Fake/startears fate   作:雨在新人

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四日目ー日暮の対話

『んで?昼間言ってたように、何か分かったのか?』

 夜に入ろうかという時間、ふらりと現れた男……アーチャーは、そう言った

 昼間、俺はアーチャー達とは会っていないはずだ

 ということは……恐らくはアサシン。姿が見えなかった際に接触した……という事だろうか

 

 「とりあえず、マスター側の痕跡までは消せ無いだろうと探してはみたが……」

 大人しく話す。アーチャーと敵対する気は更々無い。最期のあの時までは

 『それは、オレもやってるぜ。マスターは普通に見て回ってるだけだろうが』

 「見て回っているだけか」

 「そんなことしてたの、アーチャー?」

 当然の判断。多守紫乃という少女に、そんな警戒は似合わない

 何処かから神巫雄輝にたどり着いたのは……驚きの行動力ではあるが、更に全てを敵かと疑う……なんてのは厳しいだろう

 『役に立たないわね、貴方の』

 「セイバー、それ以上言うな」

 不機嫌そうなセイバーを止める

 昼間の中華で多少機嫌は直っただろうが、まだまだ信頼関係とは程遠いのだろう。まあ、俺を信頼するのは難しいだろうし、理解はできる。重要なのは、裏切らないこと。それだけだ。彼女とて、俺にジークフリートの代わりなど勤まらないと分かっているはずなのだから

 

 「それで、収穫は?」

 『先に話すのが筋じゃないか?』

 アーチャーに言われる。立場は向こうが上。当たり前の話

 「ライダーのマスターについては完全に不明。恐らくは森の中だ」

 『森の中は見てねぇのか?』

 「アレは魔窟だ。見るわけが無いだろう?

 正義の本拠地等、準備も無く入り込むものではない」

 『オレとしては、少なくとも地理知ってるお前が見てこいって話なんだがねぇ』

 「殺す気か」

 『そこまでかっての。お前でも勝てる魔獣モドキ程度じゃねぇかよ彼処に居るの』

 「恐ろしいのはそこじゃない

 ヴァルトシュタインの領域、彼処はブリテンであり、竜脈の集積点であり、正義の本拠地であるということ

 入れば、その時点で侵入がバレる。自身の城に入り込む悪を見落とす正義の味方が居るか?」

 『んで、ライダーが出てくると?』

 「騎士王のブリテンの地、という最大級の補正を受けた、な」

 『そんな所に行かせようというならば、付いてくるべきよね、アーチャー?』

 『成程ねぇ。そりゃ無理だわ

 で、アサシンなら行けるって線はねぇのかよ』

 アーチャーが問う。あくまでも付いてくるだけのアサシンを信じきる訳にもいかず、放置していた作戦だが……

 『無理。「俺達」の存在は、絶対にバーサーカーにバレる』

 アサシンは首を振った

 「アサシンちゃん。それはどうして?」

 『「余」とバーサーカー、……あんちのみー?』

 アサシンが首をかしげる

 ……自分でも言い切れないのだろうか

 「二律背反(アンチノミー)?」

 『そう。二律背反(にりつはいはん)

 アサシンはそう言った

 表情は……相変わらず読めない。ポーカーフェイスではない。単純に、見ているはずなのに、認識出来ない。明らかに嘘だと思える顔……いや、本当にそうだろうか?真剣な表情ではないか?と混乱してならない

 

 ただ、アサシンの言う事が本当ならば……。もしも、吸血鬼であるバーサーカーと対になるならば、アサシンの真名は……或いは

 エイブラハム・ヴァン・ヘルシング

 

 

 ……いや、無いな、と自分の考えを振り払う

 確かに彼であれば、ある種二律背反ではあるだろう。彼はドラキュラ伯爵を滅ぼす者であり、同時にドラキュラ伯爵の実在を証明する者であるのだから

 だが、このアサシンと、彼は重ならないだろう。そもそも、女なのか男なのか分からないレベルな訳がない

 というか、後世にサンタクロースの印象が強くなったろうミラ……ルーラーはまだ分かる気がするが、ヘルシング教授が女だったってどんな理屈だそれは、有り得ない

 

 「つまり、どれだけ隠れようがバーサーカーに見つかる、と?」

 だから、真名に関しては聞かず、話を続ける

 『そもそも、「ボク」に気配遮断、無い』

 「そうか、認識阻害

 其処に居ることだけは解る……か」

 考えてみればアサシンが居ることは、俺にも普通に分かる。分からないのは、それが何者か。その姿を見続けていない限り、それがアサシンだと上手く認識し続けられない

 それは確かに凶悪な効果ではある。視界から消えた瞬間に、其処に居るアサシンをアサシンとして警戒する心に隙が生じるのだから

 だが、言ってしまえば侵入者全てに対して仕掛ける気のヴァルトシュタイン相手ならば、その認識阻害は意味を為さない。突然現れた多守紫乃に対しても俺を差し向けた事からもそれは分かる

