Fake/startears fate   作:雨在新人

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五日目断章 戦闘終結

「……まだ、だ……!」

 星の光が、悪魔を打ち砕く。光が空に消えた時に、道具(マスター)はただの一歩も前に進む事は無く

 「偽典……がはっ!」

 既に、全ては決していた

 

 電源が落ちたように、残された左目から光が消える。左手代わりの鉤爪も、翼も、その全ての残骸とも言える紅の光がふっと消失し、道具(マスター)は血の池に倒れ伏す。指が可笑しな方向にネジ曲がった右手が、尚も足掻くように虚空を掴もうとし……けれどもそれも無意味に終わり、完全に活動を停止する

 ……死んではいない。まだ契約はされたまま。全くもって、しぶとさだけは一級品と言えるだろう。何で死んでないのよあれで、と言いたい

 けれども、放っておけば流石に死ぬだろう。漸く、イライラする契約も終わる

 

 『本当に、手を出さなかったんだ』

 袋の中に輝く黄金色の剣をしまいこみながら、ルーラーが此方を見て呟く

 『当たり前じゃない』

 『助けに来たのに?』

 『来てないわよ。たまたま見かけた時に、あまりにも無粋な事をしようとしているのが見えたから、流石にどうかと思っただけ

 あの道具(マスター)が勝手に貴女に挑んで殺される分にはどうでも良いわ

 それに、死んだらあの人の夢を見られないじゃない』

 ルーラーに挑めば死ぬ。そんなことは当たり前だ。あれは特権が無くても化け物、復讐の意味を喪った私が挑みたくなるような存在じゃない。道具(マスター)があれじゃ、聖杯の入手なんて願えるものじゃないのだから。何よあの一念しか無い盲進型マスター。聖杯を望むならば応えよとか詐欺じゃないのかしら。手に入れた瞬間に自分の存在を……その聖杯戦争を無かった事にするならば、どう考えても絶対にサーヴァントに聖杯は渡らないじゃない。ふざけてるのもいい加減にして欲しい

 

 『うーん、そうかなぁ』

 言いながらも、ルーラーは血の池に近付く

 トドメを刺す気だろう。私だって……そうするのが正しいと言うのは分かる。アレは……万が一外せないリミッターでもかからない限り生かしておいてはいけない。復讐対象を喪った私は、マスターの死をもって脱落し、魔力切れで消滅するまであの人の夢でも見ながら過ごす。それで良い……はず。ルーラーを止める必要はない

 『本当に良いのかしら?』

 けれども、私はそう問いかけていた

 時間稼ぎ。本来はやる意味なんて無い

 『やりたくなんてないよ?けど……わたしは守り手で、裁定者だからね』

 『使命から?馬鹿らしいわね。それで、勝手にマスターを殺して脱落させておいて、サーヴァントにはどんな埋め合わせがあるのかしら?』

 『少しの間、現世に残れるようにするよ。その間に新たなマスターを見つけて欲しいかな』

 『明らかに、不利な案件ね、一発殴らせなさい』

 『……うん、そうだね』

 ルーラーの動きが止まり、私に向き直る

 『はい、どうぞ』

 『……開き直られたら……意味、薄いのよ!』

 喪われし財宝として、あの人の剣を取り出しての一撃。拳じゃないけれども、正直拳じゃすまない程にイライラが大きすぎるので許して欲しい

 『固いわね……』

 それでも、首ははねられない。傷はついたけれども、とても浅い

 『気が済んだ?なんて聞かないで欲しいわね。気がすむまでならば、一晩中殴るから』

 『それじゃあ、聞かないよ』

 ルーラーは血の池に向き直り……

 

 『凄く、すっごく嫌だったけれども、義理は果たしたわよ、キャスター

 今度、私の願いも叶えなさい』

 その背に向けて、嘲笑うように声を浴びせる

 私にルーラーの注意が向いている間に、あのボロ雑巾みたいな道具(マスター)は、キャスターが回収していった。あんな死にぞこないの半死でも欲しいのならば持っていけば良い。どうせ、流石に手遅れだろうし

 けれども、万一生き残ってしまっていたら……

 『っ!そう来るかぁ……』

 どこか嬉しそうに、そして悔しそうにルーラーが呟く

 『けど、探せないなんて思われちゃ……』

 ルーラーが再度雷を纏い……

 『っ!』

 森の方を振り返る

 竜巻が、遥か上空まで延びていた。向こうも大概な事をやっている

 『……流石に、あれは止めないとかなぁ』

 『ざまぁ無いわ』

 雷となって飛び去るルーラーに向けて、私はそう吐き捨てた




『それが、無意味な劣等種(ニンゲン)の存在意義というもの』
 バーサーカーは、そう告げた
 
 『そうかよ!』
 確信する。アレはオレが全力で殺すに値する存在だと
 サーヴァント基準?知らぬ存ぜぬ、ただオレは奴を滅ぼすべきだと信じた、それだけの事
 マスターの方を左の顔で見ると、やはりというか固まっている。流石に刺激が強いだろうし仕方がない。寧ろ、普通の美少女だろうに、よくぞここまでの理不尽な世界に耐えられた
 ああ、けど安心しなマスター。覚悟は決めた
 
