Fake/startears fate   作:雨在新人

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二日目ー悪魔の策略

「改めて聞こう、アーチャーのマスター。ヴァルトシュタインへ挑み、打ち倒す悪行。同盟を組み、共に行ってはくれないか?」

 そう、俺は手を差し出す

 

 直ぐに結論が出されるとは思っていない。目の前に居る多守紫乃という少女は、良く言えば慎重、悪く言えば優柔不断な少女だ。はいそうですか、とあっさり受け入れるはずもない。俺がこの俺でなければ反応は違っただろうが、そんなことは今考えても仕方ない

 だが逆に、慎重であるから今すぐアーチャーをけしかけて敵対しても来ない。それは有り難い事だった

 

 だが、それで良い。同盟を受けてくれればアーチャーと暫くは敵対せずにいられる為、大勝利と言えるが、そうでなくても構いはしない。敵対しなければならない状況さえ避ければ上々だ

 

 僅かな気配を探る。見つかったのは相変わらず2つの気配

 一つは偽装された魔力。恐らく、微かな違和感に気づかなければ疑問に思えなかっただろうソレは何れかのマスターの放った使い魔というやつだろう。確証は無いが、恐らくはランサー陣営のものだ

 そして、もう一つは森との境界に佇み、此方を観察している影。一昨日と同じ気配、即ちライダーのもの。騎士というだけあって、隠密行動は得意ではないのだろう

 キャスター、アサシン陣営だろう者が見ている気配はない。見ていたとして、希代の魔術師の魔術偽装を見抜く眼も、気配を遮断したアサシンを発見する第六感も無い俺には見分けられないだろう。不確定要素として置いておく

 バーサーカー……ヴァルトシュタインの干渉も無い。彼等の主力となる合成獣、ホムンクルス、共に俺が幾度となく(時には性能試験として、或いは単純な修練の相手として)対峙させられた存在。下手に手を出して来ることは無いようだ

 

 この同盟は、あくまでも俺のスタンスの明言。目的としてはあわよくば多守紫乃との同盟だが、実質としては他のマスターの出方を探るものでしかない

 ライダーが仕掛けてくるならば好都合。ヴァルトシュタインとの同盟の結末を確認しつつ、アーチャーを半ば強制的に巻き込む事が出来る

 仕掛けてこないならば微妙だが、あそこまで露骨に敵対を表明していれば、何らかのアクションは引き出せるだろう。少なくとも接触は図れる

 

 

 今のところ見ている者達に動きは無い

 アーチャー達に注意を戻す

 アーチャーは構えを解いていない。俺と同じく、此方を観察している者達を警戒しているのだろう

 『こんな所でマスターに何させようってんだ?』

 「……結論は今すぐとは言わん」

 『当たり前だろうが』

 ライダーが見てる所で、ライダーへの敵対宣言でもさせる気か、とその瞳は語っていた

 希望的観測としては正にその通りであった為に、何も言えない

 ライダーに動きが無い為、少なくとも今この時に限ってはその希望的観測は願望に過ぎなかったようだが

 「……ではな、俺は教会に用がある」

 そう言って、彼等に背を向ける。きっと彼等も教会に用があるのだろうから付いてくるだろうが、それは構わない

 万一の不意討ちに対しても、潜めていたセイバーという切り札により一度であれば逆に優位を取れるだろう

 

 「教会に何の用が」

 「だから言っただろう。ミラを殺して何の意味がある

 これでも受けた恩は忘れない、悪であってもそれだけは曲げない、それが誇りだ」

 後方から投げ掛けられた質問に止まる事なくそう返す。攻撃の気配は無い

 扉を開く

 「飯を(たか)りに行くだけだよ。早く来すぎたが、そろそろ良い時間だからな」

 

 『……あっ、今日は来たんだね。昨日は何か大変だったのかな?

 うんうん、朝御飯出来てるよ』

 教会に入ると、ミラに出迎えられた

 

 「多分後で二人ほど来るだろう。近くで会った」

 『二人……ということはあの人達かな?うん了解、来たら出せるようにお皿だけ準備しておくね。部屋は?』

 「分けてくれると有り難い。彼等も俺の顔を見ながら食事はしたくないだろう」

 『うん、りょーかい!』

 「ああ。後、食後に少しアルベール神父と話がしたい」

 何度も何度も、三日に挙げずに……実際に3日に一回は集りに来た為既に勝手知ったる教会の中を歩きつつ、言葉を交わす

 

 セイバーは居ない。教会内にまで来たのは俺一人だ

 セイバーの宝具の一つ、<喪われし財宝・身隠しの布>(ニーベルング・タルンカッペ)。被っている限り魔術的及び光学的な透明化を成し遂げる事で、派手な動きをすれば見破られるものの、霊体化中かつ非常にゆっくりとした行動或いはほぼ静止中である限り全ての存在の知覚を(あざむ)く帽子。移動の面倒さはセイバーを隠れさせた際の欠点だが、俺にだって他人に明かしていない切り札の一つや二つはなければ流石に生き残れない。最も危険な状況でセイバーという切り札を隠したまま近くに置くには、令呪を切ってセイバーを呼ぶ覚悟でセイバーを別所に待機させるか、これしかなかった

 結果教会までゆっくりと移動中のセイバーは扉の前で少し潜るか迷うだろうアーチャー一行より後にしか辿り着かないだろうが、それはリスクと割り切る

 

