「勝手にやってろ。己は知らん」
にべもなく切り捨てる。誰が乗るんだそんなもの。俺なら乗るとでも思うのか。己の中でもっともそういった事をやるかもしれない神巫雄輝であれば……いや、だとしてもやらないだろう。操を立てる、ではないが、紫乃に嫌われるからと寧ろ止める側に回るか。高校で女子更衣室覗こうぜ、という計画を止めに入ってお前は可愛い幼馴染の裸を何時でも見られるもんな、とやっかみを込めて言われ、見れないって!と躍起になって否定していた記憶が無くもない。実に平和で下らなくて、俺が手に入れてはならない光。強くも激しくもなく、一見して何ら意味の無い、けれども何も無かった俺が、己を呼び起こす程に焦がれ、そして必死に捨てようとした淡光
……俺に影響されたか?まあ、構わん話か。一瞬だけ、目を閉じる。その光に焦がれる弱さに、今や意味があると信じて
「というか、一応契約の上では紫乃のサーヴァントだろう。マスター相手に発情染みた事して良いのかよ?」
『おいおい。サーヴァントとマスターなんて、ふと出会った一夜の関係みたいなモンだろ?
そこに愛だ恋だ情欲だ、混ぜちゃいけねぇとは酷くないか?』
「……そうだ」
旧アーチャーの言葉に、久遠も乗る。俺自身だって、ある意味愛だ恋だの青春の為に血の河を死体の船で渡っているようなもの
……言い過ぎた感じはあるかもしれない
『ん?お前も来るか、よー分からんマスター?』
「い、いや、良い
キャスターに顔向け出来ない」
『一途だねぇ。青春ってやつ
もうちょい大人になると、色々良いモンよ』
あっちゃあ、誘う相手がノリ悪くていけねぇ、と旧アーチャーは頬を掻く
『でもよ。興味ない?』
「俺にそんなもの、見る資格もない」
「キャスターを救う。なのにキャスター以外に目を向けたら、一生救えない気がする」
『資格の問題かよ、堅っ苦しい』
「お前が軽いだけだろ、旧アーチャー」
『まっ、違げぇねぇな、そりゃ
けれども、可愛い女の子を前にしちゃ、男なんて皆ビーストってモンだろ
無理に抑えても良い事はねぇよ
それとも、アレかよ。自分の女だから見せたくねぇってか?それで、足止めの言葉遊びでも?』
「……いや?」
誰が自分の女だ
足があれば、腹いせに近くの石でも蹴飛ばしていただろう。そんなんじゃない。そうであるはずもない
「単純に、お前の真意が知りたくなっただけだ、変態旧アーチャー」
『真意、つってもねぇ……』
ひょい、と木から飛び降り、青年は木陰へと向かいだす
『眼福したいだけよ?』
変わった、とその時おれは……旧アーチャーと呼ばれたヴィルヘルム兄さんは認識した
それと同時に、沸き上がるのはひとつの疑問
そもそも、だ。ノームネーのマスターとおっぱいでけーねーちゃんが、話に聞いていたまだ抵抗してる第七次の残骸じゃなかったってのか?という事。なーんでか知らんが女の子なんて使ってあのいけすかねぇ森石野郎が作ったパチもん孫悟空がノームネーの方で、そんな悲劇の少女を助けてあげようと召喚されたライダーがサンタのねーちゃん
出会ったとき、おれはそう思った。ねーちゃんも否定しなかった。それにあのマスターにゃ確かに孫悟空の魂っぽいモンが憑いていて、宝具だなんだを人間の身で使えるように調整していた。だからこそ、彼女等二人がそうなのだ、と疑いもしなかった
寧ろ、女孫悟空たぁ良い趣味してんな、と思っていたのだ。もっと胸がある元気娘じゃねぇのかとは思いつつも
……けれども、だ。ならばこの眼前のバケモンは何者だ?
