Fake/startears fate   作:雨在新人

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六日目ー傷痕とメイド少女

『さて、と』

 片付けを終え、フェイがまた部屋へと戻ってくる

 時間は……何時だろうか、フェイの部屋は日が当たらない為、良く分からない。時計はあったはずだが、右目で見得る場所だったからか、上手く見えない。アサシンに聞くまでもない程度の事なので、気にしないことにする。どうせそのうち鳴って時間を告げるだろうし

 

 『では、今のアナタについてでも語りましょうか』

 フェイがベッドに腰掛ける

 「……今の、俺か」

 未だ、背骨はくっつききっては居ないだろう。まあ、今の状態で戦えと言われれば、まともな戦闘は不可能。ダメだと言われたあのカードに即座に手を伸ばすことになるのだろう。そもそも獣の力という予想外の切り札が出来たのだ、使うに決まっている。警告なんぞそれがどうしたという話ではあるが

 『ええ。以降一切戦わず安静にしていたとして、希望的観測で4ヶ月。現実としては3ヶ月もしたら崩壊でまともに動けなくなっても可笑しくないですね

 最後の検査ではある程度の戦闘を見越した上で余命半年だったと思うのですが、何処でそんなに削り飛ばしたんですか』

 呆れたように、フェイが呟く

 「それはバーサーカーとの連携を前提とした話だろう?俺一人……いや、俺とセイバーで戦い抜くならば、それくらいは行く」

 『どう考えても、このペースだと最後まで持ちませんね。バカじゃないですか?アナタのその魔力は未来から借りてきたもの、寿命そのものを現在の魔力に回帰しているようなものだと説明したと思いますが

 ……何故、此処まで使い潰したんですか?バカですか?』

 責めるように、フェイの瞳が俺を覗きこむ

 ……逃れられない

 いや、そもそも逃れる必要など無い

 「……言ったはずだ、フェイ。俺はお前を裏切ると

 俺は元々無かったもの。彼が本来歩むはずだった未来を、彼に返せるならばそれで良い。ザイフリート・ヴァルトシュタインに、未来など必要無い」

 『全く、そんな妄言は最後まで持たせる算段を付けてから言って下さい

 少なくとも、ルーラーに無駄に挑んで詰むなんて、無計画にリソースを浪費しただけにしか思えませんから』

 フェイの右手が、額に触れる

 普通であれば、デコピンか何かをする状況だろうか。だが、今の俺を考えて、触れるだけに抑えてくれたのだろう

 

 『それで、何か言いたいことは?』

 責めるようなフェイの瞳は、止まらない

 「痛みの無い体とは、こういうものか」

 ふと気が付いて、そんな誤魔化し

 全魔力を修復に回している現状、俺の体は何時もとは違いまともに魔力を流していない。神経系にも、血管にも、無理矢理魔力回路として使用し続けてきた全てにまともな魔力が通らず、結果として俺としては初めて、魔力により傷ついていない肉体というものを体験していた

 『薬で痛覚が麻痺してるだけです。バカを言うのは止めてください』

 「ならば……」

 何か、と考えを巡らせ、可笑しな事に気が付く

 

 左手がある

 それは可笑しい。幾ら無理矢理魔力で強引に体を治せるとしても、ここまで早く腕が生えてくる訳もない

 「左手」

 『適当な失敗作として処理されたホムンクルスから持ってきてくっ付けました』

 「なるほ」 

 『……くっつかない』

 言い終わる前に、ずっと無言であったアサシンに、左手を少し引かれる

 あっさりと、その手は抜け落ちた。やはりというか、まともにくっついていた訳では無かったのだろう。まあ、構わない。光の鉤爪……はあの姿だからこそだとしても、骨中心の光の剣で充分フォローは可能だ。ならば俺がちょっと不便なだけで何の問題もない。この体をどれだけ使い潰そうが、俺になるなんて理不尽が無かった正しいはずの歴史の神巫雄輝には関係ないのだから

 「取れるのか」

 『……神鳴受けてわかった。死ななきゃ治らない』

 実際に死んだアサシンに言われると、どうとも返せない

 ……適当にくっつけて何とかなるレベルは越えているということか

 『……ダメ元でしたが、やはりそんな結論ですか』

 フェイが、少しだけ肩をすくめる

 

 『まあ、あまり話していても生きているのが不思議な程に無理をしたバカさ加減に呆れて気が滅入るだけなので、まだマシな未来について語るとしましょうか』

 少し何かを誤魔化すように、フェイは言った

 

 「フェイ、俺はどうして此処に居る」

 暫くして、俺はそう問いかけた

 

 アサシンは、恐らくはそれを知らないだろう。死んでいたらしいのだから

 ならば、あの状況から俺を回収する誰かが居たはずなのだ。セイバーではない、誰かが。セイバーならば、今此処に居ない理由が無い。何だかんだ近くに居てくれたセイバーの事だ、あそこから連れ出すのがどれだけ大変だったか愚痴る為に出てくるだろう

 ホムンクルス?ミラから逃げ切れるとは思わない。ならば恐らくはサーヴァント

 それがバーサーカーならば、今頃は血によって完全に眷族化なりなんなりさせられて俺の意識はとっくに無いだろうから除外、フェイとの面識が無いだろうアーチャーも同様に除外。ランサーは既に脱落しているはずなので論外。ミラ?有り得ない

