『母上、いい加減に話してはくれないだろうか』
私は、眼前で僅かに顔を綻ばせる私よりも大分年下の外見をした
『おやまあ、行かないのですか、
くつくつと、意地悪げに隣で寛ぐ銀狐が嘲った
『行きませんよ、何を言っているのですかC001。どうして、バカをやらかすアナタ方と同じようなわざわざ敵の眼前に出ていくような醜態を、ワタシまで演じる必要が?』
『いえいえ、仮主。貴女様も聞いたはず
「……フェイも一緒に、は叶わなかったけれどもな」と
その腐った本性を隠したメイドの状態では、ヴァルトシュタインから出る事も出来なかった。けれども、今は違う。サーヴァントとマスター、令呪による命令を除けば偉いのは基本的にサーヴァント。今や縛りなど無いと出掛けるものかと』
『どうして、ワタシがあんな初恋拗らせて殺さなくて良い理由を探し回ってる裁定者なんぞと同席しなければならないのですか?
彼一人が来てそう呟いたのでもなければ、一考の余地はありません』
寧ろ彼一人なら一考するのか、という言葉は飲み込む。言っても仕方無いことであるから
『それで、ああ、彼の事ですか?』
『母上。私には分からない。アレが何なのか
母上が何故、あそこまで彼を追い込むのか』
……いや、私としても後者は割と分かってしまうのだが
彼はーザイフリート・ヴァルトシュタインは、我等が王に似ているのだ。高潔さも、養子も、その願いの偉大さも、何もかも違うけれども。それでも、自分でない誰かの為に、自分の願いを踏みにじって突き進む、どこか孤独な背中だけは同じ。だから、そんな王が大嫌いだった母上は、何かとちょっかいをかけたくなるのだろう
『言いましたよ、捕食遊星、と
遥かなる昔、といっても星の歴史からしてみれば極々最近、この星に一つの流れ星が飛来しました。それが、彼の正体です
いえ、正確には……彼に手を貸している英霊の正体ですが』
『……はあ』
突拍子もない。信じろと言う方が無理だ
『当然、当時はまだ地上に君臨していた神々は、ある程度の徒党を組んで挑みました。当たり前ですね、天より飛来した
『その辺りの事は、あの頭ピンク狐や、アーチャーに聞けば詳しく話してくれる事でしょう。仮にもその戦いを生き延びた者、ですのでね』
『寧ろ、何故その時代の事を普通に語れるのか分からないんだが、母上?』
『それですか?ワタシの千里眼はブリテンに限れば過去現在未来の全てを見通します。ブリテンでの決戦の過去ならば、見れない道理はありません』
返されるのは、バカですか、と割と見慣れた呆れ顔
『そうして、神々は負けた。当時のアレは何も考えていない力押し、それでも、神々は勝てなかった
事態を重く見た
それにいち早く応え、即座に降り立ったのが軍神の星……つまりは
『じゃあ、空に軍神の星が輝くのは……』
空を見上げる。此処は平屋の廊下である為、見上げれば空はしっかりと見える。今は、その空におかしな星は無い
だが時折、煌々と輝く星が見える。何かを、告げるように。雲の果てに、軍神が映る、とでも言えば良いだろうか。不吉に輝くのだ、惑星であるはずの……それそのものが輝いている訳ではないはずの火星が
『あの化け物をどうにかしようと降り立とう……としている訳ではありませんよ、寧ろ逆です』
『……母上。母上が私に見せた未来のビジョンには、ティアマト神に呼応して降り立つ軍神の姿があったと思うのだが。ならばあの軍神は一体……』
『あれですか?アレはザイフリートですよ?
お馬鹿さん達は、彼こそがティアマト神を呼び出したと未来を勘違いしたようですが、そんな訳はないなんて、アナタだってしっかり知っているはずでしょう?』
『あ、ああ……』
年下の母に詰め寄られ、身を引き気味に頷く。それしか出来ることが無い
『かつての、そして未来の王アーサー計画。その必須事項、世界の敵……
その敵として相応しいとして、母上がティアマトに目を付けていたのは知っている
星の聖剣を携えた、未来の王アーサーが降り立たざるを得ない危機。確かに、あれくらいのどうしようもない絶望は必要なのかもしれない』
『ええ、そうですね
あんな剣持ってるから不幸になるんです。だから鞘の方が重要だって捨てさせようと思ったのに……
と、まあそれは過ぎたことですね。今はあの忌々しい星剣も活用してやる時期です』
『ともあれ、ティアマトが彼の呼んだものでないならば、軍神こそが彼、という帰結は当然の事。疑う余地はありませんね?』
『……彼は、軍神とは別なのではなかったのか』
『ええ、その時は
ですがワタシは彼の根底に眠る脅威をこう言ったのです。捕食遊星、
『
収穫者の星……』
『ええ。アレは文明を破壊し、収穫し、捕食する
言ってしまえば簡単な事です。概念的な死を持たずとも、
そうして、
『……食べたら相手の力を得るのか?』
『そうでなければ、捕食遊星なんて呼ばれませんね。星に降り立ち、文明を破壊する。それだけだと、やってる事は破壊遊星じゃないですか
アレにとっての食事行為が、対象を破壊することだったというだけの事なんでしょうね』
はあ、と溜め息を吐き、床に横になる
『……どう見ても
『そうですね。けれども、今のアレはザイフリート・ヴァルトシュタインという意識体を使っている。だから、制御出来てしまうという便利な存在な訳ですね』
母上、人、それを恋は盲目と言う
なんて、返しをしたいけれども子供っぽい反撃を受けかねないので置いておく
『少しは、分かりましたか?』
『……はい、母上』
『ああ、実は絵本を作りまして』
そう言って、少女の姿の魔術師が魔術で呼び寄せたのは……
『わからなければそれでも読んでください
それでは、食事にしましょうか』
振り返ると、器用に頭の上に皿を乗せて駆け寄る獅子の姿が見えた