「はい?」
話についていけない
妻?結婚してたの?それと私達と何の関係があるの?
分からない。ただ、ちょっとの間混乱して……
『……何処へもやっていないわよ
貴方が見失っただけでしょう?』
その声は、私の背後から聞こえた
「セイバーさん!?」
『ええ。遅いお着きね、
「い、いや、私はそんなんじゃなくて……」
と、あわあわと口をもごつかせて
「って、そんなのは関係なくて!」
頭をぶんぶんと振って意識を戻す
何時しか、綺麗な銀の髪を優しい草原の風に通しながら、一人の女性が此方を見ていた
「セイバーさん、どうして此処に!」
サーヴァント、セイバー。確か……名前はクリームヒルト
なら、その人を妻って呼ぶのは……呼ぶのは……
誰だっけ?
結局私の思考はそこで詰まる。うん、当たり前だけど昔の人に関してのんて教科書レベルの知識しかないし……
それでも、えーっと、言ってたような……
ぱっと脳裏に浮かんだその名前を、私は呟いていた
「ジークフリート!」
『殺すわよ』
『……侮辱するか、旅人!』
「あ、あれ?」
でも、クリームヒルトさんってジークフリートジークフリート言ってたような……って私は困惑する。そんな私を、ミラちゃん達は苦笑するように見ていた
『別人』
『ジークフリートさんは、フリットくんに力を貸してるんじゃないかーって言われていた人……なんだけど』
益々分からない
「でも、今のかーくんっぽさ、あるよ?」
『だからなんだよねー』
困ったなぁ、と右手の拳は解かず、左手でミラちゃんは頭を抑えてみせる
『クリームヒルトはジークフリートの死後、再婚する
相手はこの目の前に居る……』
『大王、アッティラ』
その名を聞いた瞬間、男は今にも抜こうとしていた剣の柄から手を離した
『如何にも。余こそアッティラ
その名を知るか、女と男……いや、貴様……何者だ?』
『「俺」が何者か、「ボク」も知らない
それでも、「わたし」はそれで良い。やりたいことは……なりたいものは、分かってる』
アサシンちゃんの手に、ひとつの光が産まれる
鮮やかな、緑の剣。かーくんの使う、光の剣の色違い
「ミラちゃん?」
そんな情勢を、どこか迷いながら見ている裁定者……本来は一番全てを知ってそうな少女に、私はそう声をかけた
「どうしたの?」
『色々とおかしいなって』
「おかしい?」
私には無い視点に首を捻る
『わたしだってまあ、やりすぎちゃったし。後はサンタクロースって優しさの具現のお爺さん姿もあって今の時代では男の人って言われてるよね?』
「うん」
『同じように、実は女の子ってサーヴァント、何人か居るんだ』
「……それで?」
何となく、言いたいことは分かった気がした
『だから、フン族の大王アッティラも、そのうち一人……ってわたしには啓示があったんだけどね
何か、違うみたいだなーって』
返ってきたのは、やっぱりという言葉
言いたいことは分かる。ミラちゃんだって、男の人扱いされてたし。私は別にミラのニコラウスなんて良く知らなかったし、そんなものかなって受け入れて終われたけど
当時を見てた人なら、分かるのかな?なんて考えて
『んにゃ、普通に男だったぜ?』って、草原の澄んだ風が、アーチャーの声を運んできた……ように錯覚した
錯覚……だよね?アーチャー、ほんとは聞いてるの?
答えはない。きっと幻聴であっている
きゅっと最後の令呪だけが繋がっていた痕跡として残った左手を右手で抱き締めて、改めて馬上の男に目を向ける
……怖い
最初に抱いたのは、そんな月並みな感想。直視しかえされるだけで、逃げたいって恐怖が沸き上がってくる
まるで、
……いや、違うって、首を振ってそんな幻想を吹き飛ばす。あれは単純に、人を殺し慣れてる目だから
怖いのは確か。逃げたくだってある
けれども、かーくんと同じじゃない。眼前の……恐らくは旧ライダーと呼ばれるだろう彼の目は、人殺しの目だった。逆に言えば、人を殺しても平気な、人殺しの瞳でしか無かった。まるで人を人と認識していないような……何処までも矛盾した獣の目では……無かった
だから、怖くても、それを必死に隠して立つ
「セイバー、さん。あなたはどうして?」
『さあね?起きたら彼処の……夫様に捕らわれていたのよ
だから、
返された答えに、かーくんの事は無かった
「契約してるサーヴァントなら、マスターの……かーくんの居場所がわかったりしない?」
アーチャーは、私がちょっとショッピングモールで見て回るうちにはぐれちゃっても、魔力辿れば一瞬よって見付けられたし
『無茶言わないで欲しいわね』
けれども、セイバーさんは草原には不釣り合いの岩に腰かけたまま。興味無さげに首を振った
『この聖杯戦争の令呪にそんな機能無いわよ。貴方のサーヴァントが規格外れすぎてただけね
第一……』
セイバーさんの瞳が、私の横で旧ライダーの動きを光の剣を見せつけて留めてくれているかーくんに似た男の人……また目に映る像がぶれているアサシンちゃんに向けられる
『ファフニールだか何だかしらないけれどもね
そんなマスターとサーヴァントの繋がり以外なんにもない私よりは、まだキスする程に彼を大切にして、自分のマスターに頼んでこっそり自分の令呪ごと契約を渡させていたアサシンの方がよっぽど縁は強いでしょうよ
そのアサシンが分からないって言うのに、私に分かるなんて話が無いでしょう?』
「アサシンちゃん!?かーくんとキス……したの?」
『気になるの、其処なの?』
セイバーさんが、呆れたように息をはいた