Fake/startears fate   作:雨在新人

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二日目断章/幕間 正義の調査/聖杯戦争裁判

「ユー……ウェイン」

 C082(キャスター082)から送られて来た伊渡間中央公園での戦闘の様子を眺め、己はそう呟いた

 暫しの不干渉、を己相手に唱えていたライダーのサーヴァント。円卓の騎士という、初代様の呼んだマーリンであろうキャスターと同様の時代に生きた正義でありながら、真の正義を即座に理解しなかった愚か者

 

 「S045」

 即座に小間使いを呼びつける

 フェイ……と名乗っているらしいが、その自称で呼ぶ気は無い。アレは祖父が事業を己に継がせる前に作ったという、騎士王を模したホムンクルス、道具に過ぎない。S346と同じく個を持つらしいため、S346の前ではそう呼んででみたが、意味がなかったのだからわざわざ呼んでやる必要はない

 『……何ですか』

 近くに控えていたのだろう少女が現れた

 若き日のアーサー王をモチーフにしたという、道具のホムンクルスに過ぎないと思っていなければ、この己が思わず手を伸ばしてしまいそうになる銀髪の少女

 「フェイ。マーリンの資料は読んでいるな」

 『アヴァロンの魔術師☆Mの資料なら』

 「アヴァロンの魔術師といえばマーリンだろう。一々面倒な言い方をするな

 兎に角、ユーウェインについての部分を纏めろ」

 そう、言い放ち、座り直す

 

 自分で資料を見たことは無い。必要になれば部下に読ませれば良いのだ

 今までもそうしてきた。主君とは部下を使うもの。纏めさせるなどやらせておけば良い。正義に必要なのは、最後に悪を滅ぼし勝つことだ

 

 「そう言えばS045、貴様はあの日帰る前のライダーに呼ばれていたな。口説かれでもしたか?」

 気紛れに、そんな事を聞いてみる

 もしもそうならば、ライダーにくれてやるのも良いかもしれない。それで繋ぎ止め、ライダーを使い潰せるならば失敗作ひとつ惜しくもない

 『いえ、単純に王に似ていたのでつい、と』

 「何だ下らん」

 S045は気にせず聞き流している。祖父が重用しており、アーサー王伝説に関する資料はモチーフがモチーフ故か読み込んでいた為に気に入らずとも壊すのは躊躇しているが、正直言って無表情なのは気にくわない

 『ユーウェイン卿』

 「整理は済んだか、話せ」

 小間使いを促す

 『ユーウェイン卿、あるいは獅子の』

 「逸話は良い。性格と宝具、利用出来そうな部分だけ話せ」

 『獅子を連れた騎士、ユーウェイン。アルトリアの姉であるモルガンの息子であり、母からアルトリア・ペンドラゴンという実は女であった王に関して幼少より語られ、アルトリアへの憧れから騎士となった男。血縁である太陽の騎士ガウェイン卿と親しく、王の真実を知っている為か王に対して思慕を向けていた……とも思われる』

 「それで貴様か、S045」

 ならば、使えるかもしれない。このヴァルトシュタインには、己ですら知る伝説の魔術師、マーリンが遺したとされるものがあるのだ

 『宝具……エクスカリバーL・E・Oは、王への憧れから名付けただけであり、星の聖剣とは無関連

 妻であるロディーヌの怒りを買い、当てもなく放浪する前に侍女リュネットから渡された折れにくい剣を元に、その剣で倒した竜の素材を用いて母モルガンが星の聖剣を作製しようとし、失敗した。が、それを剣として振るった……という』

 

 淡々と、S045は話を進めていった




幕間 聖杯戦争裁判(三人称)

暗闇に光が灯る
 此処は、一人の少女の夢の中
 傍聴席の無い、こじんまりとした裁判所が闇のなかに浮かび上がる 
 
 『それじゃ、第三回聖杯戦争裁判を開始するね』
 発言したのは、一人の少女。この裁判の終幕を握る裁判長だ
 『検事側、大丈夫』
 原告側に立つのは、知的感を出すためか、度の入っていない眼鏡をかけた、裁判長と同一の少女
 『弁護側、問題ないよ』
 弁護席に立つのも、白い服で他二人と差別化した少女だ
 被告が立つはずの場所には、一人の少年……の、書き割りが立てられている
 此処は彼女の夢の中、彼女が、心を整理する為に産み出した架空の場。そこの登場人物も当然すべて彼女でしか有り得ない
 
