Fake/startears fate   作:雨在新人

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"涙の竜星"転 輝きの遊星
十一日目ーメイド少女と、帝都決戦 前章


守るべきであった少女の姿は、やらかし過ぎていて原住民が遠巻きにのみ見守る空気に溶け

 

 ……今か?

 ふと思い、けれどもその思いを振り払う。無駄だろう、今動いても、きっと彼は倒せない。それでは、わざわざ出向いた意味がない

 そもそも、何を動揺している、ザイフリート・ヴァルトシュタイン。元より俺は全てを回帰する筈だろう。その過程で誰がどうなろうが、そんなものは些末な問題どころかどうでも良い事である、はずなのだ。忘れるな、俺のやるべき事を。それは、紫乃が死んだ程度の枝葉末節で変わるようなものではない。だからこんな所で無駄に焦るな、己の力を、世界を回帰する為の借り物の血光を、こんなところで無駄撃ちするんじゃない

 奥歯を噛み砕き、その破片を舐めながら沸き上がる力を押さえ付ける

 ……キレて斬りかかるのは良い。だが、だ。未来視相手にそんなものは無意味だ。己は見えないから無問題?そんな訳があるものか、未来が基本見えているならばこそ、未来が特に不安定になったその瞬間こそが己が出てきた時だと逆に分かるのだ。ならばその瞬間に合わせて逃亡を計れば大抵は対策が突き刺さる。ならば、今の行動に意味はない。やるならば、己状態に……銀翼を翻す星の尖兵になる訳が正当に存在しフェイが納得する理由をもってあの姿を取った後、その対処の最中に巻き込む形であるべきだ

 ……そう。だから俺は、それを待っていた

 

 「……見えているぞ」

 限定展開(インクルード)、セイバー:アルテラ。俺の中の英雄よ、力を貸せ

 形式的に、胸元のポケットから金に輝くクラスカードを取りだし、軽く振る

 右手の小指を紙でたまにあるように軽くカードで切り、その血を垂らしながら振り抜くと、そのカードは血を……いや、血そのもののような鈍く暗い輝きの光で出来た剣と化す。更には、それでは留まらず、青い光と緑の光が絡み付き、そして一本の……斬るよりは突く事に特化したドリル状の刀身のレイピアとでも呼ぶべき剣となる

 「展開完了、……<軍神の剣>(フォトン・レイ)

 そうして、かつての自分がバルムンクのパチモノだと誤認していた血色の光の剣の本来の形を形成して構え……

 されども、迎え撃つ気だったソレは、銀の流れ星と化して、つい数瞬前まで紫乃が立っていた場所へと突き刺さった。……銀の槍。十字の槍

 ……旧ランサー(プレスター・ジョン)の槍

 

 何時槍を投げた当人が降ってくるのか

 空を見上げたその俺の瞳は、日光を反射しながら放物線を描いて落ちてくる、無数の……右目によると78553本の槍の輝きを捉えていた

 「ちょっと待て、一撃じゃないのか!?」

 『そうみたいですね』

 「絨毯爆撃かよ」

 『下手な一撃なので、資源を浪費してでも当てるしか無いのでしょうね。残酷な話です

 ……効くわけが無いんですけど、ね』

 第一陣、着弾

 それはたった数発の投槍。それらは、幾つかの悲鳴と血飛沫の花を、都に咲かせた

 「……」

 狙われたのは、恐らくは陰陽師。術者が居なくなったからだろうか、観覧車擬きをやっていた式が突如かき消え、籠が中身の人ごと地面に墜落する。何もしなければ助からないだろう。正義感が俺にあれば……俺が神巫雄輝なら、或いは神巫戒人でも、きっと助けに行っただろう。むざむざと、喪われる命を見捨てられなくて

 「……東方の聖王」

 『気にしなくて良いですよ。何もせずとも、ワタシの横に居れば妖精郷まで槍は届きません。対処の時間と力が無駄でしょう?』

 「回りは」

 『消えるでしょうね

 所詮全ては影法師。栄華の皇の、自らのきっと治世の民はこうであったというだけの夢の影法師

 消えたから何だと言うんです?そんなものを守るために、大切なアナタの命を使うなんて、無駄以外の何でも無いと思いますが?』

 まさか、やりませんよね?とばかりに、メイド服の少女は軽やかに笑った。そんな人ではないでしょう?と

 ……然り。その通りだ。正義の人ならば、それでもと言っただろう。影法師でも、一人でも多く救うんだと。絶対正義ならば、きっとそうではない。全てを救うんだから影法師だ何だなんて、気にすることかな?と返したろう

 俺はそんな英雄じゃない。立派な存在であるなんて言えない。だから……

 『ちょっとちょっとちょっとぉぉっ!

