Fake/startears fate   作:雨在新人

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……何ヵ月ぶりですかね更新
オリュンポスが来たことで主人公やギリシャの神々の公式設定割と知れたので漸くラスとまで突っ走れます(これからも超不定期しないとは限りませんが)。出来れば最後までお付き合い下さい


十二日目ー真の敵

「……結局、あの女神が復活した、というのが案件だった訳か」

 

 夜。ホテル……なんてものは今ややっているわけもなく。公園に寝転びながら、そう語る

 今日1日回ってみて良く分かった

 この場は、封鎖された場所と化している。フェイにより決戦場アヴァロンに飛ばされてからの4日ほど。隕石が落ち、未知のウィルスが伊渡間市周囲に蔓延した……という扱いになったらしい。なんだそりゃと言いたくなるが、確かにあの場はそうとでも言わなければならない惨状であったのだろう。吸血鬼のバーサーカー、ランサーにされて消えた彼の血による住民の大量吸血鬼化、それに抗うための俺の遊星化の進行。神秘の秘匿など何一つ考えず、相手をぶちのめす為にぶつかりあったあの戦いは……。秘匿が可能なヴァルトシュタインの森を抜け、市にまでダメージを引き起こしていた。それに、住民の多くが吸血鬼化させられ、あの場で死んでいる。アーチャーは時を止めるという訳の分からない超絶手段で秘匿と被害の軽減を成し遂げていたが、それをやっていないあの決戦では数万人が突如灰になって謎の死を遂げている訳だ。そんなの、未知のウィルスとでも言わなきゃ説明がつかない。いや、それで説明されても絶対に日本全土がパニックに陥るのだが。突然ある日人が紅の目をして虚ろな事を言い始め、そして灰になって死ぬ。こんな宇宙から降ってきた隕石由来の奇病がーとか、もうダメだろこの国案件だ

 

 未だこの市には吸血鬼残党が居り、完全に封鎖されている。そして……聖堂教会が出張ってきて、警察に協力する事でそれに対処しているという事らしい

 何か魔術的な銃弾だなと思ったが、本当に魔術的なものだったとは。いや、俺には全く効かなかったんだがな。随分と遠いところまで来たな俺。2週間前なら一応銃弾斬れたけど失敗したら下手したら死んでたぞ

 

 『……それで?どうするのかしら?』

 『……私は手を』

 「貸さなくて良い。もともと、俺に従う気なんて欠片もないだろライダー」

 『それはそうだが。そんなこと、マスターの側から言って良いのか』

 「構わない。セイバー、お前は結局、何処まで行ってもランサー、じゃなくてバーサーカーと決着を付けたいだけなんだろう?ならば、一人で戦いに行け」

 『ええ、時が来たらそうさせて貰うわ。何度か世話になったわね』

 『良いのかそれで……』

 と、ぼやくライダー

 

 「そもそもだセイバー。お前……あいつに何をしてでも勝ちたいんじゃないだろう?

 自分の出来る全力を尽くしたい。全身全霊、自身の全てを、ジークフリートの妻としての誇りを懸けて、ぶつかりたい。その結果復讐を果たせれば良し

 だが……実はお前、負けても良いだろ。あいつを殺したいんじゃない。勝手に勝ち逃げされて、何も出来なかったのが嫌なんだ。最悪負けて死んでも、敵討ちの為に全てを懸けて戦えたという満足があれば良い。だって……お前が復讐をするその前に、あいつは命を絶っている。お前が何一つしないままに、復讐は終わっていたんだからな。最初っから、勝っている

 ならば、勝手にしろ、セイバー。気のすむまでやって来い」

 『正気でそれで良いのか……』

 何だろう。呆れられてる気がする

 

 「何だよライダー。変なことを」

 『ええ、そうよライダー。私はただその為だけに召喚に応じたのだもの。死力を尽くすだけよ』

 『……マスターと、サーヴァントだよな、そこの二人……?』

 「俺はただ、全てを捕食し、『回帰』する遊星だ。サーヴァントの動きにケチをつけられる存在じゃない

 俺は俺で、奴を落とす。機神アテナ、もう一度終わらせてやるよ、お前を」

 遠くに見える神殿。突如現れたそれに対して、警察が厳戒体制を敷こうとして止められているのを、遠くから見た。あそこに居るのだろう、女神アテナが。カッサンドラではない。キャスターのそちら側はもう居ないだろう。聖杯に取り込まれ、消えた

 だが、感じるのだ。俺を睨み付ける何者かの視線を。それは、ある種俺がぶっぱなす宝具で感じるものに近い。即ち……かつて遊星に撃滅され、遊星によって良いように弄ばれているオリュンポスの神の波動。機神の駆動音

 弱々しく、それを感じる。ならば、やることはひとつだ。この世界に戻った時にはそれを感じなかった。今は微かに感じる。放置すれば、何時しかかの神の真体はこの世界に降り立つ。神話に語られる女神アテナはその本来の姿である機神アテナとして、俺を殺しに来る。その前に、アレがまだ女神アテナという人間に近い姿をしているうちに撃滅する