 そして……バーサーカーと対ならば何より、あっさりバレるのだろう。俺がセイバーの真名を最初から知っていたように……そしてセイバーが、見た瞬間にランサーの真名を看破出来たように

 

 『……で、オレはキャスターのマスター見てみた訳だが』

 アーチャーは話を続ける

 『全くもって手掛かりねぇわ。蒸発でもしてんのかって感じ』

 アーチャーは御手上げ、とばかりのジェスチャーをする

 「……ランサーのマスターであれば、当たりは付いた」

 だが、それでも良い。そこまで期待はしていない

 『ん?』

 そして、言うのは……とあるホテルで見かけた名前

 「ファッケル・ザントシュタイン。ヴァルトシュタインの……遠縁だったか」

 『魔術師か?』

 「自分が根源に到達する事しか考えていない、正義が解らぬ阿呆……、とヴァルトシュタインは思っていたはずだ」

 『……典型的なクズね』

 「セイバー、典型的な魔術師といってやれ」

 魔術師はほぼ総てクズだ、俺を含めて。というのは間違いではない

 ないのだが、一応魔術の素養はある紫乃も、俺の元になった神巫雄輝も、そしてヴァルトシュタインも、クズではない

 「魔術師全てが、クズな訳はない

 クズであるならば、ヴァルトシュタインは……世界を救おう等と思うわけがない」

 

 『けっ、オレは信じられねぇな』

 アーチャーが吐き捨てる

 「アーチャー!」

 『止めんなよマスター。ちょっと言わせろ』

 「……言いたい事があるなら」

 『なあお前、本当にあいつらを正義だって思ってんのか?』

 アーチャーの瞳が、俺を射抜く

 「ああ。彼らは正義だ」

 『分かるかよそんなもん

 ヴァルトシュタインは、マスターの大切なものを奪った!そうだろう、神巫雄輝!』

 それは

 俺にとって……

 「えっと、アー」

 紫乃が何かを言いかける

 だが、それより前に……

 「彼は死んだ!そうでなければ、どうしてこんな外道(おれ)が居る意味がある!」

 思わず、手が出ていた

 何も考えていない、反射的な右ストレート

 『道具(マスター)、みっともないわね』

 当然、アーチャーには軽く左手で手首を捕まれ、止められる

 「黙ってくれ、セイバー」

 不満を(こぼ)すセイバーを押し留める

 『何だってんだ?なぁ、セイバーのマスター?』

 

 「俺を神巫雄輝と呼ぶな

 そこまで、彼を愚弄するな」

 怒りを込めて、俺はそう言った

 『違うのかよ、神巫』

 「違うに決まっている。彼は、俺のような悪であるものか」

 「貴方は」

 おずおずと、紫乃が口を開く

 「……本当に、かーくんじゃ……ない、の?」

 それは……

 

 「……どうして分からない!俺が……俺なんかが彼であるものか!彼程に、価値(いみ)がある存在であるものか!

 なのに……だというのに!想いあっていた君すら、彼を分かってやらないのか!」

 

 『……道具(マスター)。これ以上みっともなく騒ぐならば、斬るわよ』

 セイバーに冷たく言われ、僅かに頭を冷やす

 ……確かに、言い過ぎた気がする

 幾ら、俺なんかと彼を同一視されたとしても、そこまで彼を侮辱されたとしても。多守紫乃だって、どうしても彼に会いたくて、こんな……本来最初からヴァルトシュタインが勝つに決まっている聖杯戦争にまで参加したのだ。希望に近いものが見えたならば、それにすがりたくなってしまっても仕方がない

 ……俺自身が、みっともなく様々なものにしがみついている弱さを持つのだから、紫乃がそうでも否定する権利はない

 

 「すまなかった」

 大人しく、頭を下げる

 『何か言いたいのかよ』

 『「ボク」が、大体の事は言った

 貴方は、誰でもないと』

 ……一瞬、考えを纏める

 「ああ、そうだな。アサシンの言う通りだ

 俺は何者でもない。神巫雄輝の魂に成り代わって、神巫雄輝の体を勝手に使っている、俺自身何なのか良く分かってない魂だとも

 だから俺は決めた。彼の為に、俺が奪ってしまった全ての為に、正義を滅ぼし聖杯を奪い悪を為す者、『ザイフリート・ヴァルトシュタイン』であろうと

 

