Fake/startears fate   作:雨在新人

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五日目ー顎骨を持つ者(ハヌマーン)(多守紫乃視点)

『〈竜を語れ獅子星剣(エクスカリバーL.E.O)〉!!』

 奔流は、大丈夫だと信じる私すらも呑み込んだ

 

 『っらぁぁっ!』

 アーチャーが吠える。アーチャーが、私を抱き締める力が強くなる

 ……目が、慣れてくる

 アーチャーは、その周囲を取り囲む暴風は、ギリギリの所で魔力の奔流を押し留めていた

 『舐めんじゃ、ねぇってんだ、よぉぉっ!』

 前に構えた何かを盾に、ギリギリの均衡を保っている

 

 だけど、アーチャーの守りは強くても、前に暴風でガードしたその時よりも明らかに相手の力は強くて

 『負けて、られないんだ、此方もなぁっ!』

 ライダーだって、諦めるような素振りは欠片も無くて

 小石に当たり、バランスを崩しかける

 一歩も動いてないのに?有り得ない

 ……違う。押し込まれているだけ。アーチャーが宝具を押し留めきれず、後方に押し出されているからだ

 体勢を崩されれば……均衡が崩れれば、そこで終わり。私もアーチャーも死ぬ。そして、ここは森の中、魔力の余波で倒れた木々等、バランスを崩しかねないものは沢山ある。だから

 「負けないで、アーチャー!」

 『任せろ、って事よ!』

 アーチャーが吠える

 それに対抗するかのように、獅子も吠える

 

 「ぁ痛っ」

 頬に痛みが走る。暴風の障壁を抜けて、魔力の奔流が私にまで届いたのかもしれない

 僅かに獅子の方を頭だけで振り返る

 暴風は大分弱まり、纏わせていたらしい風は吹き散らされ……アーチャーが一本の太い棒を増やした両の手で握っているのが良く見えた

 

 『今更、かよぉぉっ!』

 アーチャーが吠える。暴風が、再度膨れ上がる

 『まだ、まだぁっ!』

 ライダーも吠える

 そして……

 

 光が消え、夜の闇が戻ってきた時……

 『チェックメイトだ、アーチャー』

 三対目のアーチャーの腕には、棘だらけの赤い槍が握られていた

 「アーチャー!?」

 背中にまでは穂先は届いていない。けれども、その槍から生えた棘はしっかりとアーチャーの手に刺さっている

 『気にすんなマスター、無粋な野郎がお出ましただけだ』

 力尽きたように、アーチャーの姿が元に戻る。私を抱き締めていた両の腕も消滅し、棒を握る二本だけに戻ってしまう。同時に、握る腕が消えた槍が地に落ち……、血となって染み込んでいった

 

 『……耐える、か。化け物め

 だが……』

 『けふっ!』

 アーチャーが血を吐く

 「どうして……」

 『アーチャーのマスター。槌で殴られようとも盾で防げば無傷か?大剣の一撃も鎧で防げば無傷か?』

 「……」

 『違う。防ごうが、衝撃は通る。倒しきれずとも、内部に十分なダメージは通せたようだな』

 ライダーの持つ剣が閉じる

 彼と獅子の後ろには……数m……いやそれ以上の抉れた土地と、無数の亀裂が残っている。更には……

 もう一人、男が立っている。アーチャーの背後。2mはあろうかという大男なアーチャーと比べても決して音っていないだろう化け物が

 怖い……あれが……バーサーカー

 『トドメだけ貰いに来たってか?セコくて嫌になるぜ、バーサーカー』

 『抜かせ、(さる)(わたし)は夜の王。出てきただけでも有り難いと思え』

 『ああ、そうだな』

 『だが、その腕……すぐに今生の別れとなるが』

 バーサーカーに言われ、アーチャーの腕を見る

 大きく傷ついた腕は消えたはずなのに、あの腕は傷付いていなかったはずなのに、朱色が見える

 『ある程度リンクするってのは困りもんだな。だが……』

 突然、アーチャーが棒を振るう。柱のように巨大化した棒は大地に突き刺さり、小規模な地震すら感じさせる。その下敷きになって、透明な何かが潰れた

 

 「えっ?」

 気が付くと、私は長さ10mはあろうかという棒の上に居た

 『チェックメイトってのは戴けねぇ

 確かに連れて高速移動は負担が大きすぎるんで、マスターを守るためにゃあそこで正面から宝具を受けるしか無かったし、槍も受けたが……』

 再度、アーチャーが変貌する

 『その程度で詰みたぁ笑わせる』

 顔の一つは、館があるだろう方向を見据え、一つはバーサーカーを睨み……

 『知らざぁ言って聞かせやしょう

 悪魔も炎も乗り越えて、三界制覇なんのその

 太陽を目指し、月を食らい、不死身を得て遠き世界より人を見守るも、あんさんに似た嘆き、流石に見たからにゃ放置は出来ぬと』

 暴風が、再度吹き荒れる

 『サーヴァント、ハヌマーン

 盟友、斉天大聖孫悟空の姿を借りて、此処に弓兵を騙って現世へと帰還せりってな!』

 アーチャーは、高らかにそう歌い上げた

 

