Fake/startears fate   作:雨在新人

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十一日目ーメイド少女と、帝都決戦 作戦

『ジィクフリィィトォォォッ!』

 吹き上がる蒼炎

 同時、俺の脳裏にノイズが走る

 

 「来たか、ブリュンヒルト」

 『ええ。だから、この道を選んだのよ。分かるでしょう道具(マスター)

 焔の柱を見上げ、馬上で綺麗な白い歯を見せ女性は笑う

 『ええ。終わらない。終わるわけがないわ、一人で勝てないというならば、彼等の力を借りるまで

 彼女を地獄に叩き落とすまで、絶対に赦さない』

 「「「ウォォォォォッ!」」」

 その宣言に追随するかのように、各々手にした武器ーそれは青銅の槍であったり、剣であったり、矢であったり、或いは鉄の煌めきを放つものであったりと区々だーを振りかざし、馬に乗った男衆が吠える。その中には、纏め役なのだろうか、魔剣や魔槍と言える類いのものを持つ者達が幾人か混じっており

 『眼前の悪魔を、討て!』

 「「「シャァァァッ!」」」

 後方に控える大将首の一言と共に、一気に此方へとそれらのギラつく刃を向ける

 

 「俺じゃなく、そちらと組むか?」

 『ええ。貴方は正直な所苦手なのよ』

 「……分かった」

 「「逃がすかぁっ!」」

 射かけられる20本ほどの矢を掻い潜り、2本は面倒なので血色の鎧で弾き空へ

 そのまま、まあ良いかと戦線離脱。アッティラーフン族の大王、俺に力を貸しているサーヴァントとは別次元の同一の役割を持った者。そもそも、自分の本体を自覚した、己の銀霊の心臓の核が何であるか理解した時点で力を貸している英霊の真名(アルテラ)は分かったが、何故彼女なのかは俺も良く知らない。確かめてみたくはあるが、それは後で良いだろう。わざわざこの都を攻めれば城からブリュンヒルトを引きずり出せると、バーサーカーと戦いに来たあいつと今対峙することはない。後に対峙する前に倒れれば、それはそれで知る必要が無かったというだけだ

 

 ……だが

 『逃がすと、思うか?』

 その声は、背後から響く

 「制空権取られて、良く言うな……って」

 と、言いかけて

 『飛べぬと思うてか!』

 空を駆ける蹄の音に、思わず振り返った

 

 馬が、空を駆けていた。別に天馬でも何でもない、栗毛の馬が、さもそれが当然であるかのように、宙を走っていた

 『馬は我等の友、これくらいは出来んと思うか?』

 「いや、それはUMA(ウマ)じゃなくてUMA(ユウマ)だろ」

 というか、真面目に当時くらいの馬が空を駆けられたならば、大陸から日本列島へと攻め込んできて倭國なんぞ漢委奴国王の時代には当の昔に中華に蹂躙されていても可笑しくないと思うのだが。それこそ、周の時代には……って、馬が飛べずともあの時代には仙人やら宝貝(パオペイ)やらの何時しか狭間に消えていったブツが満載の神世だから、同じく神世の亡霊なあの桃色狐辺りが防いでいたのかもしれないが

 『ふふっ、くだらない言葉遊びですね』

 その声は、メイドの少女のもの

 見ると、空駆ける獅子を駆る年上にしか見えない息子騎士に抱えられ、この空へとやって来ていた

 

 「……忘れかけていた。獅子が飛ぶならば、馬も飛んでも可笑しくはないか」

 『ええ。そもそも、妹も自力で空くらい飛びますよ?お腹が減るそうですが』

 言いながら、ひょいと獅子の背に右手を付き、軽やかに少女はその背から飛び降り空中に着地した

 『適当な魔力を放出出来れば、それこそ言ってしまえば鼠程度でも空は飛べます』

 「昔は空を飛ぶのも恐らくは魔法だったと高説を垂れたことがあるが、間違いだったか」

 『神秘でしか出来ないことではあるので、間違いではないかもしれませんね。一般教養レベルの単純な魔術以下のものですが』

 「……何をやっている、キャスター」

 『はいはい。一旦戻りましょうか、良い年した正義の味方様がお怒りですから』

 『逃がすと』

 『ユーウェイン』

 『やっぱり、私か』

 獅子の背に引っ掛けた鞘から、騎士が己の剣を抜き放つ

 

