『……聞かせてくれるかしら、貴方の事』
とりあえずの事として、伊渡間の街を巡りながら、セイバーは俺にそう呟いた
「知りたいのか?」
『いいえ、別に』
横に並んで、ただ歩く。似たような髪色してるので兄妹か何かとでも思われるのだろうか、道行く人々の視線は一瞬だけセイバーを追うように動くことはあるものの、そう興味を引くものでもないとばかりに直ぐに外れていく
良く見れば、似たような銀色に見えた髪は、単なる白髪と、生まれつきの輝かしく美しい銀髪であり完全に別物なのだと分かるのだが
「なら聞くこともないだろ
……っと、この辺りにも何もないな」
今やっていることは街の調査。伊渡間の地理に関しては一通り俺の頭の中には入っているのだが、それでは分からない事を確かめるためにこうしてビル街なんぞを通っている
つまり……サーヴァントの気配。幾らなんでも、セイバーとアーチャー以外の全てのサーヴァントがヴァルトシュタインに取り込まれている、なんて最低のシナリオは無いだろう。そうであるならば、今やっていることは全くの徒労に終わるのだが
既に聖杯戦争は始まった。7騎のサーヴァントは、確かにこの地に降り立ったのだ
居場所が判明しているのは3騎。セイバー、アーチャー、そしてバーサーカー
セイバーについては言うまでもないだろう。今、俺の横で悪趣味な森ね、とビル街を冷ややかに見ている。確かに現代は自然が少ない場所はとことん無く、神世に近い時代を生きたセイバーからすれば趣味悪いのかもしれないが……
アーチャーは紫乃の元。あれはバケモノだ。一目見ただけでそれが分かる。召喚即ち勝利、一般的なマスターであれば、文句なしにそう叫んで良い。そんなものが紫乃に付いているならばとりあえずの安全は確保できているという訳だ。バーサーカー辺りの情報も適当に流したしな。組むと言う前に流すなど、バカにも程がある話ではあるが、あれの目的はとりあえずセイバーを隠しつつ情報を流して今は味方アピールすることなので構わない
そしてバーサーカーは、正義に呼ばれ、かの森の奥、ヴァルトシュタインの根城に居る。プライド的にそう表に出てくることはないだろうか
逆に、場所が掴めないのがランサー、キャスター、ライダー、アサシン
ライダーに関しては円卓の騎士であること、までを反旗を翻す前に確認した。それだけだ。同盟を通したのか否かすら、俺は知らない
残り3騎に関しては、本気で何も知らない
けれども、確かに彼等はこの街に居るはずだ。特に、魔術工房を重視するだろうキャスターは、あの森とは別の何処かに己の陣を築いている可能性は高い。それを探し当てれば、多少はこの聖杯戦争、有利に戦えるだろう
『それではいそうですかと言えるほど、私は単純じゃないの』
「……俺とお前の関係は打算じゃないのか、セイバー
わざわざ踏み込んでも意味はない。お前は自分の願いの為、俺は己の願いの為に聖杯を求める。そのための呉越同舟だ」
良い関係を築いていければそれが良いのはまあ、間違いはない。深入りし過ぎれば、何時か自らのサーヴァントを切り捨てる時に不具合があるかもしれないが……
だが、それは無視して、あくまでもその関係には踏み込まない。それはそうだと言い切る。俺達は利害の一致だと
彼女の名はクリームヒルト、その願いの質は、俺の中の英雄が雄弁に語ってくれているのだから
『ええ、そうね。そうかもしれない
けれども、気になるのよ。そもそも貴方が、私と道を違えないか』
「……そんなことか」
違えるに決まっている
俺の願いはたった一つ。それを果たしたとき、ザイフリート・ヴァルトシュタインは消える。そんな存在が居たという事実は無い世界が待っている。ならば……俺が願いを叶えたとき、俺が何を思っていようが、セイバーの手に聖杯は残らない
「違える。俺の願いは、総てを還すこと。神巫雄輝のものであったはずの未来を、ザイフリート・ヴァルトシュタインから奪い返す
その果てに、俺は残らない。ならば、お前と共に聖杯を取った事実はどうしようもなく消え去る。俺が例えどう足掻こうが、お前に聖杯は残らない
サーヴァントとの約束など、守る要素は欠片として無い」
……嘘はつかない。ただ、そう宣言する
聖杯を望むならば最後の最後に奪ってみせろと。そんな最低のシナリオを描かせる
『そう、なら良いわ』
だというのに、だ。セイバーである少女は、サーヴァントとしては聞き捨てならないはずのその言葉を、あっさりと流した
『私は、あの女を今度こそ殺せればそれで良い。聖杯が必要ならあげるわ』
「良いのかよ、サーヴァントなのに聖杯を放棄して」
『良いのよ。あの人にまた会いたいというのも、あの人の仇を取りたいというのも、結局私のエゴでしかないわ。あの人は……ジークフリートはそんなこと、絶対に望んでいないでしょうね
けれども、それがどうしたというの。優しすぎるあの人が願ってなくても、私はあの人を私から奪った者達の首を跳ねたいの。許せないもの
……貴方の召喚に応じたのは、それだけよ
今回の聖杯戦争に参加する。そして、今度こそ彼女の首を貰う。私の願いは……寧ろ、聖杯よりも聖杯を得る過程にあるの。だから、終わったあとに残る景品に興味はないわ。どうぞ御勝手に。好きに使えば?』
「……そうか。ならば、都合が良い」
『彼女を殺すのは私よ。それだけは、譲れない』
「過程はどうでも良い。所詮、総てを破壊する事になるんだから。気にしても、仕方の無いことだ。任せるさ、セイバー」
とりあえず、呉越同舟は続けられるようだ。頷いて、足を進める。調査といっても、ちょっとしたもの。直ぐに終わるものだ。あまり大っぴらに動いても微妙な話、少し、公園への通り道でやっているだけの事
『
「何だ?」
『貴方の願いは何かしら』
「言ったはずだ。ザイフリート・ヴァルトシュタインの抹消。産まれてくるべきではなかった俺が使い潰した時間を、神巫雄輝に還すこと」
『そんなことは聞いてないわ。聞きたいのは、貴方の願いよ』
「それが、俺の使命だ。それ以外に、何もない」
『嘘つき
本当の事を言って欲しいわね』
尚も意味不明な事に食い下がるセイバーに、呆れながらも口を開く
「……それだけだよ。嘘でも何でもない」
『そう
聞いた私がバカだったわ。願いと、そうでないものの区別はあの人でも付いていたわよ』
「そうでないものも何も、あれが俺の
ビル街を抜ける
セイバーとの会話は、そこで途切れた