Fake/startears fate   作:雨在新人

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リアル問題でエタ気味で、真に申し訳無い
また超不定期です


十一日目ーメイド少女と、帝都決戦 終戦

『……悪魔よ、去れ』

 ただ振り下ろされる一撃を、横転して回避。何時もならば縮地と洒落るがそんな力はない

 だが構わず一歩、そして

 

 『そこ』

 彼の得物は長槍。それは確かに強いだろう。当たり前だ、射程は俺の手の剣とは比較にならない。威力もまあ、俺の手にこの剣がある限りにおいて向こうの方が上だろう。ザイフリート・ヴァルトシュタインは星の聖剣の敵でこそあれ、使い手では決してない

 だがそれでもだ。得物を振るえば隙となる。俺は一人ではない。背中を預ける……には何とも奇妙な存在だが、アサシンが其処に居る。サーヴァント擬きにすらも届かない人間に毛が生えた失敗作(ザイフリート・ヴァルトシュタイン)と、本来はこれ以前に相討ちで消えているはずの死に損ない(ヴァンパイアハンター)。一には足りえぬ馬鹿二人、それでも星の剣まで足し合わせれば一に届くだろう

 振り下ろされるのはハンマーの一撃。かの聖王の体、何時ものボウガンでは相性が悪いという事だろうか。確かに対吸血鬼武器と吸血鬼が嫌いそうなものの塊な十字軍、何となく効き目が薄そうな感じはあるが…

 『無駄、無意味、無価値!』

 その一撃が届く前に、相手は体勢を立て直し迎撃する。地に着いた槍の穂先が跳ね上がって落ちてくる槌の柄を狙い……

 『ばぁん』

 突如ニアがその手に持つものが変化。何時ものボウガンへと変わる。護りも解け、槍はさっきまであった槌を相手するために半端な虚空に留まり止めるものは無い

 ブレは縦に。横にはブレぬが故にまあ当たる。アサシンの手に力が掛けられ、ボウガンから銀の矢が放たれる……

 

 『それが、限界か!』

 「その、通り!」

 突如銀の前に飛び出す銀の影。つまりは何時もの十字軍兵士

 その最後の盾を予測、出してきた瞬間に魔力ブーストを込めて、横凪ぎに星の剣を振り抜く!

 一時、銀の聖王への道は開き、其処を矢が駆け抜ける

 だが、それは……

 『……くれてやる。悪魔よ、その名誉をもって地獄へ行け』

 胸に当たる寸での所で左腕によって受け止められていた

 

 『……ふん!』

 そのまま両手持ちの横凪ぎ。槍によるそれをかわす為、アサシンと共に後ろへのステップ

 「……その腕、貰ってないが?」

 『血をくれてやると言ったのだ、悪魔よ』

 「固いことだ」

 軽口を……叩いている場合ではない

 そんなことは知っていても尚呟く。それしかやれることがないから。状況はまあ、贔屓目に見て1vs1。それは十字軍を無視しているから。フェイの気紛れか、殴りあい始めてからは十字軍兵士は一切仕掛けてこなくなった。……というのも、多分だがフェイの仕業だ。常時フェイを護る次元結界、この世界そのものを作り上げる宝具……<全て遠き理想郷(アヴァロン)>。三次元ほど飛び越えて初めて届くというその守りの一部を、俺たちと旧ランサーのみを世界から隔てる事に使ったのだろう。自分だけは例外として他の何者も手出し出来ぬよう。その証拠か、何時しか音は消えている。単に鼓膜が破れた……というのは当の昔に破れているから置いておいて、魔力でも知覚が不可能な程に静か。俺と、ニアと、そして旧ランサー、その3つの音しか世界には無い。後ろを振り返る隙はないが、もしも振り返ることが出来たならば、俺の後ろには蜃気楼のように揺らいだ景色が映っているのだろう

 では、何故盟主を庇いに兵士が来たかと言うと……呼べば召喚出来るだろう全ての兵士は奴の夢だ。あの鞘は人の夢を否定する宝具では無いのだし、夢の具象化はフェイがかの鞘を使って他のサーヴァントに付加したものなのだから世界を一つ隔てようがそれは止められない。逆に言えばそれでも隔てた先の世界に改めて召喚し直さなければ来ない。大量展開をさせなければ邪魔は入らない

 

 「……やってやる!」

 その意思をもって、星の剣を手に斬りかかる……

 

