「ねえアーチャー、昨日会ったルーラーに関してなんだけど」
翌日の朝、扉の前に立っているアーチャーに向けて、私はそう声をかけた
『ああ、居なけりゃ良いって飛ばしてたけど、やっぱり説明は要るか』
アーチャーが、目を落としていた書物らしきものから目線を上げる。何だろう、アーチャーはそんなもの持っていただろうか
「うん。お願い
いきなりで、何がなんだか」
ミラと名乗っていたあの少女は、普通の女の子に見えた。少なくとも、アーチャーと同じようには見えなかった
『まっ、居てしまった以上は話さなけりゃ不味いレベルの事だしな』
本を閉じ、アーチャーが此方に寄ってくる。何時もは部屋は私の領域だと扉の前に居るが、呼ばれた以上は問題ないという事だろう
『んじゃマスター。まずは質問だ』
椅子に座る私と目線を合わせるようにベッドに腰掛け、アーチャーは言う
「必要なことなの、アーチャー?」
『そりゃな。ルーラー、裁定者って存在の特異性を説明するにゃ、基本的な事項が解っていてこそだぜマスター
んで、質問だが……。聖杯戦争の参加者は何人だ?』
それは私にも解る。あの神父様に教えてもらった
「7人」
『本当にそうか?本来奇数にはならないぜ』
「そっか……。マスター7人、サーヴァント7人で合計14人」
『ん、正解だマスター。まあ、本来サーヴァントは騎で数えるんで、7人と7騎なんだがそりゃ些細な事だ
んじゃあ』
アーチャーは、僅かに考えるそぶりを見せる
『マスター、忠臣蔵って知ってるな?』
「うん」
『了解。なら質問だ。もしも忠臣蔵の主要人物、主君への忠義から吉良上野介に復讐を果たした大石内蔵助が復讐者の英霊、アヴェンジャーとして聖杯戦争に呼ばれていたとしたら?参加者は何人になる?』
一瞬悩む。15人?いや、そのマスターを入れて……
と、いう所で思い出す
「14人のまま、だよねアーチャー」
『オッケー、正解だマスター。よく覚えてたな
例えエクストラクラスがいても、参加者の数は変わらねえ。この例だと……多分アサシンが消えて代わりにアヴェンジャーって感じだろうな』
「じゃあ、もしかしてルーラーも?」
アーチャーは、ニヤリと笑った
『だが、其処に例外が存在する……
って訳さ、マスター』
「……例、外?」
『そう、その通り!
裁定者、ルーラー。あれは八騎目のサーヴァントなのさ
いや、あの人形野郎……ってかセイバー連れたあの人も半分セイバーみたいなもんなんで今回は8.5騎目かもしれんが、本来はそうなる』
「つまり、ルーラーが居る場合だけ参加者が16人になるの?」
『其処がルーラーって存在の面倒な所でなマスター
ルーラーはマスターを持たない。聖杯戦争にも直接参加はしない……ってか、聖杯争奪には参加しねぇんだわ。参加者は14人のまま』
「どういう……こと?」
訳がわからない。相変わらず、聖杯戦争はよくわからない。助けてかーくん。頭がこんがらがってくるよ
『ルーラーってのは聖杯に呼ばれ、聖杯戦争という枠組みを守る存在なんだわ。聖杯戦争って魔術儀式が根本から壊れるかもしれない場合に現れ、歪めてる原因をぶちのめして正しい聖杯戦争に戻す
まっ多人数参加のゲームでいえば、ゲームを正しく進行する為に現れるゲームマスターのアバターみたいなもんだな』
それならば、私にも解る気がする
「ゲームマスターってことは……」
『当然それに見合ったチート持ちだぜ。マスター、令呪は覚えてるな?』
「私の手にもある、絶対命令権……だよね?」
『そうそう。んで、基本的にルーラーってのは他の全サーヴァントに対しての令呪を2画持ってる』
……えっ?
「ど、どういうことなの?」
『つまりだマスター、あのルーラーってのは他のサーヴァントに対する命令権持ってやがるんだわ。当然、その気になれば「全サーヴァントに命ず、自害せよ」で対応が遅れた奴等全員消せたりもする。聖杯戦争を壊しかねないマスターを強制退場させるために、サーヴァントにマスター殺して自害せよを命じたルーラーってのも居るらしいしな』
「それは……」
確かにチートだ。アーチャーがルーラーだけは駄目だ、といったのも頷ける
けれど、あの少女がそんなことをするとは、どうしても思えなかった
『マスター。顔に出てるから言っておくけどな、あのルーラーは、覚悟を決めたならば止まらねぇタイプだぜ?』
「……けど」
『マスターも解ってるだろうけどよ、あれはニコラウス、アリウス派を拳で回心させ、無実の罪で処刑されかけた相手を拳で救いだしたってバケモンだ』
アーチャーは、手にしていた本を振る。……備え付けの聖書だ
『基本的には善人だし優しいだろうが、敵には容赦なんてねぇだろうな』
そうなの、だろうか
『まっ、そこらは直接会えば良いや』
「会えるの?」
『オレ等自体は敵対してる訳じゃないしな。教会へ行きゃ話は出来るだろ
んじゃ、今日も行こうぜマスター。引きこもってても始まらねぇわ』
アーチャーが聖書を置き、立ち上がる
「うん、そうだね」
私はそれを追うように、立ち上がった