 ……一撃で滅ぼす
 『……マスター』
 「何?アーチャー」
 『気だるくなるだろうけれども、今から言う事を繰り返してくれ』
 「うん」
 マスターはこくりと頷く。それで良い。サーヴァントみたいなものとして介入した身、流石に宝具の解放はマスターの意思と魔力無くしてはどうしようもない。自力で使うにしても本体からの魔力で補えるとはいえ、解放の鍵が無いようなもの
 『アーチャー、宝具の解放を』
 「……うん。分かった
 アーチャー、宝具を使って」
 言い切った瞬間、ふらりとマスターが倒れ、二対目の腕で受け止める。魔力不足の症状。やはりというか、流石に素人マスターじゃ、魔力がカツカツ過ぎる
 けれども、問題は無い。使えと言って貰ったのだから
 忠臣なこの身、全力で宝具を撃ってやろうじゃないか
 
 『無駄な話は終わりか?夜の王に勝てる訳が無かろうに』
 『……ラーマのあんさん、ちょっと技、借りるわ』
 (ヴァーユ)譲りの風の魔力を、盟友の棒に込める
 『其は、天をも揺るがす……』
 そして、棒を回転、渦を作り出し……
 『〈空砕く嵐鐵(ブラフマーストラ)〉!』
 棒を核として、嵐に変える
 半径数十mの嵐は、森の木々や大地、そしてバーサーカーを巻き込み……
 『猿め、ふざけた事を』
 空へと上がっていく。高く……高く
 『まだだ、もっと……地の軛を抜けた先まで!』
 気を失ったマスターを風で護り、空に浮かべる。宝具解放後、全てが終わる前に回収出来るように
 ……抜けた
 
 バーサーカーが、何かを喚く。恐らくは、貴様だとかそういうの
 『聞こえねぇなぁ』
 聞こえる訳がない。此処は既に宇宙(ソラ)。何度かオレが行ったことはある、空気の無い空間。神の風は兎も角、普通の声が通るわけもない
 『じゃあな』
 オレと同じ場所まで嵐によって飛ばされたバーサーカーを蹴り落とす
 地点は当然ながら、あの(結界)。本来の世界とは位相がずれた、あそこだけ別世界とも言える場所
 
 ああ、待ってろバーサーカー。すぐに何時かインドラに意趣返しとして叩き付けてやろうと修練した切り札(宝具)で、地獄に送ってやるから。地獄で威張ってな
 地震を起こして警告はした。ヴァルトシュタインに暮らす人々が巻き込まれるのは……逃げ遅れていなければ何とかなるだろう
 
 『さあ、見せてやろうか。宇宙(ソラ)を目指した人が遂には辿り着き、魔術に落ちた神の裁きの魔法って奴を』
 『天界より地獄まで、全てを貫くは如意金箍。その真実をご覧あれ』
 魔力は充分。地の理の範囲は抜けた
 ならば神として、本気を出す位は良いだろう
 どうせ、位相がずれた異世界だ。消し飛ばしても問題は無い
 『インドラよ、見せてやるよ
 これが、てめぇに何時か撃ち返す金剛杵!』
 流石に、詠唱は省略する。威力は抑える
 だが、それでも……バーサーカーを数千回殺すには足りるだろう
 肥大化した如意棒に、全力を注ぐ
 本来この宝具に使うのは神造兵器、大河鎮定神珍鐵よりは弱いもの。威力は本来よりも増す
 『〈天斉(ブラフマー)
 遥か宇宙(ソラ)より風を纏い打ち出すは大河鎮定神珍鐵
 『冥動す(ストラ)
 街を滅ぼす神の裁き。人の手により魔術に落ちた名は……神の杖(ロッズ・フロム・ゴッド)
 それを今……
 『三界(ヴァジュ)
 
 『……御免、流石にそれは禁止』
 だが、妨害不能な宇宙(ソラ)から放たれるはずのその一撃は、放たれる前に止められる
 『……ルーラーかよ。邪魔は』
 『天の理は、流石に反則過ぎないかな?無理矢理入ってきた時から分かってはいたけどさ、サーヴァントの域を越えてるよ』
 ルーラーの手が輝く
 『あんまり無駄遣いになるかもしれないことはしたくなったけどね
 令呪をもって命ずる。アーチャー、サーヴァントの域を越えた権能の行使を禁ずる』
 『仕方ねぇなぁ。解ったよ、天の理使わない範囲でやってやるよ』
 『案外自制してたし、言わなくても良いと思ってたけどね……』
 『悪かったな、裁定者。邪魔して』
 言って、オレはマスターの元へと戻った

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