Fake/startears fate   作:雨在新人

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十一日目ーメイド少女と、帝都決戦 開戦

『悪魔がぁぁぁぁぁぁっ!』

 

 その叫びを無視しながら、飛翔

 銀と紅の海、鉄兜と旗を掲げる十字軍の人の海の上を飛び越えて、門の上に着地。辺りを確認

 既に一度内裏なんぞに戻った間に進攻は進んでいる。紅の色は、旗の色ばかりではないだろう。崩れた家屋の色、其処に飛び散った鮮血の色、バラバラになった式神の色、そういったものも多少は混じっている

 扉は十字にくり貫かれ……と言いたいが、これでは逆T字である。大地に一直線に幅1mちょっとの抉り取られた帯が残っている事から、地下まで考えればしっかりと十文字型にぶち抜かれているのだろうが……。というか、十字型のビームでも放つのかあのランサーは。ファンタジーの存在か何かか

 

 何て、自分に突き刺さる言葉を脳内でこねくりまわしながら、周囲確認。生存者無し。この場に居るのは、俺と己と旧ランサー、そしてその夢である十字軍のみ

 ならば、遠慮など要るまい。どうせ存在はバレているのだ、先手あるのみ

 「<偽典現界・幻想悪剣(バルムンク・ユーベル)>!」

 飛び越える際に吹き出しておいた魔力を束ね、空間跳躍。右足で大門を踏み切った瞬間には地上に俺の体は在り、一拍遅れておいてけぼりにされた魔力が前方へと吹き飛んだ

 

 「あ、悪魔……」

 「怯むな!悪魔なぞ恐るるに足りず!」

 「我らの槍を受けるが良い!」

 響いてくるのは口々に唱える幾つもの言葉。鼓膜なんてもう破れていて、幾つか耳障りの良い言葉だけを魔力で拾って脳内翻訳しているだけ。本来はもっと口汚い罵りや罵倒も混じっていて、幾つかはスラングなのかその方面に意識を向けていない為意味不明の文言として処理されているが、まあ問題ない

 「……お前らに、用は、無い!」

 血色の翼を限界まで展開。引き延ばしに延ばして槍状にしたそれを、爪のように指先だけ血色の光の剣と化した右腕と共に左足だけを軸に大振り回転して振り回す

 感触はない。あくまでも彼等は人間に毛が生えたレベル。ただ単純に正義に目覚めて十字軍に参加しただけの人間の夢である。サーヴァント相手に個々では太刀打ち出来ようはずもない。バターでも切るかのように、光の爪で、翼で、呆気なく引き裂かれて血の水溜まりを残す

 

 だが、それに意味はない。あれはあくまでも夢だ。旧ランサーの固有結界でしかない。そんなもの、幾ら殺そうが一時しのぎにすらなるか怪しい。彼等は総体でもって宝具、<十字軍>。あくまでも東方から来る存在として現界しているからか獅子心王だとかの大物が混じっていないことは救いな、旧ランサーの宝具に過ぎない。例え総員殺し尽くそうが、再度宝具を展開されればついさっき殺したはずの者達は再び俺の前に立ち塞がるだろう。あくまでも彼等は全て一人のサーヴァントの心象風景の具現化なのだから。根底のその風景を、心そのものを折り砕き焼き尽くさない限り、奴等は何度でも蘇る

 それはまた、この都もそうなのだが。気がつけば、門は修復されている。街並みも元に戻っている。道行く人は恐らくは屋内に籠っているのだろうが、確かに居る。そしてまた、血の海に沈めたはずの志願者達の遺骸も消えている

 

 『雑魚に構っていても意味ありませんよ

 無限に出てきますから。いえ、そうでもないですね。相手の心が折れるまで殺し続ければ、そのうち相手の心象が配下が殺し尽くされた血染めのものに塗り変わって止まります。けれども、あの旧アサシンと違って頑固者ですからね、オススメはしませんよ』

