Fake/startears fate   作:雨在新人

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四日目幕間 鋼の軍神

それは、終末であった

 人類の、世界の、総ての終焉。有るはずが無いと思っていた、絶対的な終わり

 ヴァルトシュタインの聖杯が、幾多の未来から望む結末への道程を見つけ出す魔術が見せる、どうしようもない、究極の絶望

 

 世界を見据えるのは、紅き双眸

 陽を覆う背に宿るは、黒き両翼

 総てを食らう全身は、鋼の機神

 空に輝くは、不吉なる軍神の星

 降臨した終焉は、総てを破壊する

 その姿は、20m級の鋼の人型。背に翼を、胸に竜頭を持つその姿は、神話の悪魔(ドラゴン)を思わせる。それこそが、その機械竜こそが、シュタール・ヴァルトシュタインの見た世界の終わりであった

 

 牙の並んだような頭の口から、何かが放たれる

 ……吹き荒れる嵐、ソニックブレスだ

 地面に激突したそれは、コンクリートで覆われた地表を引き剥がし、それ自身よりも何倍か大きなクレーターを産み出す

 最早、かの地はかつて都市であった原型を留めてなどいなかった

 抉られ、融解し、徹底的に破壊された死の荒野。奇跡的に残されたであろう服の切れ端だけが、つい先程までそこが人の住む場所であった事を証明していた

 

 ……ふざ、けるな!

 その声も、響き渡ることは無い。これは聖杯が見せた終焉。この身は、未だこの手遅れな刻へ辿り着いてはいないのだから

 

 突如、空が輝く

 核ミサイルの炸裂。人類が使えるだろう最大の焔が、既に滅び去った街毎悪魔の姿を飲み込んでいく

 

 

 場面が切り替わる

 僅かな地鳴りと共に、鋼の軍神が大地に降り立った

 その足に踏み潰され、一人の男が死んだ

 「バカな……。核だぞ!」

 頭の紅く輝く瞳が、呆然と呟く男を捉える

 「無傷だと!有り得ない!」

 「…………ホロ火夜(滅びよ)

 ギギギ、と嫌な音がする

 胸の竜の頭が開き、焔が溢れ出す

 「そんなバカな事が」

 「……ハカイ(破壊)怨御御御御御!(をぉぉぉぉぉ!)

 

 その時、一つの国が、世界から蒸発した

 雨が……いや、大地と諸共に蒸発させられ、上空で冷やされた海水が、ぽつぽつと空から降り注ぎ始める

 抉り取られた海に空いた穴。それだけが、かつて其処に陸地があった事を記憶していた

 だが、それも直ぐに消えて行く。空白に注ぎ込まれる海水に塗りつぶされて行く

 数分後、其処に、かつて国があった事を思わせるものは無くなっていた

 

 

 人はかの機神に対抗する術を知らず

 総ての神秘は破壊の軍神に撃滅され

 かくして、世界は自明の如く……滅び去った

 EXTINCTION END

 

 

 「はっ!はぁーっはーっ」

 目覚める

 悪い……夢を見た

 本当に……悪い、夢だ。軍神により総てが滅び去る、御先祖様も見たという、未来(あくむ)のその一端。最近見るようになった、他の終末とは多少(おもむき)を異にする、だが、何よりも迫っている気がしてならない、最悪のエンディング

 

 例えサーヴァントであれ、或いは魔法使いですらも、あの化け物を止める事は出来ないであろう。夢で見ているだけだが、確信があった。空に軍神の星輝く時舞い降りる機神

 

 恐ろしい。ソレが、何時か世界を滅ぼすかもしれない事が

 そして、その時は、決して遠くはない事が

 見る夢は、あれだけではない。太陽を飲み込んだ黒き巨神により、焼き尽くされる世界。地上に降り立った巨大樹により、総てを呑み込まれる世界。そして、総てが水晶と化した世界。見る未来(あくむ)は幾つもある

 

 だが、特にかの機神に関しては……

 一度だけ、見てしまったのだ。初めて、自身が満たすべきヴァルトシュタインの聖杯に触れた際に

 かの化け物が始めに破壊した街は、滅び去る前の、後の死の荒野は……

 伊渡間であった。そう、今現在とそう変わらぬ、遥か未来どころか明日かもしれぬ時に訪れるであろうこの街の姿であったのだ

 

 最早、猶予などありはしない

 

 呼ばねばならぬ。勝たねばならぬ。正義に敗北は許されない。正義の敗北は、世界の滅亡を意味するのだから

 その為ならば、何を迷う必要があろうか。数千数万、安い命だ。これは未来を救う聖戦、尊い犠牲はつきものだ

 

 呼ばねばならぬ。願う未来への道筋として7度に渡る聖戦を示したという始まりの聖杯戦争で、クライノート・ヴァルトシュタインが願ったという、彼等から人類を守る救世主を

 竜の姿をしているならば、もしかしたらと思ったS346(竜殺し)はしかし、正義を拒絶したのだから。そこまでの期待は無かったが、もしやという思いは裏切られた

 ならば、ヴァルトシュタインしか、世界を救える者は居ないのだから

 

 その想いだけが、シュタール・ヴァルトシュタインを動かしていた


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