Fake/startears fate   作:雨在新人

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五日目ー戦いの嚆矢(多守紫乃視点)

『本当に良いのかよ、マスター』

 アーチャーが、そんな事を聞いてくる

 

 確かに、アーチャーの言いたいことだって分かる。此処はヴァルトシュタインの森、敵地のど真ん中。かーくん……じゃないあのセイバーのマスターが、危険だと言っていたあの場所だから。けど

 「大丈夫だよ、アーチャー」

 私はそう言う。怖くない……訳がない。怖い。一人だったら逃げ出してる

 けど、大丈夫

 『まあ、そう言うならば止めやしないけどよ』

 「アーチャーを信じてるからね」

 『美少女にそう言われちゃ、全力を出すしかないかねぇ、こりゃ

 まあ、任せなマスター、このアーチャー、マスターが居りゃ遅れは取らねぇさ』

 ぽん、とアーチャーが私の肩を叩く

 ……恵まれていると、それだけで感じる。かーくんは居ないけど、それはとても辛いけど。それでも、アーチャーが居るから、私は進める……進もうと思える。逃げずに、立ち向かおうなんて、私らしくない勇気を出せる。明確な希望を持って

 

 『それで、マスター。森に入るってのは分かったが、目的は何だ?』

 アーチャーが問う

 そういえば、アーチャーは森に入るまで、そりゃマスターの意思を通すのがサーヴァントってもんさ、と何も言わず付いてきた

 「私だって、自分から何かしないと、と思ったから……ね」

 『なるほどなるほど。群がってきたホムンクルス討伐、厄介に絡まれまくりのあいつらのフォロー、確かにマスターが自分から率先してやったことって多くねぇや』

 アーチャーが手を打つ

 『んで、オレなら出来そうで、あいつらにゃちょっと厳しそうな事を買って出たって話か。健気だねぇ』

 アーチャーが、そして立ち止まる

 

 『って事で、マスターお望みのお客様って奴だ』

 森の奥から現れるのは、やはりというか……獅子を連れた騎士、ライダー

 『……随分と、早い決戦か』

 『いやいや、まだ偵察とか、そんなつもりだぜ、一応な

 っても、マスターが此処で決着付けるって言うならば』

 アーチャーが弓を何処かから取りだし、構える。予備とかあったらしい

 『オレは此処で全てを叩き潰しても構わねぇぜ』

 『私とて、負ける気は無い』

 呼応し、ライダーが無骨な剣を抜き放つ

 『んで、バーサーカーとかキャスターとか、御供は居ねぇのかよ』

 『キャスターは別件だ。バーサーカーは……正直、自分のフィールドでならば戦ってほしいものだがな』

 『苦労してんのねぇ、そっちも』

 アーチャーが軽口を叩く。緊張はない

 『致し方ない事。王の為、私はこの道を……』

 ライダーが、引き抜いた剣を中段に構える

 『往くと決めた!』

 その袈裟懸けの一撃が、今宵の戦闘の号砲だった

 

 『っと、あぶねぇあぶねぇ。マスターは……下がってろってのも無理な話か』

 アーチャーの右手が、その指が、しっかりと剣を受け止めている。圧倒的にも見える、戦力差

 だけれども、そんなものが本気……であるとは言えない

 『起動!』

 言葉と共に、剣が開く。外殻とも言える第一の刀身が割れ、中から……魔力が溢れ出す

 『白刃取りしていては、避けようも無い』

 『んじゃあ、離せば良いはな』

 『そこまで、甘くはない!』

 離す事を見越しての踏み込み。距離を離す事を許さず、魔力が爆発する

 

 『そりゃ、そうだ!』

 アーチャーもそんな事は分かっている。アーチャーの取った手は、寧ろ逆

 矢切。接近し、不可視の矢を振るう選択

 

