「……何、あれ」
ぽかーんと口を開けて、その化け物を見る
うんもう本当に何なんだろうアレ。風神とかそういう名前なんじゃなかろうか
『うんうん、雷神も居たよ?』
「……はい?」
思考放棄。脳がそれ以上を考えることを止める
『あー、あれはアサシンの所のだな。やりあいたくねーわあいつら』
「いやいや、のんびりしてる場合じゃ……」
『うん?あんまり強くないよ、あれ』
「そうなの?見かけ倒しなんだ」
『うん、精々弱めのサーヴァントってくらいの力しか無いよ』
御免、私にはそれがあんまり強くないって評価になるとは思えない。かーくんは、戒人さんは、その弱めのサーヴァントくらいの強さより更に弱いものの為にあんな酷いことをされたのに
『んで?』
『うん、放置だよ。倒す意味無いし
わたしには、あれの体を解体して宝具作ったり出来るような道具作成スキル無いもん』
「でも、見つかったら……」
『その時はまあ、逃げるかな
下手に倒して他のに群がられても困るしね』
『逃げるならおんぶして連れてってくれよ。おれはそのお山を掴んで落ちないようにしておくから』
『うん、自分で走って』
『そんな殺生な。おれ、宝具特化型なんでそれ以外弱いってのに。仲間だろ』
『一応は仲間だからこそ、サーヴァントならこれくらい切り抜けられるよね?って信頼が』
『酷いなオイ!』
言っている間に、鬼は空を飛んで私達の居る場所に近付き……
そのまま下に気が付かずに西の空に飛び去っていった
「……大丈夫だったの?」
『まあ、多少関知は誤魔化したからね。見つかる訳無いよ、とまでは言えなかったけど』
「……本物の風神なの、あれ?」
私のその疑問に、ミラちゃんは複雑な表情で答えた。笑ってるような、そうでもないような悩んだ形で
『本物……っていうのが、神霊なの?って話なら違うよ。或いはむかーし居た怪異そのものなの?って話でもね
けれども、あれを風神として認めて良いの?って話なら良いよって答えるかな』
「どういう話?」
『つまり、あの風神は限りなく本物に近い偽物って事
固有結界の話はついさっきだし覚えてるよね?聖杯さんが決戦場を作るために、このスケベさん以外の六騎のサーヴァントの心象を世界に上書きした。それによって生まれた、恐らくは旧アサシンの心象の中に居た彼の空想の風神、それがあれだよ』
「……そんなこと、出来るの?」
『うんうん、出来る出来る。心に刻まれている風景って凄いからね。見たことある武器全てがある世界とか、かつて部下と駆け抜けた光景を沢山の部下毎呼び出す固有結界だってあるくらいだし、ね』
「そんなものまで!?」
『本当は元々侵略者の力だし、使い手は多くなかったんだけどね……。その部下を呼ぶ
けど今回は、聖杯さんが手助けして使え使えしてるから、そういった心象の中に刻まれてる他人なら召喚するタイプの固有結界が簡単に使えてるって話だと思うよ』
『うわぁ、裏切らなきゃオレは今頃沢山のおっぱいでけーねーちゃんに囲まれて酒池肉林だったのかよ……
ミスったかな』
『それが、本当に貴方の心の奥底にある元風景なら、ね
多分もっと辛い世界になってるんじゃないかな?』
『ったく、夢くらい見させろっての。オレの根源の願いはハーレムって、聖杯なら見てくれるさ』
否定はせず、旧アーチャーは右の手で頬を掻いた
「……ところでミラちゃん」
ふと、疑問に思う
「ミラちゃんもヴィルヘルムさんも、あれをアサシンの軍勢って言ったよね
分かるの?そんなこと」
『まっ、見てきたからね。分からないなんて事はないよ』
「……いつの間に」
『貴方が寝てる間に、だよ。守るべきマスターさん。わたしだって、分身での偵察くらい出来るしね』
『オレだって、えっちなイタズラくらい出来るしな』
『大丈夫、ずっとわたし自身は監視してたけど別にやってないから安心していいよ』
「う、うん……」
勢いに圧され、頷くしかなかった
『それで、これからどうする?』
「……ふぇっ!?」
突然話を振られて、すっとんきょうな声をあげる
「これからって……」
『うん、これから
どんなプランで、これから行動するのかな』
「え、えっと……」
どうしよう、何も考えてない。答えなんて何処にもない
私はただ、死ぬのが怖くて。だから、生きれる可能性が高いから、ヴィルヘルムさんを味方に付けた。ううん、ミラちゃんに味方に付けて貰った。ミラちゃんが居なければ、交渉なんて出来ずに死んでいた可能性が高い
「どうしよう……」
そんな悩みが、つい言葉になってしまう
『どうしようって、貴女が決めることかな
わたしも彼もサーヴァントだからね。基本的にはマスターさんの言葉を方針とするのです』
「そんな……
助けてよ、ミラちゃん」
『助けないなんて言ってないよ?わたしは聖杯なんてもう関係なくあなた達の味方をするって方針決めたからね
あなたが決めた道を、サポートするよ』
「でもっ!」
求めてるのは、そんな助けじゃなくて……
『んじゃ、オレの嫁で。このまま最終局面まで隠れてのーんびり三人爛れたえっちな生活を送り、最後の最後でサーヴァント二騎の力で聖杯を強奪って方針』
ニヤニヤと、旧アーチャーはイヤらしく此方を見て言う
「そ、そんなの駄目!」
『じゃあ、方針は?オレに任せたら、本気でああするぜ?