 ……だから俺はザイフリート、ザイフリート・ヴァルトシュタインだ。それ以外の何でもない」

 「かーくんは……」

 「死んだ

 死んでいなければ、魂がバラバラになっていなければ、どうして俺なんかが、彼の体を奪える?」

 「……会え、ないの?」

 「彼の魂の欠片が、奇跡的に集まって復元されない限りな」

 「……そん、な」

 『だから、聖杯を目指すんだ、か?』

 「ああそうだ。目指す未来への道標を示すヴァルトシュタインの杯。それをもってすれば、彼へ全てを還す道は拓けるだろうよ」

 『難儀な奴だねぇ……』

 アーチャーが、腕を離して言う

 「難儀だろうが関係ない。それが、それだけが、俺が彼に何かを還してやれるたった一つの道だから」

 『例え、ルーラーを初めとした全てが立ちはだかっても、か?』

 「世界の全てがそれを許さなくても

 許す許さないを決めるのは、他人じゃ無いんだよ」

 静かに、そう俺は呟いた

 

 『んで、ルーラーはそれを止めに来てる、と』

 『そうね。それで道具(マスター)、対策はあるのかしら?まさか何もないなんて、情けない事は言わないわよね?』

 「そのまさかだ。何もない」

 『呆れた。聖杯戦争、勝つ気あるのかしら?』

 「それでも、どうにかして勝つしかない」

 『説得は?嫌われちゃ居ないだろ?』

 アーチャーが、そんな事を言う

 

 「馬鹿を言うなアーチャー。裁定者は正義だ

 悪とはまず相容れない」

 『ダメだこりゃ』

 アーチャーが首を竦める

 

 『……「わたし」は、そう思わない』

 「どうしてだ、アサシン?ルーラーが正義であるならば、ルーラーの役目はヴァルトシュタインを勝たせることだ。正義の産み出した聖杯は、それをこそ正しい有り様としているのだから」

 『ああー、忘れてたわ。そんなくそったれな仕様。最初っから特定勢力を勝たせるための聖杯戦争って何だそりゃ、ふざけてやがるっての』

 『ルーラー本来の役目はそう。聖杯は、そうであるべく呼ぶ

 けれど、「ボク」は信じる』

 『何を?』

 アサシンが此方を見据えた……気がした

 『ルーラーは、ミラのニコラウスは、きっと彼等を許しきれない、と』

 「許し……きれない?」

 そんな事が、あのヴァルトシュタインにあっただろうか

 彼等は正義。多くの為に少数を犠牲にする事は厭わないだろうが、それは正しい

 数千の犠牲を恐れ、数億の死者を出すくらいならば、数千を殺してでも全てを救う。全くもって正しい事だ

 俺は……その数千に彼が含まれた事がそれが許せないが、そんなものは自分可愛さからの勝手な悪の理屈でしかない

 「そんなバカな話は無いだろう」

 『無辜の人を、吸血鬼に変えても?』

 「それで世界を救うならば、それは正義だ。許す許さないの問題じゃない」

 『そこまで、ルーラーは割りきれない』

 『割り切るならば、そもそもこんな危険物(マスター)を生かしたりしない、か』

 俺を見て、アーチャーが手を叩く

 『成程ねぇ

 ある程度は、聖杯がこのバカみたいな認識させてたりするのかねぇ。聖杯が呼ぶんだしな』

 そういって、アーチャーは肩を叩く

 『まっ、頑張れや』

 

 『んで、そっちは今日はどうするんだ?恐らくってのが分かって、ランサーの寝床でも襲撃すんのか?』

 一息ついて、アーチャーが問うてくる

 「今日は休みだ」

 『休み、ねぇ』

 「流石に、休息無しでこれ以上は持たない」

 俺の体は、無理矢理サーヴァントレベルの力を引き出す為にほぼ常に血管や神経に魔力を流している。それは良いのだが、それで傷付く分を何とかするために常に修復の魔術も発動している為、燃費は悪い

 そして、連続した戦闘や魔力枯渇の結果、現状修復がそもそも追い付いていないという体たらくである

 ならば、休まなければ半年という改造されたこの体の寿命の前に、限界が来る

 『「ボク」に文句はない』

 『道具(マスター)。しっかりした所じゃないと許さないから』

 サーヴァント達からも異論は無い

 特に、セイバーには無理をさせてきた。当然の判断ではあろう

 『成程、じゃ、マスターは?』

 「……なら、私もゆっくり寝るよ」

 『つーことらしいね。んじゃ、またな』

 そう言って、アーチャー達は去っていった


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