 『ぐっ』

 見えない矢に頬を殴打され、ライダーが呻く

 『っと、こっちも無傷とは……』

 だが、アーチャーも至近距離で魔力爆発を受ける。クロスカウンター……という感じだろうか

 『マスター、右へ!』

 アーチャーの声に従い、跳ぶ

 「痛っ」

 何かに弾き飛ばされるが、直後に受け止められる

 「有り難う、アーチャー」

 弾き飛ばしたのは、当然というか、ライダーの獅子。受け止めてくれたのはアーチャーだ

 

 『1対2たあ、卑怯なこって。セイバー側が言ってた有利ってのも分かるわ』

 『それが、私の強みというもの』

 ライダーが剣を構え直す。その傍らに、獅子が侍る

 獅子を連れた騎士。その強みは、私という足手まとい(マスター)を護らなければならないアーチャーにとって、相当なものだった

 

 けれども、アーチャーは焦らない。寧ろ、不敵に笑う

 『んじゃあ、ちょっくら本領、やりますか!』

 突然、アーチャーの纏う空気が変わった……気がした

 アーチャーが、弓を構える

 ……有り得ない。私を抱き止めているはずなのに

 

 『遠からんものは音に聞け、近くば寄って眼にも見よ

 これぞ、戦の真髄、三面六臂ってな!』

 アーチャーの肩から、更に二対の腕が生えていた。合計で6本の腕。私を抱えるのに2本、弓矢を構えるのに2本、そして、何かの為に残された2本

 「アーチャー、それって……」

 『オレの戦闘形態って奴さ。本当はこれ以上あんだけどな、サーヴァントとしてならば、これが限界だろ?』

 『……変化か。全くもって厄介な』

 『化け物化け物言われるんで、本当は余り使いたくは無いんだがねぇ……』

 弓弦が震える

 『マスターを一人で護るためにゃ、しょうがねぇって話よ!』

 大地が抉れる。ついさっきまでライダーが居た場所に、大きなクレーターが出来上がる

 

 『規格外っていうのは、これだから……』

 ライダーは、咄嗟に獅子に首根っこを捕まれて待避させられていたのか、傷はない

 『ガウェインを相手にしている気分だ』

 ロウ、と獅子が吠える

 『だが、これでも円卓の端くれ、負ける気は……無い!』

 ライダーが、一歩踏み込む

 当然のような縮地、ただの一歩でアーチャーの後ろに回り込んだライダーの剣がアーチャーの首を狙って突き込まれる!

 『っと!』

 アーチャーはその剣を、背に回した2本の腕で受け止め

 『さよならだ!』

 正面から来る獅子を見えない矢で撃ち抜く。脳天から一直線に射抜かれた獅子は、衝撃に耐えきれずに破裂し……

 『甘いのは、そちらだ!』

 違う。アーチャーが射殺したのはライダーの獅子ではなく、獅子の姿の合成獣。本物の獅子は……

 『ル、ガァァァァ!』

 その合成獣を盾に魔力を貯め、突撃する……!

 

 『我が王の騎士を甘く見るな、名も知らぬ神!』

 弓を持った三対めの手で、アーチャーはギリギリで獅子を押し止める

 だが、ゆっくりと、その手は押し込まれていく。私を抱えているから、私が邪魔をして、両手で受け止められないのだ

 更に、ライダーの剣から漏れてくる魔力が、アーチャーの手を焼いていく

 『マスターを護りながらってのは、無理があったようだな』

 ライダーの圧力が、更に上がる

 ギリギリと、剣が押し込まれ……

 

 『……そっちこそ、舐めんじゃねぇ!』

 暴風が、吹き荒れた

 私とアーチャーを護るように壁として吹き上がった暴風が、迫る剣も獅子も、全てを遠ざけ……

 『それを……待っていた!』

 渾身の力と魔力を込めて、アーチャーの手から解放された剣が振り下ろされる

 

 暴風が晴れた時……

 『先ずは、一本』

 『ちっ、中々にやるじゃねぇか』

 「アーチャー、大丈夫なの?」

 アーチャーの一本の腕から、血が流れ落ちた


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