そうして、戻ってきた街をあてもなくさ迷う
……何故、あの時飛び去ったのだろう。何でだったのだろうか
そんな事すら、分からなくて
自分の事すら、今の俺は分からない。何が本当で、何を信じれば良いのだろう
銀の翼、星の尖兵。それが俺だ。ザイフリート・ヴァルトシュタイン。幾つもの偶然から産まれ、星の輩として存在を繋いだ何者でも無かったはずの霊子の塵。神巫雄輝を救うためにだけ存在するシステム
そうであるべきだし、実際問題そうである。そのはずだ。分かっている。そんなことは正しいのだと
だが、だ。思い浮かぶのは柔らかく笑う銀の少女の顔。朗らかに笑う金の少女の顔
切り捨ててきたはずなのに、何時かゼロになるものだとしてきたはずなのに。少しくらい持ってても良いだろうしてきた想い出の残骸は、何時しか背の翼をもってしても運びきれないほどに重く大きくなっていて。捨てなければ
そうすれば、俺は本来あるべき銀の翼に戻ることが出来る。捕食遊星の端末、指輪を通して顕現した異次元より蘇るアンチセルへと
……本当に?
あってはならない疑問が胸を過る
そもそも、この思考そのものが、いや、今の俺そのものが……
遊星の意思によって歪められていたのかもしれない、なんてバカな考えが泡のように浮かんで弾けた
「あ、おい!君!」
……戻ってきたのだろう。警察の人だ
……どうでも良い。ただ、あてもなく歩みを進める
「……っ!その紅の目は!」
どうしたのだろう。紅の目?ああ、確かにそんな眼の色してるが
「応援要請!応援要請!食人一派を三丁目東通りで発見!形態は男性型、大型の角を携えた異形上位個体と思われる!至急応援を!」
……と、警察らしき人は通信を始める
人食いの一派?ああ、そういえばバーサーカーの奴が大いにやらかしてたな。その関係か
大々的に人を襲っていたからな。人を食う血色の眼をした集団。まあ、ミラが何とかしていたっぽいが実際に襲われた人々が何人も居るだろう以上完全に誤魔化しは効かないか
にしても、仮にも人間に銃を……と、言いかけて。前から生えてた血色の角が角であると明確にわかるほどに延びたままであるということに気が付く
忘れてた。翼は流石に仕舞っていたのだが角はそう気になるものでもなかったしな
発砲。飛んでくる銃弾は、そのまま顔面で受ける
「んなっ!」
無傷。サーヴァントであれば同じことがほぼ誰であれ出来るだろう。吸血鬼でも似たようなものじゃないのか?
……いや、と落ちた銃弾を見て否定。弾の中に何か仕込まれている。物理火力をあげた代わりに魔術的な性能の下がった黒鍵って感じの弾丸だなこれは。聖堂教会辺りが事態を早くに集束させる為にでも贈ったのか?また変なものを。だが、まああのバーサーカー残党くらいには効くだろう。バーサーカー本体なんかには全く通らないだろうがあれはサーヴァント化した吸血鬼の伝説だからな、普通の人間の使うものが魔法以外で通る方が可笑しい
「くそっ!化け物共め!」
二発、三発
乾いた銃声が冬の寒空に響き渡る
「失せろ』
その声は、自分の思ったものより大分低かった
紅の翼を拡げて、そのまま槍のようなその血翼で首を……
って、何してるんだろうな、俺。ナチュラルに魔力を……と相手を喰らいかけた。駄目だと分かっているはずなのに
「う、うわぁぁぁぁぁっ!」
銃すらも放り出し、警察の人は逃げ去って行った
「……武器は魂を懸けるものだろう。捨ててくなよ」
なんて呟く俺の背に
『いいえ、命乞いだもの棄てていくわよ
自分はもう戦えません逆らいませんだから許してーって』
なんて言葉が投げられる
「……セイバー」
『ええ、久し振りね
そのサーヴァントは、悪びれることなく微笑した
そしてその横に見える騎乗していないのがどこか不思議にも思える人物は……
ライダーだ。ライダーのサーヴァントとセイバーが共に居るのは別に可笑しくはない。旧ライダーに昔仮面夫婦だったよしみで押し掛けてたからなセイバー
だが、旧、とつかない方だ。つまりは、第七次の生き残りであるライダー、ユーウェイン。獅子の騎士
「何の用だ、ユーウェイン」
『良い知らせと、悪い知らせがある』
『悪い知らせと、とても悪い知らせがあるわ
「……仲良しか?」
『いえ。今は違うわね』
「まあ良い
良い悪いは個人の感想であり同件か?それとも別件か?」
『同件……のはず』
「じゃあどちらかでも良い
いや、悪い知らせから話せ、ユーウェイン」
その言葉に、はあとその騎士は溜め息を付いて
『女神同盟なるものが発足した』
と、変なことを言ったのだった
「女神同盟?
この時現界しているサーヴァントで女神と呼べるのは……」
軽く思い出してみる
「かつてランサーと呼ばれたブリュンヒルト。それだけだろう?
ミラは神の使途だが女神ではない。フェイは妖精だが女神と言えはしない。紫乃はサーヴァントではないし女神なのは神巫雄輝にとってだけだ
そもそも、ブリュンヒルトも戦乙女ブリュンヒルデの力だけを使っている反則スレスレであり女神と呼べるかどうか」
『もう一人、居るでしょう
「あれは最早残骸だ
あ、オレ負けたことで良いからちょいとこの体を構成してる霊子を霊基の核ごと聖杯に入れとくぜ?なバケモノじゃあない。素直に未来が見えるか何かでたかを括っていたらフェイに不意を撃たれて聖杯に叩き込まれた女神モドキだろう?それがどうした」
『復活した』
「……正気かよ」
と、思わず呟く
もう一人の女神、ギリシアの女神アテナ。正確には、彼女の力を借りたカッサンドラ。ほんの少しの間だけ同行した久遠某のサーヴァントだった者だ。7つの聖杯戦争を越えた後の聖杯戦争を始めるために当時は参戦サーヴァント枠外のフェイによって当の昔に俺の知らない所で潰されていた第七次のキャスター
その彼女を救いたい一心で、あの吸血鬼は死に残っていたらしいが……
『そして、これが良い知らせに繋がる』
「どう繋がる?」
『女神同盟の切っ掛けですが
私のマスターが、残骸の神殿に侵入し、同じく死に残っていた彼女のマスターを私に殺害させた事です
首を跳ねられた少年が消滅の間際に最後に残された力を振り絞り
そして、それは奇跡のように、聖杯に埋め込まれた女神に届いた』
「で?お前のマスターは奇跡が起こって復活した女神に消し飛ばされたと?」
『その通り』
「何処が良い知らせだ
フェイに頼んでマスターを適当に見繕って貰え」
『その結果、母上の事も考えた場合最終的に貴方しか居ない。私と友はそう結論付けた』
「……はあ」
要約するとこうだ。フェイに負けて聖杯に取り込まれてたキャスターが何でか復活して自分のマスターが殺された。このままではマスター不在で消えるからお前がマスターをやれ
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」
『……我が王の騎士足らんとするユーウェイン、その言葉を受けましょう』
「じゃあ令呪をもって命ずる、自害しろ」
『お断りします。令呪が本当に使われていれば逆らえませんが』