アーチャーの一本の腕から、血が流れ落ちた
『……筋を斬れたかどうか。この剣は神殺しの剣ではないとはいえ、流石に硬い』
下がりながら、ライダーは呟く
「大丈夫なの、アーチャー?」
『弓が壊れちまったくらいかねぇ』
見ると、あの日ルーラーに砕かれたように、再びアーチャーの弓が折れていた。これでは、弓なんて撃てないだろう
『気にすんな、マスター。オレの宝具は矢の方なんでな、弓なんぞ幾らでも替えが効く』
『……そもそも、本当にそれが矢なのか、怪しいが』
ライダーが、口を挟んできた
『三面六臂、ああ全く、ようやっと見えてきた
あまりに反則過ぎると元々思考から廃していたのが間違いだったようだな!確かに、貴様は神だ』
『お褒めにあずかり光悦至極ってな。流石に、もう大体は分かるかねぇ、オレが中華の大英雄だってのは』
アーチャーが、口の端をあげ、そう呟いた
「中華の……大英雄?」
それが、アーチャーの真名……なのだろうか
『……やはり、阿修羅ではないのか』
僅かに、ライダーの気が緩む。けれど、アーチャーは何もしない。会話に乗るように、仕掛けずに立っている
……阿修羅?
そういえば、アーチャーだから仕方ない、としていたけれども……落ち着いてみると、三面六臂、なんて凄い姿だ
「アーチャー、貴方は……」
もしも、そうだとしたら……私でも知っているかもしれない、その名は……
『マスター、このおサルに任せとけって。もうちょっとだけ、真名を言うのはお預けな』
私の意を汲んだように、アーチャーは何度目かのおサル、という一人称で応えた。と、いうことは、私の推測を肯定してくれたのだろう
ならば、私にだって流石に分かる。アーチャーの真名、纏った纏われた、どちらかは分からないが、マスターにも分かると言っていたその名、中華の大英雄の名は……
斉天大聖、孫悟空。何で私なんかに力を貸してくれているかなんて全然分からない、大妖怪だった
同時に、アーチャーの言っていた矢にも思い至るけれど……
「というかアーチャー、あれって矢なの?」
思わず聞いてしまう。彼が思った通り孫悟空ならば、矢だって言い張っていたのは、とても有名な伸びる棒なんだろう。なん、だろうけれど……アレを弓矢の矢だなんて言い張る胆力に呆れる。全然矢じゃない。というか、投げでも対応出来るとか何とか、会ったその日にアーチャーは、言っていたけれども、弓で撃つのも何も変わってなんか無いじゃん
『矢だってことにしてくれや、マスター!あれは矢みたいなもんだって言い張って、わざわざアーチャーになったんだからよ!』
「言い張ったって自覚はあるんだ……」
『なあに、主君も通った道さ!』
アーチャーは笑う。この現状でも、何も気にしていないように
「本当に、大丈夫なの、アーチャー?」
改めて問う。本当に彼ならば、きっと大丈夫な気がするけれど
『大丈夫さ、ライダーとやりあっているうちに、バーサーカー引きずり出したかったけどな』
『会話に乗ったのは、そんな理由か』
『そんな理由さ、オレの目当てはバーサーカーなんで、ね』
『舐められたものだ』
『舐めてなんかねぇさ。あの騎士王の騎士、普通にサーヴァントとして見れば、そりゃ恐ろしい奴だろうよ
……ただよ、お前、本気出しちゃいねぇだろ?』
そのアーチャーの問いに、ライダーは息を吐いた
『これでも、割と本気だ』
『っても、苦戦すりゃバーサーカー出てくんじゃねぇかって、そんな事思ってたのは確かだろ?』
『それは真実だ。使われるのは、気分よくはない』
ロウ、とライダーの横で獅子も吠える
『まっ、そりゃそうだわな』
「じゃあ、二人して……」
『それは無い』
けれど、私の疑問は却下される
『オレはマスターに負荷掛からない範囲であいつを倒そうとしてたし、向こうだって、本気でオレを倒しに掛かるべきか見極めてたと思うぜ?
バーサーカー引きずり出してえなってのは、あくまでも思考の偶然の一致って奴だ。示し会わせてなんかねぇよ』
アーチャーが、私を抱え直す。咄嗟に抱き止めた形から、お姫様抱っこ、と呼べる形に
「……アーチャー?」
『んで、覚悟は決まったかよ、獅子の騎士?』
アーチャーが、挑発するように問う
『……バーサーカーが来ないというならば、仕方はあるまい』
地を蹴り、ライダーが横に控える獅子に飛び乗る
ライオンライダー。ライダーという言葉に違わない、けれども今まで見せたことの無い姿
獅子が、その四肢で大地を踏み締める。地面から、爆発的な何か……魔力が吹き上がる
『竜の血肉を食べて、竜にでもなったか?』
『ああ、そうだな……』
アーチャーが左足で小石を蹴りあげ、左手で投げる
けれども、それは吹き上がる魔力の壁に弾かれてしまう。それだけの魔力、さっきアーチャーが見せた暴風みたいな防御を、チャージだけでやっているのだろうか
……怖い。けれども、アーチャーが其処に居る。それだけで、大丈夫って気がする
『マスター』
「何、アーチャー?」
『もしかしたら、マスターに魔力、使わせちまうかもしれねぇや』
アーチャーの口から漏れるのは、あくまでもそんな事。アーチャーはあんな魔力の奔流にだって、負けることなんか考えてない
……私には勿体ないくらいに、彼は……
『……その剣の
竜の口が開くように。三度、剣の外殻が開く。けれども、そこから溢れる魔力は、今までを明らかに越えていて……
『地に吠え、海を裂き、空に牙剥いた
限界の果てを語れ、其は偽物なれど友と紡ぐ……』
獅子が、吠える。空気が、吠える
『あの日憧れた、星の聖剣!』
爆発が、起こった。私には、そうとしか思えなかった
いや、冷静に考えたら分かる。ライダーが、その獅子が、溢れ出す魔力と共に、突撃してきたのだと。アーチャーに守られた頭では理解できる
けれども、向かってくるその魔力光は、星の聖剣という単語も間違ってないと思える奔流は、決して大丈夫だなんて
『〈
そんなこと、信じきれなくて……
『
奔流は、大丈夫だと信じる私すらも呑み込んだ