『……どうしてだったんでしょうか』
曇った空を見上げ、そう呟く
思い出すのは、どうしようもなく曇っていたあの空を、「綺麗だ、見れて良かった」と口にした、一人の馬鹿。既にこの地を立った、ヴァルトシュタインへの反逆者の事
気にしていない……つもりだった
けれども、それならばどうして、ワタシは……
あの時、こっそり使えそうなホムンクルスを使い、薬を届けたのだろうか
アーサー王、アルトリア・ペンドラゴン。或いは……円卓の騎士であり魔術師マーリン。それ以外に心を震わせられるなんて、思っていなかった
そのはず……なのに、何故思い出すのだろうか
答えは出ない
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公」
ふと耳を澄ませると声が聞こえる。シュタール・ヴァルトシュタインの声だ
恐らく、再びあの事を……無駄な事を試しているのだろう
人工サーヴァント、Ru001……。ルーラー、裁定者の英霊を呼び込もうという、不可能であろう試み
「祖には我が正義ヴァルトシュタイン
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
唯一の成功例であるザイフリートのように、誰だっただろうか……そう、カイト、神巫戒人という人間を礎にした計画。セイバーを呼べたのだから、もしもルーラーが呼べれば……という浅はかな、けれども成功すれば圧倒的なアドバンテージを得られる、新年から続けられてきた計画
「
繰り返すつどに五度
ただ、満たされる刻を破却する」
「――――――
どこまでも、儀式は続いてゆく
「――――告げる
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
流れてくる魔力が増大する
「誓いを此処に
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を消す者」
混じるのはアレンジ。ヴァルトシュタインの存在を信じる彼故の言葉
「そして汝はその眼を正義に輝かせ侍るべし。汝、戦争の
「汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
シュタイン・ヴァルトシュタインの言葉が途切れる
どこか不思議な感覚。あの日も、そうだった気がする
だけれども、ルーラーは呼べるはずが無い
聖杯戦争においてルーラー……裁定者とは特別な存在だ。聖杯戦争を管理する、聖杯によってマスターを持たず呼ばれる、参加者ではない八騎目のサーヴァント。聖杯戦争という枠組みが崩れないように、聖杯戦争が本来の形を逸脱しかけた際に現れる使者。そもそも、本来は人間との契約は有り得ない
不思議な感覚が霧散する。あの日……ザイフリートと名乗るあの少年が創られた日は、この熱は消えることがなかった
やはり、失敗。人間を……彼と同じ神巫の血を使ってまでも、彼に等しい人工サーヴァントは創れない
降霊魔術の血を使っても、そうそうサーヴァントになれはしない
なれるとすれば、彼のような……
その思いを振り払う
何故だろうか。それを考えてはいけない気がした
「S045!」
主人……ということになっている少年の声がする
『……はい』
ワタシは、地下へ向けて歩きだした