 ひょい、とずっと其処に隠れてましたよとでも言いたげに、建物の影から銀髪のメイドが顔を覗かせた

 「あれは弱すぎるだろう」

 『ええ、だから崩しました。邪魔ですので』

 くすり、と少女は無邪気に笑う

 俺と同じ目だ。人の命を、存在を、奪うことを何とも思ってない。存在を等価値としていない。だからこそ邪気の無い目

 

 「よくもまあ、こうも敵に塩を送ったものだ」

 唇の端を吊り上げて、笑う

 『そうですか?』

 「そうだろう?この力は、固有結界は、お前がばら蒔いたものじゃないか」

 『ん、まあ、そうですね

 例えアナタが居なくても勝てる、だからやったんですよ』

 「本当にそうか?」

 からかうように、問い掛ける。適度に翼を振るい、またまたやって来る銀と赤の軍勢を血の海に還して、片っ端から消えてく人間の残骸を絶やさぬように。最早どんぶり勘定、正確に何人殺したかなんて覚えてられない。二度三度と殺した者だってきっと居るだろう。右目を全力にすれば見分けだってついたのかもしれないが、そんなことに力を割くのは止めておいて

 

 だから、こんなもの、偽善以下で

 

 『勝ちますよ、アナタが居なくても。だというのに今やアナタが居る以上、負ける道理なんてあるはずも無いですね

 だから、こんなもの塩でも何でもありません。聖杯を正しく満たす為の通過儀礼みたいなものです』

 「酷い話だ」

 銀の軍勢に向き直る

 幾体かのバケモノが、その軍勢に襲い掛かっていた。式神、この都の陰陽師である。さっき殺されたはずだが、それはそれだ。この都も旧セイバーの固有結界、旧セイバーはまともな戦に立ったことも無いだろう平穏な時期の君主、そのお膝元たる平安の都は彼の夢である以上荒れてなどいる訳もない。都の守護者達も旧セイバー本体を叩かぬ限り何度でも舞い戻る

 つまりは、今やっている事は無意味な殺戮でしかなくて

 

 「その割には、あの旧アサシンは風神雷神を呼び直したりしなかったな」

 ふと気になり、問い掛ける

 俺と己、同一人物ではあるのだが、俺ではちょっと分かりにくい事もあり、聞いてみる

 『それはもう、アナタが居た訳ですからね。正確にはあれは銀の翼に勝利を乗せて、破壊の銀を灯した星の尖兵ですが

 今のセーブ状態ならいざ知らず、本気のアナタが居れば負ける道理なんて無い、訳ですよ。人の夢も零に回帰しますからね、銀の光は』

 「そういうものか

 銀翼でぶった切れば夢は破壊出来ると?」

 『ええ。だからあの時、旧アサシンは既に壊れた夢を抱えていた訳ですね

 あとはまあ、摂理の神鳴でも同じことは起きますが』

 何度かそれでも飛んでくる槍は気にせず、少女は俺に腕を絡める。緊張感というものが欠片もない

 だがまあそれも仕方はなく、式達は此方を狙うことはなく、飛んできた槍は空中で静止、即座に投げた当人ごと空気に溶けて消えて行く。それしか無い

 俺が出る幕すらない。ただ眺めているだけで、フェイの前に俺を除いて敵は居ない

 

 『さあ、どうします?選択肢は大体4つです』

 腕は絡めたまま、少女は微笑んで告げる

 『一つは、このまま心が折れるまで殺し続ける道

 けれども、アナタの心にはそぐわない下策ではありますね。二つ目は……』

 「銀の翼と化して全て吹き飛ばす」

 『ええ、そうです。簡単ですね

 3つめは更に簡単です。そもそも戦わない。別に構いませんよ、ワタシ一人でも十分ですし

 そして……』

 『今此処で死ぬ、それが唯一の道だ、悪魔よ』

 『とまあ、出向いてきた親玉を倒す、それが4つめです』


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