時は、アーチャーの召喚まで遡る
『……あの様な事になるというのか。まさか、これ程早くラン……いやアーチャーか、あれは。兎に角、新たなサーヴァントをこの目で確認する事になるとは』
霊子を撒き散らしながら降り立つ
「……良かったのか、ライダー」
『……何がだ?』
「あの少女の事だ」
『全てのサーヴァントが出揃い、情勢を見極めるまで互いに不干渉。同盟は結ばないが、同時に敵対もしない。同盟の要請への返事はその後だ
それがヴァルトシュタインの当主様相手に叩きつけて来た私達の結論だったはずだマスター。彼らの為にあの少女をわざわざ殺してやる義理はない』
ドゥンケル……を自称する、得体の知れない魔術師。第三魔法を追い求め、聖杯を望んだという私の召喚者
どうにも、私は彼が気に入らない
「そうではないライダー。貴様は騎士なのだろう。誉れあるかの……いや失敬、末席に入れたか入れなかったかも定かでは無い哀れな存在だったのだったか?とにかく騎士ならば、か弱い女性を助けに入るものではなかったのかと」
くつくつと、
『……喧嘩を売るというならば、他の6騎を倒した後、聖杯の前で利子付けて全て返そう』
「はは!それは良いなライダー!此方も、願ったり叶ったりだ!」
『……気に入らねぇ』
言葉が乱れる。母に言われ矯正した、最低限騎士染みた言葉使いが少しだけ壊れかける
この身は騎士。この男は、私を召喚した魔術師。王に仕えるように、サーヴァントとして従うべきもの
そんなことは分かっている。あの
兎も角、大半の魔術師と呼ばれる外道相手であれば、サーヴァントとしての礼を尽くす事は出来るだろう
だが、このマスターはどうにも、理性の面ではなく生理的に気に入らない。総合的に見れば二番目だが、本能的なものだけであればこれほどの吐き気を感じた事はない
「そうだ。此方も聖杯を手にするのにサーヴァントを従え勝ち抜く事が必須でないならば、誰が好き好んでサーヴァントなんてものと契約するか」
……気が乱れる
私にも聖杯を望む理由はある。そんなだから、この地での召喚に応じた
だが、その際に『黙れ』という契約内容を突き付けて無かったことを後悔する
「それで、結局はどうなのだライダー?騎士様は少女を救う気はなかったのか?」
『騎士道なんてものは、守れる時に守れば良い努力目標に過ぎない。騎士道精神?立派だとも……それを貫ける存在であれば
あれ程の力は無い私にとって、騎士道を貫く事は自殺に当たる。騎士道を唱える気は無いさ』
この地は、既に聖杯戦争の舞台だ。常識が通じない敵が少なくとも6騎、存在するのだから
不測の事態は何時でも起こり得る。例えば、あの
ならば、下手な干渉は私への毒だ
だから少女を助ける義理はない
そう、結論付ける
視線の先には、ヴァルトシュタインの
アレを排除し、少女を助けるのであれば、私にも出来る。失敗する要素は無いだろう。気にすることは、それがヴァルトシュタインに対する不干渉宣言への背信に当たるという事だが、あの少女はあの家にとってそこまで重要でも無い存在だ。説得できなくはない。
だが、今少女を守るあのアーチャーと対峙し、勝利を掴み取れるか、と聞かれると……
自信はない。かの騎士王の騎士として、このヴァルトシュタイン家の森で戦ったとしても、だ
そんな相手に対し、騎士道を守りながら正々堂々とした戦いをしろ、等と言われたら……まあ、無理だと答えて命令を無視するしかない
「ライダー、アー」
『断る。あのアーチャーに無策で仕掛ける気にはならない』
何かを命じきられる前に切り捨て、私はその場を離れるため、踵を返す
この身はサーヴァント。命じられれば……あまり、逆らうことはしたくはない
背後の契約者に動きは無い。令呪使用の気配が無いということは、この場で本気でアーチャーと戦わせる気は無いようだ
ならば既に此処に用は無い。そもそも、情報が得られるかと残っていただけで、元々この地へ来た理由は当に終わっている
友に向けて、何匹か狩って帰るべきか
此方を窺う、離し飼いにされたヴァルトシュタインの