 

 『撃滅……それが出来れば、って言いたいけれどもなぁ……』

 と、ぼやくライダー

 『出来てしまう。だから、はぁ……』

 「何だよ、ため息なんぞ吐いて」

 『……何で、こんな聖杯戦争に首を突っ込んでしまったのか、と自重だ』

 「お前にも聖杯に懸ける願いがあっただけだろう、ライダー?」

 セイバーはもう居ない。自分一人なら泊まれるわと教会へと行った。俺は……行く気になれない。もうこの俺は、睡眠の機能がないから

 『そしてそれは、ある意味母上と同じ夢であった、と

 やはり血は争えない。母上ほどに全てを捨ててそれをやれるわけではありませんが、同類だと分かって、少しだけ凹みましたね』

 「そうか」

 ……ある程度分かっていたことなので、聞き流す。あれだ。フェイが……モーガン・ル・フェイが居るのが分かっていて、しかもそいつが黒幕で、その味方側のサーヴァントとして召喚に応じるとか普通の円卓の騎士には不可能だから

 『だから。私はもう聖杯を望みはしない

 我らが王のために聖杯を、と思ったあの日は間違いだった。そうは言わないまでも、今この聖杯戦争を勝ち抜き、聖杯をあの人にもたらすのは間違っている

 だから、私はあの聖杯を望まない。ただ、母上の計画を終わりまで見届ける為に、貴方と契約した』

 「分かってる。俺も、お前に戦えと言う気は無い

 神は、俺の敵だ」

 空に不吉に輝く火星を見上げ、俺はそう呟いた

 

 そうだ。遊星たる俺の敵だ。アテナも、そして……ティアマト神も

 そこでふと、違和感に気が付いた

 未来視で見たと言うティアマト神は俺が呼んだものではない。俺がティアマト神を呼ぶはずがない。俺は……一時は己をかの神の欠片を取り込んだとか勘違いしていたが、その真実は遊星の端末となった者。その俺が、わざわざ間違いなく俺を最優先で排除しにくるだろう虚数の世界に落とされたかの神を招来するなど有り得ない。ならば、何故?何故(なにゆえ)にこの地にティアマト神は降り立つのだろう

 フェイの嘘……な、筈はない。ミラの啓示も、かの獣がこの地に降り立つ未来を告げたと言っていた。このままだとティアマトが降臨するというのは間違いがない

 その未来では、何者かによって聖杯から召喚されたティアマトと、降り立つアリストテレスータイプ・マァズが激突する事で世界が終わりを告げたと言っていた。前は、それは俺が聖杯を手にした場合……だと思っていた。だが、違う。逆だ

 タイプ・マァズは俺に、いやこの星に1万と4000年前に降り立った遊星によって倒され、捕食されている。ならば、あの未来で軍神の星を背に降り立ったという機神の方が俺。正確には、銀の翼として完全に遊星の尖兵としての機能を取り戻しきった俺が纏った外殻、それがミラの、そしてヴァルトシュタインの見た終焉の軍神(タイプ・マァズ)の正体だ。真実、あれは世界を終わらせに来たアリストテレス等ではなく。俺から顕現した捕食の星

 ……ならば。ならば

 ティアマト神を呼び起こす何者かとは俺ではない。だとすれば、だ

 

 立ち上がる。やるべき事を。先手を打って……いや、本来は何よりも優先して潰さなければならなかったはずのものに思い至ったから

 

 「……ライダー

 お前は、フェイそのものにはまだ興味があるかもしれない」

 『急に何を』

 「他のヴァルトシュタインに義理立てする気は」

 『全く』

 「……ならば、良い

 手伝えるなら手伝え」

 『いったい何を?』

 一呼吸だけ置いて、俺は告げた

 「フェイのマスターを、ヴァルトシュタインを、今から殲滅する」

 ……漸く、フェイが彼らにずっと手を貸してきた理由を理解した。俺みたいなものを作れたのはイレギュラーだろうが、世界の危機を呼び込もうとしていたのは間違いない。その理由は良く分からないのだが……。とりあえず、世界の危機を起こそうとしていたフェイが世界を救いたいヴァルトシュタインのサーヴァントなんてやって聖杯戦争をセッティングした理由は、よーく分かった

 ヴァルトシュタインが降臨を願った、地球のアルテミット・ワンの真実。救世主の正体は……原初の母、全ての生命の母神(ティアマト)だ。フェイは、聖堂教会の唱える主と嘯いて、彼等にタイプ・アースとしてティアマトを召喚させようとしたのだ

 『何故、とだけ聞きましょう』

 「フェイの目的が分かった。だから、それを止める為に、ぶっ殺す。それだけだ

 俺ではない獣、本物のビーストⅡ。そんなもの、呼ばれてたまるかという、単純な話さ」


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