『アーク・ノア。方舟を名乗るか、遊星』
心底忌々しげな轟きが響き渡る
『全てを破壊し喰らう星が、希望を語るか』
「違うなゼウス。
にぃっと、銀龍が
それは余裕の現れ。本来の……紛い物たるアーク・ノアではなく白い巨神セファールそのものですら倒せないだろう地球の法則外より飛来した最強の機械神相手に、胸を張って嘲笑う
「お前とてそうだろう、ユピテル。人類が存在した痕跡と共に旅立とうとした事がある筈だ
貴様と
『不快!』
雷鳴が迸り、銀の龍の翼を打ち砕く
それでも、欠片の揺らぎもない。銀の龍……アーク・ノア巨神体は瞬時に余りあるリソースから再生する
そんな姿を、わたしはずっと見上げていた
『フリットくん……』
どうして、何で。そんな言葉と……後悔ばかりがぐるぐると脳裏を駆け巡る
どうしてわたしは彼を助けてあげられなかったんだろう。どうしてわたしは……
ああなる前に、彼を殺さなかったんだろう。放置すればああなるのなんて分かりきっていて、恋心なんて忘れなきゃ駄目だって知っていて
『悔しいなぁ……』
強く合わせた唇の端から、つうと垂れる血
でも、良い
最悪だけど、まだ最悪でしかない
気持ちを切り替えて、わたしはせめて助けられる人々を探す
だって、彼は勝てないから
弱さを見せない感じはフリットくんっぽいけど、例え遊星でもアレは倒せない。破星大神G・オリュンポスは、最強無敵の存在だから
例え再臨しても、対抗しても……きっとそのまま雷鳴が星を撃ち落とす。だから、世界は終わらない
わたしの見た夢は、夢のまま
そんなわたしの目が捉えるのは、優雅に豪奢な玉座で事態を眺める銀の髪の女の子
何処までも底が良く分からない、モルガン・ル・フェ
『っ、マスターさん!』
それより、剥離する世界に取り残されそうな人達の方が先!
わたしは雷の速さで何とか見つけたハシバミ色の瞳の女の子に駆け寄り、意識がなく狭間に飲み込まれて消えかねない彼女をこの腕の中におさめて護る
『ったく、どうなってるのかわっかんねぇなぁ……』
『とりあえず、アルマゲドンが起きかけてる感じかな?』
そんな中、飄々と立つ男のサーヴァント、旧アーチャー
彼は……うん、本当なら必要だと思うんだけど、今回は必要なくなっちゃったのかな?
『マスターさんをお願いして良いかな?』
『んー?ヴィルヘルム兄さんの手は要らないかい?マスターちゃんを護ってたら、正直宝具撃てないんだけどさ』
その言葉にわたしは良いよ、と微笑む
『それ、ヴィルヘルム・テルの宝具のこと?それとも……隠してる、纏われた未来の英雄の宝具かな?』
『後者だぜ可愛こちゃん』
と、茶化すような彼の笑顔に苦笑する
『じゃ、マスターさんをお願いするよ
切り札は……別の人が用意してくれたから、ね』
見上げた空のテクスチャが剥がれた何とも言えない魔力の渦巻く空間で、最強の雷神の剣が幾度めか、銀龍を縦に両断した
「それで終わりか、ゼェウスゥゥッ!』
ボコボコと膨れ上がる金属片。両断された二つの残骸からプラナリアのように二体の銀龍が再生して、同時に機械神へと胸の龍頭から炎を放つ
「「《
されど、そんな龍炎を受けても鋼の星神は微塵も揺らぐことはない。その全てを覆う65535層の対粛清防御を貫く力などアンチセルにも無い
『不愉快』
更なる雷鳴が轟く。巨神の瞳が光輝いたと思うや、銀の龍人機の翼が土くれとなって朽ち果てた
『ハデス・クリロノミア展開』
崩壊の力を持つナノマシンによって翼をもがれた銀の龍星が墜落してゆく
「……そんなものか、
されど、煽り倒す言葉は潰えない
『貴様』
大神の声が響く。二頭の龍が墜落した先に、ザイフリート・ヴァルトシュタインの顔をした……わたしが赦せない星の尖兵が当然のように立っている
その胸には、溶けた黄金によって修繕された指輪……レガリアの姿
斬られた時点で、本体はとっくに落ちる先に逃げ出してたんだって理解する
二頭の銀龍……巨神体は遠隔操作で攻撃させていた。そう、それは……
「発現せよ、ハデス・クリロノミア』
『貴様ァ!』
「文明ならば、喰らうのみ
自分の巨神体という囮に向けて攻撃を誘発させ、捕食する為
銀龍は翼を崩壊させたナノマシンごと魔力に溶けて吸収され、完全に元に戻ったアンチセルが飛翔する
「どうした、究極の機械神。
知っているだろう。貴様等……いや、マァズがこの星に教えた筈だ』
『本当に、それで構わないのか?』
真正面からならば、既に撃破できている
なのに、降臨した機械神を翻弄するような破滅の星船の存在に、眉を潜めてクロスボウを持ち出し、旧アーチャー……ウィリアム・テルでありそうではない存在は遠い目をした
『……ウィリアム・テル
でも、きっと貴方に望まれてるのは、わたしにも良く分からない旧き神としての貴方。纏われた……召喚なんて絶対に出来る筈もない未来の存在の方
それはきっとね、唯一と言って良い最強の対抗手段だったんだと思う。でも……別の方法で勝てるなら、自分も吹き飛ばすやり方なんてやらない方が良いかなって』
でも、不安はあって
わたしが見る限り、アンチセル側が圧倒的に不利。そして、それなのに……彼は煽っている。存在そのものを賭けて、変な行動をしている
わたし自身、聖剣を人々の夢の象徴として抜いたから分かるんだけど……フォトン攻撃、純粋な魔力の奔流に近いほど、あの捕食の星は文明として吸収しにくい筈
なのに、それを呼び込もうとしてるのは明らかに可笑しい。寧ろ勝てるようにフォトン攻撃だけはさせないように動くべきなのに
『だから、もしも摂理が効くなら……
わたしはっ!』
その瞬間、わたしの前に槍状の青緑の光が降り注いだ
『行かせませんよ、色ボケ