 「ハヌ、マーン……?」

 ぼんやりとした私の呟きに、私の方を向く顔が苦笑する

 『まあ、ここらじゃ流石にマイナーかねぇ』

 確かにそう。私はハヌマーンなんて聞いたことがない

 だけど、ライダーには、分かったようだ

 『……まさかとは思っていたが……』

 『お褒めにあずかり光栄ってな』

 『後は任せ帰るぞ、友よ』

 獅子が相槌を打つように吠える

 『逃がすと思って?』

 『思っているさ。全く、何がヴァルトシュタイン勝利を規定付けられた聖杯戦争なんだか』

 ライダーの姿がかき消える

 いや、普通に走り去っただけだ。音が遠ざかっていく

 アーチャーが、私を再度抱えて棒から降りる

 一瞬にして棒は鉄棒に使われるくらいのサイズに戻る

 

 『ふん、猿が粋がるではないか』

 けれども、バーサーカーは堪えない

 『ああ、悪いけど、あれしきの血でオレが落ちると思われちゃあ、ラーマのあんさんに笑われらぁ

 あれしきで落ちるわきゃねぇだろ?』

 ……言われて、思い出す。バーサーカー(吸血鬼)の血を与えられたら吸血鬼になる、という話を

 

 けれども、それはアーチャーに関しては安心らしい

 『ふん。(わたし)に従わん無価値の存在は知っているとも』

 『言っとくが、マスターへの攻撃はしっかりと防いだぜ?マスター操ろうってのも無意味だ』

 『貴様等、(わたし)に平伏す程度の力しか……』

 『……うっせぇよ』

 アーチャーの手が閃く

 何度も、姿を隠して矢だと嘯いていた、延びる棒の一撃

 けど、けれども

 『人を殺す力など、効く道理が無かろう』

 アーチャーの攻撃は、無意味にバーサーカーの腹に当たり、止まってしまう

 『なら、よっ!』

 アーチャーは棒を一回転、そのまま半径1mは軽く越えるだろう大きさにして、頭上から振り下ろす!

 『無意味人一人殺す程度で、王に傷を付けようなどと』

 けれども、バーサーカーは無傷。アーチャーの一撃は、やっぱりバーサーカーの頭に当たった瞬間に、意味を失って止まってしまう

 ……なんなんだろう、これ

 分からない

 

 『……てめぇ』

 低い声で、アーチャーが言う

 『その力……どれだけ食った』

 「どういうことなの、アーチャー?」

 『魂を食らい、溜め込んだ。何百の魂の集合。それが今のバーサーカー』

 『何百だと?馬鹿を抜かすか』

 「魂を集合させると?」

 『数百人いる内の一人を殺した程度じゃ、その集団にとっては些細な事。つまり、人間一人を殺す程度の攻撃は、バーサーカーにとってその程度のかすり傷にしかならない攻撃だと置き換えられてしまう』

 「沢山の人を殺せる攻撃しか効かないって事?」

 『正解だ、マスター。飲み込みが速いな』

 『然り。夜の王を滅ぼしたいならば……』

 『なら、死ねやぁっ!』

 一瞬、アーチャーの姿が消える

 大地が、揺れる。アーチャーが、上空から……風を纏わせ、巨大な……それこそビルくらいにまでなった如意棒を叩き付けたのだ

 『貴、様ぁっ!王を傷付けんとするか!』

 棒の下から、血色のコウモリが数匹飛び出し、バーサーカーの姿に戻……ったかと思うと、私に向けて槍を

 『遅えんだ、よぉっ!』

 神速一閃。今度こそアーチャーが雷のような速度で伸ばした棒がバーサーカーに刺さり……

 私へと伸ばされた血の槍が届く前に、半径3m程まで巨大化した棒が、突き刺していたバーサーカーの体を粉々に膨れ砕いた

 

 「アーチャー!」

 『油断すんな、マスター!』

 アーチャーが私の近くに着地する

 「違う、ちょっとやりす……」

 『……よもや、魔力を込めて、強引に(わたし)を一度殺すとはな……』

 ゆらり、とバーサーカーが立ち上がる

 『ふざけてんな。んで、数百だと、の後は何だって?』

 『知りたいか?王の元に集う魂は7659……いや、もう7658か』

 『あれか、無数の魂の集合だから大規模殺戮必須で、かつ殺しても食った別の魂一つが死ぬだけか?』

 『それが、王の特権というもの。無意味な劣等種(ニンゲン)の存在意義だ』

 当たり前のように、バーサーカーは答えた


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