Fake/startears fate   作:雨在新人

127 / 172
"涙の竜星"承 灼光は誰が為に
十一日目ー危機の帰還


「……此処は」

 ふと、目が覚める。二度と、覚めぬかもしれないと思いながら、それでもきっと覚めるはずだと祈りながらついたはずの、眠りから

 

 記憶は曖昧だ。俺は、何をしていただろう

 ああ、そうだ。俺は……封鎖された陣の中で、無意味に近く足掻いていたのだったか。一面に広がる石柱の乱立する砂漠。夜の訪れる事はなく、されども歩みと共に太陽の方角が歪む、そんな不可思議な魔術の渦中。わざわざヒントをくれた。あの桃色狐が、自分が一度抜け出せたのだと、答えをくれた

 だから、ひたすらに歩みを止めなかった。身を焼く太陽に、意識と水分とを持っていかれかけながら、ただ、太陽の方角へと向かった。抜け出す道は、きっとあの狐の象徴(太陽)の先にあるのだと信じて

 ……それは、結局、成就したのだろうか。覚えがない。とりあえず、体力の無いセイバーは早々に倒れたので背負って歩いたことは、何となく記憶にある。そのせいで、ボロボロの俺ではセイバーの重さをいなし切れずに何度か鉄板かと思う暑さの砂に体勢を崩して突っ込んだ事も何となくあった気がする

 

 だが、それから……どうなったのだろうか。記憶に無い

 ただ覚えているのは、アサシンに何かを頼んだこと。そして、ずっと、夢を見ていたような気がすること

 あの夢の中で見たのは、一体何だったのだろう。夢の内容自体も、あまり覚えてはない。ただ、不快感があったということは、しっかりと脳裏に刻まれている

 

 ああ、そうだ。今更軟弱な言葉を口走る、俺の姿をした阿呆に、閉じ込められる夢だった。それは、世界全部を破壊する事なんだぞ、と

 ……知っている。俺に正義がない事など、一年前から知っているとも。俺はそこまで馬鹿ではない。だというのに、自分だけは消えたくないなんて浅ましさもある、悪鬼外道とは俺の事を言うのだろう。ああ、理解っているさ軟弱者

 それでも、止まる道は、当の昔に無い。正義に討たれるならばまだしも、自分から止まるなど、許されるはずもないだろう。俺の前に道はない。俺の後ろで、それでもと己の願いの為に殺してきた無数の人々の遺骸を、流された血が結んで道になる。今更止めたと言うならば、彼等の死は何だったのだ

 

 ……いや、死に意味など無いか。死は、死だ。彼等にとって、死んだことに意味はない。死の意味など、残された人々が勝手にせめてなにか理由が欲しくてでっち上げるだけのもの。だからこそ、胸を突き刺して言えるだろう、やっぱり駄目なことだからやめたというのは、せめてでっち上げた彼等の死の意味を、ゴミ山に遺棄する事なのだと

 計画の邪魔で、死んで欲しいから殺した。そうでなければならない。ザイフリート・ヴァルトシュタインは悪魔以外であってはならない。殺したくないけれども殺した?仕方なかった?そんな妄言を吐くくらいならばそもそも殺すなという話だ。そんな偽善など、人殺しに説かれなければならない理由は、どんな世界にだってありはしない

 人の命に、未来に差など無い。価値は等価だ。それでも、俺は……なんな嘆きを残して消えた彼の未来を、他の者の未来より上だと勝手に定め、だから邪魔なお前らは死ね、としてきたのだから。言うべき言葉は、俺の為に死んでくれて有り難う、しかない。徹しきれないならば、そもそも最初から他人を殺しての願いなど、語るべきではないのだから。だから、そんな軟弱な(当たり前の)意識は、削り取る。不要だ、忘れろ、考えるな。俺にそんな権利はない

 

 ひとつ、深呼吸をする

 ああ、問題ない、大丈夫だ。俺は、ザイフリート・ヴァルトシュタイン(獣の名を借りる悪鬼)。真人間みたいな、良心だか何だかの軟弱な声は、もう、聞こえない。聞こえた事自体が、俺の軟弱さを示しているが

 

 閑話休題。意味もない夢漁りはそこそこに、自分の体を眺めてみる

 ……和服だ。真っ白の布で、実に和服だ。恐らくは、あの銀の狐が着ていたものの再利用……なのだろうが、かなり生地は良い。おいこら恐らくはこれを着せたのだろう桃色狐、しっかり許可取ったんだろうなこの服。無許可で借りてきて良い額のものじゃないぞまず間違いなく。一張羅とかそんなレベルだと思うのだが

 まあ良い、他にあるのは、右目辺りが砕けた白い仮面

 

