「私は……」
ちらりと、空を……というよりも、それを照らしている地上の光、つまりは燃えている焔を見る
強い焔、焼けていく城。かつて、中世戦国時代的な偉容を誇っていたんだろうなって理解できる山城は、落城の様相を挺していた
「行ってみるよ、御城」
そう、頷く
仮面の男だって気になる。かーくんみたいな点があって、それでもかーくんとはまた違っていて。確かめてみたいって気分なら、かなりある
けれども、本能が警告した……って話でもないけれども。踏み込みたく無かった、ということもあって
あんまり知らない旧アサシンさんに関して、それを攻めたのがどんな子なのかって事も気になって仕方なくて
だから私は、仮面の男ではなく、襲撃者……恐らくは、かーくんがフェイと呼んでいた少女と対峙する道を選んだ。襲撃者をそう思ったのは、とても簡単な話で、他に旧アサシンさんを攻めるようなサーヴァントが居るとは思えなかったから。旧サーヴァント……私が知らない六体と、やっぱりちょっとしか見たことないからよく知らないバーサーカー。その中で、セイバーは不明。仮面の男がそうかもしれないし、可能性は低そう。ランサーは私を襲ってきて、旧アーチャーが囮なんかをやっててくれたからアサシンに仕掛けたりはきっとしない。無駄に二方面作戦したって、戦力の分散から負けやすくなるだけであんまり意味はないと思うし、ほぼ同時に攻略しないと、なんて縛りもない。旧アーチャーは味方で、旧ライダーは私と話?をしていた。そして、バーサーカー……つまり、ブリュンヒルトと呼ばれていたランサーは、反対方向。だとしたら、この城に近い場所に都を構える旧セイバーか、さもなくば何処に居るのかも分からなくて、けれども和風な存在を連れていたらしい
「……フェイちゃんかな」
『どうだろうね』
私の問い掛けに、ミラちゃんはちょっとだけ首を傾げ、それでも頷いた
『けど、可能性は一番高いかな』
『ん、バーサーカーとは会ってないけどどうなんだ?』
それに対しては、ミラちゃんはナイナイと手を振った
『あの人はブリュンヒルト。まっ、彼女に関してはわたしも参加した第七次のサーヴァントだし、良く分かってるよ。マスターさんは……まあ、マイナーな英雄については疎いから仕方ないけど、わたしは胸を張って彼女は無いって言える』
「それは何で?」
『彼女は、マスターさんがちょっと前に見たあのサーヴァントと表と裏みたいなものかな』
「クリームヒルトさん?」
『そっ
彼女がバーサーカーにまでなれたのは、一つの狂気があったから。それを増幅した結果、バーサーカーにクラスを変えられてしまった』
ごくり、と唾を飲み込む
『ジークフリートへの
ならさ』
と、ミラちゃんは笑う。けれども、目に残る光は、決して良い色ではなかった
『その思いを増幅されたバーサーカーさんって、ジークフリートとクリームヒルトにしか興味ないよね?』
『それもそうか?』
『彼はジークフリートだ、とかコントロール出来れば他の人にも暴走は向くと思うよ?』
「なら、それをやったんじゃ」
けれども、ミラちゃんは首を振った
『それは、この聖杯戦争に、直接復讐相手が居ないときにだけ使えちゃう裏の手段かな』
『つまり、アレか
復讐相手本人が居るから、ニセモン相手に焚き付けてもホンモノを優先して狙うって奴』
『そっ。優先順位が上のクリームヒルトさんが
ならば、ブリュンヒルトは必ず、最初に狙う仇はクリームヒルトである……はずなんだ』
「あれ、でも……」
ほえー、と色々と聞いた旧アーチャーが内容を理解しようとしている時、ふと思い出す
「ミラちゃん、ブリュンヒルトってジークフリートを恨んでるんだよね?」
『ジークフリート夫妻をだけど、バカにしたクリームヒルトさんの方が上かな、怨みは
だからこそ、彼女にとって何よりも大切な人、ジークフリートを殺すって手を選んだんだろうし。下手に殺すより、生かした上で絶望をって陰湿な話』
「じゃあ、かーくんは?かーくんは狙われないの?」
ジークフリート。それは、確かかーくんの中に居て、力を貸してくれてる英雄だったような。だから、その縁でセイバーさんも呼ばれた
……だとしたら、狙われても可笑しくないのだ
『ん、まぁ、どこまで深く理解してるかによるね……』
返ってくるミラちゃんの答えは、歯切れが悪い
「?どういうこと」
『……「ボク」の希望の名は、ザイフリート・ヴァルトシュタイン
ヴァルトシュタインのジークフリートという意味』
「うん、アサシンちゃん
だから狙われるって話で……」
『その名前の本当の意味は、拘束具』
「?」
首を捻る
『貴方はジークフリートだ、伝説の大英雄なのだ、という枷
本当の彼は、キラキラと輝くお星様みたいな竜。それを、外見がジークフリートに似てるから、とジークフリートだということにした
そうして、ジークフリートから力を借りる意識を持たせ、力を抑え込んだ』
「それ……だけで?」
『言葉は、力』
『言霊とも言うしね
ジークフリートから力を借りるって思ってて、けれども本当は違ったなら、向こうから貸してくれる力はちょっとになる。別人に助けを求めてたら、良い気分とかしないでしょ?』
「……そっか。つまり」
『フリット君に力を貸してるのは、ジークフリートじゃないよ
あれは、そんな普通の英雄じゃない。もっと危険で、英雄の敵みたいなもの』
「その、真名は?」
『……さあ?』
『兎に角、彼がジークフリートじゃないって事を気が付いてたら、ブリュンヒルトさんはクリームヒルト優先だと思うよ?