 ならば、有り得るのはライダー、或いはキャスター。ヴァルトシュタインと協力しつつも、俺に関して何か含みがある者の犯行とすると、キャスターだろうか

 『そのことですか。ライダーが連れてきました』

 だが、フェイから返ってきたのは、予想とは逆の答え

 ライダー?あの騎士が俺に何を思ってそんな事をするのだろうか

 「ライダーが」

 『ええ。この顔は彼の大切な大切な王、アルトリアに良く似ていますからね、思うところでもあるのでしょう』

 言われて、納得……しないでもない。ならば少なくとも、最終的に運び込むのがフェイのところというのは可笑しくないだろう

 いや、それでも可笑しい

 「それはフェイを助ける理由にはなるだろう。だが、俺を回収する理由にはならないはずだ」

 『なりますよ、アナタが死ぬとワタシが悲しむっていう理由になら』

 「……それは、」

 ……考えるな。その意味を。惑わされるな、マーリンに。貴様に幸福など勿体無い

 「そうかもしれないな」

 だから、何も考えていないように、そう応える

 『ええ、だから気にするだけ無駄です。本当に理由を聞きたいならば、いずれ出会った時にでもライダーに聞いてくださいワタシの管轄外です』

 「とはいっても、激突しそうだからな」

 『自業自得です』

 俺を撫でる手を止めず、フェイは微笑(わら)

 『戦うなら、手伝う』

 アサシンは、そんな事を呟く

 「……戦うと、決めた訳じゃないさ」

 『それが、べたー』

 『というか、この現状で挑みかかるようならば死にたいんですか?としか言い様ありませんしね』

 「そもそも、此処に運び込んだのはライダーだろう?居場所を知っているのだから、襲撃は」

 『流石に無いと思いますよ。運んできた時に、ワタシに恩着せがましい事吐いてましたし』

 「何かを聞き出せば用済み処分……でもないのか

 だが、マスター側は」

 『大変な美酒が手に入ったとかで大興奮していてそれどころじゃないらしいですよ?

 まあ、あんな悪趣味なの、近付きたくもないので良いですけど』

 嫌悪感からか、フェイの体が震える

 「悪趣味?」

 『現代の吸血鬼、快楽血飲者ですよ』

 フェイの言葉に、アサシンが少しだけ身構えた

 

 『……ちがう』

 けれども、アサシンは首を傾げた。ハンターとしての嗅覚だろうか

 「ええ、違いますね。あれは単なる人です

 単に、血が大好物なだけで」

 ……気分が悪い。俺だって、血を飲んだことはある。ヴァルトシュタインに反旗を翻したあの日の事だ。粘性があり、決して美味しいとは思えなかったが、それ以外にまともな水分が無かったのだからと言い訳をして、ホムンクルス達の血を啜った

 だが、好んで飲みたいなどとは、どうしても思えない。そんの奴の気が知れない

 「正義が、何故そんなものと組む」

 ライダーが従う理由は簡単だ。聖杯の為

 だが、ヴァルトシュタインがそんな野郎と組む意味が分からない。世界を救う正しき正義でありつつも、吸血鬼というほぼ確実な勝利をもたらすサーヴァントを最後の聖杯戦争で召喚する事を選ぶなど多少の犠牲は仕方ないと割りきっているのだろうが、それでも……そんなものと組むのが本当に正義だとはあまり思えない

 『勝って初めて正義なんですよ』

 ……確かにそうだ。勝てない正義に意味はない

 だから、俺は悪になる。正義に挑むとはそういうことだ

 「だから、確実に勝つ為には奴すらも……

 いや、そうか」

 ふと、気がつく。正義が人を救うならば当然の事に

 「正義が人類を救うならば、その中には当然、奴も含まれて然るべき……か」

 何故、こんな当たり前にすら気が付かなかったのだ。俺が、彼以外を殺す悪魔だからか?

 救うべき人類の中には奴、すなわち外道たるライダーのマスターも含まれるのだ。恐らくランサーのマスターとはどうしようもない決裂があった為、あんなことになったのだろうが

 

 「そういえば、フェイ」

 少しして、俺は問う

 『何ですか?……ああ』

 俺の視線を辿り、フェイは納得したように呟いた

 そこにかけられているのは、豪華な鞘に入れられた一本の剣

 ミラが袋から抜き放ったのとは明らかに違う。けれども、何処か似ている黄金の剣

 『これですか?ワタシを呼ぶのに使われたものです』

 「……だよな」

 <約束された勝利の剣(エクスカリバー)>、騎士王の剣、星の聖剣。此処にあるのは、アヴァロンの魔術師☆Mが置いていったというその聖剣の模造品だ。されども星の聖剣には届かずとも、使い手を選ぶ剣。抜けるならば持っていっても良いとフェイに言われたものの、選ばれる訳もない俺にはそもそも抜けなかった。フェイは抜けるのだが、そもそも重くてまともに扱えないらしい。そういうことで、ずっと壁にかけられたまま放置されてきた剣

 

 ならば、何故ミラはあの剣を抜いた?分からない

 『どうしたんですか?』

 「……ミラが振るってきたのと、少し形状が違うな、と」

 『まったく、なんでもありですねあのルーラー』

 「分かるのか?」

 『分かりませんね。ワタシだって分からないことはあります

 それで、何ですか?今度はお守りだか折れない棒代わりだかとして持っていくんですか?』

 「使えないのに持っていっても意味がないだろ?」

 『まあ、それはそうですね』

 言って、フェイはベッドの下から細長いものを取り出す

 見覚えのある、一振りの武器

 「……剣?」

 『ええ、彼が昔から光の剣の修行の際に使っていた剣です。まあ、無いよりはマシでしょう?教会に持っていくには物騒なので、今渡そうかと』

 ……最低限、腕は動くようになっている

 「ああ、有り難う、フェイ」

 『御礼はとりあえず死なない事で示してください

 それで、これからはどうするんですか?』

 ……そんなことは決まっている

 「……とりあえず、セイバーを探すさ」

 令呪はこの手に。まだ、俺は終わってなどいない。ならば、あのセイバーと話し合わなければ


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