Fake/startears fate   作:雨在新人

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九日目ー混乱と認識

ふと、目を覚ます

 寝ちゃってたんだということに、柔らかな何かに包まれている自分を認識して、はじめて気が付く

 

 『おはよ、良く寝れた?』

 近くに立つのは、可愛らしい私服に身を包んだ少女……ルーラー、ミラのニコラウス

 「……此処は」

 『残念ながら、あのヘンな世界だよ

 大きな木の下なら、隠れるにはちょうど良いからね』

 「……隠……れる」

 確かに、天井のように見えるのは木のうろだ。私は、ちょっとふかふかした敷物を敷かれた上で寝ていたみたいだった

 『うん、危険そうなのがうろうろしてたからね、そりゃあ隠れるよ。わたしだって、無駄な戦いはしたくないし』

 何処かを見ながら答える少女の目線を辿り、うろの入口にそれを見付ける

 アーチャーと出会ったその日に見た化け物、つまりは魔獣の死骸を。眉間に矢が突き刺さり、完全に事切れている

 

 「魔獣?」

 『うん、これは凄く弱いし、別にやっちゃってもちょっとした小競り合いで帰ってこなかったって事で良いかなって事で倒したけど、大物とかやりあいたくないしね』

 「そんなに強いの!?」

 『ううん、最上位でも精々地竜かな、此処に居るのは。勝とうと思えば勝てるよ?

 でもね、頭を潰せば安心ってならないからね。寧ろ警戒されちゃう。倒しても意味なんて無いのです。なら、無視の方が楽だよね?』

 「う、うん……

 って、弱いのなら倒して良いの!?」

 『うん。変な人々に狩られてるのも見たしね、一匹二匹帰ってこないのなんて多分普通のことなんじゃないかな?』

 何だろう、外見が可愛い女の子だからアーチャーよりは話しやすいかなと思ったけど、やっぱり感覚が違う。かーくんだって竜はすごいって言ってたし、それを倒しても意味無いから無視、と言えるのはちょっと。実際、勝てそうな気がするから何より困る

 

 「ところで、此処って本当に何処なの?」

 『座標で言えば、わたしたちが居た伊渡間市……で間違いないはず、なんだけどね』

 「座標とか読めたの?」

 言っちゃ悪いけど、この少女にそんな技能があった気がしない。それを言えばアーチャーもなんだけど、あのアーチャーならきっとちょっと駆け回って調べたで済む気がする

 『まっ、占星術だってスキルだしね、その気になれば他の誰かに一時的にその力をあげるくらいは訳ないのです』

 「つまり?」

 『旧の方(もう一人)のアーチャーさんに占星術スキル付加して、星の並びとかから緯度経度読んでもらったよ?

 あっ、後はちょっと空から見てみたけど、飛び上がれて大気圏より大分下まで。上空4~5kmって所かな?この世界はその外に広がってない閉鎖世界だから宇宙には行けなかった。ちょっと面倒だよね

 お陰で多分この辺りって所までは分かっても、実際に此処が本当に日本列島なのかとかは見えなかったよ』

 「面倒なんだ」

 感情のこもらない声で、ただそうとだけ返した

 もうやだこのサーヴァント。アーチャーはもう居ないからって慣れようとしてたのに、アーチャーならやりそうって事をやって来て忘れられない。そういえば、アーチャーの宝具を止めに宇宙に飛び出してた、このルーラー、なんて事も思い出してしまって

 

 「それで、本来は伊渡間市があった場所だっていうのは分かったけど……」

 『決戦場、だ、胸も背もちっこいマスター』

 答えたのはミラちゃんではなく、男の声だった

 「えっと……うーんと……

 あっ、ヴィル……さん」

 咄嗟に名前が出なくて、少しあせる

 『ヴィル兄さん、だ』

 『別に、彼の本名はヴィルヘルムとも読むってだけだし、好きに呼んで良いんじゃないかな 

 後、兄さんじゃなくておじさんだと思うよ?』

 「じゃあ、ヴィルヘルムさん」

 『おう、何だちっこく可愛いマスター?出来ればちょっくら感情込めて兄さんと付けてくれ。いや、これくらい幼いならお兄ちゃんとかお兄さまもアリだな』

 『無いよ。というか、わたしが保護すべ気マスターに、いかがわしいお店の人の呼び方強要しないで欲しいかな』

 「決戦場って?」

 話を切るように、そう問う

 

 ふと、彼は遠い目で答えた

 『なあ、ひとつ思うんだが……

 固有結界はわかるな?』

 分からない。私に魔術の知識を求めないで欲しい。かーくんが何か言ってた気がするけど、詳しくは覚えてない

 『首をかしげないでくれ……』

 『と、言うことで、今回はわたしがおサルさんには分からない魔術講座、やっちゃうよ!』

 思ってたよりテンション高く、何時の間にやら眼鏡……多分伊達を掛けたミラちゃんの宣言と共に、私の意識は一瞬途切れた

 

 そして、目が覚めた時、私は教室に居た

 少し前まで日常的に居て、だというのに懐かしくて、ぽっかりと穴が空いたようで寂しかった……かーくんが居なくなってしまってから進級した学年の教室。熱血な先生が担任だったからあった、荒々しい筆で書きなぐられた標語が黒板の横に張られている所まで再現出来ている

 「……ふぇっ?」

 『ああ、大丈夫大丈夫、これ単なる視覚聴覚ジャックする魔術だから』

 「単なるってレベル!?」

 『世界書き換えてないから単なるだよ?第七次のアーチャー(ハヌマーン)さんだったら息をするように出来る程度。ちょいと風を操って幻聴と幻影を投影するフィールド貼ったぜって感じで』

 アーチャーだってこんなこと……うん、やる。というか、筋斗雲貸してくれると言った昨日やってた気がする。本当に、もう居ないって覚悟決めようとしてたのに、調子狂う

 

 気がつけば、ミラちゃんは私の学校の制服着て、私の席の右隣に座っていた。そしてヴィルヘルムさんは、くたびれたスーツを着せられて、教卓の前に立っている。どちらも似合うのが、何処か可笑しくて

 黒板には、四時限目:固有結界基礎と書いてあった。一、二、三時限目は何だったんだろうそれ。……黒板横の時間割に書いてあった。一時限:魔術講座基礎、二時限目:サーヴァント講座基礎、三時限目:ビーストクラス基礎。無駄に凝っててもうくすりと笑うしかない。というか、良くアーチャーが私に教えてくれた事を知ってる

 

 『うーん、中々。現代には制服フェチなんてものもあると聞いてへーしてたけど、こうして実際に見てみれば……』

 『センセー、変態教師は捕まるよ?』

 『捕まるなら教え子に手を出してからだな』

 『大丈夫、疑わしい段階で捕まえちゃうからね

 始めようか』


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