これからも超不定期です
「ぐっ!」
体が空に縫い止められる
こんなもの、と抜け出そうと翼をブースト
びくともしない。壁に釘で打ち付けられでもしたかのように、虚空に縫い止められ微動だにしなくなっている
後ろにまで首を180度回せば確認出来るだろうが、そもそもそんな必要はない。首の骨外せば回せるしやっても良いのだが時間の無駄だ
「星の、聖杖……」
ぼんやりと、そんな言葉を呟く。俺ではなく己の中に、虚空の遊星の記憶に残る忌まわしい名を
「<大河鎮定神珍鐵>、貴様か、アーチャー!」
『いや違うでしょう』
と、冷静なフェイの突っ込み
知ってた、流石に出てこないだろうあのアーチャー
「かーくん、なんでなの!」
響くのはそんな声
まあ、当たり前ではあるが、紫乃の声。死んでいなかったらしい
いやまあ、良く良く考えればあのフェイのカウンターは異次元に放逐するだけの宝具らしいし、ミラも直前に放逐していた訳だし、普通にミラと二人協力して生きて戻ってきても可笑しくはないのだ。次元をぶち抜く宝具だってアーチャーから借りている訳なのだし。だからそもそもの話、フェイが紫乃を殺したかのように思っていた前提からして間違っていた。言ってしまえばそれだけの事
「……紫乃」
果たして、ハシバミ色の少女は黄金の雲に乗せられ(立ってはいない。膝を折って座っているし完全に雲側が配慮して落とさないようにしている)、空に居た
「世界を貫き、星を繋ぎ留めるは星の聖杖
再び邪魔をするか、猿!』
俺の中の己が猛り狂っている。それに身を任せれば、完全な銀の翼に戻れるだろうか。分からない。そもそもその果てに何があるのか、それすらも不明瞭になってくる
俺は本当に、この先『回帰』出来るのだろうか。銀の翼を翻し、星の尖兵として世界を破壊したその果てに、本当に?
今までロクに疑問にも思ったことがない、当たり前だとしていた事が揺らぎ始めている。これで、こんな俺に、本当に未来を託して良かったのかよ、ニア
そんな事を思ってしまい、奥歯を噛んで振り切る。己の猛りごと、銀の翼を溶かして振り払う
そうして、紅の翼を広げ直した
「……紫乃」
『彼はワタシを選んだ訳ですから、負け犬はとっととお帰りを』
「選んでないぞフェイ」
『と、口だけは素直ではないですが
成程、これが現代で言うつんでれというものなのでしょう』
「かー、くん……」
『危ないよ、わたしの後ろに下がって!』
雷鳴と共に、金と赤の少女が空を駆け上がる。ミラだ
当たり前と言うか、ダメージも何も無いんだから追ってくるわなという話
『……迷ってるよね、フリットくん』
投げ掛けられるのは、そんな声
「迷い、か」
『だからね、戻ってこれるよ』
優しく響く、聖女の声。全てを許すような、甘い声
『そんな訳無いでしょう。もう戻れませんし、戻ることに意味もありません。アナタはもう選んだんです、今更止まっても半端に終わるだけ
大人しくワタシと来るべきです』
それを否定する冷たく、けれども心地良い声
「俺は」
「かーくん!どんなに変わっちゃっても、かーくんはかーくんだから」
……紫乃
俺は、己は、俺は……
「俺は、神巫雄輝じゃ、無い!」
俺は、俺の信じた道を行く!神巫雄輝を救いたいと思った心は、多くの命を屍に変え築き上げた
「俺は……」
「ザイフリート・ヴァルトシュタインだ!」
「かーくん!」
選ぶ道は、第三
フェイの元から去り、ミラと決別し
ただ、空を駆ける。この聖杯戦争に決着を着けるために
本当に?と、紅の光に混じる、少女が遺した緑炎が揺れた、気がした