 部屋に入り眺める

 机上には、何時も通りのパンとスープ。いや、何時も通りというには野菜が足りていないが、そんな時もあるだろう

 そして僅かに残る血の臭いと魔力の残滓。それは俺のものにも似て……

 成程、と一人納得する。警戒される訳だ。昨日辺り、アーチャー達は此処でヴァルトシュタインのホムンクルスにでも襲われたのだろう。俺がその同類だと思われるのは寧ろ当然。何処か残滓に違和感を感じるが、考えていても答えは出ない

 

 思考を切り上げ、スープを口に含む

 一日以上の間、毒を持たせていないであろう種類の合成獣(キメラ)の血を啜り、肉を(かじ)り誤魔化してきた体に野菜の味は染み渡った

 心を落ち着かせ、一息入れる

 ふと、セイバーの食事はどうなのだろうか、とそんな事が気になった。サーヴァント自体は魔力さえあれば問題なく動ける……のだろうが、そもそも俺がサーヴァント擬きである以上普通の理屈は通用するか怪しい。例え必要ないとしても、嗜好として食事をしたいと考えている可能性も否定出来ない

 食事の事を考えると、更なる不安もある。かつては仮にもヴァルトシュタインの所有物、最低限の食事はあったし、フェイから残飯を貰う事も、外に出た際に今のように教会に集る事も出来た。だが、今やこの身は反逆者、無一文の上に家もなにも無い。最悪聖杯戦争の間は夜にまともに睡眠を取れるものではないからとホームレスするとして、無一文というのは痛い。毎食集るというのは流石に不味いし、そうなると食事方法がない。ヴァルトシュタインの森に定期的に入りキメラハントを繰り返すというのも不安が残る

 

 覚悟して、自分で聖杯を得るために、聖杯でなければ叶えられないであろう願いを果たす為に反旗を翻したのだ。今更考えても仕方ない、と思考を切り上げる。気が付くと、パンとスープは無くなっていた。無意識のうちに箸……というか手は進み、セイバーにパンを持っていくか考える前に食べきってしまっていたようだ

 『あっ、お代わり要る?って、大丈夫かな?』

 扉から、ミラが顔を覗かせていた

 何時もの事……なのだが、聖杯戦争が開始しているという思いから、突然の声に少しだけ警戒してしまったようだ。どうにも詰めが甘い

 「……すまない、悪夢を思い出してな。出来れば昼分を……というのは流石に強欲か」

 下手な言い訳をする

 『あー、そういう事あるよね』

 下手な言い訳だが、納得してくれたようだ

 『あと、お代わりはりょーかい、ちょっと包んでくるね』

 言って、ミラは立ち去っていく

 朝飯そのものは食べ終わっている。それを追うようにして、部屋を出た

 教会の中は静かで……いや、他の部屋に僅かな声がする。恐らくはアーチャーとそのマスター、多守紫乃。俺がヴァルトシュタインと同じく気にしなければならない者達だ

 

 「君か。久しいな」

 ミラは話を通しておいてくれたのだろう。黒い司祭服の男、アルベール神父はそこに居た

 「はい、アルベール神父。聖杯戦争に関して」

 「君が聞きたいのは、既に始まっているか、という事か?」

 「はい」

 「ならば語るまでも無い、ザイフリート。昨夜、ランサーが召喚され、呼応するようにセイバーの召喚も確認された。全てのサーヴァントは此処に揃った。今宵より、聖杯戦争は本格的な闘争となるだろう」

 返ってきた答えは、半ば予想通りのものであった

 俺をマスターとして選ぶ等、余程でなければ有り得ない判断だろう。それこそ、サーヴァント六騎が既に揃っていて、最後の一騎を早く召喚させたいのでもなければ

 「有り難う御座います」

 「君の不幸話は中々に愉しい。また何かあれば来ると良い

 ああ、君に荷物が届いていた。ミラが持ってくるだろう。全く、此処は宅配所でもロッカーでも無いのだがな」

 「荷物……」

 何だろうか。俺自身の知り合い等そうは居ない

 『はいはーい、ということでお届けものだよ』

 何時しかミラも戻ってきていた。手には大きめのバッグと、紙に包まれた細長いもの。後者は頼んだパンだろう

 『ヴァルトシュタインの使用人のフェイって人かららしいよ?

 色々入ってるみたいだけど何なんだろうね?』

 ミラから荷物を受け取り、開いてみる

 一番上に黒い財布らしきものが見えた。中身は……最低限生きていくには相応の額

 「これは……何時?」

 「昨日の昼だ」

 俺が俺として、反旗を翻した後の時間。フェイは……手を貸してくれるというのだろうか

 それは有り難い。何故そこまでしてくれたのか、そもそもそんなことをして問題ないのか、考える事は色々とあるが、確認出来ない今そこまで考えても仕方がない。この助けに感謝するのみだ

 

 『それじゃ、たまにはお買い物の手伝いとか宜しくね』

 「ああ。それでは、また」

 すぐさま答えは出ないだろう。今聞いても無駄だ

 その為、アーチャー陣営とは会わないよう、扉の前までたどり着いていたセイバーと合流し、俺は教会を後にした

 目指す場所は伊渡間中央公園、適当に昼間を過ごせる、昼寝していても気にならないであろう人々の憩いの場だ


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