 なんですかあれぇぇっ!ご主人様とのゆったりとした午後が台無しですぅぅっ!』

 「何とかするんじゃないのかフォォォックス!護国の狐だろ!」

 『ならば、式時代の約束を果たそうとする壊れ式神ぷりーず!』

 「……借りは、返せよ?

 約束を違えるな、それだけで良い

 

 ……夢幻召喚(インストール)!」

 ああ、何と屑だろう、と口のなかで自嘲する

 結局の所、俺が最後には破壊する。そうでなければならない。だからこそ、こんなものは偽善も良いところ。救ってからより最低な地獄に叩き落とす悪魔の所行。そんなことは分かっている。これが、フェイに疑われず己の力を使う為の方便という以外、無意味な阿呆行動という事も。それでも、だ。都合良く出てきた桃色狐を絡めて偽善を誤魔化しながら下手な大義を振りかざし、紅の片翼を拡げて

 「……こんなものか!」

 虹剣一閃。光で出来た剣を全長数kmまで伸ばし、横凪ぎに凪ぎ払う。力が吹き荒れ、周囲の槍を含めて消し飛ばした

 

 『見よ、我が主の聖戦士達よ!あれが悪魔、あれこそが、千年王国を食らわんとする悪竜(ファフニール)!』

 ファフニールとその主は関係ないんじゃないかという言葉は飲み込み、響き渡る朗々とした割と高い声の方……すなわち、内裏から見て左、東にある左京の大門の先を見据え

 銀の海を見た

 沸き上がる銀光と共に、銀と鮮やかな明るい赤の海が草原に拡大してゆく

 全軍展開、なのだろう。成程、仕掛けてきた訳か、ならば……勝利者は

 

 と、思ったその瞬間、本能の警告のままに、跳ぶ。空を蹴って縮地、即座に地上へ

 さっきまで俺が居た空を貫いて、西から剛弓が放たれていた。即ち……

 『然り!然り!然り!

 あれこそがファフニール、我らが土地を滅ぼさんとする竜、そして我が妻を縛る鎖よ!』

 右京の門へと振り返る。其所に、栗毛の草原を見た。無数の馬と、その上に座す者達

 

 「旧ランサーと、旧ライダー

 勝手に殺し合うと、思っていたんだがな……」

 『ほざくな、悪魔よ!

 彼等は主の教えを知らぬ異教の民。だがしかし、その血は正しきものを知れば立ち返れるだろう。それに反し、貴様等は!正しき教えを伝えられながら、それを廃し、迫害し、あまつさえそれでも正しき道を進もうとした僅かな良心ある者達を虐殺した悪魔の末裔

 全ては、貴様等を滅ぼす為よ。主の正しき事に逆らうは、人の姿をした魔の者、正しき者を堕とさんとするサタンの似姿。サタンの眷族でありながらそのような事すらも分からぬか、異教徒(あくま)

 ……ダメだ、僅かな夢で分かっては居たのだが、話が確実に通じないタイプだ。ミラならば言葉は聞いてくれるから、それ以上だ

 

 「おい、セイバー!」

 紅の翼を噴かせ、西へ。栗色の草原の中、目立つ銀髪へと呼び掛け……

 無視された

 「クリームヒルト!」

 『何かしら、道具(マスター)?』

 返ってくるのは、不快そうな返事

 「どうなっている」

 『どうなっているも何も、呉越同舟よ。より倒すべきものの為に、手を組んだの』

 「俺か?」

 『自惚れないで。あの人じゃない貴方なんて、そんな価値無いわ

 けれども、ランサーに乗ったのは……あの最低女を引きずり出す為よ。自分が本気で危機に陥ったら、自称正義だって呼び出すでしょう?彼女の領域()という有利な場を捨てさせて』

 ねぇ、そうでしょう?と銀髪の乙女が唇を吊り上げて……

 

 『ジークフリート、ジィィクフリィトォォォォ!』

 蒼炎の柱が、内裏の中から吹き上がった


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