Fake/startears fate   作:雨在新人

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九日目ー遠き迷宮の十字路

「うーん、やっぱり流石に此処から突入、はバカかな」

 あまり高いとは言えない山の上。その頂上近くにも、木々は繁っている。その木に隠されるようにして、眼前の盆地を見下ろして私は呟いた

 

 ……何と言うか、見覚えがある。いや、それそのものを見たことなんて無いんだけど、憧れていただけなんだけど。航空写真で見たそれと盆地に広がる光景は中々良く似ていた

 碁盤の目状に張り巡らされた迷宮のような十字路。古都、京都である。神社仏閣みたいな塔も幾つか見え、殆どが木造の平屋なその碁盤は、あまりにもおしゃれな街だから何時か卒業旅行なんかでかーくんと二人歩いてみたいと思っていた都そのもので。寧ろコンクリートの部分なんか全く無い、現実味が寧ろ無いほどの理想の古都そのもので

 「……伊渡間市より大きくないかな……」

 『心象世界でそれを言うかよ。物理的な縮尺なんて気にしてれば展開出来ないに決まってる』

 「うん、流石にそうだよね……」

 それでも、眼前の光景にはただただ驚嘆するしかない

 正に古都。北だろう部分に日を浴びて屋根が輝く、大きな建物がある所を含めて

 

 「……内裏?」

 『多分ね。平安京なんて展開する人だから、まず間違いないよ。あれは当時の内裏の再現、サーヴァントの居城だね』

 「……つまり、平安時代の朝廷の偉い人がサーヴァントなの?」

 『そうだと思うよ?多分フリットくんが犬にあなたを探してもらってた事もあったし、陰陽師のサーヴァントかな

 でも』

 と、ミラちゃんは言葉を途切る

 

 『……だな。オンミョージって、要は魔術師の一派だろ?系統が違う、ゴーレムマスターと魔術師ほどに違う!って話はあるが』

 「ゴーレム作製って魔術じゃないの?」

 『いんや魔術。当時は魔法に片足突っ込んでたかもしれないけれど、今となっては単なる魔術でしかない』

 「……つまり?」

 『自分の術系統は凄いんだーってプライドの問題でしかない』

 「ううん、そうじゃなくて……」

 

 と、言いかけて私も漸くそこに思い至る

 そういえば、ということ。そもそもの発端、この聖杯戦争を始めたのは……

 『分かった?

 この聖杯戦争を始めたのは、実はマーリンは女の子だったとか、夢魔だからって女の子に転換したとかそういった事が無い限り、だけど。フリットくんを裏から助けていた……というより、何かしようとしていた女の子、モルガン・ル・フェ(アヴァロンの魔術師☆M)

 この戦争のキャスター枠なんて、最初から埋まってて余って何処にも無いのです。つまり、陰陽師かもしれないし、実はまだまだ黎明期の侍大将だったりするかもだけど、あそこに居るのはキャスターじゃないって事だね』

 「……知らないの、ミラちゃん?」

 『わたしだって、全部知ってる訳じゃないよ。知ってることは多くても、話せるのは知ってることだけ。直接会ったらそこそこ分かるけど、近付くのも危ないから

 ランサー、アサシン、アーチャー、そしてキャスター、最後にバーサーカー。そこらは分かるけどね。上手く情報がつかめなかったセイバーとライダーは不明かな』

 

 「……セイバー、なのかな?」

 『といっても、侍大将だろうと思ったとして、彼等って基本的に馬に乗るからね、ライダーでも可笑しくないよ?』

 「……見れば分かったりしないの?」

 『多分草原に居る騎馬民族の方がライダーだとは思うんだけどね

 ランサーさんは真名ほぼ知ってたからわたしが見咎められる訳無いしって闊歩出来たんだけど』

 「……出来たんだ」

 『うん。アサシンちゃんから……あっ、可愛い方だよ。そう、アサシンちゃんから話は聞いてたからね

 その夢の中のたった一言だけで、わたしだけなら絶対バレないって確信が出来たよ』

 「……誰なの?」

 『誰なんだ?教えてくれなければ……』

 旧アーチャーは腕を少し前にだし、怪しく手を蠢かせる

 『わたしが蹴ったら下に落ちるよ?

 蹴って欲しいの?』

 『それで下着が見えるなら良いんじゃない?どっちにしても価値はある』

 『……うん、不毛だね。見せずに蹴り落とす技術、無くはないけど

 それで、意味はないと思うけど、聞きたい?』

 こてん、とミラちゃんは軽く首を倒す

 

 ……言われてみればそう。私自身詳しくないし、名前聞いてもへー、で終わる気がしてならない。旧アーチャーの言うヴィル兄さんというのも、ヴィルヘルムという名前自体も真名のヒントなんだろうけど私には分かってないし

 「でも、味方にならないサーヴァントって、ミラちゃん言ってたよね」

 『うん、彼は非実在英雄。そうであって欲しいって、絶望の中で多くの人に願われた伝説の救世主だからね

 そりゃ、極限状態での願いの具現なんだから、頑なだよ。わたし個人だけなら兎も角、主を心から信仰していないキミを助けるという条件を加えると、絶対に非聖堂教会と相容れない彼は、絶対にマスターさんの味方にならないって感じだね』

 「……その、彼は?」

 『東方の聖王。十字軍の信じた、異教の悪魔を滅ぼし、我等と共に聖地を奪還し千年の王国を築く絶対的な英雄

 ランサー、プレスター・ジョン。それが、彼の名前

 まっ、東の方にも主の教えは届いていて、深く信じた伝説の王が敵の背後から現れ我等を救ってくれる。正直な話、それしか無い伝説だからね。それはもう、異教と相容れる精神なんて求められてないから、彼には妥協なんてないよ』

