Fake/startears fate   作:雨在新人

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三日目ー裁く者

「何でなんだ、ミラ!」

 その叫びに、ミラは悲しそうに微笑んだ

 

 『うん、御免ね。けど、これがわたしがしなきゃいけないことだから』

 「何でだよ!」

 光の剣を突き付ける

 剣が消滅する。生き抜く為でもなければ、ミラへ剣を向けられない

 『それが、与えられたわたしの役目だから、ね』

 ミラの服装が変わってゆく。霊子を纏い、赤い光が纏われてゆく

 

 「ああ、成程

 ミラってのは」

 『本名……みたいなものかな、称号だけどね』

 言って、少女は寂しそうに笑う

 

 姿の変化が終わる。鈴が鳴る

 赤いブーツ、赤い手袋、前ボタンで胸の辺りと腹の上で止められた赤いコート、その下に着ているのは、やはり一部でイメージされる露出のそれなりにある赤い服。そして、特徴的な赤い帽子。各所には白い綿毛のような毛がついており、胸元には赤と緑で構成された、鈴の付いたリボン。金の髪に、その姿はどこまでも映える

 間違いなく、最近は良く見かけるサンタクロースの服

 だが、感じる圧力は……あまりにも、大きい

 アーチャーにすら、負けないほどに

 

 『流石に分かるだろうから言うね

 裁定者、ルーラーのサーヴァント、ミラのニコラウス……いや、聖ニコラウスって言うべきかな

 聖杯戦争の監督者として、貴方を殺しに来たよ、ザイフリート』

 マフラーを渡した時のように、何処か寂しげな声音で、少女は告げた

 

 『……ルーラー、か』

 アーチャーが呟く

 『うん。貴方と戦う気はないよ、アーチャー。大人しく下がってくれると有り難いな』

 「けどアーチャー」

 『悪りぃなマスター。流石に来ねえだろと思ってて話忘れてたが、ルーラーだけは基本敵に回しちゃいけねぇんだ。ランサーと遊んどこうぜ』

 「……助かる、アーチャー」

 ランサーに向けて挑みかかるアーチャーを横目に礼を言う

 多分決着は付かないだろう。だが、ランサーともという状況を廃してくれたのは有り難い

 

 「……ミラ」

 『……うん』

 「……俺、なのか?」

 『残念ながらね。このままじゃ、貴方はセイバーになっちゃうから。それからじゃ、聖杯戦争の崩壊は止められない』

 「マフラー、付けてくれなかったんだな」

 『こんなこと言うのって可笑しいけど、汚したく無かったからね』

 どこまでも、寂しそうにミラは笑う

 「どうしても」

 『往生際悪いなあ。やりにくいよ』

 「それが取り柄だからな。ずっとか」

 『うん、貴方が呼ばれた一年前……12/26からずっと

 私が呼ばれる程の歪みが、別の用件だったら良かったんだけどね』

 「俺しか……居ないか」

 『うん、御免ね』

 一瞬、ミラの言葉が止まる。雰囲気が更に変わる

 本気に

 『さようなら』

 悪寒が走る

 「セイバー、令呪をもって命ずる」

 咄嗟に口をついて出てきたのはそんな言葉だった

 もしも、俺が見てきたミラがそのままルーラーならば、きっとこの手だと信じて

 「これより未来に」

 『令呪により命ず』

 一瞬遅れ、ミラの言霊が耳に届く

 やはり、この一手。あのミラならばという確信をもって、言葉を続ける

 「セイバー、全ての令呪による命を破却せよ!」

 『自害を、クリームヒルト!』

 

 『……そう、きちゃうんだ』

 一拍の後、拍子抜けしたようにミラは言った

 『……道具(マスター)、なんなのよ』

 「ミラならば、きっとルーラー特権をセイバーの自害に使う。そう思った」

 『なりふり構ってないじゃないの』

 『読まれちゃったか』

 「いざという時は迷わないって、昔言ってただろ?」

 『だからって、思い出すかなぁそんなの』

 「覚えてること、多く無いんだよ。だから忘れない」

 光の剣を下げ、構える

 令呪を切った事で覚悟は出来た。生き残る覚悟

 ならば、光の剣をミラにだって向けられる

 『全く、とんだ貧乏クジね』

 呼応し、セイバーが剣を中段に構える

 

 聖ニコラウス。サンタクロースの語源ともされる聖人。本来は男性のはずだサンタクロースは髭の老人であるし。そこは気になるが今は無視する

 サンタクロースに武術の逸話は無い。宝具は未知数だが、付け入る隙はゼロではないはずだ

 「ならば!」

 先手必勝。例えルーラーだとしても、ずっとそれを隠して、何らかの理由で俺を見ていたとしても、あの時の、俺の思いだけは嘘じゃない。殺したくなんか無い

 だが、それでも、勝たなければ俺が死ぬならば、勝つ

 覚悟と共に踏み込む。縮地。一瞬後に、大恩人である少女の眼前まで踏み込み……

 

 何が?