笑う
両の足は足首辺りから引きちぎられ、左腕は二の腕から無く、右手すらも手首から切られている。それを気にせず話が出来る時点でまっとうな生きモンじゃねぇ。それで平然としていて、有り得ねぇバケモンを体内に魔術的に飼っている。そんなもの、話に聞いてた残党じゃねぇのか?それとも、実はこいつはサーヴァントであることを誤魔化しきれるサーヴァントなのか?
けれども、だ。探りを入れるのも難しい。その理由は、今も淡い光を放ち、おれを睨み付けている蒼い右の瞳
まるで、全てを記録し、演算によって見透かしてくるような、不可思議な焦りがある
ならば、である。より観察しやすい対象を観察してこの疑問に答えを出すってのが正しいんじゃねぇのか?という結論
決して、単に女の子の肌が見たいだけの選択肢ではない。一石二鳥なだけ。黄色人種の子の肌ってどんななのか、健康的な肌色って良いモンなのか、そんな事にしか興味がない訳じゃねぇから安心
『んでよ、止めるのか?』
「……勝手にしろと、俺は言ったぞ?」
そう言いながらも、青年はおれの後ろを付いてくる
これが分からねぇ。こんな奴の何が良いのやら。当の昔に破滅へ向けてアクセル踏み切っている奴なんぞ、女の子に惚れられる価値がねぇにも程がある。何で未来を見ねぇのよ
それにしても、突然何かおぞましさが消えたなコイツ、と木陰に入る前に振り向く
外見は変わらない、けれども、纏う空気が別物。いや、違うな。基本は同じ空気の癖して混ざりものが多すぎる。自分を俺と呼び出してから、あまりにも違う
……覚悟が決まってない?というか、バケモン度合いがかなり低い。それでもひでー奴にはちげぇねえが
『ん、どれどれ……』
そうして、少女たちが水浴びしている木陰に乗り込む
そうして、その眼前に広がってきた光景は……
『おえっぷ、なんだありゃ……』
思わず、食ったスープが腹から逆流する
眼前に広がるのは、地獄絵図であった。肌色なんて何処にも無い。いや、ある。あるのだが……あれを肌色成分と呼びたくない
……行けると、思ったのだ
妙にあの野郎になついてるし、そもそも好みというには幼すぎるけれども、割と顔立ちは整っているあのアサシン。何時の間にやら合流していたその少女が、一番此方で今まで片時も外さなかったフードを取って、その肢体をさらけ出している、はずだったのだ
だが、其所にあったのは単なる地獄
別に、何者かによって惨劇が巻き起こり、死体が転がっていた、という猟奇方面ではない
浅黒い肌、彫りの異様に深い顔、しわくちゃの衰えたろう体。其所に居たのは、見たくもない裸身を見せ付けたクソジジイであった
『……騙したのか……』
ジジイの水浴びのビジュアルに当てられ、吐きかけた
かちゃり、という軽い金属音と共に、おれのこめかみになにかが当てられる
……ボウガン。クロスボウというアレである
『ヘンタイ、逮捕
「オレ」、は「ボク」
……だから、放置しても問題ないと思った。どの「私」を見たのかは知らないけど
……魔狩人は、男の人の方が多い』
「……やめてやれよ、アサシン」
『どういう、事だ……』
「アサシンは本来誰でもない。けれども、目は何か認識しなければならない
だからこそ、単独では英霊となるほどではなくとも、アサシンになった幾多居るその地の英雄の誰か、であるように錯覚する」
『……意識したら、「ボク」の希望に合わせた、あの姿を見せ続けられる、だけ
ほんの少し疲れる。だから』
「要は、アサシンの姿は本来見るたびに変わるはずなんだよ。俺の近くだと何時も青い髪の少女なんだけどな。それも、意識して固定してるだけ。ほんの少しずつだけれども、魔力すら使っている
何を見たかは知らないが、男の裸を見る可能性も高かった」
『一石二鳥のHENTAI対策、ぐっど』
『知ってたなら教えてくれよ……』
イヤなモンを見た。忘れたいものを見た
「……何で覗きのアドバイスをしなければならないんだ?」
『……やっぱりお前非道ぇ奴だわ』