 淡々と、ミラちゃんはそう告げた

 その目は、どこか悲しげで

 

 『そりゃ、戦争だしね。気持ちは分かるよ

 ……でもやっぱり、わたしはそういうの、好きじゃないから』

 

 「なんで、アサシンちゃんが知ってたんだろう」

 『まっ、概念に関連するサーヴァントって、所謂剪定事象……要はいずれ消えるちょっと違う可能性を辿った平行世界の事も知ってたりするし、その関係かな』

 その言葉は、ミラちゃんの言葉の中では特に分かりにくくて

 

 でもまあ、そんなものなんだって思う以外に、どうしようもなかった

 「……ミラちゃん?」

 でも、言った当人の方がどうにも釈然としないなぁといった表情で首を捻っていて、そこが可笑しくて

 『ゴメンゴメン、何でもないよ。ふと、ひょっとして……って事に気が付いただけ』

 とはいっても、確かめる方法が何処にも無いけどね、と誤魔化すように笑われて。聞いても仕方ないよね、と私も誤魔化される

 

 『それで?無駄に中央にやって来たけど、どうするんだマスター?宿取ってしっぽり?』

 「し、ま、せ、ん!」

 『いやー、此処だとちょっとチクチクして痛いと思うけどさぁ、良いのかよ』

 『まずはその如何わしい方向から離れようか

 わたし、そこまで気が長くないし』

 『いやー、酷い酷い。一夏の淡い恋の思い出とか、許さないタイプ?』

 『別にそれは咎めないかな。咎めたい気はあるけど、人によっては仕方ないしね。全員が婚前はどうこうとかを護りきれる程に人間の精神って強くないからね 特に愛や恋の前では』

 そう言うミラちゃんの耳が、ちょっと赤くて

 『あはは、何言ってるんだろうねわたし

 まあ、わたしの眼が黒……く無いね。蒼いうちはそこのマスターさんが新しい恋の一冬の思い出を胸に生きていきたいんじゃなければ、手なんて出させないよ』

 『つまり、快楽で眼の色変えさせればオールオッケーと』

 『うん、そうだね』

 そうにっこりとした笑顔で頷くミラちゃんの背後で、雷が……落ちるのではなく地面から吹き上がった。うん、明らかに上下が可笑しい

 『本気で抵抗するよ?それでも行けるって言うならその通り』

 ……寧ろ笑った所が怖いって、こういうことを言うんだろうか。違う気がするけど、ちょっと背中の汗を強く認識してしまうくらいに、寒気がする

 『いやー止めとくよ

 白い閃光を放つ大切な弓矢が折られそうだ』

 御手上げ、と旧アーチャーは両手を頭の横まで上げて降参のポーズ

 何と言うか、同行をはじめてちょっとしか経ってないのに、天丼の気配がする。やってて旧アーチャーは面白いんだろうか、この話題のループ

 

 『それで、わたしとしてはやっぱりあそこも街中に入るのは危険かなって思うけど、どうする?』

 「危険なの?」

 『そりゃ、内裏まであるんだからあそこは平安の都そのものだし

 ジパングの王のお膝元、城下町のようなもの

 そんなもの、相手のテリトリーそのものとしか言いようがないんじゃないかな』

 「……バレる?」

 『多分ね

 中央だし、フリットくんはフェイちゃんに電話して式神らしい犬をマスターさんを探すために借りてきてた

 つまり、旧キャスター(黒幕)も、彼処に居るんじゃないかな。第七次のライダーとバーサーカーのようにある程度対等に同盟を組んだのか、今のバーサーカー(ブリュンヒルト)さんみたいな形で無理矢理支配してるのかは分からないけどね』

 「気が付かれない可能性ってある?」

 それでも、つい私は訪ねる

 もう足がパンパンだ。辛くて仕方ない

 元々私なんて、あんまり体力無いし。学校の遠足で遠出した時、お昼の休みに疲れすぎて寝ちゃってた事もあるくらい。私を見守ってたせいで折角のお昼の自由時間に何も出来なくて、あの時は帰ってからかーくんに何度も謝ったっけ。アーチャーとの伊渡間探索だって、ふと気が付いてアーチャーがちょいと休憩だマスター、を何度も挟んでくれたから何とかなったんだし、ちょいと急ぐぜマスターの時は抱えられてたから全力疾走なんてすることも無かったから何とも無かったけど、そうでなければ何度か疲れてベッドに沈んでたくらいの量は歩いてた

 そして、今はそれと同じ……量ではなくても、舗装されてない歩きにくさを含めれば総合値ではそれと同等以上は歩いている。ミラちゃんがちょっと工夫してくれて、それでもやっぱり私がしっかり体を休めるには地面は固くてデコボコで

 つまり、正直に言って……

 もう、お布団で休みたかった

 

 『あはは、ごめんねマスターさん。フリットくん基準だとこれくらい疲れたうちに入らないって意地張るし、わたしは生前から体力は馬鹿って言われてたしで忘れてたけど、割と一般人基準なマスターさんには辛かったよね

 バレるかバレないか、確率は半々だけど、とうする?賭けるかな』

 「……どうしよう」

 と、ミラちゃんは心配ないよって私の頭をぽんぽんとする

 そして、逆の左手を軽く上げ、ぱちりとならした

 『って、心配ないよマスターさん。貴女を護る専用ふかふかベッドなら此処にあるからね

 少し休憩にしよっか』

 と、私の体は黄金の雲(筋斗雲)に抱え上げられていて……

 ぽふっと、柔らかく眠りやすそうな雲の中に私は落ちた


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