Fake/startears fate   作:雨在新人

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五日目断章 魔術師の行動

『……どうしたものかしら』

 手を握ったりと、謎の見たくもない三流恋愛劇のようなものを見ながら、私は呟く

 遠くで恋愛劇を繰り広げている道具(マスター)、いやザイフリートの元に戻る気は無い。あんな中途半端で心を乱す相手の元になど戻ってやらない

 ジークフリートではないのに、彼には遠く及ばないのに、ふとした時に、どこか彼に近い何かを感じさせる……そんなかすかな希望なんて要らない。あの人のように見せかけて、致命的にズレた事を言う、彼は決してジークフリートではないのだから。あの人の最後の言葉が、あんな仕方ないなんて諦めな訳がないのに

 

 けれども、完全に見捨てきることは、やはりそれも出来なくて。結局私は、彼からそこまで離れていない所で、ずっと彼を眺めている

 この時間を、あの人の夢に使いたい気持ちは当然。あんな道具(マスター)そこまで見たい訳じゃないし、あの人に夢でも会えるならばそれを越えるやるべき事なんて無い

 けれどもしていない理由。一つには、見捨てきれないこと

 そしてもう一つは……そもそも夢見る為のお金が無い事

 

 ……忘れていた。お金が無ければホテルには泊まれない。ならば眠れないし、夢を見られもしない。あの道具(マスター)なら寝れるなんて幸福だとか何だとかふざけた事を言って野宿するかもしれないし、堂々と公園で昼寝してた事もあったけれども、私には似合わないしやりたくもない

 

 だから、私は此処でどうするかを考えていて……

 「おー、近くで見ると割と美少女」

 近付いてくる気配に、至近距離まで気がつかなかった

 

 いや、そうじゃない。彼らは気配を消していた。私の至らなさとか関係ないはず……

 『割と?失礼じゃないかしら?』

 そんな、動揺を隠して、私は近付いてきた男女へと返した

 片方は見覚えがある少女、キャスター。つまり、あの……失礼な事を言ったちょっとチャラそうな男はそのマスターだろう

 「いやー、悪い!キャスターが可愛すぎてさ」

 男がキャスターの頭に手を載せ……ようとして身をかわされた。情けない

 

 『それで、そんな失礼な事を言いに来たのかしら?』

 「いや、キャスターが、そろそろ仕掛ける時だって言うから来ただけさ

 マスターは?」

 くいっとキャスターに彼の袖が引かれる

 「ん?喧嘩別れ?だから交渉の余地がある?

 そっかーそういうこと」

 勝手に一人で彼が手を叩く。とりあえず、あのマスターが馬鹿っぽい事だけは良く分かった

 そして、この時点で既に道具(マスター)との決裂を理解していてやって来るキャスターの不気味さも。流石にアーチャーをそうそう誤魔化せるとは思わないが、彼を誤魔化してあの場面を見ていたならば理解は出来るが……

 そうでなければ、未来を見でもしなければ分からない事だろうに

 

 警戒を少しだけ強める。もしも本当にキャスターが未来を見るならば、そんな眼を持つならば……そんなことは有り得ないとは思うけれども、彼女は冠位の資格を持つ事になる

 

 『それで、何用かしら?』

 あくまでも平静を振る舞い、尋ねる

 「キャスターが、要らないならあのマスターくれってさ」

 ここに至っても、喋るのはマスター側。代弁しているのかそうでないのかは良く分からない

 『道具(マスター)をくれ?意味が分からないわね』

 「いやー、単純に、キャスターのものにすることを手伝ってくれれば良いぜ?

 油断させてくれりゃ、後は前みたいにキャスターがちょちょいっとして終わりだ」

 『そもそも、何であんなの欲しい何て思うのかしら?』

 分からない。アレに魅力を感じるなんて馬鹿じゃないだろうか。正直馬鹿に近付いている気もするけれど、私は馬鹿じゃないしこれ以上馬鹿になる気だって無い

 

 『……守って……くれる……最強の……人形(マスター)

 風に掻き消えそうな微かな声が聞こえた、気がした

 『はい?』

 最強のマスター?何を言っているのだろうこのキャスター

 『そもそも、貴方のマスターはそこのでしょう?』

 「強くないから変えたい、らしいぜ?まったくワガママさんなんだから」

 あっけからんと、男は答える。自分が捨てられようとしていることを、何ら不安にも疑問にも思ってないかのように

 『……確かに、マスターとしての強さは破格ね、彼。あくまでもマスターとしてならば

 それで?手にしたらあなたは捨てられるのじゃないかしら、今のマスターさん?』

 「ん?オレは美少女に捨てられるなら本望だぜ?」

 『……そう』

 理解した。彼は恐らく人形。キャスターにより自我を改変された、キャスターに都合の良いマスター

 そして、より強いマスターが欲しくて、あの道具(マスター)に眼を付けた……という感じだろうか

 

 『悪趣味ね。都合の良いお人形を作っておままごと?何にしても人を見る目が無いわ』

 けれども、それは悪手。あんな心の奥底にどんな化け物飼ってるかもしれない、あそこまで混沌・悪だと断言出来る気狂いを、マスターなんかに選ぶ奴の気がしれない。私だって、ランサーを殺すためには彼と契約しなければいけないという事実が無ければお断りしていた所だ

 

 『……言うではないか』

 キャスターの雰囲気が変わる

 『へえ、そちらが素かしら?小動物ぶりでもしていたの?』

 『我とてあまり出たくはなかったが』

 『ってことは、貴方が纏われてる何かって事かしら。随分と偉そうじゃない』

 『偉いのだからな、我は!』

 あまり無い胸をキャスターが張る

 『何様?』

 『聞いて驚け?神様じゃ!』

 『あっそう。私はあのジークフリートの妻よ。三流神なんか目じゃないわね』

 何故ならば、ジークフリートは世界で一番素敵な人だから

 『三流神じゃと?このアテ……』

 キャスターが固まる

 『話術は巧みなようじゃな』

 『墓穴じゃない。アテなんとかさん』

 

 『……そこまで』

 唐突に聞こえたのは、この場に居ないはずの声

 『……何用か、アサシン』

 キャスターが問う

 『希望から』

 アサシンから、何かが投げられる。それは……

 数枚の紙幣が入った財布

 『お金無いの、辛いって』

 『馬鹿じゃない』

 今更だ

 『伝言。「……俺は、共に戦ってくれると信じる」』

 

 『言うじゃない、道具(マスター)

 言って、キャスターに向き直る

 が、

 『……興が削がれたわ。我が出ていられる時間も長くは無いしな

 言葉は変わらぬ。あのマスターを寄越せ。隙を作れ。以上じゃ、帰るぞ』

 その言葉を残し、キャスターは人形のマスターを連れて去っていったのだった


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