Fake/startears fate   作:雨在新人

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おまけののような断章がこの話の直前に増えています。更新されてるから来たのに最新話変わってねーじゃん、という人は直前の断章を読んでください


七日目ー月を喰らう獣

『……どうだった?』

 夕暮れの中、ミラが問う

 答えは、分かっているだろうに

 

 「……駄目だ。見付からない」

 そう、俺は首を振った

 不思議と何か分かるかもしれない。見付けられるかもしれない。俺は、こんなこと知っていただろうかというものを覚えていたりしたから。或いは、一瞬閃く事がある視界を奪われた右目が、やはり反応するのではないかという期待もあった

 だが、それら全てに意味はなく、紫乃の姿は何処にも見当たらなかった

 

 苦しそうにしながらも、未だに正気を保って探しているアーチャーの分身体に出会ったのが二時間前、そこまで探して見当たらないとなると、検討もつかない。アーチャーがああだという事は、遠く離れず、森にも逃げず、何処かに居る事だけは確かだというのに

 

 「アサシンは?」

 『「ボク」も、収穫ない』

 闇に潜むものならば、と思うが、帰ってきたアサシンも首を振る

 ふと、ポケットに震えが走る

 メールだ。といっても、紫乃からではない。紫乃のも戒人のも完全に電源が落ちている事は、昼間に電話すれば位置特定で分かるのでは無いかとしてかけた際に既に確認している

 ならば、これは……と、期待せずにメールを見る

 

 差出人はフェイ、文面は……ワタシの使えるキャスターに探ってもらいましたが、分かりませんね。と、それだけ

 ある意味予想通りそのものの結末。昼間頼んでいて、実際に一度、町でフェイの元で見た銀髪イケメン野郎の扱うシキガミらしき犬を見かけたが、今まで連絡が無かった時点で分かっていた

 

 『全く、私達が此処までする理由があるのかしら、道具(マスター)?結局の所、敵でしょう?勝手に探させて消耗させれば良いのよ』

 昼間、ふらりと現れたセイバーがぼやく

 その通りだ。見捨てる方が正しい。勝手に消耗してろ、これは戦争だ。そんな考えはそれはもう正しい

 ……そんな事は有り得ない

 「日が暮れる」

 茜色の空を見上げ、呟く

 『……間に合わなかった、かな、これは』

 『「わたし」の、時間』

 分かっている二人は、そう告げる

 鈴を鳴らし、ミラの服装が変わる。シスターの修道服から、何時ものサンタクロースそのものの姿に

 アサシンが、フードを被る。意識し続けなければ、今この状態でさえ、アサシンをあの姿で認識し続けられなくなる。無数の物語の、幾多の狩人の集合であるが故に、個で無くなる

 そう。吸血鬼の物語をあまり知らぬセイバー以外にとっては、自明のタイムリミット

 『何よ、いきなり』

 「バーサーカーは夜の王と言った。吸血鬼は夜の貴族等と名乗る事が多い

 幾多の物語の中には弱点を克服したデイウォーカーが居るから、真っ昼間でも動けたのだろうが……」

 『だから、きちんと言葉にしなさいよ』

 「吸血鬼とは、夜の住人。本来は日の光で滅びる存在であり、夜の方が明らかに強い」

 『ああ、そう。それで?相手が強いから何だって……』

 ふと、セイバーの整った顔に僅かに恐怖が浮かぶ

 『まさか、とは思うのだけれども』

 「そのまさかだよ。あのアーチャーが幾ら本来は神霊、化け物そのものでも……サーヴァントのレベルにまで落ちているならば、夜の吸血鬼の力は抑えられない可能性が高い」

 『何より、ルーラー特権で命令しちゃってるからね。サーヴァントとして可笑しくない範囲で戦って、って』

 命令、間違えたかなぁ……とミラが苦笑する

 だが、間違ってはいない……はずだ。あの日、薄れる意識の中で宇宙(ソラ)に感じた圧倒的な力は、どうしようもなく止めるべきものだったのだから

 「……令呪の影響で、アレを撃たれないってだけでも、まだ救いがある

 止められる可能性がある。もしも、あのソラからの一撃を撃ってくるならば、無理だ。万一暴走した際に、絶対にアーチャーは止められない」

 ふと、脳裏に閃く一つの宝具。天斉冥動す三界覇(ブラフマーストラ・ヴァジュラ)

 あんな神の杖(ロッズ・フロム・ゴッド)、暴走したアーチャーに撃たれたら終わるに決まっている。宇宙から放たれる核並の威力の棒だなんて、どう止めろというのだ

 唯一の救いは、アレが天の理に属すること。ミラが令呪でサーヴァントの域で戦えと言っているならば、使ってこないこと。……令呪の影響すら破壊して撃ってこないとは言い切れないが、恐らく二つ目の枷、紫乃の存在があれば問題ない

 