 気が付くと、俺の体は宙を舞っていた。不思議な浮遊感

 「がっ!」

 極大の下向きのベクトルに、事態を理解する間も無く地面に叩き付けられる

 立ち上がろう……として、気付く

 目の前に居たはずのミラが、何時しか宙を舞っている事に。恐らくは俺を打ち上げ、空中から叩き付けたのだろう

 だが、それは暫く空中で無防備になることを

 『そこっ!』

 セイバーの剣が空を切る。キャスターのような運……或いは直感によるものではない。単純に、空中を蹴って後方へと着地したのだ

 『御免ね、けど、甘いよ』

 セイバーの腹に拳が捩じ込まれる

 セイバーと折り重なるようにして、俺ももう一度地面に倒れた

 

 『……何、なのよ』

 セイバーが息を吐きながら呟く

 追撃は無い。きっとミラは、此方が立つのを待っている

 『お願い、大人しくしてくれないかな?』

 「無理だって、知ってるだろ」

 諦めだけは悪いんだ、とは続けない

 光の剣を支えに立ち上がる

 

 さっきのは、宝具……ではきっとない。単なる拳だ。相手は、宝具は一切使っていない。だからこれは、単純な性能差だ

 だが可笑しい。幾らルーラーかつ最大級の知名度を持つサンタクロースとはいえ

 

 「何なんだ、その力は」

 『単純な事だよ。わたしはミラのニコラウス。サンタクロースじゃないよ。子供たちの夢っていう極大の無辜の怪物程に温厚じゃないってだけ』

 そう、恐れられる事をどこか淋しそうにミラは言った

 

 「……な、に?」

 『そのまんまだよ。わたしはサンタクロースみたいに優しくないし、温厚じゃない。分からず屋に対して拳で語って、破門されちゃった事もあるしね』

 『つまり、アンタは……』

 『うん、その通り』

 ミラが僅かに腰を落とし、拳を握り込む

 『やりたいようにやって来た。結果聖人だなんて言われたし、サンタクロースなんてものにもされたし、結果として男性だったって事にされちゃったらしいけど、わたしは、ただ、放っておけなかっただけ

 幻獣や死徒に悩まされる、何も悪くない人々を』

 つまり、それは……

 聖堂教会第八秘蹟会。或いは埋葬機関。そういった場所、或いはその前身、聖堂教会の裏側に身を置く存在

 成程、勝てない訳だ。俺も人工サーヴァントの身とはいえ、元が違う。元々生身で化け物共を狩れる、人間という化け物。それが更にサーヴァント化しただけの事。ただただ単純な話で、だからこそ、覆す手は中々見つからなかった

 けれども、止まっている暇はない

 「セイバー!」

 『えぇ、<喪われ(ニーベ)

 『遅いよ!』

 セイバーの腹に拳が叩き込まれる

 だが、そんなことは知っている。隙が出来れば

 「<偽典現界・幻想悪剣(バルムンク・ユーベル)>!」

 その隙に、ありったけの剣撃を叩き込む!

 

 詠唱無しでの宝具解放。あくまでも俺が宝具扱いしているだけの技であり、詠唱は単なるフレーバー、集中する以外の意味はないとしても、確かに威力は下がるが、気にせず放つ

 その一撃を、ミラは

 『甘い!』

 正面から左の拳で打ち砕く。更にその勢いは死なず

 「がふっ!」 

 軽く吹き飛ぶ。咄嗟にガードした光の剣を砕き、拳が撃ち込まれたのだ

 

 セイバーを見る。そこまでの外傷は無い。生きている

 だが、立つ気配は無い

 『うん、そろそろ終わりにしようか。これ以上見てるのも辛いからね』

 ミラの拳に、スパークが走る

 宝具だろうか。いや、そこまで行っていない気もする

 

 生き残る方法は……。考えて、セイバーを見る

 溢れ落ちた剣。それによる宝具解放。それしか無いだろう

 全く、また宝具か、どんな酷使だとなるが、それしか思い付かない

 

 立ち上がる

 『まだ、立てるんだ』

 「悪いが、心臓は鉄でな」

 時を測る。勝機は一瞬

 『さようなら』

 ミラの拳が迫る。

 まだだ

 避けられない

 まだだ

 もう当たる

 今!

 

 「っらぁっ!」

 ギリギリの縮地でミラの攻撃を飛び越える。失敗すれば死だが、賭けなければ始まらない

 『そんな、手を』

 「届いた!<喪われし財宝・幻想大剣・天魔失墜(ニーベルング・バルムンク)>!」

 セイバーの剣を拾った瞬間に宝具解放。振り下ろす形でないから黄昏の剣気の広がりは可笑しいだろうがやっている暇はない。迅速に、全力でやるしかない

 「これでぇっ!」

 黄昏の剣気のドームが広がってゆく。俺を中心としたドーム状の剣気にスキマは無い

 

 『チェックメイトだね』

 その声はやっぱり、何時もより沈んでいて

 「似合わ、ねぇ」

 だが、気が付くと、ミラの姿は俺の目の前にあった

 一瞬遅れて思い至る

 縮地。俺と同じく、空間を飛び越えたのだ

 

 雷がスパークする

 『……雷の如く>』

 拳が迫る。最早どうしようもない。せめてもと後ろへ跳ぶが、逃げ切れる訳もなく……

 

 その拳は、一体のホムンクルスを撃ち抜いて止まった

 

 『えっ?』

 「なっ?」

 ホムンクルスなんて、近くには居なかったはずだ。そもそも、俺を助ける義理も無い

 ならば、これは

 

 『サーヴァント、アサシン。「わたし」の想い、そしてマスターの命により、「ボク」は貴方を救う』

 最後のサーヴァント。救世主の手による救いだった


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