 『審議を始めようか。今回の裁判は、聖杯戦争が本格的に動き出した訳だけど』
 裁判長として立っている、少女の自我が話を進める
 『原告としてわたしは、やっぱりセイバーの有罪を宣言するよ』
 遮るように、眼鏡の少女……少女の理性がそう告げた
 本来の裁判としてはどこか可笑しいが止める者は居ない
 あくまでも少女は自分の行動方針に決着を付けるために、判決という形で覚悟を決めなければならない裁判形式を取っているだけ、形式は関係ない。聖杯は、彼の死を願っている
 
 『まずは何時も被告扱いされてる彼から話を聞きたい……んだけど、無理なんだよね』
 裁判長がそう流す
 『じゃ、わたしが代わりに読み上げる事にするよ』
 弁護側に立った白服の少女が、書き割りを動かしながらそう言った
 
 『審議すら必要ないよ。この聖杯戦争を狂わせてるのは彼、動かぬ証拠もあるからね』
 眼鏡の少女は取り合わない
 『彼は……ザイフリート・ヴァルトシュタインは今やセイバーに近いナニカだよ。かつてはそうじゃなかったけれど、セイバーを召喚した今はそうなっちゃってる
 そうでなければ、「セイバーの宝具を使用する」令呪は、彼に対して効果を発揮しなかったはずだからね』
 『それに何か問題があるのかな、わたし(検事)?』
 白服の少女は問う
 『大有りだよ、わたし(弁護人)。このまま行けば、近いうちに彼は八騎目のサーヴァントになってしまうよ。そうなってからじゃ遅いんじゃないかな』
 眼鏡の少女が、特に意味の無い眼鏡をクイッと押し上げる
 『そうなってしまうと、サーヴァントが残り一騎になる必要が無くなっちゃうからね。二騎残っていても聖杯は満ちる。それじゃあ勝者は決まらない
 聖杯の奇跡を望むもの、残りの六騎を倒し、勝ち残れ。聖杯戦争ってシステムそのものが破綻しちゃうよ』
 『でも』
 『でもは聞かないよ、わたし(弁護人)。そうやって後回しにしてきた結果が、今だからね
 もしかしたら、わたしが呼ばれた理由は別かもしれない
 でも、もしも、ひょっとしたら。そうやって、ずっと殺せたはずの歪みを放置しちゃってた、その結果が今の歪みに繋がったよ
 
 八騎目になってからじゃ遅い。そうなってしまえば、もし彼らを倒しても私が介入して二騎倒しただけになっちゃう』
 『だからこの聖杯戦争裁判において検事側は、ザイフリート・ヴァルトシュタインの速やかな死刑を要求するよ、わたし(裁判長)
 『彼ばっかりだけど、ヴァルトシュタインはどうするのかな?正直、幾ら聖杯戦争が、聖杯が、彼等の勝利をこそ正道としてい』
 白衣の少女が言いかけた所で、ふと、明かりが消える
 それは、裁判で話す事ではありえないというかの如くに
 
 明かりが戻った時、白衣の少女は、つい先程の疑問がなかったかのように、別の事を問題にしていた
 『けれど、彼は既にマスター、それならばセイバーは』
 白服の少女が抗議の声を挙げるが
 『御免ね、やっぱり弁護は禁止』
 少女が手を振る
 白服の少女の姿が突如としてかき消えた
 『最初から決めてたんだ。それにさ、やっぱり全部わたしだから。私情を挟んだら、きっとどうしようも無くなっちゃう
 まったく、色々と言われてるけど、やっぱり弱いね、私ってば。どうにも感情を抑えられないや
 けど、今はそれじゃいけないから』
 光が消える。裁判長の姿だけが、スポットライトに照らされる
 『だから、御免ね、わたし(弁護人)。そして御免ね、ザイフリート。けどさ、私だって呼ばれた役目は果たさないとダメだから』
 
 『判決を言い渡すよ
 被告、ザイフリート・ヴァルトシュタインは有罪
 原告側の主張を受け入れて、死罪に処するよ』
 まるで自分に言い聞かせるかのように、少女はそう告げた
 『絶対に、彼を悪魔(サーヴァント)にさせない為に』

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