気が付いてなかったら付け狙うかもしれないけど、場所わかんないしね』
たはは、と困ったようにミラちゃんは笑った
『んでよ、色々と話を聞いてて理解及んでない所があるんだけどよ』
旧アーチャーが、話に割って入る
『そのザイフリートって、何よ?恋敵?』
『「ボク」の希望』
「この聖杯戦争を始めたヴァルトシュタインに浚われてサーヴァント擬きに改造されてしまった私の幼馴染」
『わたしが助けたかった世界の危機』
口々に言う答えは、ばらばらで
ちょっとおかしくて、くすりと笑った
『なーるほどねぇ
やべー奴か』
うんうん、と私達から話を聞いた旧アーチャーが頷く
『んで、御到着っと』
多くが燃えてしまっていて、瓦礫さえも細かくボロボロで。思ったよりも大分楽に、私達は道を辿って山城にまで辿り着いていた
其処に有ったのは、いや、会ったのは
『……貴様、等……』
半身をズタズタにされ、半身が何処にもない、縦に真っ二つになった老人の姿だった
吐きそうになって口を抑え、ふと、彼から血が流れてない事に気が付く。アーチャーだって一応流れてんのよ?してた血が、全く無い。流れ出しきってしまった出涸らしと言うわけでも、周囲に一滴の血もないので違う
『……風神雷神でしたか?アナタの御自慢の二人は何処へ行ったのやら
返り討ちにでも、逢いましたか?』
そんなボロ雑巾のような老人の眼前、多分天守の屋根に飾られてたんだろうなーって鯱の上で足を組み座るのは、一人の少女。黒と白のドレス姿……というか、メイド服だ。メイド好きだったりするんだろうか
『あのような、化け物を……』
『あの狐は後でお仕置きするので御心配なく。気が利くようで全く利かない駄目な狐ですからね
一応のマスターの手前、処分しない訳にもいかない。けれども、ワタシは殺す気なんてありませんし、逃がさない限り逃げられない陣に閉じ込めて、逃げられないから殺したと言いつつ邪魔者は消して彼だけを取り出す。ええ、気が利きますね。それを着服さえしなければ』
『……グランドキャスター、モーガン・ル・フェイ』
その言葉に、ふとその少女は顔をボロ雑巾から上げた
その頭で、括った銀髪が揺れる
『ああ、グランドライダー……は、まだやらないんでしたか?
お噂はかねがね。ちょっと気に入らないなと思いつつ彼から聞いていましたよ、慌てん坊のサンタクロース、と邪魔数名』
くすり、と少女は微笑む
それを、可愛いって思い……恐怖した
その笑顔は、壊れていた。少なくとも、私はそう思った
『それにしても、アナタがそこのお邪魔虫に付きますか。割と高い可能性だと思ってはいましたが、やはりというか、実際に見るとムカつきますね』
『そりゃ、外見だけ可愛いけれども胸の無い魔女よりも、可愛い子とおっぱいデカイねーちゃんに付くのが基本だろ?』
『ええ知ってます。其処の虫と共に殺しましょうか』
そんな事を眉ひとつ……は動かして不満げに眉だけひそめ、少女は呟く
その背後に、影が掛かる
巨大な……横たわる上半身の骸骨。がしゃどくろ、と言うのだっただろうか。それが、崩れた城から生えていた。大きさとしては……崩れた天守の残骸が、人間に対しての犬小屋に見えるくらい。見上げなければ、全身像を捉えられないし、どくろの歯一本一本が、私よりも大きいかもしれない
『全く、百鬼夜行と呼ばれた頃には居ないだろう後輩ですか
暇ですね、選択が』
けれども、少女は動じない
がしゃどくろは、その巨大な骸骨の腕を天へ振り上げ……
そして、固まる
「どうして?」
疑問をもった、その瞬間
軽く、そして盛大な音をたてて、骨ではなく石になったその拳が、流星のように、明らかに自由落下の速度を越えて、腕の骨を粉にしながら、がしゃどくろの脳天に突き刺さった
そのまま、巨大な頭蓋骨は衝撃に耐えきれずに砕け散り、残された骨はばらばらと結合を失って天守だった瓦礫に混ざり、残骸になる
『それで?もう少しくらい、マシな夢を出してくださいよ。ワタシを殺すんじゃ無かったんですか?
これじゃあ、彼の宣言と違ってワクワクも出来ませんよ
ってまあ、ワタシ以外なら相手になったとは思いますよ?未来を見て、予め時限発動仕込んでおけば、実際に対峙した現在ではアナタの存在や行動を疑問に思えなくても、過去に仕込んでおいたものにまでは意識の陥穽は及ばない。単純な相性負けですからね』
ミラちゃんから、ちょっとだけ目配せ
首を振る、横に
助けには入らない。私を浚った彼を、ちょっと酷い話だけど、危機だとしても助けたくない
『でも、ワタシからすれば詰まらないのは事実ですので、さようなら。最も与しやすいと思っていましたよ、ぬらりひょん』
そして、半分こ妖怪となっていた老人は、転がってきた拳石の下に埋もれ、消えた
すまない旧アサシン。君は所詮このルートでは噛ませ以下でしかないのだ……(別ルートを書く予定があるとは言ってない)
まあ、元々この聖杯戦争そのものが7回ヴァルトシュタインが勝ち、その勝者7騎で戦ってフェイが圧勝して49騎のサーヴァントの魂を込めた限界を越えた聖杯を作り出す、という計画の産物だから惨敗が正規ルートなんだが、こんな扱いですまない