 ……見覚え無い仮面だ。一体何なのだろうか、これは

 左手で掴み、しげしげと眺める

 そう、左手。それが存在することに、違和感を覚え……

 けれども、異様に細い、それこそ文字通り骨と皮だけかもしれない腕は、ぽろりと肘先から取れた

 ……使えねーなおい。恐らくはどこぞの狐が俺が夢を見ている間に隻腕とか可哀想ですねぇ、付けてあげましょうしたのだろうが、不格好な上に取れるとか意味あるのかこれ。仮面の力でくっついてたんですーっ!何も知らずに批判は止めて貰えます?とか何とか抗議される気はしてるが、仮面を付けていない俺には関係の無いことだ。無視

 

 力は、安定している。発現状態に比べて出力が抑えられている……という話でもあるが、案外リンクは繋がっている。アサシンに半分持っていかれたのは確かだったはずなのだが……案外出力は変わらない。これを倍にすればあの時を越えるんじゃなかろうかというほど。何らかの理由で、かの竜星から流れ込んでくる力の総量がかなり上昇でもしたのだろうか

 増加した理由に心当たりは……微妙な所。何となく、一つの方角に意識が向く。何故かは分からないが、気になる。気になる、でしかないのだが。アサシンがあの方向に……

 

 いや、違うなと首を振る。アサシン相手の令呪は既に切った。一画は神父が持ったままだったから、その一画を使ってしまった以上令呪はもう無い。とはいえ契約は切れてないのだから、何となく場所くらいは分かる

 ……俺の頭の後ろ

 

 って何やってるんだろうなこのアサシン

 飛び起きて見ると、アサシンは元々小柄な体を丸め、俺の枕になって眠っていた。無駄に柔らかな枕だと思っていたけれども、お前の脇腹かよあれ、本当に何やってるんだ。そもそも眠る必要あるのかよお前

 ……と、潰れた右目に意識を集中。問題なく青い光による解析は機能する。アサシンが眠っているのは……霊基そのものがボロボロで、眠って魔力消費を抑え、少しでも回復に努めなければ動けないから。つまりは、機械で言うスリープモード。普通のサーヴァントは聖杯からの魔力というバッテリーが大容量かつ常時充電なのでそう眠る意味はないが、このアサシンは勝手に放電される量が多すぎて、少し稼働してるだけで、充電を放電が上回る……という話。サーヴァントと電池に関係はないので、分かりにくい例えではあるが、俺が分かれば良いのだ。誰に説明するでも無し

 

 ……まあ、良いやとアサシンにもたれ掛かりながら、話を整理

 つまり、アサシンが此処に居る現状、あれは別の何者かということになる。それの正体は分からない。ひょっとして、俺の中身……だったりするのだろうか。ジークフリートは呼ばれてないとはフェイの談だが、そもそも彼、或いは彼女(俺の中のサーヴァント)は、ジークフリートではないのだから。フェイは嘘はまずつかない、そのフェイがジークフリートは来てないと言いつつも、俺の中身に関しては何も言わないということは、もしかしたら……とは思う

 お前なのか、……ファ……ル?それとも、この謎の惹かれる反応、お前は……アルテラなのか?

 

 いや、違うな。アルテラである訳はない。と、一人ごちる

 アサシンは居るとして、セイバーは何処だと魔力を手繰り、見付けた。ライダーのサーヴァントと共に居るその姿を

 ……そのライダーについてならば、瞳が答えてくれる。サーヴァント、アッティラと。つまりは、エッツェルでありアルテラ。クリームヒルトの、名目上の後夫。つまり、アルテラは彼処に居る男性である訳だ

 強い、のは確かだろう。何とか外に逃がした気がするセイバーが、俺や紫乃よりも、彼の方がよっぽど夫の仇討ちに役立つとして向こうに行ったのだろうし。本当に勝手だなあのサーヴァント。ジークフリート以外に従う義理もないだろうから仕方はないし咎める気もしないが。咎める前に、俺がまともなマスターをやれという話だ。だが、彼は俺の中身ではない。どこか女性的な印象を受ける……というのもそうだが、彼は星の敵ではない。俺の中身は星の敵、悪竜。つまりは、彼では有り得ない。彼は寧ろ、俺に立ち向かう側、真っ当な英雄だろう

 ……まあ良い、どうせ会いに行けば分かることだ

 

 ……ふと、気が付く。足を引きちぎったままだということに。またぞろ走るより魔力噴き出した方が速いし血で武器形作って光の剣に出来る分上位互換と射出でもしたのだろう。別に飛べば移動できるし構わないが、益々万一世界を回帰出来ず今更彼に体を返しても途方にくれさせるだけ感が強まったな。改造された自分の遺骸を殺人鬼の獣が好き勝手使った上に、右腕以外半ばから千切れた状態で体を返してきたとして……俺だったら発狂する

 

 『……起きた?』

 俺の頭の下で、柔らかく、けれども暖かな体温を感じない、低体温症の枕が、寝起きのぼんやりした声で、そう言った


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。