 『時間を稼ぐだけで良いでしょう、母上』

 『そこは、倒してしまっても構わんのだろう?と言ってください』

 『それは勘弁。退場する気はまだ、ないものでね!』

 爆音、咆哮

 獅子の圧力を伴ったバインドボイスと共に、騎士は空を舞う馬へ向けて駆け出した

 

 「……漸く来たか。あまりにも遅い」

 そうして、仮面を着けていた頃ぶりーといっても一日経ったかどうかなのだがーに、内裏の中へと足を踏み入れる

 一人の男と一匹の狐耳が、その場には待っていた

 否や。もう一人居る。いや、二騎居る

 『ジィクフリィィトォォォッ!』

 「黙れ。セイバーの希望だ、俺は手を出さない。貴様も手を出すな、正当防衛まで、しない気は無い」

 『黙レェェッ!』

 「ここで決着を付けるか、女神ぃっ!」

 飛び掛かってくる、完全に青一色の瞳の異形の女性。腕だけが正にゴリラで、上半身に比べて肉付きはそれなりとはいえ一般女性な下半身があまりにも貧弱。背には蒼炎の両翼がある以上、まあ下半身なんぞ男性を悦ばせる意図でしか使えないのだろうしならばそれで良いのだろうが

 それを手刀で受け止め、身を焼く炎に顔をしかめながら、それでも下手に反撃してしまわないように、抑えて留める

 『ジィクフリィィトォォォッ!死ね、死ね、死ネェェェェェッ!』

 「……フェイ、何とかならないのか、これ」

 とりあえず、炎は現状は光の鎧で熱以外は抑えられている。元々は俺を灼く怒りの炎だったが、かの戦乙女の力を強く発揮した以上は同類である俺に対する火力は寧ろ下がったといえるだろう。力の根源が同じであるが故、互いに本体に近付けば近づくほどに本気が出なくなってゆく

 

 『ワタシがやると、次元の狭間に放逐しますがそれでも良いですか?』

 「止めい、キャスター」

 『と、お偉いマスター様が言っているので、止めときましょうか』

 『って、内裏燃えますぅっ!すとーっぷ!』

 ぺしりと背後から、桃色狐が何処からか取り出した扇子に似たブツでもって炎を噴き上げる蒼銀の乙女の頭を(はた)いた。ってか、どこから取り出したんだそのハリセン

 

 『(ボケ)は去りました』

 「……大丈夫なのか?」

 ゴリラ化は解け、背の高いモデル体型のーというには胸が足りないが、それはどうでも良いー女性となって、槍の乙女は床に崩れ落ちる

 『これはツッコミ用武器なのですっ!暫くしたら起きますしぃ?面倒くさいし話聞かないので、寝てても問題ないというか適当に戦線に放り込む以外の事には邪魔というか』

 「何でもう呼んでるんだそんなもの」

 『何ででしょうね』

 「貴様等サーヴァントがしっかりと正義を果たしておれば、居るだけのお飾りで済ませたものを」

 『と、正義様は言っていますがどうでも良いでしょう。単なる命惜しさに全戦力を呼び寄せ防備を固めようとしたという白状です』

 「……酷い話だな」

 と、言いつつも分からなくもない

 正義は勝たなければならないのだ。だからこそ、何事にも全力を尽くすのだろう。特に、俺という悪を野放しにするどころか手助けまでたまにするような制御の効かない冠位(グランド)が自身のサーヴァントであれば特に、言うことを素直に聞くだろう人形のような手駒を重用したくもなるだろう