 そうして、数分

 決着は付かず、そもそも戦いの天秤は揺れず

 何とか戦えているという状態のまま、事態は何も動いてはいなかった

 ……ふと、フェイに頼むか?という弱気な思考が頭を過る。正直な話助けてくれフェイと一言言えば助けてはくれるだろう。だがそれをしてはいけないと直感が呟く。それでは全てが終わると

 

 「ならば!」

 大きく距離を取り、一つ呼吸

 そもそも何故思い出さなかった、というもう一つの戦い方を

 「降霊、始動(アドベント・コネクション)!」

 そう、降霊魔術。神巫雄輝が神巫雄輝で在り続ける事を許されなかった原因。俺を産み出そうとした元凶たる魔術。ある意味その極致に夢幻召喚(インストール)があり、今の俺はそんなもの使えない存在に墜ちている。だが、それは……神巫雄輝に毛が生えた失敗作として殺された本来の星と一切関わりの無い俺という限界に英雄伝説の再現として押し込められているから。ならば、神巫雄輝が使えたソレを、使えぬ道理などありはしない!

 力を貸せ、星の……

 「っ!」

 そこで、切れる

 ……願いは届かず、魔術は輝かず、星は沈黙する

 

 「くそっ!」

 行けると思った。あくまでもかの星とのリンクは向こうから切られた訳でも俺から切った訳でもない。不純なものによって強引に妨害されているだけ。今もアレと俺はこの胸の指輪によって微かに繋がっている。それは本来それ以上進むことはなく進んではならなかったものかもしれない。それでも、確かにリンクしているのだ

 ならば手を伸ばせば届くと思った

 だが、届かなかった

 『……悪魔がぁぁぁっ!』

 炸裂する十字の光。それをギリギリで星の剣の腹でもって受け止める

 にしても十字型の閃光ってゲームの魔法か何かかよと、そもそも妄想の産物故古代の人も英雄には光魔法かと謎の場違いな親近感も覚えながら

 星の聖剣は折れることはない。ヒビすら入るはずもない。けれども、その剣は俺の手から吹き飛び、次元を貫いてフェイのいる世界側に落ちる。多分怨敵の手から逃げたのだろう、健気な事だ

 

 『……迷った?』

 「……迷った?」

 聞き返す

 『終末の銀彗星になれば良い。それを止めた』

 「……そう、だな」

 そう、届かなかったのは俺の手だ。ふとした何かが、あそこで言葉を止めた。だから届くはずもない。そんなことは心の奥底では分かっている

 それでは勝てないことも識っている

 だから銀の星に手を伸ばせ。捕食の星を取り戻せ。『回帰』せよ。そんなこと、分かっている、はずなのに

 

 『諦めたか』

 槍が迫る。迷いが足を止め、致命的な隙となる

 どうしようもなく、迫る一撃。それは避けようもなく……

 小さな体を貫く

 

 何度目だろうか、彼女に護られるのは。何度目だろうか、彼に呆れられるのは

 何度目だろうか、自己に情けなさを去らすのは。俺は星の尖兵、終われない想いから遊星と契約し、俺としての自我が確立したその時から星の尖兵たる銀光を<月王顕す盟約(ファンタズム・レガリア)>に元々湛えた獣。そうであるはずだし、そうでなければならない

 だというのに、此処で立ち止まり、護られる

 「……ニア!」

 『……迷ってて、良い』

 「……そんな、事は!」

 『……これで、いい』

 「……良くない!」

 『……ぱーふぇくとじゃ、ない』

 「ならば!」

 『でも、ぐっど』

 『煩いぞ、悪魔共!』

 根元までその胸を貫いた槍が輝く

 

 『……「ボク」の、「俺」の、「私」の役目はこれで終わり』

 「……こんなんで、良いのかよ!」

 『……大丈夫、信じてる

 その迷いが、「ボク」の希望(ザイフリート・ヴァルトシュタイン)だと』

 その一言だけを残し、蒼い髪の少女は槍の放つ十字の光に消えた

 同時、腕に残る痣も消える。本来消えるはずだった時を越えた令呪は役目を終え、今度こそかのサーヴァントは何でもなかったものに戻り消える

 地面に落ちる一枚のクラスカードだけが、かつて其処に居た誰かの証であった

 

 「……ああ、さようなら(またな)、アサシン:ヴェドゴニア」

 だが、それで光は留まらず

 動かない俺の体をも、光の中に焼き払った


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