼びました?どんな理由のコールですか、コード:
茶化すように、ワタシは言う
何時もならばやらないこと。けれども、彼の視界を通してアーチャーとの戦いを眺める……というのは、正直心臓と頭に悪い。頭痛がする。馬鹿騒ぎも、気分転換には使える
『そういえば、そんなこの色ボケ狐には勿体無い、立派なコードネームでしたね』
くすくすと、銀髪が笑う
『うるせーです、コード:
『ワタシよりはマシですよ
コード:
……魔法少女アルトリアでもやりたかったのでしょうか』
『その点、彼はシンプルで、ネタが無くて、恵まれてますね。コード:
『そういえば、笑えるものもありましたねぇ……
ふと、ピンクの狐がそう問いかけてきた
『ええ。コード:
……意識陥穽。全く、妖怪大将を目指した割に、セコい魔術です』
『けれど、正気じゃ無いアーチャー相手ならば、十分に意味がある……訳ですねぇ』
ふむふむ、とピンクい狐は頷いた
『全く、
やれやれとばかりに、銀髪狐が紙人形をデコピンで飛ばし
『けど、案外真面目に探してましたよねぇ、あの式神』
お返しとばかりに、ピンク狐がくすくす笑う。口に手を当てて、それはもうわざとらしく
『いえ、笑ってはいけません、無能な同僚にも笑ってはいけませんとも。耐えろ、
『おや、それに負けた哀れな負け狐が、必死になって勝者を下げて居ますね
逆では?』
『うるせーです!』
ピンク狐が可愛らしく吠える
そして、ふと気が付いたように、ワタシを向いてきた
『それにしても
その問いに、呆れたようにワタシは告げた
『おや、A154に関しては、貴殿方も十分御存知だったと思うのですが、C001、C002?
ならば聞き返しましょうか。彼が居ることを知っていて、何故探して見つけられなかったのです?』
銀髪の狐が腕を組み、その綺麗な頬に右手を当てた
『おや、言われてみれば……確かに不思議な話だ
『いくら正直気に入らねーと思っていても、すっかり頭から抜けてましたねぇ……
あっ、これか』
ぽん、とピンク狐が手を打つ
『ええ。それです。意識陥穽ぬらりひょん。その事を疑問に思えない。まあ……正気のアーチャーなら、その陥穽すらぶち壊して見つけ出してた可能性はありますが、流石に破壊衝動で意識が狭まった状態ならば、陥らせるのは簡単でしょう』
ゆっくりと、ワタシは頷く
今は分かる。世界は止まっている。異次元のワタシ達とは違い、止まった世界の中に居る相手の時が、確かな歪みになっているから。けれども、そうでない時は、しっかりと疑ってかからなければ、当たり前の事として見落としてしまう。明らかな犯人だというのに
『それにしても、助けに行かないんですか?魔法少女マジカル☆エクスカリバー?』
からかうように、ピンク狐が茶化す
『誰が魔法少女ですか』
『なら、魔法メイド?マニアックですねぇ……
まあ、破れ鍋に綴じ蓋とも言いますし』
『破れ鍋で狐鍋、とでも』
『言いませんーっ!何ですか、この良妻捕まえて狐鍋とか!ハーレムかっ!ハーレムものを端から眺めるのが願望かっ!』
突然の言葉に、ピンク狐が銀髪の狐に食って掛かる
『おや、気に入りませんか?』
『まあ、蓼食う虫も好き好きとも申しますし、
ケダモノはよくても、獣は困るというか。何て言うか、ビーストNG?』
『あげませんよ』
『いりません。色々と付けて差し上げます。どうぞどうぞ、そこの陰険もお付けしますので持っていってくださいまし』
『なるほど、狐二匹をお土産ですか。お揃いのマフラーにでもしましょうか』
くすり、とワタシは笑う
『正直な話、今更此処からワタシが出ていって、何になると言うんです?』
リンクさせた視界の端で、セイバーへの攻撃を受け止めて、アサシンが言葉通り消し飛んだ。アーチャー戦なんてそんなもの。身体能力自体はサーヴァントであるから、彼よりセイバーがギリギリ上かもしれない。幾ら無茶なブーストかけようと、元が違う。けれども、戦闘経験、対応力、それらを考えると、防戦ながら対応できるのは彼とライダー二人がかりくらい。それでも、やっぱり後ろから剣気やボウガン撃つだけの仕事のアサシンやセイバーに攻撃はたまに届く
『足手まとい、庇うべき相手、そんなものを増やしたいというのは、自分は役に立てると思った馬鹿か愛があれば奇跡が起こるって信じている馬鹿くらいのものです』
『それでも助けに行かないではいられない、恋心とはままならぬもの。それが、燃える想い。ぶっちゃけ、好みのイケてる魂だったら、
というか、魂割とイケてるような……』
何だか、不穏な事をぶつぶつと、ピンク狐が呟き始める
『いや待て、考え直すのです
アレは獣、何時か誰かの為に可笑しなものに成り果てる。帰ってくるかも分からない存在を毎日待ち続け、帰ってきた事に安堵しながらせめて心の拠り所になろうとする不憫な……不遇な……ん?案外イケますねぇ……』
『何がですか』
『いえ、分からないでも……いややっぱり
『
『……確かに、どうせなら使い潰してくれても構いませんし、使い潰せるとも思いません、と彼に渡そうとしたレプリカはありますが……』
窓際に立て掛けた、鞘に入った黄金の剣に触れる
『倒せると思います?』
『無理、ですね』
ワタシの問いに、きっぱりと銀髪の狐は首を振った
『ええ、無理です。だから、どうせ足手まといになるので、行きません
大人しく眺めてますよ、此処で。彼が勝つのを』
窓際に移動させたソファーに座り直しながら、ワタシはそう告げた
流石に気に入らないと出ていく銀髪に『窓から外に出ないで下さい、木の葉が部屋まで舞い込みます』と帰って来たら言おう、なんて思いながら