まっ、オレもアンタのサーヴァントだ。流石にマスターの願いよりも優先しはしないけどさ』
表情を変えず、旧アーチャーは返した
半分冗談だったんだろう。アーチャーだって、こんな酷い言い方しゃなくても、同じことを言ったはずだ。『ああ、そうだぜ。オレはマスターのやりたいことを「大丈夫、出来るぜそれ」と言うために此処に居るんだ。マスターがなにもしないってなら、オレも何もしない。未来を決めるのは自分の世界からおーおーやってるやってると世界を眺めてるオレ等神霊やらじゃなくて、今を生きている人間だからな、マスター
それで、今を未来の為に生きているマスターは……此処で何をしたい?未来にどうなって欲しい?オレはそれを現実にするさ、どんな
うん、そうアーチャーの声で再生された。びっくりな話だけど、やっぱりこれじゃ駄目だって思えてきた
……だから。だから……
やっぱり、私がしっかりしないといけないのだろう。私よりよっぽどしっかりしているはずの彼等が、私を見守ってくれてるというのに。何もしないなんて、そんなの駄目だから
……でも、じゃあ
私は一体、何をしたいんだろう。何をすれば良いんだろう
かーくんは、あんな事になっていて。私の願いは、もう今となってはどう願って良いか全然分かんなくて
聖杯戦争なんて、願って飛び込んだ訳じゃない。だから、本当にどうしたら良いのかなんて分かんない。勝てるの?参加してるの?それとももうどうやっても関係無くなっちゃったの?本当に全然分かんないよこんなの
……でも、だからこそ、言える事はあった
「かーくんを探すよ」
『うん、異論は無いよ。でもどうして?』
「かーくんは、この聖杯戦争において、鍵なんじゃないかな、と思うから」
神妙に、ミラちゃんはその言葉に頷く
『うん、そうだよ。生きてるか、分からないけれどもね』
「見付けられないの?」
『少なくとも、わたしが簡単に見られる部分には居なかったよ。後は……居るとしたら相手サーヴァントの心の中核、本陣位かな、其処は流石に見れないしね』
「本陣……」
木の虚から出て、遠くをぼんやりと見る
教会らしき、巨大な建物が木々の先に見える
屋根の十字からして、まず聖堂教会のものだろう、荘厳な建物
「……あれって、ミラちゃんの?」
『関係?無いよ、あれはランサーさんのだから』
「……どっちの?」
『古い方。かつての聖杯戦争の勝利者だね。第七次のランサーさんって、どちらも教会とは関係無いし。いや、元バーサーカーさんはある意味仇敵だけどね、心情に浮かぶほどじゃないかな』
「……つまり、ランサーは聖堂教会関連の人?
仲間になって……」
『うんうん、死にたいなら今から行こうか
って話になっちゃうからね、いかない方が良いかな』
「……どうして?」
訳が分からないといった感じで、私はそう問い掛ける
当たり前の話。だってミラちゃんは聖人さんで。なら、そのランサーさんだって……
『わたしって穏健派だからねー』
「『嘘だ!』」
思わず、旧アーチャーとハーモニーを奏でる
『うん?穏健派だよ?
本当の過激派だからね、彼。わたしなんか足元にも及ばないよ、本物さんは』
「……そうなの?」
『うん。わたしと違って彼は他の存在なんて許さないからね
異教徒は死ね、回心だけが生きる道だ、って感覚だよ彼』
「……ふぇっ!?」
『うん。後、旧アーチャーさんは普通に権威への抵抗者だよね?そんな人もアウトそのものだね、彼は伝説の王だもの』
「……そん、な」
呆然と、私は呟いた
『だから、わたし的にはそれをやるなら……うーん、オススメ出来る場所無いなー』
どうしようもないね、とミラちゃんは頬を掻いてぼやいた