 『そう。自分達にも被害が来ると言いたいのね』

 「その通りだ」

 見える左瞳で、セイバーを見据える

 「力を貸してくれ、セイバー」

 『嫌よ』

 と、言うも、セイバーは首を横に振る

 『と、言いたいのは山々なのだけれども

 仕方ないわね。貸し4つよ。この戦い、力を貸してあげるわ。どうせ、ゆっくり寝られないのでしょうし』

 「ああ、それで構わない」

 そんなセイバーに対し、決意を込めて頷く

 貸し4つ。基準が分からない事はあまりやりたくない。とはいえ、あのアーチャーに立ち向かうならば、当然ながらそんなことを言っていられる段階な訳がない

 アサシンならもっと安いよな……なんて考えて、少しだけ気になる

 「アサシン、お前は?」

 『アーチャーとの、戦い?』

 こくん、とアサシンは首を傾げる

 『問題ない。手伝う』

 「そうか」

 『夜闇の怪物を狩る。「我」達に共通するのは、ただそれだけ』

 けれども、ふと此方を見て

 『けど、死ぬのは痛い』

 そう、アサシンは続け

 『はんばーがー』

 そんな、やっぱり安い事を言ったのだった

 

 「……日が、落ちる」

 茜色に染まっていた空が、ふと少し暗くなる

 日没、夜の始まり。吸血鬼という化け物の時間

 結局の所、紫乃は見つからなかった。つまりは、逃げ切られた

 

 ならば、これより起こるのは……

 『っ、何よ、これ……』

 セイバーが、僅かに震える

 声なき声。怒りの咆哮

 そうとしか表現出来ないなにかが、全身を貫いた……気がした

 「ミラ」

 『……有り得ないよ、こんなの……』

 『早すぎる』

 吸血鬼と因縁のありそうな二人が、そんなことを口々に呟く

 何の事だ?と問いかけかけて……

 ふと、街の明かりを視界に止めた

 

 ……明かり?

 強烈に、嫌な予感がする

 タイムリミットは夜。だが、それ以上に……

 「……そうか。夜中じゃない、街がほぼ眠る時間じゃない

 ならば、ならば!」

 少しだけ、握った右手が震える

 何故気が付かなかった。どこまで心を悪に染めた。俺はミラ程に速くはないというのに、どうして最速の行動が出来るミラと同程度の時間に動いて間に合うはずがある

 「何の罪もない一般人が、巻き込まれかねない!」

 止まる意味はない。止まる時間など、あるはずもない。待ち構える?それこそ冗談。神秘の秘匿?知らぬ存ぜぬ勝手にしてろ

 目の前で喪われる、何の罪もない命を救わない理由になど、何れもなる訳がない。傲慢だろうが、目の前で殺されそうな無辜の誰かを、助ける力があって、目的の為に死んで貰う必要もなくて、それでも見棄てるのは……やりたくない。例え聖杯の力(過去改変)をもって全てを何時かの未来に殺すとしても

 

 『<嵐獣よ』

 ……不意に、そんな声が空から響いた

 飛び出す形のまま、足を止めずに空を見上げる

 空に登る、大きな月。それに被るように、一つの影がある

 『刻を喰らえ>』

 その瞬間、全てが灰色に静止する

 

 空にあった影が月そのものを一息に喰らったのだ。それだけ、ただそれだけで、全てが静止する。街のざわめきが、全て消え去る

 車も、水も、時計も、人も、マスターとなった魔術師やサーヴァントといった魔術に対してある程度の対応が出来る者を除く、都市の全てが、刻を奪われていた

 『なっ、これは……』

 ミラが、驚愕の表情を浮かべて空を見る

 『……オレが時を止めた』

 『どういう、話?』

 構わず、アサシンが問い掛ける

 『オレ、サーヴァント、そしてオレが魔力を込めて止めなかったもの。それ以外の全ては静止した

 何者も、時の止まったモノを破壊出来ない』

 そのアーチャーの声は、何時もより荒々しく、苦しそうで……

 『……反則ってレベルじゃないよ、これ』

 ミラがぼやく。けれども、その声は何処か安心しているようで

 『けれども、有り難うアーチャー。皆を殺さないでくれて』

 

 右目が灼熱する

 <嵐獣よ、刻を喰らえ>。知らないはずの、その宝具を認識する

 ラーマ達に夜の間だけ咲く薬草を届けるため、ハヌマーンは月を喰らうことで星の進行を止め、夜を終わらせずに間に合わないはずの距離を夜のまま走破して薬草を持ち帰ったという、その事実の再現。即ち、概念的に星の進行を止め、刻を止める対界宝具。自身が動けた事などから、魔術的な耐性で静止を防ぐことは可能なので、あまり戦闘的には意味はない宝具。実際に止まった時の中では空気すら止まっているから動けない、等の現実は、全て魔術の理に歪められ、問題ないように変わる

 ……だが、刻が止まった部分に関しては、干渉出来ない。時が止まっているのだから、何をしようとも……例え剣を振り下ろそうとも何の変化も起きない。今重要なのはそれだ

 即ち、月が喰われ、刻が止まった間は……街に被害は出ない。人は死なない

 この宝具は、恐らくはアーチャー最後の慈悲。今から吸血鬼化の衝動で暴走する自分が、人を殺さぬための抵抗

 

 よって、此処から起こるのは……

 止められなかった、戦いである

 ポケットから、金のカードを取り出す

 クラスカード、セイバー。アーチャーを止める為、力を貸せ、我が英雄

 「夢幻召喚(インストール)!」

 自身を鼓舞するように、俺はそう叫んだ


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