 俺にもその心は良く分かる。俺はクリームヒルト(セイバー)の考えを多少は尊重するし、無意味だろうと思いつつもランサーを殺す復讐をやりたいというならばそれはそれで良いかとは思うが、何よりも正義を成すことのみを考えるならば、それ以外の行動を取ろうとするサーヴァントは忌々しくて仕方ないだろう。俺がアサシンに色々と頼むのと似たようなものだ

 

 そのアサシンは、今は姿を隠したままなのだが。今じゃない、やらなきゃいけないことがある、の一転張りだ。彼が何をやったとしても、それが俺の害となることは有り得ない、それだけは既に分かっている。ヴェドゴニアから取ってニア。魔狩人(ヴァンパイアハンター)でありニアという俺に与えられた名を良しとするあのサーヴァントは、そうであるが故に誰でもなく、だが同時にあの安定しない中にある主な人格の真名はひとつに確定する。その真名を持つアサシンだけは、絶対に俺を裏切らない。裏切るわけがない。理論上そんな事は有り得ないと自信をもって言える

 だから、アサシンについては必要な時には出てくるだろうと放置。セイバーはやりたいことだけやらせないと恐らくは反旗を翻すので同じく放置だ。マスターとしては最低の選択である

 

 「……今の俺は、ここの桃色狐や銀狐との約束を果たすために居る

 ならば、俺はこいつの式のようなもの。撃退に協力はしよう

 

 フォックス、それで銀の方は何処へ行った」

 『あの陰険ならば、式神と共に防衛へ

 タマモちゃんは大切な大切なご主人様を守る最後の砦、陰険は最前線、どちらが格上かは分かろうというもの』

 「銀狐だな」

 『信頼すればこそ、彼なら勝てると最前線で早期決着を狙うわけですね。同意です』

 『うるせーですよーうっ!

 ご主人様は、大切なタマモちゃんが万一傷付く事を恐れてるだけですよーうっ!』

 ぴくぴくと耳を動かしながら、桃色狐が食ってかかる

 御簾の裏に座す旧セイバーは、ただすべてを眺めている

 

 『まあ、良いでしょう

 それで、今はタマモちゃんの式って本当です?』

 「……それしかないだろう。ミラは消えた、紫乃は殺された。アサシンは去った」

 ひとつ嘘を交え、だから一人よりはまだ縁ある狐に手を貸す方が良いだろうと話を持っていく

 『いえ、たぶん死んでませんよあの腐れ外道(マスター)

 って、睨まないで下さいよ。本当に腐れ外道じゃないですか、彼女

 

 自分の力を自覚して、傷付きながら振るう事を決めたアナタに比べて、何ですかあの無自覚。あれだけ与えられておいて』

 「……怒るぞ、フェイ」

 『とりあえず、ワタシは殺すことに失敗しているので、多守紫乃殺害容疑は止めて欲しいものです』

 「式か。ならば今此処で正義の為に死ね、悪魔よ」

 「命までやった覚えはない」

 『まあまあ、(わたくし)の式だというならば、ご主人様の前での狼藉NG』

 「……まあ、良い」

 紅の翼を拡げて威嚇はしつつ、とりあえず構えは解く

 

 『ワタシと共に、あの旧ランサーでも叩きますか

 どうせ、そこで寝てる阿呆を放り込んだ方向まで、戦況を無視して旧ライダー、というかセイバーは来るのでしょう?ならば戦況を戦線二つに分けるならば、その分け方が無難かと』

 『とか言ってぇ、彼の前で良いカッコしたいだけなのでは?』

 『勝手に言って下さい』

 「……良いだろう、ランサー側か」

 『さて、正義様が何を言おうが知りませんし、行きますか』

 

 酷い話だな。サーヴァントの割にマスターの扱いがぞんざいに過ぎる、なんて事を考えつつ

 何かをほざいている正義(ヴァルトシュタイン)は無視し、俺は翼を噴かせた


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