『……アサシンは間に合ったのですね』
ビジョンを切り、少女はそう呟く
『死なせるには……いえ、今喪うには勿体無いですし。役に立って良かったです』
今の今まで、少女の視界には別の空間が映し出されていた。ルーラーの介入を引き起こした……中央公園での戦闘が
『それにしても、ルーラー……しかもニコラウス、と来ましたか。実に厄介ですね』
少女は一人呟き続ける。それが少女が良くやる思考のまとめ方。言葉に出し、ペンを走らせることで、少女はとりとめもなく溢れ出す自分の思考を纏めるのだ
『まあ、多分居るだろうな、という事は分かっていた事ですが』
手に持ったペンが走り出す。描くのは絵……ルーラーというあの少女のもの
『それにしてもまさか、あんな時期から潜んでいるとは予想外でした。下手に自分で行動していたら終わりでしたね』
『とはいえまあ、きっとワタシの望み通りに動いてくれるでしょう』
そんな事をとりとめもなく流しつつ、少女は絵を描き続ける
意味は……あまりない。少女の趣味だ。とりあえず資料を作る際に、良くイラストを表紙にする……というだけの話
ふと、その手が止まる
『……本当にそうでしょうか』
少女は手を止め、考え始める
何故ルーラーは、自分の思い描いた通りに動くだろう、等と思ったのだろうか。直接の面識は一度もない。そもそも、その姿を見た事自体、つい先程のビジョンが初めてなのだ
なのに、何故、きっとこう動く、いや動いてくれると思ったのかと少女は暫く思考を回し……
『まあ、気にしても仕方ありませんね』
また、筆を取った
『とりあえず、考えることは……アサシンの使い道……ですかね』
と、少女はそこで机から顔を上げた
何処かからか、少女を呼ぶ声が聞こえていた
『……フェイ』
『何ですか』
何時しか、少女の居場所……少女に与えられていた小さな物置の一部の目の前に、何時しか一組の男女が立っていた
金髪の騎士……ライダー、そして小柄な少女……キャスターが
『……同盟は組んでいなかったはずですが』
『それに関して返事をする、と言えば通れた』
『そうですか』
少女はあくまでも何時もの調子でそう答える
『見ていたな?』
『はい』
『……あれは何だ?あの焔は』
『…………英霊の纏』
少女は、自分なりに纏めていた資料を取り出す
『英霊の纏。ヴァルトシュタインの聖杯に附随する特殊スキル
本来は召喚困難な存在をサーヴァントとして召喚する為の二重召喚技術
それを聖杯無しで、核とする英霊を人間やホムンクルスに置き換えて行おうとしたのが、人工サーヴァント』
『二重……召喚』
自覚が無いのか、ライダーは噛み締めるようにそう呟く
『ブリュンヒルト。けれども、彼女自身に縁深い英霊として、戦乙女ブリュンヒルデが居ます。本来はあくまでもそれらは別の英霊。特に戦乙女は半神、神性に近い彼女は、そうそう召喚は出来ません
だからこそ、英霊の纏が意味を持つのです
その縁を手繰り、核であるブリュンヒルトにブリュンヒルデを纏わせる事で、ブリュンヒルトでありながら、戦乙女ブリュンヒルデの力を発揮させる。本来サーヴァントにならないであろうものも、強引に纏わせてから召喚する事で召喚できますし』
『……あのアーチャーが神なのも、その理由か。まだ召喚出来る何者かを核に……
ヴァルトシュタインに返答をしなければ。失礼する』
言って、ライダーは聞くことだけを聞くと去っていった
『……使える手駒の使い道、良く考えなければなりませんね……』
少女は、再び机に向かい、ペンを走らせ始める……