Fake/startears fate   作:雨在新人

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十一日目ー世界への回帰

そうして

 剣を受けた世界は元に戻り

 

 「よっ。と」

 ふらりと体勢を崩し倒れこむフェイの体を、銀翼を解きゆっくりと右腕で受け止め、抱え込む

 左腕は再び無くなった

 無くなった……というのは他でもない。消し飛ばされた神巫雄輝の体がそうであったように、左腕が肘先から消し飛んでいる状態に戻ったという訳だ。戦闘中ならばそれこそ外殻を纏えば良いのだから無視で良い。だがまあ、コアたる今の俺の姿は未だに摂理に還す神鳴の影響を受けているという事なのだろう。同じく右目も光を失い、元の見えないが故に別のモノを見る目に戻っている。まあこれは、両目の視界が残っている事よりもよほど俺の本体(封印された遊星)がハッキングしたかの月の聖杯からの情報を重ね見る目の方が有用なのでもしも両目が健在であれば自分で抉り取っただろうが

 だが逆に言えば残った傷は摂理の神鳴が消し飛ばしたその二つ、そして某アーチャーの宝具が掠め取った耳だけ。引きちぎった足も何もかも、再びこの体を形成する時に存在する状態に戻った

 

 『……おや、そこまで戻るんですね

 ついでに全部修復したものかと』

 抱き込まれたまま、少女は首だけ曲げて此方を見る

 「銀翼とは外殻。コアがどんな姿でも問題はないだろう」

 『ええまあ、気に入ってるならばそれはそれで良いと……』

 言葉は途切れ、紅の花が咲く

 

 別に何処からか射られた……とかそんなではない。ただ単純に、吐血したというだけだ

 世界は揺らぎ、狐の都は既に街にプロジェクターで投影した陽炎であるかのように朧気。変わりにかなりしっかりした影として、伊渡間の街並が戻ってきている。未だ人は居らず、けれども人が居れば唐突にその細い喉をどうやって通ってきたと言いたいレベルの血塊を吐いた少女に多くの目が集まるだろう

 『……かはっ』

 二度目。今度は俺の方を向き、わざとだろう、胸元……というにはちょっと低い場所に向けて吐血

 『……成程

 やはりというか、効きますね……』

 いやー困りましたとばかりの嫌味。正直そこまでのダメージは無いだろうと言いたくはなる

 

 「ああ、そう……だっ!」

 唐突な吐き気。体内の血総てが針におきかわってしまったかのような痛み。全身の血管に細かな穴が無数に空いたように迸る感覚に、一瞬だけ平衡感覚が狂う

 恐らくは口の端から血が垂れただろう

 ……フェイの吐血も理解した。これはまあ、衝撃を血として逃がしたくもなるだろう

 かの宝具は呪い返しの対界宝具。塗り潰した世界をそのまま跳ね返す草薙剣。遊星の尖兵としての特性的に多少周囲の世界を侵食していた俺も、その跳ね返しを見事に食らったという訳だ。世界そのものを展開していたフェイには到底及ばない反動ではあるが

 ……となると、よくもまあ気絶しないものだ、なんて思って、ちょうどよい高さにある銀の光を湛えた頭に触れ、少しだけくしゃっと

 

 『……なんですか、いきなり頭を撫でて

 ワタシは子供ではありませんよ』

 「いや」

 言いかけて、何でこんなことやったのか自分でも分からなくなる

 「多分、紫乃の事を重ねたんだろう」

 そう、もう居ない少女の事を。砕けた魂の欠片を繋ぎ合わせる中で見た彼の記憶のなかには確かに割と良く頑張ったなと紫乃の頭を撫でていた場面があったはずだ

 

 『……廃棄物の事を口に出されると割と不快ですね』

 なんて言いながらも、ホワイトプリムのついた頭は特に逃げる様子はない。咎める言葉も紫乃の名前を出したこと

 ……未来はまだ見えているはずだ。あの世界はなくなったが、それでも此処は伊渡間市。ヴァルトシュタインがモーガン・ル・フェイと共に何時か七度の聖杯戦争を越えて救世主を光臨させようとした地。かの地の龍脈は伊渡間の森なんて位相のズレた世界を用意出来るほどには歪められており、未来が見えてもおかしくはない

 だというのに逃げるどころか頭を預けたままというのは…

 

 分かっているのだろう、と奥歯を噛む。微かに撫でる手に力を込める

 この手に力を込めれば。今の瞬間に銀の翼を翻せば、この少女の銀髪の可愛らしい顔を消し飛ばすのも難なく出来るだろう。逃げる余裕など与えない一撃で終わらせる

 紫乃の(かたき)討ち、なんて嘯いて魔がさせば、それで殺せてしまう。そんな状態で、そんな未来が見えていても大人しく命を人質に取られたままでいられるだろうか。少なくとも俺には無理だ。座して死を待つなんて俺には出来ない。神巫雄輝の死を、あの最期を、理不尽な悲劇を認められなくて、俺は星の尖兵にまでなったのだから。更なる理不尽な死を撒き散らして

 

 だから、分かっているのだろう。結局俺にはフェイを"まだ"殺せない。大切なモノを、神巫雄輝の為に守りきらなければならなかったはずのものを……

 いや待て。『回帰』すれば良いだろう何を考えている、俺。気でも狂ったか?

 

 なんて、何時しか狂っていた歯車に愕然とし、舌を噛んで気を確かに持つ

 閑話休題。神巫雄輝の幼馴染の仇であろうと、大丈夫だと確信している

 そうして、気を散らせた瞬間

 

 背後から迸る雷鳴に、漸く気がついた

 『もう少しこのままで構いません』

 体の強張りに対して暢気?或いは煽りかそんなことを言うフェイの頭から手を離して首筋を掴み、そのまま縮地。魔力を踏んで空間を飛び越え、後方へと飛び退く

 

 『はぁぁぁぁぁっ!』

 そんな俺が一瞬前まで居た場所に、煌めく神鳴が降り注いだ

 「……ミラ」

 『全く、一時しのぎなのは知っていましたが本当に空気が読めませんねこの腐れ裁定者は。もう少し大人しくしていて下さい邪魔です』


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